「ぬぐううううううううううううう!」

「んおおおおおおおおおおおおおお!」

「あ,相ちゃん北ちゃんちょい待ちトバしすぎ!」

慣れてるとはいえ,寒いの苦手な1月も11日。
今日も今日とてオレ達は自主トレ!

「んでは乙!」

「切り上げ早!」

そして本日はちょっと野暮用。

「っつうか急げよこのアホ毛!」

黒デニムの上下に身を包んでベースボールキャップを目深にかぶった相沢が,ロッカーの出口でいらいらしてる。

「だからアホ毛言うなっつってんのに!もちょっと待ってー」

しょーがないじゃねーか,シャワー当てても寝癖落ち着いてくんないんだもん。

「どーせ変わんねーだろが」

うるせえよ。

「でも,失礼なカッコしてお伺いするわけには」

そーなのです。本日はちょっと気合いを入れざるを得ないわけで。具体的には身だしなみに!

「いーから急げ。遅れたら全額おまえ持ちにすんぞ?」

これまた非情なご宣告。

「えー?!」

「『えー?!』じゃねえよ,元々テメーが言い出したんじゃねーかこのスケベ野郎!」





#34





「結局遅れちまったじゃねーかよこのバカタレ」

「だってー」

そんなこんなでがたごとと電車に乗って横浜駅へ。

「何ソレ,メール?」

対面の相沢の胸の携帯が点滅と共にばいぶれーしょん。

「『ドコよ?`´#』って香里から」

「わ,もう着いてんの?」

「…言い訳は,テメーがしろよ?」

「うう,やだなあ…」

空港まで美坂姉妹と天野さんを迎えに行ったのが4日前のこと。
そして,本日は彼女たちの推薦受験の最終日。
先輩たるオレ達としてはがんばった後輩の前途を祝しつつ慰労も兼ねてお食事でもごちそうしよっかなどと,昨日の晩に保護者-美坂に連絡を入れていたのです。

『奢り?^^b』

相沢の携帯への顔文字付きのお返事メールに,給料日前の口座を気にしつつも,(生活費とおこづかいを除き,給料のほぼ全額を強制定期にされてる相沢につきあわされて,実は自由になるお金がほとんどない)

