#39





「はーふぉーおーあいあいおー」

「あい!あい!あーい!」

「はーふぉーおーあいあいおー」

「あい!あい!あ−い!」

 どういう起源があるのかもう全くわからない掛け声を掛けながら,走り込むグラウンドはもう15周目。

「はいもっと元気よくー!」

「はーふぉーおーあいあいおー!」

「あい!あい!あーい!!」

 キャンプ3日目,白い雲の湧く出す南の青空の下で,練習序盤の10km走を行うオレ達若手組。

「はーふぉーおーあいあいおー」

「あい!,あい!」

「はい,ごーる!」

「だわあああああああ!」

 中距離走には過ぎるペースのらんにんぐは,自主トレ不足の先輩にご同輩,新人クン達をゴールと同時にぐんにょりとさせる。

「…おーし,んじゃ,北ちゃん,引っ張ってくりゃれー」

「おけーい」

「…はあ,はあ,おまえら,タフだな。もう息戻ってんじゃん」

 呼吸を整えてストレッチに入るオレとシンちゃんを,ぐんにゃり転がったグラウンドの芝生から見上げる先輩のタナカさん。

「…自主トレであいつにつきあわされてましたからねー」

 シンちゃんが見やるソコには,先程までのペースを崩さずにエクステンションランニング中の相沢。投手の人たちは基本的にカラダほぐし主体の人から相沢のような延々と走り込みの人とかで,割と自主性に任せられたワンクール目となっているご様子。

「…まだ走るのかよ」

 相沢は,オレ達野手の使用するグラウンドの外周の内側の縁を,オレ達が走り出す前からずっと走り込んでいる。『暖かいとカラダが動く動く』と,寒さ苦手な相沢は走り込みとストレッチを延々と繰り返しつつ調整を続けている。

 アンダー25で下半身にけがとかのないオレ達野手組は,基本走り込みで徐々に体を作っていくという方向性の下,連日走り込み中心のメニューを行っていたりする。のだが,単純に走り込みの量だけを取ってみるなら相沢よか練習してる人はついぞこの中には居なかったりするのであるだった。

「ある意味バケモンですからね,あいつ」

 割と早めにランニングの疲労から回復して,走り続ける相沢をストレッチをしながら眺めつつそう漏らすのは,先輩捕手のアイカワさん。

「…去年も野手投手通して二軍じゃ一番走る,って言ってたしね。ノムラさんが」

「他の投げ方さんもう引っ込んでるのにな」

「あんな細っこいカラダなのにな」

「あ,なんだあの変なステップ」

「芸人のネタみたい」

「つうかあのペースで走ってて良くそんな余裕あるよな。すげえスタミナ」

「家系らしいですよ?」

「確か相沢の妹だか従妹だかって,○×県の長距離の県代表なんだっけか?」

あ,水瀬の話題だ。

「だよ,こないだ『とるぽす』で言ってた。『○×のプリンセス,女子駅伝で区間新記録!』とかでさ。んで『なんとこの水瀬選手,横浜の相沢投手の従妹にあたるんです!』とか言ってたしさ。また,すっげー可愛いんだわ,これが」

「お,マジ?紹介してもらっちゃおっかなー?」

「従妹ってだけのことはあって相沢に似てるんだわ」

おお,つきあい長いとわかんないけど,確かに似てないと言えなくもなく。

「…あー,なるほどー。そりゃすげえかもな」

「なおさらそれはご紹介を願わなきゃな」

「バッカ横浜からどんだけ離れてると思ってんだよ。相沢の地元」

「うっわ,それもそーか」

 そんな先輩方のネタ話もドコ吹く風,みんながあきれるほどの相沢の走り込みは,結局午前中一杯続いていたのでした。





「ふいー,つっかれたー」

 ストレッチメインのメニューを時間に合わせて切り上げて,手早く浴びたシャワー室から出てきてみれば,ソコには

「乙ー」

 座った眼しつつぐったりな相沢の姿。さすがに疲労困憊といった風情。

「午後からは?」

 表面に滴の浮いたポリタンクからスポドリを注ぎ入れる。冷たすぎる感じなので,ソレにポットから半分湯をつぎ足す。二つ作ったソレを両手に,相沢の横に腰を下ろす。

「おー,もう,ストレッチとかの方向かな?」

「さすがにもう走らねーの?」

「おー,後はじっくり時間掛けてストレッチとチューブだってさ。弱く長く」

 差し出したそれをさんきゅ,と受け取りながら身を起こす相沢。聞けば,一応はオーバーワークをトレーナーと相談しつつな練習メニューとのことであった。

「まーさすがに,ケガとかは勘弁だし」

「んだな」

「ところで,おめーは午後からは?」

 変なストレッチもどきをしながら,口だけで紙コップをくわえてずずー,とスポドリのお湯割りを器用にすすりつつ相沢。

「シンちゃんと素振りんぐして筋トレ少々にストレッチ」

 そう,もう今はお仕事の時間なのである。自主トレの期間みたくダルいからヤメなんてこた簡単にはできない。なんのかんのでトレーニングの理論について結構な知識のあるシンちゃんセンセの教室にひっついての修行はとーぶん続きそうなのである。

