金属バットでもないのに金属音がのんびりとした秋空に響き渡る。
ほぼ同時に満員のスタンドからわき起こる大歓声。
しかし,線審の判定はファウル。

きわどいポール際への桜井クンの打球はわずかに左へとそれていった。

「あっちゃー,惜しいー」

一塁ベース近くの相楽クンはそう言って残念がる。
微妙な風が影響したのかは知らないが,桜井クンは気を取り直してもう一度打席に入った。

桜井クンが見るからに長打狙いなので,極力リードは控えめにして,タッチアップに備えるオレとシンちゃん。

ピッチャーはわずかに走者を気にする挙動を見せたが,そのまま投球体勢に入る。

第二球!

「ストライク!」

どろんとした感じのカーブが外角外よりに落ちていく。
取る人ならボールも取ってくれそうなコースだったが判定はストライクだ。

ちょっとヘルメットを気にしつつ桜井クン。

キャッチャーがマウンドへと返球して,2−0。
オレがマスクを被っているなら,一球ラッキーしたことでもあるのでもう一度外角に一球外したいところではあるが。

三球目だ。オレ達はちょっとリードを取ってバッティングを見守る。





#22





「おわっ!」

オレもシンちゃんも急制動をかけ,帰塁する。

「あー,ちっきしょー…」

そういって悔しがるのは相楽クン。

「抜けてくんなかったのはしょうがねーな。アンラッキーだ」

ベンチへと戻りながらそう言って相楽クンに声をかけるオレ。実際確かにアンラッキーだったと思う。





内角のストレートを強引に振りに行った桜井クンの打球は鋭くファースト頭上を襲い,一塁手のグラブを弾いたのだがフォローに入る途中のセカンドのグラブの中にすっぽりと。

「あー,くっそー!」

がっくりとした桜井クンの嘆きと同時に帰塁出来なかった相楽クンはゲッツーを献上。まあしかしてタイミング的に間に合わないところではあったので致し方ないところではある。

オレ達はベンチへ引っ込んで,ある者は守備へ,そしてまたある者はシートに戻って応援へと。





「…何で飛び出したんだよ?」

「高さ的に抜けると思ったんだよ…」

「…仕方ねえ,今日の飲み代でカンベンしてやる」

「んなコトはヒット一本とか打ってから言えよー…」

「ちっ!この吝嗇家め」

「うっせえなコラ。少なくともお前よか気前は良いぞ?!」

「その気前でオレにうまい酒を飲ませて,今日のライナーをヒットに変えるよなオレの身体能力の向上に役立てようとか何故考えん?」

「っつーか来年のオープン戦まで試合も何もないのにそんなもん向上させても当面の役にはたたんではないかこのバカタレ!あ,テメエさてはいらんトコロ強化して,今日の夜えっちなところに行こうとか考えてんな?このスケベ!」

「そそそそそそそそんなんじゃありません!ナニ言ってるかなこの赤裸々スケベ!」

「ふふん♪むっつりに比べれば数万倍素敵だと思わんかね?」

「んなこと思う訳ないでしょーがこの歩く生殖器!」

「んだとコラ?!」

「やんのかテメエ?!」

「コラソコうるさいぞー!?」

「すいませーん」

「すいませーん」






ベンチの後ろでの桜井クンと相楽クンのやりとりは,コーチの一括で終了のご様子。
…なんてえか,こう言うのも仲が良いって言うんだろうかね?

「…誰かさん達そっくりだわな」

とは背中でソレを聞いて手くすくす笑いのシンちゃんの弁。

「えー?!」

何故お前がそこでソレを言うか相沢。失礼な!

「まー,賑やかなのは良いことだ♪」

しかしながらまだまだ試合中。そう言ってゲーム進行に興味をを戻すオレ達なのでした。





「ゲームセット!」

主審のコールは終了の合図。結局点を奪えなかったオレ達イースタンは,試合に負けてしまいました。この後は,慰労会という名前の打ち上げの後,どーしようか三人で相談するべく荷物をまとめて外野方向の出口へと

「北川くーん!」

舌っ足らず気味な,でも可愛らしい,何となく聞き覚えのある声に,くい,とフェンスの向こうへと視線を移してみると,ソコには

「久しぶりー♪」

青みがかった長い髪を後ろでまとめた,愛くるしい大きな瞳があいかわらずも印象的な,それでいてカワイイ系のお顔とアンバランスな,隠しきれないグラマーなラインをスポーツウェアに包んだ

「お,水瀬!水瀬じゃん!!どしたのこんなところでー?!」

我が相棒相沢の従妹にして美坂の高校来の親友,水瀬名雪嬢がいらっしゃるのでした。

「インカレの合宿がすぐ横のグラウンドだったのー。……祐一は?」

「あ,もーちょっとで出てくると思うよ?荷物まとめてるトコだから」

ちょっとオトナっぽくなったよな印象はうっすらと引かれたリップのせいか?そう思いながらもオレは親指で相沢を示す。ベンチの奥の相沢を認めた水瀬はぱっと表情を明るく変えて。

