北国の春は訪れも遅いというが,4月の中頃ともなれば,それなりに街も来るべき季節への準備を始めている。
教室に入ってくる風そのものが暖かくて,今日も今日とて勉学に,もとい,睡眠にいそしむ我らが美坂チームマイナス1名。


「くか〜」


「く〜」


「すぴ〜」


「………」


よくあれだけ眠れるものねえ。と香里は思う。

それほど破綻したライフスタイルなワケでは無いはずなのに,1時間目の開始と共に一人,また一人と沈没していくクラスメイト達。

1日12時間以上の睡眠が必要とされるといわれる親友を筆頭に,その従兄でまったくもって思考の読めない(本人が思わず開陳している場合を除く)少年や,その親友でこれまた何を考えているのかよく分からない癖毛の少年。数えてみるとすでに半数近い者が船を漕いだり机に突っ伏したりしている。


「………はあ」


物憂げにため息をつき,窓の外の青空を見上げて。


「今日も平和よね………」










そのころ。










「こちらホークアイ07,ホークアイ07,本部どうぞ,本部どうぞ!」


「こちらチーブズデン,どうした07,次の定時まで後45分だぞ」


「緊急事態発生,緊急事態発生!××県○○市沖15海里の海上に,巨大質量の生命体とおぼしき物体出現!繰り返す,××県○○市沖15海里の海上に………」


「了解07,引き続き状況を監視せよ!引き続き状況を監視せよ!」










唐突に現れる非日常。この世界を蝕む救いのない病巣は,またもや北の街に現出するのであった。










Promised FORCE−北川君大惨事−           










状況がハッキリとするのが,通信からわずか数秒後のこと。


「こちらホークアイ07,ホークアイ07!目標,海面に出ます!ってうおっ!!!」


映画…………ではない。どう見てもそこにあるのは巨大な海棲爬虫類らしきものの姿。


「07,状況監視中だ!不明瞭な言語は慎み速やかに状況を報告せよ!」


「あれは,巨大なワニ!,い,いや。怪獣,かいじゅうですっっっっっっ!!!!!!」


通信はそこで途絶,以後の交信は不可能。海上自衛隊の対戦哨戒機P-3Cオライオン0047号機’ホークアイ07’は海上高度15メートルで謎の失踪を遂げた。

政府は即時に緊急事態宣言を発令,沿岸一体に厳重警戒を敷くと共に近辺の総兵力の緊急展開を始めるのだった。










「怪獣だー!逃げろおー!!」










「怪獣」はこの街の沖に現れ,上陸を始めた。

進路に全くの予想もつかないが,とりあえず危険が近づいたら,裏山の退避路を通って緊急の避難所に逃げろと言う指令が出されたとのアナウンスが学校中に流れる。

教師の誘導を待てずに恐慌状態に陥った一部の生徒は勝手に避難を開始したが,運悪くちょうど緊急展開中の自衛隊とぶつかり結局引き返してきたり強引に進もうとして装甲車に轢かれたりとプチ惨事らしい。

担任の石橋は臨時対策本部になった職員室に詰めている。


「はいみんなー。今は外に出るなって石橋からの連絡よ!怪獣にやられる前に自衛隊に殺されちゃうわ」


クラス委員の香里が一応この場の指揮を任されているようだ。みんなに『とりあえず伏せるなどの低い姿勢で次の連絡を待とう』という石橋の伝言を伝え,席に戻ってくる。


「最悪な場合,あの子に何とかしてもらうしかないわね」


ため息をつきながら呟いた香里の視線の先には,伏せろと言われているのになぜか耐久コサックダンスを数人のクラスメイトと始めている北川の姿があった。


「あの子って………北川?!