「お,とうとう筋トレに?」

「うんにゃ,ダッシュ力強化とかそーゆう」

「ふーん」

「うおーい,メシ行こうぜメシー!無くなっちまうぞー?」

「わかりましたー」

「ういーっす」

 先輩のご飯コールに立ち上がるオレ達。とりあえず体調悪くないのがありがたいところで,本日も食欲とか旺盛なのでした。だってココご飯美味しいし♪←沖縄の豚肉料理とか超好き











「さっすがに疲れたなー」

 宿舎であるホテルへ向かう道すがら。

「まーな。しかししばらくはカラダつくってかなきゃいけんとこやし」

 オレ達は南の島の冬の(初春の?)太陽を斜めに浴びつつ荷物を担いでとっとこ歩いていく。

「ふわー,小休止までは後三日か。きっついなー」

 大あくびをしつつ目に涙をちょい浮かべなのは,バットぶんぶん振り回しすぎてちょっと脇腹を痛めたシンちゃん先生。なんのかんのでスイング中幸せそうなのはやはり生粋の野球少年が故か。

「自主トレから数えて一ヶ月めとかだし,そろそろ疲れもたまるよな…って,おう?」

 と,そんな目前の宿舎のホテル横に止まるバスから降りる影に思わず目が釘付けなオレ達。

「…よいしょ,っと」

 大きなスポーツバッグと,品の良いトートをよっこらと持ち上げようとするサマードレスの裾から除く素敵なおみ足と,

「…貸して,佐祐理」

 流れるような動作でバスから降り立ち,自分の胴回りは楽勝なボストンを二つ軽々と持ち上げて,なお荷物を預かろうとする長い黒髪のデニムのぱわふるな黒影。

「…あん,良いよー,自分でもてるから,ね?舞」

 そうやってコチラの方を振り返る可愛らしいお顔は,

「おーい,佐祐理さーん!舞ー!」

「あ,祐一さん!…と北川さん!」

「…祐一」

 呼びかける相沢に気づいて,手をぶんぶんと振る倉田先輩と微笑んで佇む川澄先輩。

「どーしたんですかこんなトコロへ?」

「うわ速い!」

 先輩の横でなにげに強引に荷物を預かりつつ歯とか光らせてる相沢。
 振り向けばもう横にいない相沢は音速で先輩ずの横に瞬間移動。
 あ,いーのかテメエ,美坂とかにチクるぞ?

「抜け駆けはよくないな相ちゃん,すみません,荷物半分お預かりしますシンカイですどうか一つよろしく!」

 左を向いたらもう居ないシンちゃんも音速で先輩ずの横に。あ,シンちゃんも歯とか光らせてる。
 あーあーあーあー,ずるいずるいオレもオレもー!










「…そーか,とうとう明日ロック様合流なのか」

 ホテルのラウンジでくつろぎ加減なシンちゃん。でもどこか嬉しそうなその表情は,まさしく憧れのスター待ちの野球少年のソレっぽく。

「それで,倉田先輩達もうミーティングに行っちゃったのかー」

「んでもこのためだけにグラウンドガールズ勢揃いなんだね。すげーやスーパースターのプロモーション」

 そう,明日はいよいよ来日手続きの遅れていたメジャーの至宝,ロック様を始めとした新外国人の入団発表とキャンプインのセレモニーが行われるのである。このイベントのためだけに,わざわざ編成されたプロモチームの活動の一環が,今回の倉田先輩を始めとするグラウンドガールズのおねーさま方のご来島,なのであった。

「さすがテレビ局のやるコトってばちがうよねー」

「…んでも,楽しみなのは」

 そーなのです。横浜スカイレイダーズの誇るグラウンドガールズ,川澄先輩がぽろっと漏らしたところによると

『…私はスカイ君の中だから良いけど,佐祐理は水着だから大変…』

『ちょ,ちょっと舞!それは秘…』

『『『なんですと!?』』』

『あ,な,内緒,ですよ?…恥ずかしいんですから』

(…う,うおっ!)

(く,くぅ!!)

(…こ,これはっ!)

『…もう!舞のおしゃべりー…』

 もうこの時点で一体誰に内緒だというのか。そんなツッコミもどうでも良くなってしまうくらい顔を真っ赤にして俯いた可愛い倉田先輩に萌えまくるオレ達。
 なんとビーチでの記者会見の時に水着姿をお披露目とのことなのですな♪

「うう,おれ,もうロック様どころじゃないかもしんない」

「…残念ながら,舞は脱がんぞ?」

「え?そ,そうなの?!」

 話題がココになってしまえば,どちらかといえば川澄先輩好みのシンちゃんのスケベ心スイッチオン。ストレートな結論にちょっとがっかり気味。

「…絶対,あの人の水着ってばスゴいと思うんだけどなー」

 すらりとした立ち姿にメリハリの利いたラインをスポーティに包んだイカすデニムのシルエットをしまりのない笑いで思い出すエロバカなオレ達。

「もったいねーよな,あのプロポで着ぐるみの中は」

 無造作に空いたカッターの隙間のあの魅惑的な果実の谷間。

「…良いなあ,川澄先輩,良いなあ…」

 そんな負けず劣らずな先輩ズ。

「…ま,まあ,あしたはたのしみだねー」

「そだねー」

 そんな思い思いの妄想とか感想をまき散らしながら更けていく,南の島の夕べなのでした。





38話にもどるー。    40話につづくー。



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