#2


とうとうその日がやってきた。

別にクビになったワケじゃないよ?

まだ正式に入団して数ヶ月しか経ってないしね?


「おいこら」


そう,オレはこれから一軍選手としての輝く道を………。

ばこん。


「ってーなあ相沢何すんだよ!」


「さっきから呼んでんだろが!はよ来んかバカタレ」









今日は相沢と二人揃って神宮へ。

電車で球場に向かうのも顔を知られてないのと金の無い若手寮組の一つのパターン。

お金がないといってもそこまでひどいモンではないけど(一応契約金もあったし給料だって高卒の他の職種に比べるとずっと多いし),いつ何があるかわからないので,この道で食っていけるかどうかわかるまでは,無駄遣いはナシにしようと相沢と相互監視を誓ったのでした。

ちなみに持ちかけたのはオレからだが,決して美坂に脅されたからではないと言うことだけはココに明記しておきたい。

ヤだなあ,ホントだってば。

こ,これは涙じゃないんだってば!

相沢もちょっと涙目のような気もするけどほんとだってば!

………くすん。中古車でもいいから欲しいよう。









試合は白熱していた。

今日のウチの先発はサイトウさん。同級生でもありオレたちがこの道に進むきっかけを作ってくれた斉藤の兄貴であり,偉大なスカイレイダーズの先輩だ。

対する相手,神宮サイドワインダーズの先発はイシイさん。左右の差はあれ,共にスライダーを武器とした両者の対決はそれは見応えのあるものだった。

6回まで,我がスカイレイダーズは4番のタイラントのタイムリーで一点。サイドワインダーズも3番のストーンコールドがサイトウさんの失投をレフトスタンドに運んだ一点と,ほとんど得点チャンスのない投手戦が続く。


「…………!」


試合は7回に動く。

サイトウさんが突然コントロールを乱して四球と死球を一死から連続して与えてしまったのだ。

サイトウさんは無念そうだったが,次が一発を浴びている左のストーンコールドということもあって降板,左のマクレガーにスイッチ。ところが,このマクレガーも不調でストーンコールドを歩かせてしまい,満塁。

次は4番で右のレミールということもあって,ブルペン陣の中で,肩が出来るのが早く球速もある,右の相沢に白羽の矢が立ったのだ。

一軍登板通算3回目(前回は昨日サイドワインダーズ相手に1回を投げて勝敗関係なし。自責,失点共に0)の相沢は,無表情にマウンドに向かう。


「すげえなあの高卒!」


右手の方で先輩捕手のアイカワさんが呟く。


確かに2軍戦以来の好調さは続いているようだ。

相沢のストレートにはノビがあり,コントロールも上々。

正捕手のナカジマさんの構える先にビシバシ決まるその速球は,適度に混ざるスライダーとも相まって三振の山を築いていく。

思った以上にタマの走る相沢を,代える気配は首脳陣にはなかった。


「あのスライダーはちょっと打ちづらいよな。右左両方にイケるよ」


とは,過去に首位打者を2回獲得した外野手のスズキさん。守備でポカが多いので「うっかりタカノリさん」とからかわれることもあるが,今やスカイレイダーズの中軸で,確実にヒットを量産するバッティングは監督の信頼も厚い。


「ちょっとオチ気味に鋭く切れるからね。スピードはほとんどマッスグと変わらないのに」


とはショートを守るイシイさん。堅守俊足に,最近不調だけど堅実風味のバッティングのチームリーダー。その二人をして結構な好評価。

イケてるぞ相沢。

………早くオレも打席に立ちたいなあ。





「北川,準備しろ,代打で行くぞ!」


突然,声をかけられる。タシロバッティングコーチだ。


「………は,はい!」

………めっちゃおどろいた。ナカジマさんが四球で塁に出たから,てっきり代走かと思っていたのだ。

でも,相沢はそのまま打席に入る準備をしている。ナカジマさんの代走には同期でやはり足のあるヤハタが入った。

9回表,スコアはいまだに1−1のままの無死一塁。

サイドワインダーズのピッチャーは右のテラシマさん。そう言えば,ベンチの中でレギュラー以外の左はオレだけなのだ。

代打の切り札的なヒトも故障で欠いている。こんな時でもなけりゃチャンスはない。

オレは軽くアップをしてマスコットバットで素振りをカマす。

相沢も,どうせ送るんだろうけどバットで体をほぐしている。

ああ,チキショウ,いざとなると緊張するー。










相沢は,2球手こずったが何とか送りバントを決めて引き返してくる。

緊張するオレの肩をぽん,と叩くと何も言わずにベンチへと帰っていく。

相沢の後ろ姿は『気楽に行けや』と笑っているようにオレには見えた。










「選手の交代を申し上げます。一番ライト,ミズノに代わりまして北川,背番号51!一番ライト,北川,背番号51!」





オレは軽く頬を叩くと,生涯初の一軍の試合の打席へと,気合いを入れて向かうのだった。





1話にもどるー。    3話につづくー。





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