爆発したように盛り上がる入道雲に,サングラス越しでも目の眩みそうな,全開の真夏の南の太陽。

白く,長く続く灼けた砂浜には他にヒトなんかいない。ときおり眼前の蒼い海を,思い出したようにジェットスキーやセイルが横切っていくぐらいの拾いモノのプライベート・ビーチ。

遠浅の湾の対岸には,緑色の山陰にうっすらと色づくリゾートホテルの宿舎が見える。
しかし,クルマの離合できない細い路地を通って辿り着いた簡素なバンガローしかないコチラ側は,空港近くの役場のおっちゃんが豪快に笑いながら教えてくれたとおりの文字通りの穴場だった。


「…………くあ,………あっちー………」


祐一は熱い風にほんの少し動いたパラソルの影に身を起こしつつ,近くにいるはずの恋人の姿を眠たそうな目で探す。

微睡んだのはほんの数分のハズなのに,頭の芯から麻痺するような真夏の太陽の真っ白い光。


「?」


ふ,と祐一の頭の後ろに影が落ちる。


「…………っ!」


ばしゃあん!と派手な音を立てて,ぬるんだ海水が祐一の全身を濡らす。


「うわっ,ナニすんですか佐祐理さん!」


慌てて顔をごしごしとこすりながら,後ろを振り向く祐一。


「祐一さんっ!スキありっ!ですよーっ!」


そこには,さっきまで水を包んでいたパレオを握りしめて大喜びの,小柄な,しかしグラマラスなからだをパイナップルイエローのハードカットのワンピースの水着で包んだ,弾けるような笑顔の恋人の姿。


「ひっでえなあ,今目に入っちゃいましたよ目に!」


くすくすと嬉しそうに笑う彼女を少々恨みがましくみつめながら,目をこすりこすり立ち上がる祐一。


「あは。………祐一さんが悪いんですよ?泳ご!っていうのに,お昼寝しちゃうんですから」


逆にぺたん,とパレオを掴んだままの女の子座りで,祐一をイタズラっぽく見上げながらべー,と舌を可愛らしく突き出す佐祐理さん。


「………」


「………?」


「………ワカリマシタ,サッソクイッテキマス!」


幼げな仕草と不思議そうにきょとん,と祐一を見上げる愛くるしい顔,姿勢で強調されるボディラインと凶悪なまでの胸元のボリュームに,熱で浮かされた祐一は,とりあえず理性の神の叫びに従い,バネ仕掛けのナニかのようにそう言い残して渚に飛び込むことを選択した。


「………あ,祐一さん!待って!待ってくださーい!」


佐祐理は,んしょ,と体を起こす。

待って,という割にはどこかのんびりしたその動作は,彼女のおっとりとした地の性格を感じさせる。

よし,といった感じでうっすらと太陽に色づき始めたからだに付いた砂を払いおとすと,まさに脱兎,という勢いで,すでに海のなかに飛び込んでしまった祐一を追って,渚へと駆けだしていった。










HIGH PRESSURE−星の渚と佐祐理さん−










相沢祐一は,入ったばかりの夏休みのオープニングを,とりあえず南の海で迎えよう!と,なけなしのバイト代をはたいて,いっこ上の先輩であり,なおかつ恋人でもあるところの佐祐理−倉田佐祐理と,旅行代理店の営業でこの時期特にばたばたと忙しい高校時分の友達から格安でもぎ取ったチケットで,北の街から遠く離れたこの南の島に来ている。


「北川としばらく南の方に遊びに行ってきます!」


「舞と泳ぎに行って来ます。一週間ぐらいで戻りますので」


確かに高校の時からのつきあいである恋人ではあるが,佐祐理は自宅通学,祐一は相変わらず叔母の家に下宿中とあっては,親睦を深めようにもチャンスはナカナカなこの1年半。
佐祐理は一人娘であるが故の家族の目。
祐一は自分に思いを寄せていることがバレバレな従妹の少女とその親友の目。
それぞれ気になる視線を,離れた道を歩むお互いの親友に,二人だけの時間の後の約束をしつつ口裏合わせを頼む,一歩踏み込む覚悟を決めたアーリー・サマー。

