「うっわー…」
「これまた想像を超える現実ってヤツだなー…」
「左から二番目のコ飛び抜けてね?」
「いやいやいやいや眼福眼福♪」
オレ達はベンチの横からグラウンドの方を覗きこんでいる。同期や先輩の方々も皆さんおそろいでかぶりつきなあたり,やはり同じオトコのサガか。彼女たちはオレ達の方に背を向けて立ってるので,四方八方に愛嬌を振りまいてるそのお顔はたまにしか見えない。
んでも,こうやってみてる限りはみんなめっちゃくちゃかわいい。オーディションとかで選んでたりするせいかも知らないが,皆比較的身長もフツーに揃っててスタイルもよろしく,オレ達のビジターユニフォームのデザインをちょっと変えた上着に,短いキュロット気味なアンダーパンツ,そしてハイソックスに運動靴と機能的。そしてソコから覗くおみ足は健康的なお色気満載♪
「うーん,来年からアレをずっとホームで見られるのかー」
「…いいな♪」
「うん」
個人的には左から四番目に並んでいるショートでちょっと茶髪の入ったスレンダーなコがなかなかの好みなのだが,シンちゃんに言わせるとその右のあからさまにナイスバディのやはりショートのコがベスト。んで,相沢はと言うと。
「…左から二番目のコ,良いなぁ」
どこぞの先輩外野手と同じようなことを。しかしながら栗色のセミロングの髪に緑のチェックのリボン,幼さの残る感じながらとても美しげなお顔立ちに,小柄でスレンダーながらボリュームのありそうな胸元と締まったヒップからフトモモへ続くおみ足のライン。
おお,確かに一番人気っぽい。…うーむ,やはりこのコか?
「お」
「おわ!」
突然コチラの方を振り向いたその女のコは,にっこりと微笑むと小さく手を振ってくる。
「今コッチ見たコッチ!」
「え,ひょっとしてオレかな?」
「バカオレだオレ!」
にわかにざわめくコチラの一角。
おお,みんな好きなだけ夢を見るがいい。アレはオレのだ(根拠無し)。
まあ,しかし。ホントに来年は楽しみである。舞佳ちゃんに鈴佳さんといい,オレにもちょっとは女運向いてきたのかなー?
#18
「いよいよだなー」
「そだなー」
「うーん,ある意味試合よか緊張するー」
「頼むから誰か来てくれますよーにー」
ミニゲームを一本はさんで,客商売たるプロ野球選手の人気のバロメーター,サイン会である。
スズキさんとかイシイさん,タムラさんにサイトウさんやミウラさんなど,人気のある選手は既に別にコーナーが設けられており,そう言った意味での対策は万全。
対してオレ達はその横のスペースに立って,広報の人の誘導に従っていらっしゃるお客さんのサインに個別に対応するといった感じになっている。あ,もちろんフィールドの中での青空サイン会ね。
既にフィールドの区画は仕切られて,ファンの方々が列を作ってお待ちしております。
オレ達は,ルーキーのコーナーへと通されてドキドキしながらそのときを待ちます。人は一杯いるんだけどこのうちどれだけ来てくれるかはわかんないんだもん。
「おし,先に10人以上来た人に残りの二人が一軒持とうな」
「あ,きったねーシンちゃん!そんなのお前の勝ちに決まってんじゃん!」
「いやいやいやいや一人も来ないってのもあるかもよ?何てったってサインの引換券は一人一枚だからねー。イシイさんとかタムラさんのトコロにほとんど集まる可能性高いんだよー?」
そうなのです。ソレがオレ達の不安材料。他にも男前(サエキさんとか)な方も少なくないので自信なしー。
「んじゃ,そのときは一番多い人ねー」
「…いいぜ」
とは不敵な笑顔の相沢さん。
「いざとなれば香里の友達呼ぶって手もあるし♪」
「きったねー!」
最後はシンクロなオレとシンちゃん。でもシンちゃんも友達多いのでこの勝負オレが一番不利じゃん。ずるいー!
「…あ,スイマセンちょっと待ってくださいねー?ハイ,お待たせしました。あ,ハイ,『明石さんへ』ですね?」
「どうも応援ありがと,頑張ります!」
「はい!試合も見に来てねー?」
…うわー,なんだこの予想外な忙しさは!
