#8
「お疲れー!」
「ういー!」
練習とかは軽いものではなく,たとえ試合のある日でもそれなりの量はきっちりこなすので結構疲れるもの。
それでも試合にスタメンで出てなおかつ雑用までしてあまつさえこうやって飲みに出ているオレたちは,やはりベテランの方にうらやましがられる何かを持っていると思うのでした。多分若さとかバイタリティとかそーゆう。
「明日はオフだけれどもいけんすっとよ?」
出身地なまり丸出しの,いい感じに色づいたシンちゃんが7杯目の生中ジョッキを空けつつ言う。
「ふいー。洗濯とか掃除とかしないとええかげんヤバいからねー」
あまりビールの飲めないオレは途中から酎ハイに切り替え,冷めた塩の鶏皮の串にかぶりつきながら。
「………生活感丸出しやなー」
何か面白いプランでも期待していたかのようなシンちゃんは結構がっかり目。
しかしながら一軍とのエレベータ生活が始まって早数ヶ月。ともすればおっくうになりがちなこの種の雑用をおろそかにすると,部屋が大変残念な状況に陥るのは火を見るより明らかなのでマメにやっておくことにしたいのでした。
そーいったことをする気力があるのが幸いなんだけどね。今のところは。
「しょーがないよ。一人暮らしそのものにも慣れてないしねー」
「んなの女でも作れば解決するやん?アタリ引いたらの話やけど」
愚痴るオレににんまりとヤらしい笑いのゴールデンルーキー。
決まった彼女はいないとのお話のシンちゃんなれど,携帯での女のコとのやりとりとか挙動とか球場近辺での婦女子ウケとかそーゆうのから推定できるのは,とってもうらやましいハーレムな感じ。お相手とおぼしきギャルズが結構キャバいのからどう見ても中学生風なのまで幅広そうなのは,なんとなく相沢をみてるよーでとーっても羨ましいんですけど!
『この方面でのマメさがあれば,てめーにもメがないワケじゃないんだけどな』
とはいつだか飲みの時にぽつりと漏らした相沢の一言。
例えば朝起きた寝ぼけのツラに。
例えば街角のウインドウに映るオノレの姿に。
例えばスナックのマルチミラーにふと気づく自分の横顔に。
ああ,相沢,ここにいない相沢。結構モテモテな相沢よ。
………信じていいのかしら。
信じていいんだよね?
ああ,すっげぇ信じたい!
もーちょっとモテてもいーんじゃないカナ?とかナルシスト気味に思ってみたっていいじゃないかよ!くっそー!笑うなよそこぉ!
「………そんな都合のいいの居たら苦労しないよー」
それでも,現実に思うのは悲しいくらいのその縁の無さ。ダテに彼女の居ないまま18年も無為に過ごしてきたわけではないのです。
小学校の頃は別にマセガキでもなくごくフツー,中学に上がってからは部活でそれどころではなく(気になってるコはいた),高校上がってからは違う部活入ったりヤメたり斉藤あたりとブラブラしたりゴロゴロしたりとかで忙しく(ツッコミ禁止)て,やはりそれどころではなかった(気になってるコはいたんだよ察してくれよお願い)んです。
相沢とツルむようになったあたりから女のコとの接点が増えだしたのは嬉しかったんだけど,イロっぽいハナシは全部あいつの方ばっかだったんだもん。
相沢が転校してきて,割とすぐに親密になってた美坂と(この辺水瀬嬢の果たした役割は大きかったのかもね)付き合ってるってのが発覚したのがちょうど去年のGW前ごろ。相沢がモテる分には別にかまわないんだけど,そのお相手がよりによって美坂だもんなあ。ぶちぶち。
………美坂じゃなくたっていいのにい。
「ああくそ!うらやましいいいいいい!」
「突然ナニゴトよ北ちゃん?」
………しまった。
つい心情を口に乗せてしまいシンちゃんにツッコマれるオレ。んでもあれからなんやかやで,あれだけほかのコに言い寄られても結局美坂との仲は変わんなかったなあ,ってゆうか変わってないよ現在形。そんな相沢が実のところ結構男前に思えちゃったりするんだけれども。
「あー,ごめん,つい………」
「ひょっとして北ちゃん,酒はいるとダウン系?」
「んー,ってわけでもないんだけどねえ?」
「何故に疑問形?」
「いやいや,シンちゃんも相沢もモテモテで良いなあ,っておハナシです。ふん,だ」
「あーそう拗ねない拗ねない!男が拗ねても可愛くないぞ?」
「可愛くなくたっていいもん」
「ってかマジで気持ち悪いッスそろそろヤメれ」
「シンちゃんなんか取り巻きのギャルズと組んずほぐれつ楽しんでるウチにうっかり中学生とかに挿入とかしてソレたれ込まれてニュース沙汰になっちゃえばいいんだ社会的に抹殺ー」
「すんません北川さん頼むからヤメてくださいマジでマジで」
「全世界的にロリ嗜好の方は生きづらい世の中になってきておりますがその辺のお覚悟はよろしいでしょうかネタはあがってんですぜコノや」
「ええ加減にせんかい!」
思いっきりアタマをはたかれるオレ。
「………ったく」
「ごめーん」
………すんません素で調子こいてました。
「まあしかし,彼女いると楽しいよ?正味のハナシ」
笑ってるけど目が真剣なシンちゃん。
「たしかに,そうかな?とは思うけど」
正直に言ってみるオレ。
「………………おし」
おもむろに何事か頷くシンちゃん。
「まかせとけ!」
にか,っと笑うシンちゃん。その笑顔がちょこっとだけ,相沢に似てる。
「どんなのが好みだ?言ってみ?」
「へ?」
「へ,じゃねえよ。このナイキさんがありとあらゆるコネを使いスカイレイダーズのいまイチバン旬なオトコ北川潤にすてきなカノジョを紹介しようって言うんだ。恐れ入ったか!」
「え?ま,マジぃ?」
結構本気でドキドキなオレ。
相沢に負けず劣らず美女グルメのシンカイ君。結構洒落になんないレベルの女のコが期待できちゃったりするアタリ,オレもう本気で舞い上がり気味に!
「マジも大マジ!ソレでどうだ?甘えさせてくれるお姉さま系?従順な妹タイプ?ぱっと見生意気で甘えると可愛い高校生?」
「あああああああああああああああああ!」
「おし,おまえが良ければセットすんぞ?」
「………お願いします!」
秋口の夜はこーやって更けていくのでした。すっげえ期待感高いんですが明日シンちゃんが忘れていないことを切に願いつつ。
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