#7


激闘は続いているのだ。

夏場が過ぎ,ペナントの行方なんかとうに決まっている。

それはもう,どうあがいても届くことのない圧倒的なゲーム差の首位球団。

我がスカイレイダーズは,序盤から夏場初頭までの壊滅的な状況からは一応脱して,8月9月についてはかろうじて勝ちが先行しているというプチ建て直し状態。もっともここから勝ち負けイーブンまで持ち込めるかどうかは,今後の試合(まだ20試合以上あんのに)を全勝してもどうかと言うところ。

オレたちはというと,2軍とのエレベータがどうの,と言っていられるような状態ではないほどの絶対的な戦力不足の中で,起用されたらフル回転の日々。

経験無し高卒なのに割りとすぐに一軍半評価で使ってもらえてるということ自体,お互いこの世界の適性があったことを素直に喜ぶべきなのかも知れない。

にしたってオーバーワーク気味なのは間違いないのでした。そんなことで感慨に浸ってる余裕さえないくらいに。










まず相沢。

確認しておくがヤツの一軍デビューは8月頭。

驚くべきコトに今までの2ヶ月近く,試合のある日はほとんど毎日ブルペンに入り,ちょっと点差が縮まりゃ即ゲーム投入という端から見ても「大丈夫かしら?」なピストン起用。既に31試合,70イニング近くを投げ新人王の資格さえ発生しているのでした。

体はかなり頑丈で柔軟な相沢。

プロ入りが決まってからはなんやかやで一緒にじっくり走り込みとかのメニューをさぼらなかった結果,なんとかプロ向きの体になってきつつはあるはずなのだが,いかんせん限度ってモノがある。


「あん?何言ってんだてめえ。この鋼鉄右腕がたかだか100連投ごときで凹むかよ!」


とは,今日の広島戦で2点リードからの3イニングを投げて,かろうじて1失点で押さえセーブを挙げた,セリフと顔色が裏腹な我が相棒殿の言。
職場(球場やブルペン)では絶対に見せることのない,だれきった笑顔。相当疲労が溜まっている様子だ。

しかし結果は残している。あのイニング投げて,トータルが1点台前半という驚異的な防御率で既に中継ぎ一番手の評価を獲得してるのでした。

8月後半からは,相沢でゲームの壊滅を防いで,中名から獲得したストッパーのガラハドさんに繋ぐのが勝ちパターンの一つになってきているのだ。

ヤツにとって幸いなことに,トレーナーもチームで一番評判の良い方が,ほとんど付きっきりでクールダウンとかしてくれている。ただ,休養日以外は大車輪な,疲れの色が顔からなかなか抜けない,ロッカーの前の背番号54であった。










オレはといえば,途中出場→外野守備のパターンがほとんど定着しつつあるのです。嬉しいコトに。

打席に立てることも増え,左打者のレギュラーの方が何らかの事情で出られないときに限って先発の外野手としての起用もたまにあります。

こう言っちゃうと自慢になっちゃうのでちょっと恥ずかしいんだけど,今のところの通算打率が5割を超えているのですよオレ。盗塁も気が付いたらトップと5コ差の23になっちゃってるし。

今日なんかも6回裏に代打で出て2打数1安打,打点,得点,盗塁共に1と,良い感じで結果を残し。

2軍エレベータからは遠ざかる方向なのは嬉しい限りですが,レギュラーの皆さんほどではないにしても,暑さと疲労でオレもやっぱりバテ気味なのでした。


「………おーい」


しかし,しかしです皆さん。ココが鍔際!ココでなんとか踏ん張ってこそ輝かしい明日が待っているのです!


「おーい!」


最近はグラウンドにいてもファンの女のコ(?)の名指しの声援がちらほらと聞こえてくるようにもなってきたし!


「おーい!!」


うまいことジェントルマン戦とかでお立ち台に立てるようなっちゃげしっ!