食べかけのうまい棒を取り落とし,愕然とした表情で香里を見つめる祐一。

どう見てもいつも自分とバカの首位打者争いををハイレベルで繰り広げている男に,そんな大それた力があるとは思えなかった。


「そう。相沢君,あなたも知ってるでしょうけどこの街って不思議なこととか不条理なことがよく起こるわよね?」


うん。


ついついコサックダンスに参加してしまう祐一をスルーしつつ,香里は続ける。


「この近くには空間を自由自在に切り取って他の世界に吹き飛ばすことの出来る能力者の家系があるの。北川君はそういった一族に生まれた,しかも強力な能力者なのだそうよ」


さすが奇跡の舞う北の街。もう何でもアリな現状に何の疑念も抱かなくなった自分に軽い目眩を覚えながら,思わず北川の方を向き直ってみる祐一。
が,当然といえば当然の如く,ソコにいるのは何処をどうひっくり返してみてもいつもの馬鹿そのものにしか見えない北川。
息切れをしながらもなおコサックダンスを踊り続けるその姿はとても正視できないほど眩しく輝いている。


「その力があまりにも強大なため,普段は拘束術式とかでもって能力を封印されているらしいの」


相変わらず北川と張り合いながらコサックダンスを続ける祐一を,香里は白い目で見ながらなお話し続ける。


「大体香里は何でそんな事知ってるんだ?まあいいや。こんなのを何とかできる力があるんだったら使わない手はないぜ?」


バランスを崩した拍子に尻餅をつき,悔しそうな顔で北川を睨みながら祐一は香里に向き直る。


「去年の初めに石橋から聞いたのよ。クラス委員だから。入学時に学校にご両親から説明があったって。何かの偶然でとんでもない事態になられても困るから解呪,封呪のやりかたを教えてもらって」


教室の片隅で,ひそひそと会話を続ける祐一と香里。祐一は,自分がリタイアしたのを確認するとうれしそうにVサインを出しながらコサックダンスを終わらせる北川に,軽い殺意を覚えながら香里に尋ねる。


「じゃあ,その能力って奴を解放してやればあの怪獣をどこかに吹っ飛ばすことが出来るわけだよな?………なにかそれは準備とかいるのか?特殊な道具がいるとか,何かものすごい条件があるとか………」


「そういうのは必要ないの。すごく単純なことなんだけど…………何というか………その………」










『怪獣が急速に学校方面に近づいています!全校生徒は至急裏山の退避道を通って避難してください!繰り返します,全校生徒は至急裏山の退避道を通って避難してください!』










「ちょっと,難しいの」


放送がスピーカーから流れてくる。


落ち着こうとしているのに落ち着けないその声に,事態のヤバさが聞いて取れる。


「何だか分からないけど時間がないんだぞ?怪獣は上陸してコッチに向かってるって言うし」


祐一の目に真剣さが宿る。時折見せるその瞳の色に,香里は弱かった。


「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………性的興奮をさせることよ。それも極度に」


言いづらそうにごにょごにょと。それでも最後はハッキリとそう告げる香里。

特に大きくもなかった香里の声の,『性的興奮』の単語に反応した数人のクラスメイト(多分バカ)の視線が集まる。


ええっ!………って別にそんな難しいことじゃないんじゃないのか?クラスには一人や二人ハードなエロ本を持ってきてるヤツはいるだろう(誤った情報)し,うちの女子は可愛いコが多いからいざとなったら……」


祐一は不思議そうに答える。

北川とエロ本を漁りに行ったことも一度や二度ではない。隣町の北川おすすめのAVショップ『マニアックヘヴン』でお互い先月のバイト代を全て使い切ったことは二人だけのトップシークレットだ。

香里はそういった事に疎いのかもしれないが,今は事情が事情だ。


「ダメなのよ」


「………そうか,おまえ,北川のこと………」


「………じゃ,なくて,」


香里は眉をひそめ,額に人差し指を当てる。

他人の色恋沙汰に耳敏い,クラスの女子生徒の視線も集まってくる。気がつけば名雪もしっかりその中に混じっている。


「北川君の趣味は変わってるの。


知ってるけど。とは迂闊に口に出せない祐一だった。


「………北川は多分香里のこと好きなんだから(問題発言)ストリップの一つもしてやれば喜ぶんじゃないのか?懸かっているのはみんなの命なんだぞ?この際フェラぐらいまでは目をつぶって………」


