「…………」

 散発的な談笑こそ起こるものの,どよーんとした重たい雰囲気が気まずい,帰りの新幹線のオレ達の車両。

「……結局,1勝もできず,か」

 デーゲームの疲労を引きずったままの日曜の沿線の夜景を眺めつつ,スポーツドリンクのペットボトルの飲み口をくわえたまま相沢が呟く。
 同じボックスでオレもシンちゃんもぐったりとうなだれている。
 開幕からの京阪3連戦。
 1分け2敗とスイープ(3連敗)こそ免れたものの,わが横浜スカイレイダーズは大変残念なことに今期の一勝目を飾ることは出来なかった。

「返す返すも緒戦のアレは痛かったなあ。何でもうあそこでスピード緩めちゃったかあなあ。オレ」

 伏目がちに,喉の奥から搾り出すようなシンちゃんは,心底悔しそう。
 -3連戦の1戦目,本塁に飛び込んだシンちゃんときわどいタイミングで交錯したヤノさんのミットであったが,判定は一瞬セーフのジェスチャーの後のアウトであった。このアクションに監督もコーチも抗議に飛び出していったのだが,万雷の拍手の中判定が覆ることはなかった。
 結局,延長戦の10-12回を夜の11時近くまで戦った結果はスコアレスの引き分けだったのだ。

「……アレはしょうが無かんべ。それよか……昨日の8回の俺のアレが無けりゃ」

 反省はまだ続く,今度は相沢。
 昨日の2戦目は打って変わっての乱打戦になった。
 両先発がエラー絡みもあり,5点ずつを3回途中までに失って降板するという幕開けで始まったソレは,代打シンちゃんの犠牲フライやロック様の今期1・2・3号の3連発などで7回を終わったところで13対11というしばき合いのような試合。
 そんな中試合を通じてノーヒットに終わったのはオレだけでちょっと悔しかったのは本題ではないので置いておくとして(おくなよ。という声が聞こえてきそうですが無視します。死球と四球と敵失でしっかり3出塁3得点,今季初盗塁も決めましたからして!して!),相沢のソレは8回に起こったのです。

『うお,こ,コレは?!』

 後ろから見てて大変に危なっかしい投球に不安は的中。
 あえて名を伏せる,先発から転向した中継ぎの某投手が,1死後の四球2連発から左足の不調を訴えて降板したのである。それで,競ってるときのわがチームの方程式,前日に引き続いて相沢のご登場となったのだが。

『うおお,あ,相沢!』

 微妙なコースは取ってもらえず,決めにいった球はカットされるとか長く長く粘られたあとに,内野ゴロでどうにかこうにか1死を奪ったものの,これが進塁打に。

『のー!』

 次打者の初球,甘く入った外角をカネモトさんにセンター前に弾き返されてしまい2点を献上してしまったのである。
 結局,相沢は打席が廻ってきたこともあってこの回で降板したが,9回裏に次の投手が乱調から押し出しを許してしまい,なんともしまらない形での敗戦を喫してしまった。
 
「……今日は今日で,ほとんど何も出来なかったしなあ……」

 本日のデーゲーム,わが打線は京阪先発のシモヤナギさんを相手に,6回まで点を奪うことが出来ず(ヒットはオレとイシイ(タク)さんとロック様がそれぞれ一本。ロック様の3塁打が唯一の得点機だったものの,後続が倒れてしまい,ダメ)。

「うにゃあああああああああああああああああああああああ!」

 7回以降も救援陣にほぼ完璧に抑え込まれ,最後は無理やり内野安打を狙いにいってアウトになったオレで終わる,という,残念な継投完封を喫してしまった。
 ……そんなわけで,明日の移動日を前倒しに戻る車内は,とてもとても馬鹿騒ぎとか出来る状態ではないのであった。

「おい,相沢に北川」

 そんな凹み状態のオレたちに通路から声をかけてきたのは,バッティングコーチのタシロさんにピッチングコーチのサイトウ(カズ)さんである。

「はい!」

「はい!!」

 弾かれた様に居住まいを正す相沢とオレ。
 立場が立場,ということもあるけども,普段親しげに会話を交わす機会の無い父親世代のこのお二方にはつい必要以上にかしこまってしまう。

「ちょっと話があるので,隣の車両にきてくれないかな?」

 隣,というのは首脳陣の陣取ってる進行方向前の車両である。
 二人とも穏やかな表情を浮かべているのでお叱りではないと思うのではあるが,こう「何かやらかしたんじゃないかなあ?」という思いは経験少ないオレたちには常に付きまとう不安。なので,やっぱりちょっとビクビクになってしまう。

「はい」

「はい」

 心中は同じなんじゃないかなあ,と思う相沢だが,さすがはマウンドで鍛えたポーカーフェイス。
 ゆっくりと立ち上がってコーチ連に続く相沢に,緊張の面持ちでオレも,続く。





