「…うーん」
「…まあ,仕方が,無いかな?」
「来年がんばんべなあ…」
スタジアムの喧噪は帰りゆく観客と共に,静かに収まってゆく。
本日は,135試合目のナイトゲーム。今期最終戦である。
オレと相沢は,荷物をスポーツバッグにまとめて,互いに少々感慨深げにスタジアム全体を見渡した後,今期後半から馴染んだベンチにしばしの別れを
告げる。
「…来年は,笑ってこうしたいもんだなぁ」
「…全くだ」
結局,最終戦を引き分けたことで,2敗負け越しだったこの3戦の結果で,我が横浜スカイレイダーズの今期最下位が確定した。
皆一様に無言で,憮然とした表情のままぞくぞくとロッカールームへと引き上げていく。
グラウンドスタッフの皆様の試合の後処理の様子もことのほか寂しげで。
…ともあれ,一年間お世話になりました。来年も,ココで戦いたいと思います。
#17
「って,よく考えたら明後日の日曜はファン感謝デーじゃなかったっけか?」
とは,88イニングを投げて7勝2敗6セーブ,防御率1.34で今期を終えた,我が相棒相沢祐一。
「よく考えなくてもそーだろが。…例年通りだと,今年もかなりの数の人が来るらしいけど?」
こちらは59打数17安打,打率2割8分8厘,本塁打5本,打点13,盗塁4の成績を残したシンちゃんことシンカイナイキ。
「そ言えばオレ達も何かするんだよな。何か聞いてる?」
そして37打数19安打,打率5割1分5厘,本塁打1本,打点9,盗塁31のオレこと北川潤。
なんだかんだで高卒ルーキーとしては驚異的と言っていい数字を残したオレ達。なんとか胸を張ってファンにご挨拶できるかなあ,と。
…優勝どころかドンケツなのであまり大きすぎる顔は出来ないのですが。
「…えーと,なんかいろいろ」
パンフレットの原稿をめんどくさそうに眺めながら相沢。
「お決まりのセレモニーやミニゲーム,サイン会にファンとの撮影会なんてのもあるなぁ」
シャワー上がりのクビにバスタオルをかけ,スポーツドリンク片手に相沢の横からのぞき込んでるシンちゃん。
「んー,まあ,どっちにしても面白いイベントであることを希望ー」
何がつまらないって,寒々としたスタンドと秋風の吹くグラウンドに空しく館内放送だけ響くってのはちと,いやかなり寂しげ。前年はそれなりに人が来てくれたらしいのですが,如何せん今年は3年連続最下位だしなぁ。お客さん去年よかものすごく減ってたらきついもんなぁ。
「そーだな。コレで(ファンに)喜んでもらえるんならそれが一番いいわけだし」
めんどくさそうだった割には結構いいコト言う感じの相沢。
「お,プロの鑑!ゆーとーせーい♪」
しかしながらオレの口を衝いて出るのは気軽さ故の悪態だったり。
「ちゃかすなよ。一応本心だぜ?」
苦笑の相沢。まあ,サービス精神旺盛なのはよく知ってるわけでもあり(そしてめんどくさがり屋なのもね)。
「てなわけで,全体イベントはしょうがないとして,個別イベントのサイン会とか撮影会ではなにか出来ねえかな?」
ああ,またなんかいらんコトを…。もっとも,みんな揃ってのご挨拶とかミニゲームとかは段取りが決まってるので工夫しようもなく。
「そもそもオレ達なんかのところにサインとかもらいに来てくれる人がいればのハナシだが?」
イキナリ核心を突いてしまうシンちゃん。プライベの女のコ向けの笑顔とはちょっと違う寂しげなソレは,先輩の方々とかから聞かされる結構厳しげの現実。おつきあいのある女のコとか知り合い以外は,注目度的にどうなのよ?とかな感じではある。なんやかやで球場周辺以外で声をかけられるコトなんかほとんど無いのがその辺の真実を物語っている。
「違いない」
その辺3人揃って自信なさげ。家族連れとかが多いそうなので,正直今年入ったばっかりのオレ達をどれだけ知っててくれるのだろうか。
「ま,ファンサービスについてはちょこっと広報担当の人から何かアイデアがあるらしいよ?」
広報担当は今年から全面的にスタッフ変更したとかで,球団のオフィシャルサイトからオフイベントまであれこれ去年と変わるそうなのだ。
「へー?」
「何何?」
「なんか,当日まで教えてくれないんだって」
なんか意味ありげに笑ってたけどねー?広報のお姉さん。と付け加えるシンちゃん。さすが人当たりの良さには定評のあるシンちゃん。
広報だろうがファンの女のコだろうが綺麗なコに手を出すのが情報の入手が早い早い。
「ん?なにか?」
「いえいえなんでも!」
「いやなんか半笑いだったので何か言いたいことあるのかなー?と思って」
「いや別に特に何もありませんです。ハイ」
このコト(考えてるコトがナニかしら顔に出ちゃう)だけは矯正しないとなー。お仕事的にもヤバいし。
…ちょっと深刻になってしまった。
「うわ,すげぇ!なにこのお客さん」
「ひえー」
「…スタンドから溢れそうじゃん」
ファン感謝デー当日,オレ達はユニフォームに身を包んで控え室の中からスタジアムの様子を窺う。
…それはもう,ビックリな人の渦。入場無料だったり,広報の努力だったり,秋晴れのさわやかな上天気だったり(横浜ビッグスタジアムはドームではないのです)とかいろいろ要因はあるんでしょうが,これほどの人が集まってくれるってコトがかなり嬉しかったり。