『フェラ』に反応した他の生徒(大バカ)の視線も集まってくる。


いつのまにか北川までもが,香里の後ろに陣取って興味深そうに事の成り行きを見守っている。


「………はあ………」


盛大にため息をつく香里。後ろから感じる北川の視線には気づいていないフリをしながら。


「北川君はねー」


ああもう仕方ないわね,と口を開く。


「−ホ●なのよ」


「ええっ?!」


脳天を鈍器で殴られたような衝撃を受け,驚愕の表情で北川を向き直る祐一。

そこには捕獲される寸前のエビのごとく壁際まで全速後退をかけたクラスメイト達と,その中心で涼しい顔でゆっくりと髪をかき上げる北川の姿。

北川は灼けるような熱い視線で祐一を見つめている。


「初めて逢ったときから俺の気持ちに気づいていただろう?」


「えっ!?」


祐一は北川が何を言っているのか分からない。というより目の前のこいつはホントに北川?実は北川の姿をしたナニかで中身にゲルでもつまってんじゃねえのか?

てゆうかネタだろネタ………ネタ?と最後は疑問形な祐一の不安メーターは限りなくレッドに近いイエローゾーンだ。


「だ,だって何度も裏本一緒に漁ったりAVの貸し借りしたりしてたんだぜ?」


何げにエロい人であることをバラしながら,救いを求めるように香里の方を見る。


「だって………その………そうゆうのって男優さんってゆうのかしら,そういう人の,写ってるんでしょ?」


思い当たるフシが……………………………………………………………………………………………………あった。

あのとき北川の潜った「洋ロリ」エリアのすぐ横は「洋ゲ●」。

その裏手には数千本のその手のブツが並ぶ魔窟で少数派一部マニアの垂涎の的だ。

それに北川は買ったエロDVDをその場では頑としてチェックさせてくれなかった………。


(………………………………偽装………………………………?)


祐一は思わず窓際まで後ずさる。



静まりかえった教室に,突如スピーカーから多分石橋だろう,中年男性の野太い,しかしほとんど錯乱一歩手前な絶叫が響き渡る。





『怪獣が急速に学校方面に近づいています!全校生徒は至急裏山の退避道を通って避難してください!繰り返します,全校生徒は至急裏山の退避道を通って避難してください!!』





しかし,祐一のクラスには,雷にでも撃たれたかのように誰もその場を動こうとする者はいなかった。


「ちょ,ちょっと香里〜,どういうことなんだよ〜。北川君が,その,そういう趣味の人だなんてわたし全然知らなかったよ〜。祐一が遊びに出るときは,『ちょっと北川とな♪』って言うからいつも安心してたのに〜」


不安げな名雪は,小声で香里に問いかける。


「そりゃそうよ。言わなかったもの」


「でもっ,でもっ!」


「後で説明してあげるから!もう,いい子にしてて!」


「う〜。わたしの祐一〜」


一喝する香里。

北川の爆弾発言。

そして尋常でなく焦りまくる名雪。

教室の空気は重苦しい。………ソレは怪獣が迫ってきているという張りつめた危機感とはまたかなり違った意味で。





「ちょ,ちょっと待て北川!どーかしてるぞっ!いくら何でもこんな時のネタはいただけないぞ?緊急事態なんだぞっ!!」


ゆっくりと歩み寄る北川を,全身で寄るな触るな待たんかコラなジェスチャーを続けながら牽制する祐一。
冷静に目の端で脱出経路を追うと男子生徒の垣根の間に廊下へと続くかすかな隙間がある。