旅行の全費用に3ヶ月分のバイト代のすべてをたたき込もうとする勢いの祐一を微笑みながら制した佐祐理は,それでも嫌味の無いように滞在費を自分がもつことを申し出て譲らなかった。
恋人の性格と経済力のおかげで随分と楽になった旅行の計画は,目一杯楽しむことだけを,二人だけのルールにした。


「来て,良かったあ………」


とどまることを知らない暴力的な太陽の光を全身に浴びつつ,紺碧と呼ぶにふさわしい海に浮かぶ海パン姿の祐一。

大気の熱さに比して水は冷たく,その温度差が心地よい。恋人と二人きりの極楽のリゾートに,一体何の不満があろうか。


「………せいっ!」


満喫すると決めたからには容赦なんかしてやらねえ。

祐一は気合いを入れて,直下の海へとダイブをかける。

祐一の体は一気に5メートルほどの深さに沈み込む。

海の中には,ゆったりと泳ぐ熱帯魚の群れと,遠浅の中にもぼちぼちと姿を見せ始めるテーブル状の珊瑚礁。


「………っ」


別にダイビングの経験がそれほどあるでもない祐一は,その場にしばらくたゆたった後,そのまま海面に顔を出し一息つく。


「やっぱスキューバみたく長時間って訳にもいかないよな。潜りっぱは」


と,祐一はこの浜辺に来る前の,島の反対側のダイブショップでの不完全燃焼なスキューバを思い出すのだった。











「………祐一さぁん………」


長身の祐一がサイズの限界に近いウエットに腕を通しているときに,小さく呼びかける佐祐理さんの声。

自前のスーツなんか持ってないので,スキューバするならレンタルに頼まないといけない。

体験コースのインストもお願いしに訪れた(イキナリは無謀です,との佐祐理の助言にも従った)ダイブショップの更衣室。


「………………どったの?」


祐一はジッパーを上げ,そろそろ散髪を考える鬱陶しさの前髪を掻き上げながら佐祐理さんの方を向く。

そこには,ウエットスーツに腕まで通した後,困ったように祐一を見つめるほんの少し頬の赤い佐祐理さんの姿。


「あの,ですね………もちょっと,おっきいの,ないか訊いてもらえます?」


もじもじと恥ずかしそうに祐一以外には聞こえそうにないほどのか細い声で。


「………丈はぴったりだと思うんだけど?」


佐祐理の身長には一回り大きなサイズをチョイスしたせいか,特に手足の長さとか腰回りには変なところは見あたらない。

祐一は何なんだろ,といった風情で無遠慮にずかずかと佐祐理のところに近づく。


「…………あ,…………その,これ以上締まらなくって………」


(………………げっ………………!)


そこで,佐祐理のフロントのジッパーの位置にはじめて気が付く祐一。

スーツに比して明らかにサイズオーバーな佐祐理の胸。

極めて普通の女の子たる佐祐理の腕力では,白いビキニのラインが隠れる程度にも下の方からはジッパーが締まろうとしない。


(………目のやり場に,困るなあ………)