『いえーいオレの勝ち!』

『あ,きったねーぞ北川,今後出しだっただろーが!』

全額オレ持ち主張の相沢に,じゃんけん先勝待ったなしで勝利を収めたオレは,何とかワリカンに持ち込むことに成功したのです。

「ま,どうせあの子達戻ったら,また勉強なわけだしさ,今日くらいは羽伸ばしてもらわないとな?」

「まーな」

「なんだそのやらしい笑いは?」

「…栞と天野さん,どっち狙い?」

「うーん,栞ちゃんは美坂妹なだけに姉レベルへの脱皮の可能性が捨てがたいし天野さんは天野さんであの清楚で上品な感じがそそる,っておい!」

「ホトンド全部言っちゃってからのツッコミもどーかと思うがやっぱそーゆーコトかこのスケベ?!」

「…うう,ホントに下心無かったのにー…」

「ホントか?」

「おうよ!」

「オレの目を見て言えるか?」

「…」

「…」

売り言葉に買い言葉。メンチを切り倒すオレ達は暫し電車の中で固まって

「ねえねえ,あそこの二人さっきから見つめ合ってるけど」

「わ,あれってばその,薔薇な人?」

「うわ,人目もはばからず!」

「っつーかケンカじゃないのふつーに?」

「でもどこかでみたよーな」

後ろ手に聞こえる,ブレザーやらセーラーやらの制服の群れのささやきたちに,

「すまん悪かった相沢。正直ちょっと下心が」

折れるココロは音速気味。
…だって,ホントにフラグが立ってるのなら出来るだけ育てておきたいじゃんよ。

「うむ,ソレでこそ北川よ」

「よせやい照れるだろ?」

「言っとくが褒めコトバじゃないからな」

くそう,容赦ないなコイツ。

『横浜ー,次は横浜ー,降り口は…』

そんなこんなでもう到着。オレ達は人の渦に飲み込まれたり吐き出されたりしながら,美坂達の待つ出口へと向かうのでした。





「へー,栞ちゃんも天野さんも凄いんだねー?それじゃ推薦いらないじゃん」

「えへへー♪でも,確実に入れるなら,やはり枠を有効に使っておきたいなー?とか思いまして」

「幸い,ココの大学の推薦枠は美坂さんと私でいただけたものですから」

「お,今からガンバりゃオレでもだいじょぶかな?」

「アンタじゃ毎日がんばって三浪してどうかよね?」

「酷?!」

「アンタの頭の中思い出したことあんの?一昨年の夏頃の?」

「すみません」

そんなわけで,オレ達は前日予約までなら何とか席が取れるような,割と評判なイタリアンのお店におじゃましつつお話などをしているところで,

「あれ,でも,相沢君って結構頭良かったんじゃ?」

「実はそーなんですよ舞佳さん」

「何言ってんのよ,半年で偏差値20アップ必要だったくせに」

久方ぶりのご対面は舞佳ちゃん。
デザートのビターの効いたティラミスに舌鼓を打ちながら,みんなで他愛もないハナシに花を咲かせる。

「で,合格したらこっちの方へ?」

「はい,第一志望なんです!」

「そうですね。やはり当初からの希望でしたので」

しかし話題の中心は,やはり本日の主役栞ちゃんと天野さん。

「…そーか,二人とも来るのかー」

「にぎやかで,良いねえ」

正直な感想だったりする。やっぱほら,綺麗所が身近に!ってばすっごい嬉しかったりするし。

「そーでもないのよ?」

「どーゆー意味ですかお姉ちゃん?」

「タダでさえ手間がかかるのが居るのに,この上栞まで増えるんだもん」

「失礼な!」

「失礼ですね!」

綺麗なユニゾンの相沢に栞ちゃん。
尻に敷かれまくりなの自覚してるのね相沢。
…あ,ちょっと涙が。

「…それに,別にお姉ちゃんが祐一さんのお世話すること無いじゃないですか」

「…なんですって?」

「祐一さんには,本来のハニーであるところの私が春からはきっちりとお世話申し上げますもの!今までの虫除けご苦労様でした。栞はきっと幸せになりますからぁひゃあ!」

「わー,さすが大口叩くようになっただけあって良く伸びるわー♪」

挑発する(?)栞ちゃんのほっぺをおもむろに握るとそのままの勢いで掴み上げぐにんぐにんと引っ張る美坂。

「ほ,ほうひょふはんらいれふー!」

「お,おいおい美坂,さすがに公衆の面前でソレは」

「甘やかされてたからしつけは今きっちりしとかないとねー?この精神年齢七歳児ー!」

ぶにんぶにんと引っ張り回される栞ちゃん。うわ,痛そうー。

「ひらいひらいひらいひらいー!!」

「…か,香里ちゃん?」

思わず腰を上げて止めようとする舞佳ちゃんを目で制する相沢。

「…アレも一種のコミュニケーションなんだ。まあ,ちょいと大目にみといてもらえると嬉しい」

さすが美坂3段の相沢。余裕があるというかあきらめ入ってるというか。
ま,人目の少ない個室ってコトもあるけどな。

「…は,ははは」

「…ふふ」

乾いた笑いの舞佳ちゃんに苦笑する天野さん。
なんというか,この姉妹の仲の悪さというか仲の良さというかは,なかなかには理解できなかったり。





「でも相沢,確か美坂の部屋ってワンルームだったよな?」

じゃれあう(割と本気で)美坂姉妹,いろいろ情報交換な舞佳ちゃんと天野さんを横目に,気になるところを相沢にご質問。

「うん」

「栞ちゃん,どうすんの?やっぱ寮とか?」

「あ,それなんだけどな?」

3杯目のエスプレッソを頼みながら相沢が『ちょい耳貸せ?』のジェスチュア。

「今,オレの実家改装中でさ」

「あ,東京の?」

「つっても電車で4駅くらいなんだわ。香里のガッコから」

「近いな」

「今増築してるんだわ。年俸上がった分で」

「マジか」

「んで,ハウスキーパーとしてバイトしてもらうことを条件に,香里に住んでもらうことにしたんだな」

そ,そんな!

「ど,同棲でもはじめんの?」

「いんや,オレは当分寮のまんま」

「へ?」

「忙しい香里に家政婦まがいなことをさせる気は今んトコ無いしね。それに,アッチは球場に行くには乗り継ぎ多くてそんなに便は良くないし」

そーなのか。

「あと,実家はちょい古いけども,部屋数だけは多いのさ」

「ほう」

「なんで,改装を機会に女子用の下宿として」

「このスケベ」

「な?!」

「だってもよ,ソレってばハーレムを合法化はう?!」

バカン,とはたかれる。いってーな,結構キタぞ今の。

「えーい,何でもすぐピンク色方向に持っていくなバカタレ」

「…うう,痛い」

「結構この辺って家賃高いだろ?だから,ちょこっとでも役に立てたらと思ってさ」

「ホントかー?」

「なんだその目は」

「やっぱハーレムおう!」

「ダメだ貴様」

痛みに悶絶しながらも,ちょっとだけ相沢の実家がうらやましかったり。
だって美坂姉妹がついてるんだよ?

「あと,内々にお話をしたら天野さんも舞も佐祐理さんも結構乗り気でさ」

ああ,いいなあ!

「オレをボディーガードで雇うってのは?」

「却下だバカモノ」

「即答?!」

そんなこんなで二極化したお食事タイム。
今回,女性陣をお誘いした割にはあまりフラグ進展な感じにはならなかったのですが,コイツは春先が楽しみになってきたり。

「安心しろ基本的に貴様の春は遠そうだし」

「酷?!」

そんな冬の一日なのでした。





33話にもどるー。    35話につづくー。



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