「とうっ!」


電光石火のスピードで隙間をめがけて飛び込む祐一。


「ていっ!」


そうはさせじと絶妙のタイミングで足払いを掛ける香里。同時に付近の男子生徒達が一斉に祐一に飛びかかって押さえ込む。火付盗賊改方もかくやの疾風迅雷の捕り物劇だ。


「………くっ!」


両腕を抱え込まれるように窓際に押しつけられる祐一。さながら十字架に架けられたアノ人のように。


「ふふふ………。怖がらなくてもいいんだ。分かってる。分かってるよ。自分の本当の気持ちに気づくことは決して恥ずかしいことじゃないんだ」


とびきりの笑顔で祐一に迫る魅惑の北川。

見つめられたのが女の子なら10人中7人はふらっと堕ちそうな感じだ。


「だからどーして俺まで同じ趣味だと決めつけるんだっ!!」


「俺のことが嫌いなのか?これほどまでにおまえのことを愛しているというのに………」


とろけるようなセクシーボイスで祐一の頬に手を添える北川。

言われたのが若奥様なら10人中10人はコロっとイきそうな感じだ。


「ちっがーう!!おまえがどーとかではなく俺には決して越えられない,いや越えたくない,越えちゃいけないハードルがあるんだー!」


北川はあまつさえ歯まで光らせて祐一を見つめる。

街頭で好感度調査をしたら100人中150人は「北川,イイ!!」と答えるだろう。


「………さあ,互いに果てるまで求め合おう………」


「だああああああああああー!やめろー!」


祐一は絶望的な悲鳴を上げた。





「ひどいよ香里〜!なにするんだよ〜。わたしと祐一を離してよ〜」


祐一が男子生徒達に組み伏せられるのと同時に,女子生徒達に手足を取り押さえられた女の子が一人,全く緊張感に欠けた抗議の声を上げる。


「悪いわね名雪,これから先はあなたの正気の埒外よ」


香里は頑なに名雪と視線を合わそうとせず,冷たく言い放つ。


「ち,ちょっと香里,祐一の貞操と世間体とわたしとの未来はどーなるの?」


「いいこと名雪?懸かっているのは私たちの命なのよ?この際最初の3つは目をつぶりなさい!」

「ソレ全部だよ〜,いやー!そんなのいやー!!」

「仕方ないわね。お願い!!」

陸上部の部長の肩書きは伊達ではなかった。
信じられない力で,手足に絡みついた5.6人の女子生徒ごと祐一ににじりよるパワフルな名雪だったが,香里の合図で強引に足を引っ張り上げられ,捕獲されたイノシシ状態で教室の外に連行されてしまう。


「いやー!いやあー!!祐一ー!わたしの祐一がー!」


「やって」


名雪の叫び声は,香里のゴーサインと共に数人の女子生徒と退避道の方へと消えていった。










………一方,教室では。










「さあ,アヌスを見せてくれ」


「いやああああああああああー!」


祐一は押さえつけられたままじたばた暴れまくるが,香里の合図で,男子生徒の手によってズボンを破り引きずりおろされてしまう。


「わ,若いうちから正常でない無理矢理な肛門括約筋の酷使は年をとってから介護する人とか大変だぞ?………な?だから俺の老後のためにもそれだけは勘弁してくれ」


口調は絶叫の哀願ながらとことんまで徹底抗戦の構えの祐一だ。
ヤられてたまるかとばかりに堅く尻を引き締めているのが分かる。


「大丈夫だ。俺はどちらかというと攻められる方が好きなんだ。だから俺のことは心配しなくてもいいんだ。おまえにならナニされたって………」


祐一の男らしさの集約された部分を見つめつつ,ほんのりと顔を赤らめながらもじもじと俯く北川。

全アッチ系の人に尋ねたら以下略。


「………ねえ,具体的にはどうしたらいいの?どうしたら………その………興奮する?」


言われたシチュエーションがシチュエーションなら悶絶モノのセリフで香里が北川に尋ねる。


………リップと薄いメイクをした背広の相沢に,黒板に手をつかされ乳首をつねられながら前戯無しで後ろから思いっきり貫いてほしい。言葉責め必須あと,黒縁メガネとくわえタバコも相沢に」


顔を赤らめながらも即答の北川。彼に迷いは無い。


「てっ,テメエの嗜好はどうなってんだえぅぅ」


香里は祐一の絶叫をアイアンクローで制しながらクラスメイト達に向き直る。


「………分かったわ,聞いての通りよ?」


言うが早いか祐一の頭をガラスに押しつけたまま女子生徒が数人がかりで押さえ込んでメイクを施す。
それが終わる頃にはやはり数人のクラスメイトがどこからか(多分逃げ遅れた石橋の)背広を調達してきて強引に祐一を着替えさせていた。