「………………」


俯く前髪が表情を隠すが,佐祐理の顔は赤い。


「ちょっとごめんな,佐祐理さん」


迫力の光景を眼前に,内心盛大に汗をかきスーツの下の暴走気味な自己主張を気にしつつ,祐一はジッパーに手を伸ばす。

特に抵抗の素振りを見せない佐祐理に,


『これぐらいはいいだろ,付き合ってるんだし。恋人なんだし!』


と自分自身に言い聞かせつつジッパーを引き上げる。

割と抵抗を感じるので,少々その手に力を込める。


−そのとき,


ぶるん。


「…………きゃっ!」


「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


佐祐理は小さく悲鳴を上げて両手でそれを覆い,祐一は盛大に息を呑んで,ばばっとお互いから離れる。


佐祐理の胸の右のほうの重たい果実が,締め付けるウエットスーツの圧力に耐えかね見事にこぼれ出ている。

ずれた水着とウエットスーツのジッパの間から覗く桜色の蕾と,扇情的に歪む圧倒的なそのボリュームに,祐一の視線は釘づけになる。


「…………祐一さんのバカぁ…………」


佐祐理は慌てて壁際に背を向けると,ジッパーを戻して乱れた水着を整える。髪をアップにしているせいで覗く首筋は真っ赤で,隠す顔色も容易に想像できる。


「………ゴメン」


慌てて佐祐理に背を向ける。

しかしその脳内は,直に焼き付けられた佐祐理の胸のビジュアルと,その恥ずかしがる仕草の可愛らしさで埋め尽くされ,暴発寸前なウエットの下の鎮圧にも一苦労の祐一であった。

ダイビングそのものは,インストラクターのお姉さんの指導で,それなりに楽しかった。のかもしれない。

そのハプニングのあまりのインパクトに,祐一は,今一つスキューバのコトをよく覚えていない。

二人のぎこちなさは,午後の浜辺のパレオの水掛けまで,そのままなんとなく続いた。










「がばごぼげぼん」


突然,右足から海中に引きずり込まれる。

一瞬サメか!と心に響くアラートは,足に絡みつく柔らかな感触で解除される。

冷静にバランスを取ってみると,透き通った海水と海面からの光の下で,己が右足を抱きしめる,珍しく少々ふくれっ面の佐祐理さん。
祐一は,困ったように微笑んで佐祐理にちょいちょいと手招きをする。
むー,と一瞬拗ねたような表情を浮かべた佐祐理だったが,すぐに祐一の足を離して胸元までつう,と上昇する。
祐一と顔の高さが合うと,また,ちいさく,べー,と舌を突き出す。


「………………」


(……ああもう,何だか知らないけど拗ねてても怒ってても,どうしてこの人はこんなに可愛いかな!)


本気でそう思う祐一は,そのまま佐祐理の肩を抱き上げるように,共に海面に向かう。


「ぷはっ」


「ふぅ」


ふたりは同時に息を継ぐ。


「………どーしたの佐祐理さ………!」


無茶なイタズラの理由を聞こうとした祐一は,水に浮かんだまま佐祐理にギュッと上体を抱きしめられる。


「佐祐理さ………ん」


佐祐理はただ黙って,祐一を抱きしめ続けている。

祐一は,立ち泳ぎの体勢で,佐祐理がそうしていられるようにバランスをとり続けるほかない。


「………祐一さん,何度呼んでも返事してくれません」


佐祐理が,耳元でゆっくりと口を開く。拗ねたような,怒ったような,それでいて甘えるような。


「………せっかく,ふたりっきりなんですから………」


とけるような,囁き。


「………ひとりぼっちに,しないでください………」


耳に触れる,佐祐理の唇。素肌に感じる,佐祐理の柔らかい体の感触。女の子らしい抱きしめる力。

全てに溺れてしまいたくなる誘惑。

敗北はむしろ時間との戦い。

完全にそれを受け入れてしまわぬうちに,祐一はムリヤリ,ふっ,と笑って佐祐理の頬に軽く口づけると,一度だけぎゅっと抱きしめ,佐祐理を導くように岸へと向かってゆっくりと泳ぎはじめるのだった。










夕暮れは,時間をかけて訪れる。

あれから二人は波打ち際でのんびりと日光浴と他愛のない会話で時を過ごした。
佐祐理もいつもの屈託のない幸せそうな笑顔に戻り,ちょっと安心の祐一だった。

バンガローに訪れた給仕(まさにこの表現がぴったりの)のオバサンの置いていってくれた夕食−名前は忘れたが,裂いた鶏肉がメインの,様々な具材をゴハンの上にのせてスープをかけたもの−に舌鼓を打ったふたりは,そのまま何をするでもなく,ぼんやりと砂浜に座って沈む夕日を眺めている。

