「ゴチ!」
「ごちそうさまー♪」
「…くすん」
コースは大変においしゅうございました。
鶏肉のカシューナッツ炒めをはじめとして,麻婆豆腐,北京ダック,かに玉,フカヒレ入りスープ,エビの変わりシュウマイ,チンジャオロース,あんかけチャーハン,デザートのマンゴプリンに至るまでどれもハズレ無しとはさすが名店の名をほしいままにするだけのコトはありました。
…お値段もハイパーだったんですけど。
総額で蓬莱軒のラー定が25回くらい食べられるほどに(涙目)。
「まー,こないだの監督賞一回分と思えば」
えーいうるせえ!ホントはソレでソフト付きでPGポータブル(携帯用ゲーム機の一種。家電大手のトニーの製品。オレの大好きな実況ダイナマイトプロ野球が最近移植されたので欲しいんですよ是非に)買おうと思ってたんだぞ!
移動中のささやかな楽しみにしようと思ってたのにー。
「まあまあ,そのくらいだったら本業で何とかなるんでしょ?もうすぐ給料日のハズだし」
三人並んでる一番向こうの美坂がひょこ,っと相沢の横から顔を出す。
「…だからなんでお前らオレの考えてることが解るんだ?」
「まーまー」
「まーまー♪」
…シンクロしやがってコイツら。って何で解るのホントに?
「ソコまで露骨にくやしがらんでもよかろ?」
あう,そーか。顔に出やすいモンなぁ。オレ。
「それはそうと,これからどする?」
いつもならタバコを取り出して気持ちよさそうにふかすところだが,さすがに街中で人の目もある。一応とは言え年齢的にはまだ未成年なオレ達は,見られない場所に限りこっそりとソレを楽しむことにしているのでありました。
「そーだなー」
ちょこっとこの後のことを考えてみる。
…空は夕暮れから既に星の瞬く時刻へと。
「うーん,飲みも悪か無いんだけど今日くらいのんびりしとくのもいいのかなーとか思うんだが?」
一応お昼寝をしたんだが,カラダは微妙にまだ睡眠を欲しがっている。駅前まで出向いて長めのマッサージを受けるのも良いかなあ,とも思うが遊びに来てる美坂の手前とりあえずココでは言い出せず。
「…ちっ!つまらんヤツ」
「お,お前そういうプロの自覚のないことを言うか?大体テメーのがオーバーワークだろうが」
なんと言うか,バイタリティ溢れすぎの相沢につい苦言を。休めるときにきっちり休んどくのもプロの仕事かと思うんだが。
「あーわかったわかった。邪魔しちゃったし部屋でさっきの続きか,えっちなところにでも行きたいんだな?スマンスマン」
にんまりと笑う相沢。くっ,て,てめえ!
「…ち,ちがうっつってんだろが!オレはあくまでもプロ選手としての…」
「あーいやいや,プライベはお互い大事にしないとなぁ。うんうん」
遮って相沢。あーもうだから…
「そゆコトなら,オレは今から香里とちとお買い物に行って来るわソレではまたー」
「…ん,じゃそゆコトで祐一借りるわね?」
ちょこっと軽くお辞儀をしながらにっこりと美坂。
「んじゃな」
「じゃ,またー」
笑顔でひらひらと手を振る美坂。と多少めんどくさげに手でBye,と合図を送って背を向ける相沢。
「…」
楽しそうな美坂とぶっきらぼうながらまんざらでも無さげな相沢の後ろ姿が遠ざかっていく。
…あ,美坂相沢の腕を取って自分の方に引き寄せた。急なその行為に,思い切りバランスを崩しながらも,あたふたと体勢を立て直しながら笑顔で相沢。
思い切り相沢の腕を抱きしめながら楽しげに商店街の方へと歩を進めていく美坂。…なんかハートマークがあの辺に飛び交ってるような気もしますが。
………。
……。
…。
ぽつねん,と所在なげに立ちつくすオレ。
考えてみれば,二人きり,というのはあいつらも久しぶりなのであろう。飲むときは大体他に誰かいるし,タダでさえ遠征の多いオレ達。なかなかあーいった時間は取れないんだろうなー,とか思う。
…でも,やっぱ,いいなあ,相沢。うらやましー…。
#16
「…あだだだだ。でも大分カラダ軽くなったなあ」
てなワケで,そのまんま部屋に帰るのも何となく馬鹿馬鹿しくなったオレは,そのまんま本屋によって久々に買い続けのマンガの単行本の続きを買いあさり,駅前にあるマッサージ屋さんで日頃の疲れを取ってみるコトにしたのです。
基本的にはトレーナーさんにマッサージを受けることが多いのですが,本日は休みだったこともあり,駅前で結構同僚に評判の良いトコロがあるのでこの機会に試してみたのです。
んで,駅前のコーヒースタンドでちょっとエスプレッソなぞを嗜んで部屋に戻るべくガード横へと向かうオレ。
「おりょ?」
そのとき,俺の目に飛び込んできたのは,自分のカラダの半分ほどはあろうかというローラー付きのスーツケースをようやっと,と言った感じで引きずりながら歩く,可愛らしい薄いピンクのワンピースにローヒールの,見たところ女子高生風の小柄な女のコの姿であった。
一歩歩くたびに重くて辛そうなのが何となく見て取れるが,ひらひらと揺れるスカートの下のふくらはぎのラインがが眩しいことこの上なく。
時たま立ち止まって,ふぅ,と息を付く姿も,何とも愛らしい感じだ。
…いかんいかん。これはなんかストーカーな感じのポジショニングだから多少コース外して歩こう。
「あ!」
「おわ?!」
その女のコは踏み出した瞬間バランスを崩し,突然倒れてしまう。
「だ,大丈夫?」
見かねて駆けつけ,助け起こすオレ。無理もないよな。荷物すげえ重そうだし。あまりチカラも無さそうだし。
「あ,だ,大丈夫です,どうもすみませんー」
慌てて立ち上がって,恥ずかしそうに上目遣いでお礼を言ってくる女のコ。く,くぅ!ちょっと舌っ足らずな感じの幼げなその声も可愛いぜ!