「やめろお………もうやめてくれぇ………」


祐一はもう涙目だ。

マジ泣きだ。

そんな彼の気持ちを知ってか知らずか,北川が香里に告げる。


「もう一つある」


「テメエいい加減にあぅぅ」


せっかくのメイクが崩れないように祐一の口に丁寧に拳をねじこみながら香里が答える。


「何よ」


「ほかの男に見られるのは………その………恥ずかしい


ポッと顔を赤らめる北川。香里は何か言いたげだが私情を押し殺して冷静に作戦を遂行する。


「………男子生徒総員,………および直接サポート斑を残した全女子生徒退去!」


凛とした号令に,ある意味修羅場を回避できたのかほっとした表情で教室から出て退避道に向かう男子生徒,および非常に残念そうな顔を隠しもしない一部女子達。



………数分後



「うおおやめろーっ!やめてくれえーっ!!!!!」


そこには黒板に手をついて荒い息の,ズボンおよびパンツを膝までずりおろした北川とちょうど北川の後ろに背広姿の(ただし下半身は丸出し)哀れな祐一,およびその祐一の腰をなんとかして北川の尻に近づけようとする懸命な女生徒達の姿があった。

そう,それは種付けの際にその気にならない種馬を何とか肌馬に乗せようとする馬産業者の人々のそれにも似て。


「ダメよ香里,この子勃たないわ!」


その気のない祐一にはまったく無理な相談である。

ピクリとも反応しないソレは,むしろ縮み上がっているようにも見えた。


「当たり前じゃ離してくれーっ!」


焦った香里が祐一に詰め寄る。


「非常事態なのよ?わかってるの相沢君!?私,もといみんなの命のためにあなたの男性機能を役立たせるチャンスは今しかないのよ!?」


「そんなこと言っても無理なものは無理ー!!」


もう涙目でかぶりを振る祐一。


「3組の和美が確かヘルスでバイトやってたでしょ!」


「だからあの子はそれで停学食らってるでしょ,ってそーじゃなくてほかのクラスはもう避難してていないの!」


「水瀬さん連れてったのは誤算だったよね」


うわ,相沢君のって結構おっきい………。


「瑞穂,昔元カレにいろいろさせられてたってこないだ言ってたよね?相沢君はオッケー?今がチャンスよ?」


「………うん,イヤじゃないけど,こんなところで恥ずかしいしぃ………」


「………ほかの子にさせるぐらいだったらあたしがいっそ………」


非常事態という自覚があるのかないのかもはや分からない,祐一の勃たせ方について好き勝手な女のコ達。


「だーっ!ナンでもいいからはなせハナせ離せー!!」


祐一はじたばた暴れ続ける。


「北川君が『しゃぶってくれるならなんとか』って言ってるわよー?」


「ソレだわ!」


「ちっがーう!!ソレじゃねうぐぅ………」


背後からチョークスリーパーを掛けながら香里がまだ地獄に堕ちた方がマシな感じの声で祐一の耳元に囁く。


「ヒドい人ね相沢君。さっきあたしに言ったじゃない?『懸かっているのはみんなの命なんだぞ?この際フェラぐらいまでは目をつぶって』って。それとも何?あたしが犠牲になるのはよくて自分はイヤなの?命まで取られる訳じゃないのよ?自分一人だけ可愛いの?毎晩のように名雪をヨガり狂わせるあなたのその舌技を持ってすれば北川君なんて三こすり半,もとい三ねぶり半でゴーゴーヘブンよ?レストインピースよ?」


「………………………………………………………」


………祐一は幸いなことに途中で意識を失っていたが,状況は変わらない。香里のショートフックを鳩尾にたたき込まれ,強引にコッチの世界に引き戻される。

半泣きのまま開き気味の瞳孔で北川のアレを視界に捉えさせられる祐一。半ば諦め,絶望しきった表情だ。しかし,そんな祐一が今の北川の好き心を大いに刺激する。


「なあ,たのむよ相沢」


天使のように優しい声で囁く北川。


が,突然!


「な,お願いだ,しゃぶってくれ!しゃぶってくれよ相沢!俺のこと愛してくれ,お願いだ!」


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」


自分の言葉にキレたのか突如豹変した北川は半立ちの自分のブツを祐一に乱暴にこすりつけようとする。

おとなしく意のままになるかと今まで以上に必死の抵抗を見せ暴れる祐一。

祐一の頭を押さえつけるのに必死な女子生徒達。

暴れる祐一にさらに興奮する北川!


(はあはあ,あいざわがくちでおれのあれをおれのあれをおれのあレをおれのアレをオレノアレヲ………うっ!


