球場からほど近いちょっと広めの居酒屋さん。ココは,リーズナブルなお値段ながら焼き物がおいしいと評判のシンちゃんオススメの店である。
オレと相沢と倉田川澄両先輩が通されたのは,奥の方に仕切られた個室であった(給料日に感謝。超感謝!)。
「お,来た来た♪」
すかさずサワーグラス一つと生ジョッキ3つがテーブルに並ぶ。
「それでは,美しい先輩方とオレとの再会を祝して…」
がばっとジョッキを掲げながら相沢。
「ええっ?!オレは?!」
「お前はどうでもいい」
「ヒデぇ?!」
「あははっ♪」
「…ふふ」
「…ひ,否定してくださらないんですねお二人とも…」
いかん,ちょっと目から涙が
「男が細かいこと言うんじゃねえ!んじゃいくぞ!」
にかっと笑う相沢。ええい,もういいわい!←ヤケクソ
「かんぱーい!」
「かんぱーい!」
そーやって始まった飲みは主に相沢にオレが弄られ倒し,拗ねるオレをさらに相沢が弄る展開で進行。悔しいかなペースメーカーな相沢のせいで各種いらんコトをバラされたりバラしたりでオレ達の行状はほぼ彼女たちにガラス張り。
「…んで転校してすぐコーゆーヤツに引っかかったのがオレの運の尽きでですねー」
「あははっ!」
「…」
「ひ,ひでえ!ソレはコッチのセリフー!」
抗議の声すら笑いのタネである。くすん。
ぶるるるるるるるる
あ。相沢携帯に着信。取ろうとしない相沢に代わって確認してみるとそこには「かおり」の文字が。
ふふん。隙を見せたキミが悪いのだよ。ささやかな我が報復をくらいやがれ。
#20
「あははーっ!祐一さんも潤さんも飲みが足りませんよー!そんなコトじゃ酔っぱらった女のコのお持ち帰りなんか100年経っても出来ませんよー!」
飲み始めて二時間ほど経過。もう二桁に届いてからは馬鹿馬鹿しくて数えられなくなったサワーのジョッキをなおも高々と掲げながら倉田先輩がころころと笑う。もうすっかり馴染んじゃってオレも相沢も名前で呼ばれちゃってたりする(ちょっと嬉しい)。
「…二人とも,案外弱い」
こちらはダウナー,というわけではないのだろうが,やはりもう何杯目だかわかんなくなっちゃった日本酒の升を手に,ほんのり染まった頬も可愛らしい川澄先輩。
「…う,嘘だろ?本調子の飲みで今まで誰にも競り潰されたことなんか無かったのに…」
酒量そのものは先輩ズの遙か手前でストップしちゃった相沢がクビだけこてん,とコチラの方に向けながら弱々しく呟く。
「…う,うう…」
オレはというとその相沢の遙か手前で危険を感じてセルフストップ。暴走する3人を何か違う生き物でも見るように,酒にかすんだ目をしばたたせながらウーロンなどをすすっているのでありました。
「…私は,まだ酔って歩けなくなったこと無いから…」
こと,とほのかに赤らんだ頬で升をテーブルに置きながら,長い髪をすっと掻き上げる仕草も色っぽい川澄先輩。
「あははーっ!舞がお酒強いから佐祐理も安心してお酒が飲めるんですよー!」
こちらは超アッパーなテンションの倉田先輩。
「男の人より先に潰れたこと無いんですけどねー」
さらっとすごいことを言ってのけながら,相変わらずにこにこな倉田先輩。
こく,と同意する川澄先輩。
「…う,うわばみだ。うわばみがココにいる…。ソレも二匹…」
ついうっかり相沢が洩らしたコトバを鋭くキャッチの倉田先輩。
「…誰がうわばみですってー?」
口調だけ急に咎めたモノになりながらもにっこりと笑いながら,相沢に覆い被さって頬をぐにー,と引っ張る倉田先輩。上体(具体的には胸とか。胸とか!)をぎゅっと押しつけてそれはもう結構な密着ぶり。あ,い,いいなあ相沢ー!!
「ひ,ひひゃい!ひひゃいれすっれはういはん!あ,あらっれまふうえばあらっれまふ!は,はなひれー!」
じゃれついてくる倉田先輩の感触が嬉しいせいかどうかは知らないが,積極的に払いのけよーとはしない相沢。
「あ,と,止めなくて良いんですか川澄先輩?」
「…あんなに楽しそうな佐祐理を見るのは久しぶりだから…」
染まった頬に実に優しげな目をした川澄先輩。く,い,いいなあこのお姉さんも!
