「うわ多!人多過ぎ!」
ゲートから出ざまに一服をつけようとする相沢は,あまりの人の数の多さに思わずタバコのパッケージをジャケットに戻しつつ,そうため息をつく。
「さすが一日の利用客数が世界一な駅だけのコトはあるわね」
日本野鳥の会あたりにカウントしてもらおうものなら確実に5桁以上はカタいであろうその光景に,半ばあきれつつもちょっとトリビアな美坂。
「ココを待ち合わせ場所にしなくて良かったよね」
暖かい駅の中から放り出されたもうかなり寒い冬の夜空に,両手に息をはふー,と吹きかけながら舞佳ちゃん。
「そだね」
心底そー思う。こんなトコロじゃ携帯フル活用しないとちゃんと会えるかどうか自信がない。
新南口からはき出され,東口方面のショップに向かおうとする俺たちは,12月の慌ただしい駅前の喧噪にしばし圧倒される。ただでさえ人の多いところではあるが,何というか数割増しの人の渦,といった印象である。
「さ,行こうぜ?もうあんまり時間無いよ」
時計を見ると,もうすぐ午後6時。目的のお店そのいちは午後8時だったかその辺が閉店な感じだったかと。
「おう」
ちょっとした覚悟を決めたオレ達は,人が川のように流れる階段に飛び込むのでした。
#26
「長!時間長!」
「まーまー,女のコの買い物ってばそんなもんでしょ?」
ココは3軒目のショップの階段横のドリンクコーナー。自分らの買い物を超高速で済ませたオレ達は,ガールズご推薦のカジュアルショップに荷物持ちとして連れ込まれているのでした。
しかしながら時間的には入店からかれこれもう一時間は経過している。
「ブランド系は結構音速だったのになー」
基本的には経済状態があまり潤沢とは言えないガールズ,そちらの方は『クリスマスは期待してるわよー♪』と,にっこり微笑まれちゃったオレ達だったのですが。
「デイユースなお洋服がただでさえ安いんだねココ」
ちら,と見た値札とかでは,室内で着るようなラフなTシャツとかはバカみたいに安い。モノによっては200円(税込)しなかったりするし。舞佳ちゃんに聞いてみたところではセンスも縫製も布の質もトータルで考えればコレは結構お買い得な感じ,とのことでこの近辺に出てきたらついココに寄っちゃうとのこと。
今日は,何でも冬物が最大7割引なのだとかで仕事帰りのOLのお姉さんから学生風,おばちゃんetcに至るまで結構なにぎわいを見せる店内なのでした。
「…で,今美坂に舞佳ちゃんは?」
相沢に全荷物を押しつけでダッシュで姿を消したガールズ。もう30分ほどお姿を見かけない。
「…インナー買うからあっち行けって言われて久しい」
唯一の喫煙可能な場所でもう何本目だかのタバコに火をつけつつ,多少げっそり目の相沢。
「うわお」
さすがに下着選びにつきあわせたりするわけにも行かないか。っていうかさりげなくスケベなオレ達にサイズチェックされたかないわなあ。お二人とも。
「…もっとも『一緒に選んでくれ』とか言われても困ると言えば困るが」
「えー?二人きりの時は『こういうの,どう?』とか黒い下着を胸前にかざしてみたりとかしていちゃついてみたりとかしてるんじゃねーのー?」
「ばっかやろ。それじゃタダのバカエロカップルじゃん,ってか何故に黒?」
「いや何となく美坂様のイメージ的に」
「ソレは否定しないって…いて!」
「あだ!」
ばほんばほん,と後頭部に買い物袋をたたきつけられながらオレ達。
「…想像で人の駄目な行動とか妄想しないのこのスケベ共!」
振り返るとソコには,両手に結構なボリュームのビニールバッグを腰に回して,おかんむり気味な美坂の姿。(と,やはり結構な大荷物を胸前に抱えた舞佳ちゃん)
「…げげ,いつからソコに?」
「…一緒に選んでくれ,のアタリからよ!さ,行くわよ?」
両手の荷物をハイ,と相沢に突き出しながら美坂。
「えー?!」
「『えー』じゃない!さっさと持つ!」
「はーい」
結局すべての荷物を持たされながら,美坂の後に続く相沢。ちょっと苦笑しつつ,横の舞佳ちゃんと目を合わせて,ぷっ,とまた笑いあう。
「んじゃ,はい♪」
「あ!」
…そんな舞佳ちゃんから,オレは荷物をちょっと強引にお預かり。
「…そんな!いいよ別にー!」
わたわたと焦り気味に自分で持とうとする舞佳ちゃんをウインクで制して,ちょっと照れくさいオレは相沢の後に続く。
「まーまー,こういうのは慣れてるから」
「あーでも,ホントにー」
とたとたと小走りにオレの横に並びながら,すまなさそうに舞佳ちゃん。別にいいんだってば。このくらいはさせてよ。
「…ありがと」
と,小さく舞佳ちゃん。身長差の関係で表情はわかりづらいけれど,声のトーンはちょっと照れてるご様子。うーん,可愛い。
ちょっとは好感度あがるのかしらとか,スケベな考えを視線をそらせ,キャップの奥に隠しつつ。
…二人のお姫様と二人の従者は,そうやってショップを後にしたのでした。
「………」
「…すー」
「………」
窓から視界を遮るモノはいっさい見えない,光の渦のよな夜景を見下ろす,ココは,西新宿の駅からちょこっと離れた高層ホテルの,とある一室。オレの寮の部屋の倍以上は確実にある,だだっ広い部屋に,キングサイズのベッド。
オレは窓際のソファに腰を下ろしつつ,ポケットをまさぐってマルボロのパッケージを取り出し,火をつける。
「…」
ベッドサイドには,乱暴に脱いたラバーソールとジャケットにウエア。
ベッドの中には
「すー」
すやすやと眠る相沢の姿って何でこうなるんだああああああああああっ!