ドクン。という擬音とともに北川の男性自身が急激に怒張する。


「ひいっ!おかあさんっ!」


思わず目を反らそうとするが頭を女子生徒に固定され動けない。

涙声で断末魔の悲鳴を上げる祐一。


………しかし,北川の様子が変だ。猛々しくモノを屹立させたまま,恍惚としていた表情が引き締まっていく。


「………覚醒した?!」


いよいよ天才超常能力者,異能者北川潤の本領が発揮される刻が来た!Time has come!Time to play the GAME!

香里は女子生徒達と顔を見合わせて目を輝かせた。

この上なく真剣な表情の北川(でも股間はそのまま)は,両腕に力を入れ,顔の前に強引に祐一の頭を引き寄せる。


「………相沢君」


瞳の色がさっきとは違う。少なくとも色ボケ全開のあの熱で潤んだ瞳ではない。口調も声色も,どことなくクールだ。


「………なんだよ」


北川の真剣な瞳に祐一も思わず身構えてしまう。


「私の陰茎と亀頭を可能な限り愛情を込めて口腔と舌で愛撫し射精に至らせてほしい」


「同じじゃバカモノっ!」


あらん限りの力を振り絞って女子生徒の腕を振り払った祐一は,渾身の力を込めた右ストレートを北川の左頬に叩き込んだ。










………数分後。










荒れ狂う怪獣は校舎前の川岸までその破壊の手を伸ばしている。

自衛隊の攻撃ヘリや戦車の決死の防戦も今ひとつ効果を上げていないようだ。

すっかり忘れられていたウサをはらすかのようなその咆吼と破壊衝動はとどまるところを知らない。


「皆危険だから下がっていろ。少なくとも私の後ろ最低30mは離れてくれたまえ」


「………北川………」


「目標は巨大で私の『手が届く』かどうかは微妙なところだ。能力の限りを尽くさなければなるまいな………」


凛々しい。非常に凛々しい面もちで北川は怪獣を見据える。事実祐一も迂闊にも見惚れるところであった。

己が手でボコボコになった面構えとぼろぼろの学生服,そしてムキ出しの下半身さえなければ。


「何をしている相沢君,美坂君と女子達だけでも安全なところに誘導したまえ!」


立ちつくす祐一を叱咤すると術式に取りかかる北川。


「………北川………分かった!」


祐一は手早く香里や女生徒達を誘導するため廊下に出る。全員の点呼が完了するかしないかのうち,教室から祐一を呼ぶ声が聞こえる。


「………相沢君!一つだけ頼みがある!」


「………どうした?」


………………………………………………………………………………………………………………………………。


………少し離れた場所にいた香里は,そのとき祐一達が何を話していたかをはっきりと聞き取ることができなかった。

やがて,祐一が教室から出てくる。その表情から何かを読みとることはできなかった。


「いくぞ」


祐一は階下を指さすと手で合図をする。香里達は無言でそれに続く。
その様子を眺めながらそっと微笑むと北川は外を向き直り術式を本格的に始めだした。北川を中心に怪しい光芒がわき上がり始める。