「あたっ!」


「いい加減に戻ってこいよ北ちゃん」


心の決意表明を,汚れたユニフォームの詰まったスポーツバッグのインパクトの衝撃に中断させられ振り向いてみると,ソコには半ば呆れ顔のシンちゃんの顔。


「なんだシンちゃんかよびっくりしたー」


「相ちゃんとでも思ったか。………思い出し笑いなんかしやがって気味悪いなあ」


それでも屈託のない笑顔の,もうとっくに着替え完了な,シンカイナイキ君19歳通称シンちゃん。

高校2年の時に甲子園準優勝を果たした高校通算50HRのスラッガーで今年のドラフト2位。強肩攻守の次代の長距離砲との呼び声の高い外野の期待株だ。ただ,そのイニシャルからは想像も付かないほど優男な,10人中9人がサワヤカさん認定の目の前の少年。何げに着てる服のセンスなんかも良く,女のコ人気もナカナカに高いので非常にうらやましい限りなのでした。


「んで,どうよ?相ちゃん誘って軽く引っかけに行かね?」


まるで女のコを落とすときのような会心のスマイルでお誘いを掛けてくるシンちゃん。

今日もセンター7番で2安打1打点となかなかの暴れっぷりだったシンちゃん。

結果が出ればお祝い,出なくても反省と何かにつけて遊びに行きたがる,外見からは想像も付かないほどなお祭り野郎なこの男とは,同じ歳であることの気安さと,結構ノリが合うこともあって最近一緒に行動することが増えてるのでした。


「お,いいねえ♪」


シャワー後の火照った体にTシャツをかぶせながらオレ。んでもさっきロッカーの前にもたれかかっていた男は影も形も見あたらず。


「ありゃま………」


シンちゃんの方を見てみても,『さあ?』というジェスチュア。そーだよなあ。オレと一緒にいることの方がむしろ多いわけですから。一応マッサージルームを覗いてみるも影も形もなく。


「あれー,ドコ行ったんだろ?」


シャワールームにもいない。っかしいなあ,黙って帰るやつでもあるまいに。


「おーい!」


あ,シンちゃん。


「いたかー?おーいあいざ………」


「………今日は無理かもなあ」


ちょっと困った風なシンちゃんの声。

隅のベンチではスポーツバッグを抱えたまま安らかな寝顔の相沢。


「今日で今週5連投だったよね確か」


相沢に肩を貸す横で,オレのバッグをひったくって肩に引っかけながらシンちゃん。

どちらかというと細身の体なのに,3人分のバッグ(結構な重量)を抱えてもびくともしないパワフルさである。

オレたちは,このままほっとくわけにはいかない相沢をなんとか揺り起こして,球場前でタクシーを拾い,とりあえず寮に戻ることにした。

長身の相沢は結構な重量であり,寝ぼけ眼でも多少足に力を入れてくれんことには運ぶのも結構辛かったのでした。










「ゆっくり寝りやー」


「………おーう」


糸目の相沢を部屋に叩き込んで見上げるのは,日も落ちた9月の夕暮れの空。
明日移動するわけでもない日曜のデーゲームの後は,オレたちに訪れるしばしの休息の時なのである。


「んで,どうすんべよ北ちゃん?まだまだ寝るまで時間もあることだし,どっか遊び行かね?」


相変わらず笑顔のシンちゃん。今日素直に床に就く気はないらしい。行く気満々の瞳である。
オレもこのまま寝るには惜しい気分である。なんやかやで地元横浜でお休みを迎えるのもホントに久しぶりだったりするので。


「んー,そうだな」


頭の中で今日この後の行動をシミュレート。

居酒屋→カラオケスナック→スナック(withおねえちゃん)→ぴんくいろ方面

んー。一番最後はともかくとしてとりあえず遊びにゃ行きたいなあ。ここんとこずっと帰っちゃ寝りの生活で潤い無いことおびただしいし。


「おし,行くか!」


決めると話が早いのはいつものことといえばいつものこと。


「お♪いいねえ北ちゃんそうこなくっちゃ!」


悪戯心あふれる笑顔を丸いサングラスで微妙に隠し,上機嫌風味のシンちゃん。

地元ではさすがに素顔で歩きづらいので,とりあえずは横浜まで出てから考えることにして,オレたちは寮を飛び出すのでした。

さあ。夜はこれからだ。たいむ とぅ ぷれい ざ げーむ♪











6話にもどるー。    8話につづくー。





        Back