『もうだいぶ飲んじゃったし泊まっていかね?』
『…えっちー』
『…何をいまさら。ってそっち目的じゃなくて!…オレはもう疲れたし何より眠い。つうコトでどこか適当なところで眠ってから帰りてえ』
『えー,だって舞佳もいるのにー?!』
『その辺は紳士北川に任せるってのはどげんか?』
(あ!こらバカ相沢!そんな直線的な!もちょっと遠回し的かつナイス誘導を希望!)
『あ,わたしその!おとこのひとと同じ部屋でお泊まりなんて!そんな!』
(ええ!送ってくとかそんなんじゃなくていきなりそっちなの?!ってか,そーゆーコトも少しは考えて?!あとやっぱオレはイヤなの?!ちょっとがっかりー)←落ち着け
『えーでも,『北川のプレイの趣味はほとんど性犯罪者レベルって』いってたの祐一でしょ?あたしそんな人にお友達任せる勇気ないなー』
『ええ?!そーだったの北川くん?!』
『ひでぇ?!』
『とゆコトでお部屋は二つ確保』
『早!?』
『つーかマジ眠いので後は頼む。ぐう』
『コラ寝るなー!!ココはまだ路上ー!!あとホテルはどこなのー?!』
そんなやりとりがあったのがかれこれ小一時間前。
オレ達はお買い物終了後,駅ビルの中のお店で軽く食事だけすませるつもりが,相沢の策謀(?)によりみんなして体にアルコールを入れて,何とか終電微妙な時間帯までの引き延ばしに成功した。しかし当のご本人がいい感じで飲み過ぎてしまいあえなくジ・エンド。
…さすがに何のフラグも立ってない状態の女のコとの同衾を主張するほどの度胸も根性も持ち合わせていないオレは,無難に相沢を引き取ってお部屋の中に。(美坂の手前もあるしねえ。やっぱ)
「…コンジョー無し」
「うるせ」
肩を貸した相沢が,そうつぶやく。まー,すべてをお膳立ててもらうってのもさすがに格好悪いかと思ってはいたのではあるが。
ところで,最大の問題点があったりする。
「…すー」
ココ,ダブルベッドなんですけど。
「…すー」
あと,相沢全裸なんですけど!
「…襲っちゃやーよ」
誰がだ!誰が!あと起きてんのかてめえ!それと人の思考読むな!
「…ま,酒抜けて体冷めたらちゃんと服着るからー…」
「つうかせめてパンツぐらい履けよー」
そう言って毛布のみをかぶりなおしてご就寝の相沢。うう,同衾してイヤなモノを押しつけられたりしたく無いなあ…。コレが美坂だったり舞佳ちゃんだったりなら喜んでるルパンダイブモノなのになぁ…
「オレにそっちの趣味はないので大丈夫ー…むしろおまえの方が心ぐえ」
心外な言いように腹が立ったので,相沢の着てた衣類を,顔を狙ってとりあえず投げつけておく。
「…きゅう」
「や,やっと静かになったか…」
ソファにどっかと腰を下ろし,イヤな疲労に体を蝕まれたオレはタバコを灰皿に押しつけ,火が消えたのを確認すると,毛布を体に巻き付けて横になるのでした。
「…くすん」
…あ,涙が。
窓の外の夜景は相変わらず美しく,横にいるのが美女であれば申し分のないロマンチックぶり。あーん,切ないー!
結局,寝付いたのは夜中も夜中な感じの時間。
都会の夜ってば静かだなあ,とか思ってみたりしつつ,オレの意識は遠くなっていったのでした。
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