「……………」


香里は祐一の背中を追いながらいろんな意味で目頭を熱くながら校舎を後にした。

あのときの祐一を見据えた北川の真摯な瞳の色は生涯忘れないだろう。

不覚にも目に入ってしまったギンギンなアレの映像はとっとと脳から消し去りたいが。



−数瞬後,退避道の入り口に祐一達がさしかかったとき背後の学校で巨大な光芒が炸裂した。


「………!!」


祐一は自分の体を盾にするように近くの香里を押し倒して覆い被さり,光芒が収まるのを待つ。


「………相沢君?」


時間にして数十秒ぐらいだっただろうか,あたりが静寂を取り戻し掛けた頃,祐一は校舎に向かって駈けだしていた。


「待ってどこ行くの?!まだ危険よ?戻って相沢君!!」


「香里,あいつはバカで,どうしようもないヤツで,おまけにホ●だけど,それでも俺の友達なんだ」


祐一は一瞬だけ立ち止まり,香里を振り返るとふっと悲しそうな笑みを浮かべてそのまま駆け出す。


「相沢君,ダメよ,相沢君!相沢君!!」


香里の叫びも,もう祐一に届かない。

祐一は形だけを残した校舎の階段を駆け上がり,北川がいるはずの場所へと向かう。

………そこは,球形にえぐり取られた巨大な空間だった。校舎,校庭,川向かいの道路など辺り一帯が見事にくりぬかれたように無くなっていた。

荒れ狂っていたはずの怪獣も,もういない。そこは,風が吹き抜けるだけのただの虚だった。


「………北川?」


祐一は教室のあったはずの,ガレキの中に親友の姿を探す。−が。動くものは見あたらない。


「………北川」


祐一はついさっきまで親友だった男の名を絶叫する。


「北川ー!!」


ごとり,と背後でガレキの崩れる音がする。


「あ………あい………」


「北川?!」


「あいたたたたた…………」


妙にガタイのいい中年のおっさんが,ガレキの隙間からふらふらとはい出してくる。


「おまえじゃねえよ!」


思わず反射的におっさんの頭を殴る祐一。きゅう,と似合いもしない擬音をたてて失神するおっさん。


「しまった,これ,石橋だわ」


やったことはしゃあないとばかりに,石橋をガレキの山に埋め戻すべくめんどくさそうに手近な場所を掘り始めたそのとき,


「………う,うーん」


ガレキの隙間に見覚えのある触覚が見える。


「………き,北川?」


頭の上にあるガレキをのけると,その顔は紛れもなく北川潤その人であった。


「あ………相沢………か?」


「北川!生きてたんだな北川!」


祐一は思わずガレキをのけるための作業を進める。10分もしないうち五体満足な北川が姿を現した。
北川は最初訳の分からない様子だったがぼんやりと目の焦点が合ってくる。どうやら意識も戻ったようだ。


「は,はははは。あ,相沢,ここは教室だよな。なんかめちゃくちゃだけど。ところでおれは何故フリチ………」


どうやら性格も素に戻ったような北川を祐一は思わず涙を流しながら抱きしめていた。


「無事で,無事で良かったぞ。バカヤロウ。一時はどうなるかとか思ったぞコノヤロウ」


「ど,どうしたんだ相沢気持ち悪い,大体何で俺はフリチ………」


なんなんだ一体,といった風情でくすぐったそうな北川。


「へ,覚えてないの?」


「どうしたもこうしたもおまえと美坂が何かもめててその後記憶が………ん,覚えてない。それでどうして俺はフリチ………いて,何すんだ相沢」

「は,ははは,はははははは!わは,わは,わははは!!わはははは!」


抱擁を解いてバンバンと北川の背を叩いてうれしそうに大笑いする祐一。笑いすぎのせいかどうかは知らないが,うっすらと目元に涙がにじんでいる。

その後,祐一は北川に『謎の光球が校舎と怪獣を包みおまえは巻き添えになって云々』などと適当な説明をした。当然先ほどの北川自身の狂態については微塵も触れない。


「うーん,分かったような分からないような。ケド分かったよ。とにもかくにもお互い無事だしな」


そういってニカッと笑う北川は,やっぱり祐一のよく知るあの北川だった。


「ところで相沢,ズボン貸してくれ」


「へ,なんで?」


「さっきから言ってんだろ,ブラブラして落ち着かないって」


ボロボロの学生服を脱いで前を隠している北川。

アレはいったい何だったのかと思われるほどの元に戻りっぷりだ。

北川の笑顔には何の邪気も感じられない。


「あ,ああ,しょうがねえな,ホラよ」


祐一は苦笑しながらズボンを脱いで北川に渡そうとする。

………その時


「祐一〜!どこ〜!,祐一〜!!」


「相沢くーん!相沢くーん!!どこなの返事しなさーい!」


どこからか聞こえてくる名雪の間延びしたような声と焦ったような香里の声。


「はあ,俺って相変わらず美坂に何とも思われてないんだなあ………」


寂しげに苦笑する北川。


「げ!さ,早く着ろ!これ以上面倒なことはイヤだ」


「ん,なんかわからんがとりあえずサンキューだぞ相沢」


北川は学生服をガレキに掛けてズボンを受け取ろうとする。


「ゆーいちっ,祐一〜!ってええっ!!!