がら,と音を立ててふすまが開いたのはそのときだった。
「ごめーん遅くなっちゃったー!…って何してるの祐一?」
見ようによってはコトに及ぶ寸前の男女のソレに見えなくもない倉田先輩と相沢のその体勢。
弾むような声で個室に響いた女のコの声は,急転直下氷点下へと凍り付く。
「…げ,みっ美坂!と,舞佳ちゃん…」
般若のようなその表情の横にはバツ悪げにぺこり,と頭を下げる舞佳ちゃんの姿。
「ゆ,う,い,ちー!!!!!!!」
「ちょ,ちょい待ち香里!当方に解説の予定有り!」
あたふたと壁際に後ずさり,ちょっと待ったポーズの相沢。やばいくらいに焦っているその姿の横で,突然の闖入者に,ふえ?ときょとんとした顔の倉田先輩。
「聞・く・耳・持たーん!」
超音速のビンタと共に,再度響いた美坂の声は,嫉妬に狂って何というか,熱かった。
「あ,なんだ。そうだったんですかー」
とりあえず沈静化させるべくな事情説明をオレから受け,ひとまず落ち着いたのはその3分後くらい。美坂と舞佳ちゃんは割と余裕のあるテーブルの(でもジョッキやらグラスやらは結構な量がその上に乗っている)端にちょこんと座って飲み物などを注文して場に和み始めたご様子。
「すいませんはしゃぎ過ぎちゃってー」
コチラはちょっとしょんぼりな倉田先輩。川澄先輩は,ちょっと表情が読めないけども相変わらずこくこくと盃を重ねている。
「いえいえすいません。コチラもはしたないところ見せちゃってー。…元はと言えばこのバカが悪いんじゃないの!女のコに失礼な!」
「いってー!」
ぎゅ,と相沢の腿をつねりながら美坂。平静を取り戻したようには見えても内面はマダ微妙に収まりがついてないのかも知れず。その横で腿を押さえて悶絶の相沢。同情はしても良い思いをした分差し引きはプラスな相沢には,ざまみよ,としか思えず。
「あ,ご挨拶が遅れました。私,美坂,美坂香里です。こちらはお友達の舞佳,神楽坂舞佳さん」
「神楽坂ですー。はじめましてー」
礼儀正しくお辞儀しながらお二人さん。
「あ,美坂って,いっこ下で学年トップだった美坂さん?」
「…あ,そ,そうですが」
ちょっと照れながら美坂。まあこゆコトで確認取られると返事しづらいってのは察しますが。
「ひょ,ひょっとして倉田…倉田佐祐理先輩ですか?」
思い当たるフシがあるのか,まんまる目で尋ねる美坂。
「はい♪倉田佐祐理ですぅ♪」
にっこりと微笑みながら倉田先輩。そう言えば,確かこの人も3年通して学年トップだったんだよなあ。オレや相沢なんかにはホントに縁遠いハナシだったんですが(でもそんなにバカだったワケじゃないよ?ほ,ホントだよ?)。
「うっわー!こんなところでお会い出来るなんてビックリですー!」
記憶の端にでも引っかかっててもらえてたことが嬉しそうな恥ずかしそうな美坂。倉田先輩は女子連には憧れの的だったことをイマサラのように思い出す。結構な名家の出身のお嬢様だと言うハナシもどこかで聞いたことがある。なんというか,うろたえ気味な美坂がちょっと可愛い。
「あ,するとそちらが川澄先輩,ですか?」
無表情気味ながらぺこ,と会釈する川澄先輩。幼げな顔立ちながら凛々しい美女。加えて,長い黒髪に抜群のプロポーションとスポーツ万能と,天から一物どころか数ダース揃って与えられたとしか思えない先輩と,倉田先輩とは二人揃って女子(当然男子からも)全般から絶大な人気がありました。衝撃の再会のあまりのインパクトにすっかり忘れてましたが。
「…よろしく」
あまり多言なほうではない川澄先輩。でもコトバの端はやはり楽しげである。
「あ,そだ,ええと,いつも青みがかった黒髪の可愛いコと一緒だったわよね?あのコは今,どうしてるの?」
「あ,と名雪のコトかしら?ええと,そうですね…」
昔語りに花を咲かせる先輩ズと美坂。
そしてぐったりと突っ伏している相沢。
この場では完全なアウトサイダーなので所在なげな舞佳ちゃ
「あ,と,どうも今日はファン感謝デーご苦労様でした♪行けなくてゴメンナサイ?」
「あ,ど,ども!き,気にしないでー」
ちょこん,と正座をしつつサワー飲み飲みなその彼女は,オレの視線に気付くと,こつん,とグラスを合わせてきた。
ちょっと照れてるのが自分でも解る。
「…こないだは,ホントにゴメンナサイ?『プロの野球選手にケガなんかさせちゃったらどうするの?』ってあの後鈴佳に怒られちゃった」
ぺろっと舌なんぞ出しながら舞佳ちゃん。悪戯っぽい微笑みも,もうソレは天使のようで。
「あ,いやいやいやいや気にしないで!なんてえか,美しい姉妹愛っての?仲がいいって良いなあ,とか思ったよー」
ホントは一瞬呼吸出来なくなるくらい痛かったのではあるが。
「…ふふ。でもやっぱり鍛えてる方って違いますね?その辺の軟弱なのとかなら5分くらいは動けないのに」
「は,はは…」
そ,そんなごついのかまして下さってたんですか舞佳さん…
…ヒドイや(涙)
んでもその後は寝起きの酔っぱらい相沢を美坂と二人で弄ったり,実は舞佳ちゃんの希望のゼミは両先輩の居るところだったり(なんとお二人とも美坂達と同じ大学の同じ学部なんだそうな。偶然ってばすごいー)とハナシの続くのには止めどが無く。
結局なんやかやで楽しい飲みは夜半近くまで続いたのでした。
明日,起きられるかなー?
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