「これだけの人が盛り上がってくれたら凄いよなー」
「これだけの人がいたら少しくらいはサインもらいに来てくれるコが居ないかなー?」
「これだけの人がいたら一人くらいお持ち帰りしてもバレな…」
「さすがにバレるわバカタレ!」
「つうか,人としてどうかと」
誰が誰かは,あえて書かない。まあ,誰がそう言うことを言いそうかは黙ってても回
「おーい,ソコの3バカー!そろそろ集合だぞー?」
くっちゃべってたらコーチに怒られました。最近控え室ではいつもこのメンツでつるんでたりするので十把一絡げで呼ばれることも多かったり。
ま,まあ,ともかくも,いつものペースなオレ達なのでした。
ひゅー♪
思わず口笛が出てしまう。入場時からの大歓声は,オレ達を温かく迎えてくれた。
何となく,ホントにプロの選手になったんだなあとこんなところで実感である。
入場するオレ達の横では,マスコットキャラクターがバク宙したり側転したりでチアリーディングのお姉ちゃん達と一緒に入場を盛り上げてくれていた。
このマスコットキャラクター,名前をスカイ君といいホームゲームではいつも楽しいパフォーマンスでお客さんを喜ばせております。オレもヒーローインタビューとかの時には花束を貰ったりしてお世話になったりしてます(ホントはグラウンドガールのお姉さんからのが嬉しい)。
そんなこんなでオレ達はマウンドの若干後ろに一列に並んで,監督のシーズン終了挨拶を聞いたあと,イベントに突入。
「ぬぅりゃあああああああああ〜!」
「ちっきしょー!二本目行かれた!」
「いえーいグレン二本めー!」
野手が投げてピッチャーが打つホームラン競争では,シンちゃんの結構重めのストレートを相沢が2本スタンドインさせていた。実に楽しそうな相沢は,どうでもいい場面だったらぶんぶん振り回した方がいいのかも知れず。結構良い振りしてるし。
…例によって何か賭けないと気が済まないのは何とかした方がいいかと思うが。
「うおおおおおおおおっ!」
「せいっ!」
「あああああああオレコレで4本めー!」
オレはと言うと,結構球の速さには自信があったのですがどうも球質が軽いのかサイトウさんとミウラさんに合計4本レフトスタンドに放りこまれ。
「うっしゃー!良いッスよミウラさん!さいっこー!」
「そ,そうか?」
後輩の声援にちょっと照れ気味のミウラさん。強面にリーゼントの普段から想像も付かない感じで,ちょっとカワイイ。
しかしながら,コレでシーバスの18年を4本買わされるハメに(涙)。
「…レート高くしてて良かったねシンちゃん」
「うん,コレで寮での飲みの時はお酒に不自由しない感じだ」
…うっせえよソコ。
それ以外にもファン参加のスピードガンコンテストやストラックアウト(昔の人気番組「肉番付」のアレ。キャッチャーの位置にある9コの的を全部投げ抜いたら豪華賞品ゲット)などで結構盛り上がり,そんなこんなで,前半終了。
「ふいー,終わった終わった」
肩をコキコキ鳴らしながら,結構大暴れしたオレ達3人は,とりあえず休憩時間になったのでロッカールームへと向かう。
「メシの後,一つはさんでサイン会だよな?」
ちうー,とスポーツドリンクを飲みながらシンちゃん。
「…ヤベえ,ドキドキしてきた」
3人が3人ともなんだかんだでそわそわしている。みんなこう言うとき微妙に小心なんだよなあ。…オレも含めて。
だってモテモテの二人ばっかりサインねだられてるのを寂しげに眺めるってのはヤだし。
「あ,んでもその前に,来年のグラウンドガールズのお披露目があるんだろ?」
思い出したように相沢が言う。そうです。ココ横浜ビッグスタジアムでは,嬉しいことに来年からボールボーイならぬグラウンドガールが場内(と,言うかグラウンドの中)のお仕事のほとんどをこなすことになったのです(整備とかの力仕事以外)。
コレは,来年から新しく経営陣に加わるベイエリアTVのファンサービスプロジェクトの一環らしく,コレまで2,3人だったグラウンドガールをより前面に押し出して華やかさを演出しようといった意図だそうで。
この間のアナウンスカードにによれば,夏場なんかはは,水着とは行かないまでも結構露出度高めの服で思わず変な元気が出ちゃいそうな感じで!
…ま,ソレは置いておいても職場が華やかなのってスッゲエ良いことだと思いませんか?思いますよね?!(力説)
「お,必見だねそりゃ」
何となく目の色が怪しい感じの相沢さん。
「すっごい粒ぞろいらしいよ?広報情報によると」
例によって素敵な情報はシンカイさん。
「お,ソレは超楽しみ♪」
そしてコレは我々どころかおそらくはスタッフ全員の総意。
「…メシ,どする?」
「んなのあとあと!さー,行こうぜ!」
「うし」
…食い気よか色気の,青少年なオレ達はレストルームを後にしてベンチへと向かうのでした。
バカだー♪
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