「本日はご来場まことにありがとうございました。来年度も皆様のご声援をよろしくお願いいたします。本日はまことに…」

「ふいー,終わったなあ。」

「おつかれー」

「おつかれー」

ちょっとしたアクシデントはあったものの,閉会のアナウンスと共に横浜スカイレイダーズの今年度のファン感謝デーはほぼ滞りなく終わりを告げた。

そして,オレ達はロッカールームへ戻り,軽くシャワーなどを浴びた後リブリーフィングを終え,シーズン中(デーゲームの時のみ)そうしていたように,しばしレストルームでダベるコトにした。

「んで,オレと北ちゃんは明後日から太平洋リーグに参加,と」

スポーツドリンクをごくごくと飲み干しながらシンちゃん。太平洋リーグというのは九州は鹿児島で行われる若手主体の東西対抗リーグ戦のことである。前年までは四国で行われていたモノが,今年度からは南九州と四国の各県で持ち回りの開催になったとのコト。

「相沢は参加しないんだって?」

オレは,髪に整髪料を馴染ませながら,のんびりとストレッチなどをしつつ相沢に尋ねる。

「…あー,いや。検査結果次第かなー?なんも無きゃ参加がちょっと遅れるってだけだ」

本日の立ち回りに若干精神的に疲れたのかぐったり目の相沢。

「トレーナーからコーチにオハナシが行ったらしく,最初の1クールのあいだに病院行って各種検査だとさ」

突っ伏しながらストレッチをしつつそう答える相沢。
特にケガしました,と言うわけではないのだが,シーズン後半の酷使といっても過言ではない連続起用の結果,トレーナーサイドからノースローの上一応検査,結果如何に関わらず強制休養と相成ったとのこと。

「まあ,のんびりと骨休めすることとするわ」

中継ぎ投手故のシーズン中の負担増は気の毒だけど,まとまった休みがもらえるのはちょっと羨ましいかなー,とも思ってみたり。

「そーしなよ。一足先に九州の先っぽで楽しんでくるから♪」

とは,ご当地鹿児島出身のシンちゃんの言。思わぬカタチでのお里帰りの実現に,コチラはちょっと楽しげだ。

「あ,オレ鹿児島っていうか九州は初めてー」

と,いうか生まれてこの方,広島以西へは行ったことがなかったりする(今年の春季キャンプもオレと相沢は横浜で)。それだけに,この仕事についていろんなトコロに行けるのはちょこっと楽しみでもあったり。

「リーグは過密日程だからキッツいって言うぜー」

相変わらずストレッチを続けながら糸目気味の相沢。2クールのみ,しかも行ったにしても登板がトータル5イニング限定の気楽さからか口元がゆるんでいる。

「んでも中休みが合計3日あるってハナシでしょ?」

「そだね」

「…面白いトコ,案内してね?シンちゃん。なんてったって地元だし」

「おう,まかせとけ♪」

「あーもうこのえっちさん達め…」

「人のこと言えんのかよ?…ってか主な楽しみはどっちかってえと食いモンの方だよ?」

「あーごめん,地元じゃちょっとアレだよな。えっち関係は」

苦笑気味の相沢。確かに地元でのオイタはばれたときのダメージがきつそうである。

「はっはっは。まー,参加出来ることを祈るぜ?なんだかんだで結構おいしいトコ多いし」

「うん。期待してるー」

「…期待しとく」

最後は異口同音。なんだかんだで人の欲求には限りがないモンだなあ,と。





#19





「んじゃ,お先ね?」

シンちゃんは時計で時間を確認すると,そそくさとした様子でサングラスをかけ,髪をなでつける。

「お,でーと?」

にやっと笑いながら,コチラもブラックのデニムにTシャツ,変なカタチの(本人はこの『フォルムが良いんじゃねーか!』と主張する)サマジャケを羽織りつつ相沢。

「…そんなところだ」

ファンの前では絶対に見せない,片頬だけを無理につり上げる「やれやれだよ」な感じの笑顔なシンちゃん。例の「シンちゃんガールズ」だろうか?あーうらやましい。

「つうわけで,何とか夜半前までに戻るように努力するけど,集合に遅れちゃいそうなようなら声をかけてね?」

「あいよー」

そーです。明日は久々の完全オフなのでちょっと3人で東京でも出て服とかの買い出しに出ようかというオハナシになっているのです。

特に予定のないオレと相沢は,軽くお食事の後,さっさと帰って疲れを取ろうかとのプラン。(美坂は舞佳ちゃんとかと一緒で塾の講師バイトがあるんだってさー。残念なコトに)

「おい,そろそろ出ようぜ?コッチも時間だ」

「おわ,しまった!」

この部屋も清掃とかあるのであまり長くは居られない。そゆコトでオレも急いで身繕いを済ませて適当な夕食を思案しつつ部屋を出るコトにした。





「…あの,すみません」

「はい?」

ソレは部屋を出て通路向こうの,選手専用スペースから出てすぐのことであった。

「相沢さんと北川さん,ですよね?」

振り向くとソコには,大きな瞳と栗色のセミロングの髪,ソレを可愛らしく彩るチャコールグリーンのチェックのリボンが印象的な,アイボリーのサマードレス姿の小柄な美少女と

