「……うー……」

酒焼けの目に映るのは,懐かしくも見慣れた天井。

「……頭痛い」

ココ,出身地である北の街に帰ってきたのは昨日の最終便。荷物を置く間も置かず,斉藤やら七瀬やらに連れ回されて午前様,である。
水瀬もいたんだけども日が変わる前に爆沈して同級の女のコとご帰宅だったか。ま,今日の午後の便で相沢も帰ってくるから,おそらくまた飲み方になるんだろーけど。

「……うー」

それにしても飲み過ぎた。なんつーか,自分一人が主役の飲み会ってのは生まれて初めてであまりにも気分が良かったのでついつい度が過ぎちゃったんだよなー。

「うわ,酒くさー」

くんくんと服の匂いをかいでみる。ビールやらウイスキーやら焼酎の入り交じる,独特の匂い。帰宅後そのまま倒れ込んで記憶がないのですが,脱ぎっぱなしのジーンズとかには結構酒を吸わせちゃってら。

「しょーがない,ちょっくらひとっ風呂浴び…」

立ち上がって伸びをする。

「う」

変なところまで伸びしてる。つっぱらかって痛い痛い。
…あたたたた,コイツもいらん時に元気だなあ。

「おにーちゃんっ!!そろそろ起きないと昼…」

がたん,という音と共に現れたのは我が妹,潤菜。オレと同じ色素の薄い茶髪気味のセミロングをツインに分けた,お袋似の整った顔はちょっとキツ目の美人系。トレーナーにお揃いのパンツの中のプロポーションは春先に比べると大分育ってるのが分かるが,基本的にはまだあどけなさの残る中学3年生である。

「あ」

にしてもノックくらい…

「いやあああああああああああああああ変態っ!!」

へ,変態ってあんた…って痛て!痛いっ!

「おわああああああああっ!違うっ!コレは違うっ」

パンツ一丁でベッド横。マイシスターとこんにちわ,アレもトランクスの内側でこんにちわ,まー良いじゃん目立たないから,ってしまったコレは白の生地薄いヤツだったああああああああああああああああああああっ!

「いやああああああああっ!」

「こ,コレはオトコの朝のって痛たたたたた痛い痛い痛いーっ!!」

その辺の道具とか荷物とかをものすごい勢いで投げつけてどたどたと駆け下りていくマイシスター。
…うーん,しまったヤツもお年頃であったか。でもノックくらい希望ー。

「…あたたたたたたた」

土産の包みの角でクリーンヒットした側頭部を押さえながら,着替えを引っ張り出してみる。

「あーそだな,もう昼だー」

本日は,夕方には相沢宅にお呼ばれなのだ。なんぼなんでもこのまま行くって訳にはいかないので
少なくとも酒だけは抜いとかなきゃなー。





#27





「…あら,起きたの?潤」

「…おはよー,ってもう昼だね。かーさん」

のたのたと自宅のリビングに降りてきてみれば,ソコにはいつもより2割増しくらいのスピードでてきぱきと昼食の準備中の母上の姿。眼鏡なぞかけてスーツ姿だと,いかにもキツ目の女教師って感じの人なのだが,実際はものすごく穏やかでおっとりとした物腰の方である。

「もうすぐ,ごはんできるわよ?飲んだ次だから軽めにで良いわよね?」

「…助かるー」

「ホント,父さんに似てきたわね。」

そういってくす,っと笑うと再び厨房へと戻る母上。なんというか,家に帰ってきて良かったなあ,とちょっと思う。

「…家の中でだらしないトコロまで似なくたって良いのにー」

そーやって視線を合わせずに母親のお手伝いなマイシスター。うう,ご機嫌直ってないご様子。

「…ノックぐらいしろよー」

「…物音しないから寝てるって思ったのよ。この家の半分以上は年頃の女のコなんだからその辺もうちょっと気を遣ってよねー?」

「…へいへい」

何となく釈然としないがコイツにはあまり逆らわないことにしてる。性格は全然母親の方に似ないって言うかオレには結構厳しいので。

「他の妹君達は?」

「まだ学校ー」

「ああ,そか。お前3年だったね。そういやお前高校決まったんだよな?」

「うん,高校はお兄ちゃんのいたトコに推薦で決まっちゃったんで今日は休みー」

そうです。実は潤菜の下にも双子とさらにもう一人妹が。しかも中1と小6というある意味イチバンうるさい盛り。そんな訳なので,オレが家を出るとあっさりマイルームは妹ズに浸食され滅亡,二階の居間が帰省中の部屋となってるが故の先ほどの悲劇でもあるのでした。

