#6


幸いなことにオレたちの一軍帯同生活は続いている。


相沢は,監督さんをはじめ,コーチ陣に「押さえられる」投手としての印象をここ数戦で残しているトコロが大きい。
他の投手陣(特に中継ぎの方々)が不安定なのも理由の一つだけど。


オレの場合は,代走の一番手起用が多いくらいに走れることと,外野も守れるってことが今んところ最大のセールスポイント。
機動力が不足気味の我がチームにあってオレの足は速いほうらしく。盗塁のタイミングなんかは褒められちゃったりしてるし。
でも多分,ほんとのトコは相次ぐ主力選手のけがで一軍野手の絶対数が足りないってことかも。


と,いうことでこの一週間は広島から名古屋と連戦が続いているのである。


相沢は主に中継ぎからひっぱられる感じの起用で,この連戦の間は,点差がない試合の時に勝ち負けに関わらずフル回転。


オレは本業(?)の捕手での出番はないものの,代走で出て外野の守備につくパターンが増えつつある。あとは打つ方でもコンスタントに使ってもらえれば!結果を………残せ………たらいいなあ。
と,思ってたら今回の遠征では,オレは絶好調。相沢も尻上がりな好調。


広島マスケットカービン戦ではまず初戦,代走に出て1盗塁1得点。2戦目は出番無しだったけど3戦目は4回から代打起用で3安打!2打点に2得点の大当たりの猛打賞だった。


続く中名パンツァードラグーン戦では初戦,9回に代走で出てそのまま外野守備。2戦目は左のサエキさん体調不良でなんと初のスタメン起用。4打数2安打で打点3を上げ,3戦目も9回代走で1盗塁と自分で言うのも何だが結構な活躍っぷり。


相沢は広島3戦目と中名戦全試合,合計4試合に登板。
広島戦では2-2/3イニングを投げて自責点1(失点2)ながら勝ち投手,中名戦では初戦を2イニング自責点2(失点2)で勝敗つかず。
この2戦は結果はともかく内容は今ひとつな感じだったけど,後の2戦がすごかった。


ここ10試合の平均打率が3割8分と絶好調なドラグーン打線を相手に,2戦目を3イニングノーヒットで初セーブを上げ,調子が上がってきた感じ。スライダーの曲がり端が,いいときの相沢な感じになってきているようだ。


3戦目は5回からのロングリリーフで,7回に2つのフォアボールとサードのエラーで1アウト満塁のピンチを招いた以外はパーフェクト。一本のヒットも許さずに勝ち投手に。特にこの試合は5イニング通してで11奪三振と結構なやりたい放題ぶり。


相沢は一軍デビュー後,ここまで22イニングを投げて防御率は2.05,3勝1敗1Sとかなり優秀な結果を残しているのだった。


オレも打席数こそ少ないけど(8打数)6安打7打点1HRと上々の成果。盗塁も2桁12個に達したのでひとまずは一軍にいて肩身の狭い思いだけはしなくて済みそうだ。


ずっとこの調子ならプロとしてやっていけるんじゃないかなあ,と自信みたいなものも芽生えてきたり。実際はそう甘いモンじゃないってのもわかってはいるんだけどね。










「そんなわけで明日はオフなんだけど,どうするよ相沢?」



暑い名古屋の過酷な夏のデーゲームで(と,言っても名古屋スタジアムはドームなんで空調がそこそこ効いてるわけだが)5イニングを踏ん張り,いましがたマッサージ室を出てきてホテルの相部屋で寝そべる相沢に声をかける。


デーゲームの場合は試合終了後即座に移動することが多いわけだが,今日のように6連戦明け(しかも夏場)の場合は疲労への影響を考えて,何室かキープ済みの宿舎に入って休むことなんかもあるのである。



「うるへー,大体何が『そんなわけ』なんだ。オレ様は今ごろごろしたりぐったりしたりで忙しいんだYouKnow?」



ぐったりとした相沢はこちらの方を見ようともせずに仰向けのまんま答える。だれてるのはやる気のない語尾ではっきりと。



「だってもよ?」



ビジネスホテルの窓際なんかによくあるデスク。その前の4つ足チェアにあぐらをかきながら相沢に向き直って続けるオレ。



「せっかくもう一泊するんだぜ?シンちゃんとかも一緒だから一心地ついたら街出ねえ?」



シンちゃん,というのは同期入団の高卒の外野手で「シンカイ」と言うのが本名。結構な長距離ヒッターで,当たれば飛ぶタイプなのだがありがちなコトに今んところ率は残せてない。ただ足が結構速く,守備範囲もめっぽう広くキャッチングなんかもオレよりずっと正確なので一軍にいることが多いのだった。