「ほ,ホントにどうも,ありがとうございましたー」
ぺこり,と頭を下げてコチラの方を見る女のコ。セミロングがちょっと隠したその瞳は,転んだ痛さかちょっと涙目気味で…え?!
「…」
「…?」
思わず固まるオレの表情(多分マヌケ面の)にきょとん,とした感じの女のコ。
「…舞佳,ちゃん?」
「?」
その手をぼーっと掴んだまま目の前の女のコをつい見つめる。見誤ろうハズはない,と思っていたものの,舞佳ちゃんそっくりなその女のコは,それでもやはり幼げな別人のようで。
「この変態!手を離せっ!」
「はう?!」
鋭い女のコの声と共に,横腹にもの凄い衝撃を受けて数歩後ずさり,その痛さにうずくまるオレ。
「舞佳?!」
セミロングの女のコの口から出るのは,よく知ったそのお名前。
「さ,逃げよ!」
言うやスーツケースを片手に,女の子の手をもう片方の手で掴んだ声の主は,急いでその場から駆け出そうとする。
オレは,と言うと女のコにしては強力すぎるその打撃に悶絶してうずくまって動けない。
「ち,違うの!」
慌ててそれを押しとどめるセミロングの女のコ。
「違うもナニもないの!この辺はタダでさえ物騒なんだから!さ,行くよ?!」
「そーじゃないの!この人は私を…」
「どーせタチの悪いナンパ野郎よ!さ,行こ?その辺に仲間とかいたら面倒だから!」
ショートにデニムジーン,スニーカーといった出で立ちのその女のコは,取り合わずにそのコを引きずっていこうとする。
「もう,きいてよ舞佳!だから,助けてくれたのっ!その人はっ!」
困ったー,と言った感じで,元々大きくなさそな地声を,それでも精一杯な感じに張り上げるセミロングの女のコ。
「へ?!」
そこで,初めてオレの方を向いてくれたショートの女のコ。
「…き,北川さん?!」
大きく目を見開いて,ビックリしたようにコチラを見下ろす,そのコは間違いなく
「や,やあ…」
なんかもう,困り笑いを浮かべるほか無いオレ。
…ソレは,間違いなく舞佳ちゃんでした。
「ホントに,ごめんなさいっ!」
「あー,いいよいいよ。ホントにもういいから」
「どうも,ほんとにすいませんでしたー」
…ココは,戻った駅前のコーヒースタンド。
オレの目の前にはさっきのことをホントにすまなさそうに謝る舞佳ちゃんと,先程のセミロングの女のコ。
「んでも,びっくりしたよー」
ソレは,主に寸頸モドキのあの打撃の件についての感想でもあり。
「なんかもう,ホントに何と言っていいか」
「舞佳は昔からこんな感じなんですよー」
ひたすら赤面の舞佳ちゃんに,のんびり口調の女のコ。まさかああいったところで友達の知り合いとこうやって出会うコト自体が多少ビックリではあったのですが。
「ところで,舞佳?この人は舞佳のボーイフレンド?」
上品な中にも幼さの残るその可愛らしい仕草で,レモンティをゆっくりと口に運びながら女のコ。
「いやいやいやいやそーゆうんじゃないの!この人は私の大学の友達の彼の友達で…どうしたの?北川さん?」
慌てまくりながら説明してくれる舞佳ちゃん。でもぉ…
「…い。いや,何でも無いデス」
『そ−ゆうんじゃないの』に軽く凹んでいるのをすかさず指摘される。やっぱ感情が表に出やすいんだなあ,オレ。…直さないと。
「…ふーん」
相変わらずレモンティのカップに唇を寄せながら女のコ。
「あ,と,ところで舞佳ちゃん,その子は…妹さん?」
他人にしては似すぎている。つい無遠慮に訊いてしまう。
「あ」
「…すみません。自己紹介が遅れました。私は神楽坂鈴佳。舞佳の,姉になります」
「あーやっぱ姉妹かー…って,ええ?!お姉さん?」
うっそー?でもこうやってみたらどう見ても高校生,いや中学生くらいにしか見えないよー?
「…はい」
にっこりと微笑みながら鈴佳さん。舞佳ちゃんもなにか気恥ずかしそうながら,並んで微笑んでいる。
…その笑顔はとても可愛らしくて。
「今日はホントにどうもありがとうございましたー」
「おやすみなさーい」
初めてお伺いした舞佳ちゃんと鈴佳さんの暮らす一軒家。あれから他愛もないハナシに花を咲かせ,あまり遅くならない内にオレは荷物持ちを買って出た。
実は何かしら武道をやっていて(かなりの腕前らしい)結構力強い舞佳ちゃんが一緒といえど,女のコに重い荷物を運ばせるのも何だよなあ,と珍しく(?)シタゴコロ無しだったオレは,二人のお見送りを受けて部屋への帰路へとついた。
「…マイカちゃんに,スズカさん,か…」
それはもう,美坂姉妹レベルの美人姉妹。
『球場にも応援に行きますね?絶対!』
そう言った鈴佳さんの笑顔につい頬がゆるみつつも。
ちょっと夜は冷えるなあ,と思いながらの短い家路でした。
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