「わ。ホントに祐一だよ〜。ちゃんと野球選手だよ〜」

でもやっぱ水瀬だわ。相変わらずおっとりしたというかのんびりしたというか,そんなトコは全然変わってない。

「あ,んじゃまた,外でね?」

「うん♪」

そう言ってオレはグラウンドの外へと向かう。





「祐一ー!ゆ・う・い・ちー!?」

「お?おー!!どしたんだ名雪こんなトコにー?!」

「どしたんだじゃないよー?!携帯のメールに今日応援に行くよって入れてたのにー?!」

「あ」

「あ,じゃないよー?返事無いから心配したんだよー?!」

「悪い悪い!あまり携帯って使わないからさー」

「またー。そりゃ香里怒るわけだよー」

後ろからは楽しそうな水瀬と相沢のやりとり。ま,今晩の予定は何となく決まったっぽいなー。





日も落ちないうちから始まった,打ち上げという名の飲み会が一応のシメを迎えたのはもう完全に星も瞬く頃。球場からほど近い会場のホテルを出たオレと相沢は,久しぶりに地元の友達と飲みに出るというシンちゃんと別れて,夕涼みと言うには少々冷えのきついホテル横の路地で人待ちを。

「祐一ー!北川君ー!」

「お,コッチだ名雪ー!」

ぶんぶんと腕を振るシルエットは,髪を下ろしてジャケットにスカート姿のいつもの水瀬の姿。オレ達の姿を看板の明かりの下に認めると,とたとたと駆け寄ってくる。

「お久しぶりー!」

「って水瀬,何ヶ月かしか経ってないよ?」

「あは。そーいえばそ−だねー」

そう言って笑い合うオレ達。確かに,水瀬とは高校卒業以来だなあ。

「あ,もう,ゴハンとか食べちゃった?」

何気なく相沢の袖をすっ,と取りながら水瀬。

「悪りぃ!腹減ってたんで会場で食っちまった」

「残念ー」

バツ悪げにアタマの後ろをボリボリと掻きながら相沢。ちょっと口をとがらせながら水瀬。こうやってみると久方ぶりにあった恋人同士のようにも見えないことも無

「あ,そーいえば」

両手で軽く頬を押さえる仕草の水瀬。

「もうすぐ七瀬さんも来るよ?ちょっと前に携帯で連絡あったー」

にっこりと微笑みながら楽しげに水瀬。七瀬さんと言うのはオレ達の高校の時のクラスメイトで,確か水瀬と同じ地元の大学に進んでいる。

「祐一と北川君来てるよって言ったら『行く行くー♪』って!」

「お,そいつは嬉しいねえ♪」

「わたしと別メニューだったから試合見には来れなかったんだけど…」

ちょっと残念そうな水瀬。七瀬さんは部活で同じ陸上の選手でもあり,最近はよく一緒に遊びに行ったりするとのことだそうな。

「残念…」

んでも,カッコワルイトコ見られずに済んだのは幸いだったかな?後ろ向きだけど。

「祐一,今日投げなかったの?」

「えー?オレ様のナイスピッチ見てなかったのー?」

「だってだって,練習終わるの遅かったんだもん!」

そういって拗ねる水瀬。うう,そう言うトコもかわいいなあ。

「お,ご到着かな?」

後ろの方に止まる一台のタクシー。暗くてよく見えないけど,窓越しのシルエットは女のコのご様子である。

「おし,それじゃそのまんま飲みに出ようか?結構いいトコ教えて貰ったし」

その提案にうなずくオレ達。

「んじゃ,あいつを降ろさずそのままゴーだ!」

「あ,ゴーインなんだ祐一ー」

「まー良いじゃん,ココなんも無いし」

「それも,そだな」

すかさずタクシーのドアの前へ向かうオレ達。久方ぶりの七瀬さんはシックなジャケットにワンピース,耳元のアクセもぷりちーな感じでグッドである。

「あ,相沢君に北川君,久しぶり!って,わあ!?」

降りようとするところをタクシーの中に押し戻されてビックリの七瀬さん。

「久しぶり!そしてさあ行くぞ!」

「え,ええ?!私,来たばっかりなのにー!」

「まーまー」

「まーまー♪」

タクシーの運ちゃん(七瀬さんも)を驚かせつつも,向かう先は駅前の飲屋街。

さー,やはりむさい飲みより女のコ!旧交をあたためつつ出来ればいい展開にならんことを祈って!







21話にもどるー。    23話につづくー。





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