ゆっくりと流れる,南の島の時間。太陽の残した熱を引きずりながらも,海から吹き抜ける心地よい風。
ただ寄り添ってここにいるだけでも,心が穏やかになっていくような永遠の一瞬。





「祐一さん………………?」


砂浜に敷いたシートの上で寝っ転がる祐一の傍らで,膝を崩したワンピース姿の佐祐理。


「………ん………?」


素朴な,でも美味なこの島の料理に,つい食べ過ぎてしまったのか,満足げにぼんやりの祐一。


「………誘ってくれて,嬉しかった,です」


はにかむように,でもはっきりと呟く佐祐理。


「だって,祐一さん,つきあい始めてからこんなふうに誘ってくれたの,初めてですよ?」


「そうだっけ………か?」


記憶の糸を辿ってみる。

映画や遊園地は大体佐祐理の親友も一緒,悪くすると従妹,もっと悪化するとその親友。さらにひどくなるとその妹まで付いてくるというインフレっぷり。

はっきりと断らない祐一にこそその原因があるのであって,佐祐理の不満も実のところその一点に集約される。

確かに,ふたりっきりでどこかに行きたいとお誘いをかけて,その通りに行動に移したのは今回が初めてかもしれない。


「………そうかも」


「………もう,佐祐理だって,女の子です」


拗ねるように主張する佐祐理。その様子さえ,祐一にはとても可愛らしく思える。


「………大好きな人と二人っきりで旅行するのってあこがれだったんですから」


「………!」


そこまで言って,急に自分の言葉の意味に気づいたのか赤面して俯いてしまう佐祐理さん。





告白したのは,祐一の方だった。

桜の舞い散る春の日,不器用なそれを,ちょっと顔を赤らめながらも微笑んで受けいれてくれた佐祐理だったが,実際の所,祐一には全然自信なんて無かった。

傍目から見ても釣り合うどころかの高嶺の花。

出逢って話していろいろあって,それでもこの人が大好きだと気づいた。

親友と二人で踏ん切りをつけるためのささやかな酒宴の次の日,卒業式のタイミングに大勝負。

同じく同級生の学年主席に挑んだ片方が玉砕した,その日の酒宴はあいにく単なる慰め酒と相成ったが,佐祐理の嬉しそうな,はにかんだ笑顔を思い出しつつ自分だけ幸せにあふれる祐一だった。

それから一年と,やがて半年。

破局を迎えることもなく,楽しい(グループ)デートでお互いを繋ぎ,どうにか同じ大学に受かり,べったべたなラブライフを夢見た祐一が直面するのは,一人暮らし禁止令と自力による学費調達であった。

距離を詰められないもどかしさ。

何とか愛する彼女と親密にナリタイのはそんな祐一の切実な願い。





「………あ………その………」


「………………」


「………嬉しいよ,佐祐理さん」


ロコツな期待を込めたお誘いを断られなかったときは,平静を装いつつも心の中では気持ち地球をたたき割らんばかりのガッツポーズ。しかしいざこの場になってみたら,照れが先に立ってしまうまだまだワカい祐一が,ちょっと漏らした本音もホンネ。


「………二人っきりなら,断られるって,思ってたから」


「………ひどいですよ?なんだと思ってたんですか?」


ちょっと怒ったような声の佐祐理。

自分の気持ちのことなんか,祐一さんは何も知らないんですね,とでも言いたげな責めるような視線。


「…………へ?」


そんな佐祐理の反応が,ちょっぴり意外な祐一であった。


「そんな………断れるわけなんか,無い,です」


佐祐理は,ぽつん,ぽつん,と思いを言葉にのせはじめる。


「だって,祐一さんの周りってカワイイ子がいっぱいで」


あんまり自覚したことはなかったが,従妹やその親友をはじめ,大学でも気が付けば同性よりも異性の知り合いのほうが多い。しかもどう割り引いてみようとしてもその誘惑に耐えられそうな男がどれだけいるの?な美人揃い。