祐一と北川の姿を見つけてばたばたと駆け寄ってくる名雪達。が,二人の直前で突然煙が出そうな勢いで急停止する。

………祐一はふと冷静にお互いの様子を分析してみる。

北川は下半身丸出しで自分は下半身トランクス一枚。

見ようによっては今からレッツプレイアンダーザスカイの準備にも見えないこともない。


「ホ,ホ●な北川君に祐一は渡さないんだよ!祐一,私と一緒に逃げるんだよ!」


祐一の手を取ってグイ,と引っ張る名雪。北川はあっけにとられている。


「ち,違うのよ名雪,今の北川君はホ●なんかじゃないの………あっ!


しまった!と口を押さえる香里であったが,北川の瞳の色は見事にフェイズシフトしている。


「相沢………」


妖しい目で祐一の全身を舐めるように見つめる北川。


「な,ナニかな………?」


思わず後ずさる祐一,校舎の縁まで全速後退だ。


「………あのときの約束,覚えてるよな?」


悩ましげな表情で祐一に語りかける北川。

………しかしそれは,血を吐きながら続ける悲しいマラソンのスタートの合図だった。


「い,いや,いや,いやああああああああああああああああああああああ〜!!!!!!!!!!!!!」


祐一は半壊した校舎から飛び降り,脱兎の如くクレーターを駆け下りる。


「あ,待つんだよ祐一,愛の逃避行のパートナーを置き去りだなんてひどいよ極悪人だよ〜!」


「待て相沢ああああああ!もしみんな助かったら好きにさせてやるって言ってたじゃないかあ!!!」


ものすごい反応速度で祐一の後を追いかけダッシュする名雪と北川。


「ごめんね,北川君。今のは,わざとじゃ無いのよ………」


香里は,夕日に向かってクレーターを駆け下りていく3人を眺めながら,ぼんやりと石橋から聞いた北川の話を思い出していた。





『………ですから,あの子の能力者のとしての人格は普段は全く普通のあの子の意識下に潜っているんです。能力者としてのあの子はそれこそ戦術核級の破壊力と極めて明晰な頭脳を備えているんです。』

『それならばその人格を表に出しておいておくことのほうが北川君にとっても良いことなのでは?』

『もう一人の能力者の方の潤はその−,せ,性癖にかなりの問題がありまして。』

『?』

『その,なんと言いますか,極端な同性愛指向があるのです。その,もう一人の潤がその方面で問題を起こしたことは1度や2度ではありませんでした。
そこで,私たちは潤をこの離れた学校に入学させ,もう一人の潤を一族の最も強力な封呪者に頼んで封印したのです。
特定の条件を満たさない限り,『彼』がこの世に表れることはありません。』

『分かりました。入学を承認した以上は,責任を持ってお預かりします。それではどのようなことを注意すればよろしいのですか?』

『それは-。2段階あって,まずその第1段階でもう一人の潤の人格が解放されます。そして第2段階で………』





それが,「−本来の北川が最も愛する者の口から,最も聞きたくない言葉を聞かされる」ことだった。

北川の自分への思いは,自惚れとかではなく何となく分かっていた。他に選択肢が無いこととはいえ,香里も多感な少女。自らの迷いを消し去るにはそれなりの踏ん切りが必要だった。

後はライクアローリングストーン。

祐一の多大なる協力(?)で,能力者北川潤は見事に覚醒,魔の集まるこの地に訪れた最大の災厄を見事消し去ったのであった。


「『能力の完全なる解放か,性的に充分な満足が得られるかのいずれかで自動的に封印される』のよね。相沢君,後は任せたわよ(ダブルミーニング)


不憫な能力者,北川と同じくらい不憫な少年の名を口にしながら,香里は安堵の中に複雑な思いを乗せ,クレーターの中でおっかけっこを続ける3人を見やるのだった。


「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


夕日は今日もあいわからず赤く,北の街はとりあえず平和な夜を迎えるのだった。

あれだけの災害にもかかわらず,なぜか死者が一人も出ていなかったと言うことをココに記しておく。

                            

サブタイの「北川」は「祐一」の間違いじゃないのかとの意見に必死で耳をふさぎつつおしまい。

Back