「…はい,そうですが?」

「あ,さっきの」

長い黒髪に,無表情ながら童顔の,デニムの上下に,暴力的なボリュームの双丘を包むTシャツ,女のコにしては少々背の高い,抜群のスタイルの女のコが居た。

「あー良かったー。人違いだったらどうしようかと思いましたー」

オレ達の返事に,その栗色の髪の少女はほっとしたような感じで笑顔を見せた。

…やべえ可愛い。超可愛い。

「あ,その,さっきは大丈夫でした?」

相沢が柄にもなく丁寧な口調でその少女に話しかける。

「ハイ,大丈夫ですよー」

にこにこと柔らかな笑顔の少女。でも,何か記憶の隅に引っかかる。確か何処かで見たような…

「あのー,相沢さんと北川さん,○×高校の出身ですよね?」

「はい,そうです」

思わずオレが答えてしまう。はて?以前何処かでお会いしま

「あーやっぱり!」

「私たちもそうなんですよー。ね,舞?」

こく,と頷くロングの黒髪の,「舞」と呼ばれた女のコ。

「相沢さん,私たちの卒業するちょっと前に転校してきましたよね?去年!」

「あ,そ,そうです」

何故か赤面する相沢。

「と,言うことはオレ,いやボク達の先輩で?」

「ええ,そうなりますねー,あ,別にあまり丁寧にお話しいただかなくても良いですよ?かしこまっちゃいますので」

そう言ってにっこりと笑い,両手の指を組んで,カラダの前で軽く伸びをするような仕草の栗色の髪の少女。って先輩ならおねーさんだ。え,嘘ー?この人も年上には見えない!

「あ,すみません調子に乗っちゃってー」

ちょこっと赤面のおねーさん。

「えと,先程は助けてくださってどうもありがとうございましたー」

ぺこり,と頭を下げるおねーさん。何というか,仕草がいちいち可愛らしいのでつい呆けたように見とれてしまうオレ(多分相沢も)

「あ,私,倉田佐祐理っていいます。で,こちらが」

「…川澄,舞です」

こく,と頭を下げつつ川澄先輩。なんというか,こちらは少々愛想に欠けるキライはあるが,ソレが却って童顔な美貌を際だたせていたり。

「…あ,オレ,き,北川です。北川潤」

舞い上がっちゃってるオレは恥ずかしながらうわずってご挨拶。

「オレは相沢,相沢祐一です。ピッチャーやってます。どうぞ呼び捨てにしてやってください先輩方」

対照的に,なんとなく冗談めかした慇懃っぽさで相沢。ちょっと間違うとイヤミな感じだが,ヤツの持つ愛嬌がそうはさせない。こゆ時やっぱ羨ましい。

倉田先輩はそんなオレ達をお気に召していただいたのか(勘違いでないことを切に希望),可愛らしく笑っている。

「あはは,よろしくお願いしますー,相沢,じゃなくて相沢さんに北川さんー」

「…よろしく」

微かに微笑んで,川澄先輩。なんというか,滅多に笑わない彼女がそうして見せる笑顔は,とても素敵である。





それから,ちょっと立ち話。先程の騒ぎのことで相沢さらに照れてみたり,倉田先輩の仕草が相変わらず可愛かったり,そんな倉田先輩のちょっとしたボケへの川澄先輩のツッコミは簡にしてスルドイなあと感心してみたり。





「来年も今年みたいに一軍にコンスタントにいて,お二人にいつもお会い出来るように頑張りたいと思います。なんだかんだで,まだぺーぺーなもんで」

そう言って笑う相沢。

「一軍の試合じゃないと先輩方に会えませんからねー」

続けてオレ。

「そんな,大丈夫ですよ,お二人ならー!私たちも精一杯頑張りますから!」

「…ファイト」

と,かわいらしいガッツポーズでお二人。

そうです。先輩ズはグラウンドガールズ。頑張ればこのお二人にフィールドでいつでもお会い出来るのです嬉しいコトに!

もういつものくだけたオレ達に,お二人も心なしかうち解けてくれたご様子で。

ああ,来年が楽しみだなあ。

「…おい!」

倉田先輩に川澄先輩のあの姿をいつも球場で見れるなんてオレは幸

ばこ

「あだ!」

「いい加減戻ってこんか!倉田先輩に川澄先輩とご飯食べに行くぞ!」

へ?いつの間にそう言う展開に?

「お前が妄想モードに入ってる間にだ!さ,行くぞ?先輩方を待たせてはならん!」

お,おお!でかしたぞ相沢…って何故解る!あと何さりげなく誘ってるんだコイツ!…偉いけど。
コレはもしかして頑張らなくても頻繁にお会い出来るってコトですか?ですか?

「はよせんかー!」

おっと,急がないとー。顔のニヤケを修正しつつー。










18話にもどるー。    20話につづくー。





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