「はい,すみませんお待たせしましたーって…」←後半小声
「やほー」←にこやかに
「…『美坂さんへ』って入れた方がいいのか?」←小声
「ダメ。ソコはちゃんと『for my darling with
love』って書くの♪」←小声
「えー?」←不満げ
「…書きなさい」←鋭い声で
「ハイ」←音速
「…」
ビシバシとは行かないまでも,慣れないサインをこなすオレ達の横で,なにやら気の毒げなやりとり。しかしながらんなコト気にしてる余裕はなかったり。
「…どゆコトだコレは…」
「聞いてない。ぜんっぜん聞いてない…」
「け,結局誰が勝ったんだこの勝負」
「んな数えてる余裕なんぞあるわけなかろーもん」
「…全くだ…」
結論から先に言えば,オレ達はもみくちゃにされてロクに覚えてる余裕なんかないくらいの数のサインをした。
ルーキーのコーナーにも入りきれないくらいの人が押し寄せてきて,正直他のコーナーのことなんか気にしてる場合ではなく。
面食らったオレ達は固まったような微妙な愛想笑いをしながらぎこちない応対しか出来ず。…だってそんな状態になるなんて思ってもみなかったんですもん。
「相ちゃん,いいなあ。女のコばっかで」
「んでも,正直疲れる。アレはきつい(特にそのうちの一人が)」
「なに贅沢言ってんだコノヤロ。オレにも何人か回して…」
「何を言うか!女のコの数では圧倒的にお前のが多かったろが!」
「…10年か20年先の美人ね。あと多分男女比率は同じー」
「いーじゃん子供に大人気ってのが野球選手としての本懐だぞ?」
とゆコトで,なんだかんだでテレビ中継への露出の多かった相沢やシンちゃん達は結構人気者であることが発覚したのでした。あと,オレも子供とかに結構人気があるらしく。なんでかはわかんないんだけれども。
ともかく,ビックリどっきりなサイン会はコレにて終了。あとは抽選会のあと撮影会を残すのみとなったのでした。
「やったー!キレイドコロと一緒だ♪」
「うわー,すっげー!」
「組み合わせはそのときなんでしょ?ツーショットだとなおいいのにー」
「ソレではファンサービスになんないだろが」
「そりゃまー,そーだけどさー」
とゆコトで,抽選会が終了し,300人限定で選手とグラウンドガールズとスリーショットの撮影会が閉会式前のラスイベントとなったのです。
オレ達選手は,抽選会で選ばれたお客さんとグラウンドガールズのお姉さんと一緒に写真を撮ってその場でプリントしてプレゼントという趣向のこのコーナー,去年までは選手とツーショット撮影会だったそうなのですが今年からはグラウンドガールズとのスリーショット(希望者は従来ドオリのツーショット)がメインとのこと。
お披露目がてら,とのことらしいですが,コレは何より男性ファンには嬉しい感じ(選手はいらん,とか言われたら多少凹むが)。
「ハイ,ソレではサエキさんとグラウンドガールズの玲奈ちゃん,どうぞー♪」
にっこり笑ってファンと一緒にフレームに収まるサエキさん。巨乳美人系の玲奈さんと一緒なので非常に嬉しそうである。
それ以外にもイシイさんにスズキさん,タネダさんにサイトウさんにタイラントなんかも。みんながみんな,喜色満面と言った風情。
「なるほどねー」
「あーすると自然に選手の顔もほころぶって寸法か。やるな広報」
…ヘッドセットを付けたイベントディレクターがコチラにサムアップして見せたような見せないよーな。
「あ,スカイ君も選手扱いだ!」
「良いなあ,子供も喜んでるよー」
おどけたようなポーズを取って見せているマスコットキャラクターのスカイ君。結構カワイイ系の造形なので,抱き上げられたお嬢ちゃんも嬉しそうである。
「きゃ!ちょ,ちょっと,止めてください!」
「いいじゃないか減るモンじゃなし!」
オレも2,3回フレームに収まり,順調に撮影会が進んでいたそのときのことであった。
酔っぱらった(見た目)ロン毛のあんちゃんがグラウンドガールズの女のコの一人を抱きすくめる恰好でお尻とか色々触りまくり始めたのである。
「だめですよ,止めてください!」
「んだと,コラ!」
近くにいた栗色の髪にリボンのグラウンドガールズの女のコが,見かねて制止にはいる。他のイベントスタッフが気付いたときには,その男は止めに入った女のコに平手打ちをかまそうと手を振り上げる。
ばち!
「きゃ!」
女のコの悲鳴!しかし,男の振り抜いたその手が捉えたのは,そのコをかばった相沢の背中だった。
「っと,だいじょぶ?」
女のコをかばいながら相沢。
「野郎!」
酔って歯止めが利かないのか,意のままにならない目の前の状況に腹を立てたのか,その男は構え直した腕を相沢に振り下ろす。
「やっべ!」
オレがようやくその場所に人混みを割って着いたときに見たのは,ちょっと想像とは違った光景だった。
「あだだだだだだだ離せ離せ!」
ソコには男の腕を取って関節をロックした状態のスカイ君が居た。
ぱ。
おどけたように手を離すスカイ君。
ちっちっち,と指を左右に動かし,男を制する。
「こんのやろおおおおおお!」
「ちょっと,困りますよお客さん!」
ようやく駆けつけたイベントスタッフが男を取り押さえようとするその瞬間,一瞬早く激昂した男がスカイ君に殴りかかる。
ばぐ!
バックステップして鮮やかに避けたスカイ君だったが,かぶり物の大きさのおかげで顔の部分にヒットし,そのイキオイのまま頭部がもげてしまう。
「…女?!」
スカイ君の取れた頭部からざう,と豊かな美しい黒髪が舞い広がる。
その中心には,多分にあどけなさを残しながらも凛々しく,美しい少女の容貌があった。
「舞!」
祐一の腕の中の少女が叫ぶ。
「…大丈夫。当たってないから。」
そのコを見つめる少女の澄んだその瞳からは,目前の男を見ていたときのような射抜くような光は消えていて。
女のコは,祐一にぺこり,とお辞儀をすると,スカイ君の中の女のコに駆け寄っていく。半泣きの栗色の髪の女のコと,スカイ君の中の女のコは,軽く抱き合いながら慰め合っているご様子であった。
「なんてえか,ちょっとビックリだな」
「…ああ。スカイ君,女のコだったんだ」
「…ギャップあっけど,ちょっと,カッコ良いな」
何となく,呆けたようにソレを見送る相沢と,その場にようやく辿り着いた役立たずのオレであった。
男は結局イベントスタッフに取り押さえられながらご退場。
会場は一時の静けさから,フィナーレ前の楽しげな喧噪を取り戻すのに漸く時間を必要とした。
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