「昨日の失点はいただけなかったな?相沢」

 対面の座席に促され着席すると同時に,柔らかな笑みのスーツ姿の初老の監督にに,相沢が声をかけられる。

「……すみません」

「ははは。まあ,この仕事を続けてれば,ままああいうことはある。必要以上に気にすることは無い」

「はい」

「まあ,楽にしろ。実は明後日の本拠地開幕戦なんだが……」

 組んでいた脚を床に下ろして,監督が謹直な表情を作る。

「……相沢,先発で行ってもらうぞ。明日はそのつもりでコーチと相談して調整しておけ」

 横目で見る相沢が,息を呑むのが分かる。
 スーツのパンツの上で握り締めた拳に,うっすらと汗が滲んでいるのも分かる。

「……オレ……僕で,良いのですか?」

「相談して決めたことだ。ダメなら話はしないよ……どうだ?イケるか?」

 珍しく,動揺の色が隠せない相沢である。

 -が,

「……はい,がんばります」

 それほど間を置くことなく,短く,はっきりと返事をする。

「……(すげえ!)」

 オレの鼓動も,早くなる。
 ……昔から一緒にバカばっかやってきたこいつが,外の先発候補を差し置いてまさかの本拠地開幕抜擢なのである。しかも,こんなに早く!
 -なんとなく,こう,わが事のように嬉しくもあ

「……たがわ!」

 へ?

「北川!聞いてるのか!お前も明日スタメンマスクだぞ!」

「は?!」

「『は?!』じゃないだろ,聴けよ人の話を!」

 肘で小突いて相沢である。い,痛えよ!痛えったら!!

「え?ええっ?!」

 と,ということはつまり開幕でアレか!
 こいつと組むのか!

「ふはは,ま,お前は先発捕手も何度か経験してるから問題は無かろ。同級生同士,せいぜいしっかりリードしてやるんだな」

 そういって笑う監督さんに深々と一礼して,その場を辞すオレ達。
 くれぐれも先発は当日の発表まで内密にすることや明日の日程をバッテリーコーチのアキモトさんと確認した後,なんとなく浮き足立って見える相沢に続いて席へと戻る。

 -その途中,トイレの横の喫煙スペースの陰で。

「……監督も,思い切ったな」

「……まあ,○×(先発投手のお名前)が間に合わないってのが昼過ぎに分かったからな。△△(やはり先発投手のお名前)も2戦目で滅多打ちくらって,即下送りだったし。ほかに適当な駒がいないってのが実情だからね」

 コンディショニングコーチとピッチングコーチ補佐のお二人が何事か話しこんでいる。
 横から聞き耳ってのはあまりいいハナシじゃないんだが,ついつい隠形さながらに身を隠してしまうぴーぴんぐ?なオレである。

「中継ぎ一枚抜かれるのは正直痛いけどなあ……。まあ,まともに投げられるやつでスタミナ的に一番何とかなりそうなのは相沢だしな。まだガキだがそれだけに体力あるし」

「去年,一度だけ九回投げたことあったから,それでってこともあるだろうな」

「あと,広報からの要望もあるらしいよ?」

「?」

「ほら,あいつっってその,いわゆる『イケメン』じゃん?……ほら,去年出てきた北海道のダルシャーンっていたろ?」

「ああ,あの中東とのハーフでごっつい良い球放る」

「ああいう感じで売り出したいんだってさ。ほら,ちょうど同じガッコで同級の北川もいるし,10代バッテリーのセットで行けば話題づくりにもなるんじゃないかってな?」

「北川ねえ。アレも外野と捕手とどっちで育てるのがいいのか……よう打つし,よう走るんだが捕手に向いてるかどうかはどうだか?」

「……まあ,やらせてみるさ。キャッチングは悪くは無いしな。とりあえず,今回は相沢と出るってところが一番のポイントだしな」

「これで客いっぱい入るといいな」

「本拠地開幕だから黙っててもそれなりには入るだろうけど,まあ,そのなんだ。10代のイケメンバッテリーでどこまでいけるからな」

「あ,確かに北川も結構球団HPでは変なメール多いんだってな。まあ,外の出してもどうなるかわかんないことだし英断は英断だよな」

「お,猥談か!」

「どんな耳だソレは。ま,まあ,一勝できればそういうとこに行く足も軽くなるわけで」

「負けても行くくせに」

「…………!」

「…………!」

 話が途切れたところでこっそり離れるオレなのであった。が。

 う,うーん。
 そんな裏話みたいなのもあったのか。しかしなんだろ変なメールって。初耳なんですけど!
 ま,まあともかく,ネガティブなハナシで無いってのは,そりゃいいことだ!
 営業からイケメン認定されてるのもそりゃいいことだ!
 いよっし,がんばるぞおおおおおおおおおおおおお!!







50話にもどるー。    52話につづくー。




お囃子・感想などいただけましたら。

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お囃子!(ちょっぴり←→盛大)

ぱち ぱちぱち ぱちぱちぱち

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