ただ,この男,無類のお祭り好き。


こういう居残りの時なんかは大体他の一軍の皆さんにひっついていって明け方まで帰ってこないことなんかも多いと聞く。今回オレ達は初の遠征帯同だから,こっちの方の先輩である「シンちゃん」に一つナイトスポットのご教授なんかを願っちゃおっかな♪などと画策してるのだった。


だってせっかく初めての場所に来てるんだから何かうまい物食べに行って騒ぎたいじゃん?
きれいなおねーさんのいる店にも行ってみたいじゃん?
あわよくばその先のお楽しみも考えてみたいじゃん?



「”達”を入れるなっての」



寝ころんだまま抗議の相沢。だってこいつ連れてった方が女の子には受けがいいんだもん。高校時分からずっとそんな感じだったし,アフター飲みのぴんく色な楽しみの成功率を考えたらハズす訳にいかないじゃん?



「エスパーか貴様」



「バカかテメエ,『今回』とかなんとかから口に出しとったわ」



………おかしい。オレにそんな癖はなかったはずなんだが。



「大体オレ様は疲れてんだ。疲労を抜くのもプロの仕事とか抜かしてたのは何処のどいつだったっけ?」



「ぐう」



こんな時ばっか正論持ち出しやがってホンキで出る気無えなコノヤロ。いかん。いかんのじゃシンちゃん達にももう約束しちゃってるし。



「つうかテメエ,違うモン抜きに行く気満々だなこのスケベ?」



「ぎく」



相変わらず寝ころんだままずばずばとオレに言葉の暴力を浴びせかけてくる相沢。くっ,テメエ黙ってりゃいいたいことを!



「『ぎく』じゃねえよお,ああもうシロウト童貞はコレだから」



あーあーあーあーあーあーあーあーテ,テメエそれだけはゆうてはならんコトを!オレとおまえしか知らないトップシークレットを!



「今聞き捨てならないことをおっしゃいましたな相沢はん?」



「じーじーつーだーべー?Fact is Fact。何が悪いアマチュアチェリー?」



………かちん。


ほほう,そこまでゆうのならオレにだって奥の手が。



「そんなことゆったらオレの『卒業』の場におまえも嬉々として付いてきたことを今ここから携帯で美坂に………」



口の端が引きつってるのが自分でもわかるがこの場合悪いのは相沢である。天罰を食らってもらいましょうかね?



「ちょっと待てそれには重大な事実誤認がある!」



急にがばっと跳ね起き,オレの襟首を掴みながらおもしろいように焦りまくる相沢。やはり都合の悪いことはすっかり忘れていやがったかこのバカタレ。



「異議は美坂裁判長の前で申し立ててもらいましょうかね被告人相沢祐一君♪」



体勢は体勢ながら圧倒的な有利さに超余裕なオレ様。



「あ,テメエ汚ねえ!結局金足りなくてオレだけ帰るハメになったのを忘れたワケじゃないだろコラ?」



………確かにその通りなのだが(あいにくオレの持ち合わせを足しても足りなかった)美坂へのご注進はこれだけで充分なのである。それにあれだけおモテになる上になんやかやでスケベな相沢様のこと。叩けばホコリが出るカラダなのは言うまでもありますまい?ありますまい?



「知らないもーん。付いてきたのは事実だもーん。店に入って指名の女の子のリストを一緒に見たのもホントだもーん♪『金貸して』っていわれたのも事実だもーん♪」



もうスイッチ入っちゃってるオレ。こんなアタシにしたアナタがイケないのよ?



「テ,テメエ………っ」



「この期に及んで『やってません』が果たしてあの裁判長に通るのかしらー?」



視線をわざとそらせながら続けるオレ。もうこの時点で負けはなくなった12回表の終わったホームチームな気分。



「………くっ………,そ,それだけは勘弁していただきたくっ………。」



相沢の首がかくん,と折れる。気の毒なほどの意気消沈ぶりである。まあ,美坂怒らせると怖いのはよく知ってるからね。


………勝った。


でも何となくムナしさの残る勝利でもあった。そう,戦いとはいつだって空しいものさ………。


ともあれ,オレは渋る相沢の襟首を捕まえて,シンちゃん達と共に夜中まで遊び倒したのでした。










え?えっちな店行ったのかって?や,やだなあ。秘密よ?ヒ・ミ・ツ♪









5話にもどるー。    7話につづくー。




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