クラウ ファントムメモリー
著:富永浩史 メディアファクトリー MF文庫J
この作品の舞台になっているのは、21世紀後半の時代。新しく発見されたブルーエネルギー(水を媒介に電力や斥力を発生させる)が車から車輪を駆逐する程に普及し、地上を移動する手段は徒歩か自転車。そんな時代、12歳だった主人公は父の勤める研究所で事故に遭遇し、未知のエネルギー「リナクス」と接触してしまう。
さて、この「リナクス」、とんでもない代物である。原子よりもなお小さいミクロの真空空間に力場の形でエネルギーが湧き出している、と言う高エネルギー現象と言うのが序盤における解釈である。
この力を使うと様々な事が可能になる。例えば自身の肉体を「リナクス」を構成する粒子に分解し、原子核と電子の間に存在する真空を通り抜ける(分かりやすく言うと、壁抜け)。或いは周囲の真空を介し、周囲に存在するものを分解する。(例:拳銃を握って潰す)また、自身に関する一切のエネルギーを制御し、真空中で地上同様に動いたり、斥力を発生させて空を飛んだりする事も可能である。この力を使ったアクションシーン、特に「リナサピエン」同士の力を使ったバトルシーンは、なかなかに派手で面白い。
この話のジャンルは、SFアクションに分類される。確かに派手なアクションシーンもあり、新エネルギー等に関する点ではSFとも取れる。著者である富永浩史氏が理系の出身らしく、科学に関する描写や科学者たちの描写に関して特に力が入っており、時折やや辛口になっていたりする。もし、文系出身の人間や女性が著者だったら、もう少し違う角度で話が書かれていたかもしれない。
さて、私の心を打ったのは、主人公が大切なものを守る為に戦う姿である。中盤以降、主人公は追われる事になる。そこには「リナサピエン」としての本能が働いているのかもしれないが、自分ではない他の存在の為に死ぬ気になって頑張る姿と言うのは、非常に素晴らしいものであった。この作品を人との絆を考えるヒューマンドラマとして読んでみるのも面白いかもしれない。
この話のジャンルは、SFアクションに分類される。確かに派手なアクションシーンもあり、新エネルギーや物理現象に関する点ではSFとも取れる。しかし私の心を打ったのは、主人公が少女を守る為に立ち向かう姿である。絶対的な権力である国際警察機構の手から逃れる為に努力する姿に感動した。この話は決して有名ではないが、素晴らしい作品だと思う。
紹介者:佐井藤十丸