衝撃の(彼女たちにとっては)交際宣言から結構経つ。にもカカワラズほのぼのとした二人の雰囲気に感づかれたのか,勝負付けはまだ先にあるとの彼女たちの猛攻には,内心佐祐理は気が気でない。

ある種救いようのない祐一の性癖か,今のところは単なる杞憂に終わっているのだが。


「大学だって学科が違うからあまり一緒にいられないですし」


学部こそ一緒だが,学科が違ってしまえばカリキュラムも変わる。
一部の授業を除けば,休み時間や昼食時間ぐらいしか学内での接点は持てない。

それなりにマジメな祐一の負担をなんとか減らしてあげようと,どうでもいい授業ぐらいはノートとレポートぐらいは買って出たい佐祐理だが,それもなかなか。


「祐一さん,バイトで忙しくてなかなかデートだってできないです」


学費だけではない。

食費と家賃が出ている分その他は頑張って自分で稼がなければ,こうして一緒に遊ぶことも出来ない金欠の祐一。

しかし,経済的に裕福な彼女に全面依存することをよしとしない,それが祐一なりのプライドでもあった。

ふたりっきりで一緒にゆっくりできる時間の方が惜しい佐祐理にとっては,祐一の性格を知っていてもつい出てしまうウラミゴトの数々。

裏返せば祐一を全部ひっくるめて愛するが故の本人へのノロケか。


「………ごめん」


そんな佐祐理に強い愛しさを覚えつつも,ただ,謝ることしかできない祐一。


「こういう時じゃないと,圧倒的なリードを稼げない,です」


佐祐理は,祐一の傍らに身を寄せて,上目遣いに祐一を見つめる。

本能のささやきとの戦いの裏で漠然と気づかされたこと。

それは誤解や勘違いなら色々と悔しくなる,佐祐理のある種の自分への期待。

恋人たる自分への独占欲。

計算なのかナチュラルなのか。ワカゾーたる祐一ごときに容易に判別できようはずもない。


「………そんなにアセらなくたって,俺は………」


佐祐理さんのコトが−,と続けようとした矢先。


「………佐祐理は,ほど良くアセって欲しい,です」


ちょっと不満げに呟きつつ,さらに祐一の胸に身を寄せる佐祐理。

ほのかに香るシャンプーの香り。

コロンの香りの向こう側にある,佐祐理そのものの甘酸っぱい匂い。





言葉の中に感じる自分への思いに。

仕草の中に感じるストレートな好意に。

とてもアザトクなんかなれそうにない,シャイなケダモノはそれだけを理由にしたかった。





「………ゴメン」


今日何度目かの祐一の謝罪に,困ったように微笑んでゆっくりと目を閉じる佐祐理。

祐一は,肩に回した腕で,より深く抱え込むように佐祐理を抱きしめ,探るように唇を重ねる。

とてもとても甘いそれは,ふたりの時間をも溶かしてしまうかのように。


「………舞に」


「………北川に」

少しだけ離れた唇の間に,お互いの雫の橋が架かる。

−言い訳を考えなきゃね,と二人して笑い合う。

二人の影は,もう一度重なった。

祐一の右手が,遠慮がちに佐祐理の肩から胸元に滑り込む。

佐祐理は,その右手の上を包み込むように手を添える。

引いたはずの熱は,もう一度その熱さを,シートの上に与えはじめる。










湾の奥で,花火が上がる。

星の渚は,真夏の夜の空に咲く花を映して静かに揺れる。

花の間の闇は,その残照に負けない星の光を浮き上がらせる。

やがて音も止んだ。

辺りを包み込む静けさの中,渚のシートの上にふたりの影は無かった。

深夜の水面は知らん顔で,明日もまた昇り来る朝日にその姿を蒼く染める準備を始めている。










おしまい。










結局そのまま後半の予定をぶっちぎってしまった二人を待っていたのは,宥めるのに際限のない好物のアレを必要とする親友と,ナンパデビューの約束を反故にされたアンテナリークの情報に基づいた,従妹の少女とその親友による,祐一への情け容赦のない拉致監禁暴行詰問であったという。










こんどこそおしまい。





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