まあ,今日は土曜日なのでもうすぐかしましい我が家へと本格的に戻るんでしょうけど。

「さ,おにーちゃんも手伝って!」

さっ,とお皿を差し出してリビングに並べるように促す潤菜さん。

「へいへい」

「ん,よろしい♪」

そー言って,とたとたと母上のいる厨房に入っていく妹君。先ほどのトゲは言葉にも表情にもなく。…なんか機嫌直ってるわ。良きかな良きかな。





「母さーん!鍋敷きどこー?」

それから10分少々,コンソメスープの穏やかな香りがほんわりと室内に漂っている。潤菜が鍋だけ先に運んできてしまい所在なげだ。

「ええと,出してなかったかしら?」

パンをトースターであたためながら母さん。なんだかんなで手がふさがってるっぽく。

「いいよ,オレ取ってくるー」

と,オレが立ち上がったそのときであった。

「たっだいまー!ご飯なにー?」

「ただいまー!」

「ただいまー」

あ,シスターズご帰還のご様子。ひょこっと顔を出して軽く手を振ってみる。

「あ!おにーちゃんだっ!」

「あ,やっと起きたんだー?!」

「わーい」

どたどたどたっとオレの方へと駆けてくるシスターズ。

「よ!潤果に潤実に潤乃ってどわっっっ!」

続いて感じる腹部と腰部と脚部への連続衝撃。
なんつーか,成長分以上に衝撃が増加した感じで実のところかなり痛い。

「お,お前達,ジェットストリームアタックは勘弁してくれって言ってるだろーが…」

こいつらが小学校低学年の頃はよくくらったっけか。しかしこの年になって再度やられることになろうとは。

「へへー」

「えへへー」

「えへへへー」

きゃっきゃと笑いながらシスターズ。ちょっとだけ大人っぽくなってたり可愛くなってたりでやっぱり良いもんだなあ,とは思うが。

「おー!」

「みー!」

「やー!」

『ちょうだい!』と最後はハモってシスターズ。ああ,やっぱり早々は変わんないかー。
ゲンキンなトコロとか主に。でもまあいいや,許したる。

「ああ,あとでな」

「わーい!」

イチバン下の潤乃の頭を撫でながら。なんやかやで喜んでいただけてるあたり嬉しいモノではあるんだよなあ。

「さ,ご飯にするわよー?!手洗ってらっしゃい?!」

「はーい」

「はーい」

「はーい」

とたんにオレの体からパージされるように離れて洗面所へと向かう妹達。何というか,シンクロ度がアップしてるせいか一連の芸を見てるような錯覚を覚える。個々はあまり似てはいないんだけどね。3人揃うとああなるのもそんなに変わってないや。

「父さんは?」

「単身赴任中でしょ?話さなかったっけ?」

「あ」

「ふふ。さあ,あなたもご飯よ?早くしなさいな」

「はーい」

そか。するってーとホントに女の園だわなー。
おっといけない,ごはんごはんー♪










「あー,何かいきなり疲れたなー」

シスターズのおみやげよこせ攻撃にまあまあ好評を得るような成果を示しつつ(事前に希望を聞いていたので当たり前と言えば当たり前),親戚への挨拶回りを終えたオレは,そのまま相沢の家(と,言うかかつての下宿先である水瀬の家。ご両親が日本にいないので里帰り先はあちらとのこと)へと向かうコトにしていた。

「そーやっていきなり顔に出さないの!あんまり人前でだらしないの,良くないよ?」

「いーじゃん他人はいないんだし。…って,何故にお前までついてくるの?もう用事は済んだでしょが」

と,ダルダルなオレの横には何故かオプション気味に潤菜さん。母君からの言付けもあったので途中までのご同行には了承した俺だったのですが。

「…だってお兄ちゃん私のおみやげ忘れたじゃないの!」

口調は不機嫌そうな潤菜さんなれど,かすかに頬が赤いのは照れ隠しのせいもあるのかもしれない。…オレの水瀬家への訪問を口実に,コイツのお目当ては相沢のサインなのである。悔しいが去年の入団発表以来,相沢のもてまくりは尋常ではなかったのです。それ以降の練習は中高大学問わす見学の女のコ達,後が絶えなかったし。

今期のヤツの活躍もあいまって,彼女のおみやげは「絶対サイン!相沢さんのサイン!」とのことであったのでした。いつでももらえるって思ってたので,つい忘れちゃっててえらい怒られちゃったのだが。

「…それで妙に気合いの入ったカッコしてんのか?」

もう結構寒さもキツくなって来てるというのに生足膝スカ(しかも上はジャケットにハーフコート。やたら出がけに待たされてのセレクトは気合いの証拠っぽい)とは,兄としてははなはだ不本意なれど相沢狙い見え見えな感じ。憧れの先輩ってトコロにとどまってんのかどーだかは知らないけど,やはり可愛く見てほしいってのはオンナゴコロだろうか。

「なななななななな何を言うかなお兄ちゃん!コレはよそ様のトコロに行くんだからちゃんとしたカッコしないと…」

おもしろい感じに焦りまくるマイシスター。うーむ,初々しい感じは大変にナイスなのだが相手が相沢ってのが以下略。

「わかったわかった。まー頑張れ」

ワカリヤスイ妹を笑いながら夕暮れの早い北の街の道端を相沢の家へと歩むオレ達。

「あー!何お兄ちゃん?そのやらしい笑い方はー!」

じゃれるようにひじでどついてくるわが妹。陽光に染まって金色に輝く,ツーテールにした髪の毛が仕草にあわせて可愛らしく揺れる。

「だから,頑張れ」

「だから何よー!」

この状況は笑うしかない,ってのもあるけれども。そのつもりなら,敵は,巨大だ。…角の生えた美坂の顔を想像してみてやはり苦笑するしかなかったりする。

ある意味不憫な妹の,拗ねるような横顔を横目に,見上げる空には,もう夕暮れの星が瞬いていた。





水瀬家は,もうすぐソコ。
さてさて,どーなりますことやら。






26話にもどるー。    28話につづくー。



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