「あふぅ…」
本日は試合も無し。
だからといって一日中寝てて良いわけでもなく,午前中は練習場に出向いて体を動かし,汗を流してきた。
幸いもう移動してのゲームは無く,残すはホームでの2連1休の後,最終戦。いよいよデビューシーズン,ルーキーイヤーであるところの今年の戦いも全日程終了である。
もっとも,若手も良いところなオレ達は,主とした一軍の皆様が参加する秋季キャンプを離れて,南九州で開催される若手主体のリーグ戦への参加が決まっているので,完全なオフはその後,と言うことになる。
いずれにしても我が故郷である北の街へのご帰還は,もう雪の季節の足音が聞こえてくるころになりそうである。
「…ふわ,眠い…」
あいにくの雨天であり,球場横の練習場から走って寮近くのアーケードに走り込んだオレは,同じく帰路を共にし,途中のコンビニでなにやら雑誌を立ち読みし始めた相沢を捨てて一足先に帰宅。
練習場備え付けのシャワールームにボディーシャンプー(と,いうかタオル以外全部)を持ってくのを忘れたので,速攻部屋でシャワーのやり直しをしたかったのである。
だって,ホラ,オレきれい好きだし。
んでサッパリして軽く昼食をとって,いい感じで小腹がふくれてくると,人間の三大欲求の一つであるところの睡眠欲がむくむくとアタマをもたげてくる。
「…ぐー」
…うう,んではおやみすー…
#15
「…う」
目が覚めたのはそれから3,4時間くらい経った頃だろうか。
股間に感じた小さな痛みがその原因である。
「…ひー」
おそらくは,蚊であろうか。小さく耳障りな音が部屋の中に微かに響く。弱い雨音がベランダの方からしているのだが,それでも聞こえてくるあたり,敵は近い。
「とう!」
ぱむ,と言う小気味良い音と共に,撃墜マークいち。相変わらず良い反応を示す我がカラダにちょっとほれぼれ。
「…か,痒い」
しかしながら刺された場所が場所だけに,負った手傷はちと深く。
ソコは,我が男性機能の中心部。よりによって棒の部分である。
「あーもう,どうでも良いけどシモの被害にここんところ祟られまくりだなあ。お祓いにでも行こうかなあ…」
仕方がないのでパンツをずり下ろし,軟膏をぬりつけることにする。
「えーと,たしかココに。…お,あったあった」
部屋の真ん中の空いたスペースに(我ながらきちゃない部屋だなあ。掃除しないと)あぐらをかいて軟膏を塗り塗り。
「あー,痒いなー」
軽くぽりぽり掻いてみたり。
…インキンってなったこと無いけどコレに似たよなもんかも知れないなー。
がちゃ。と,突然ドアの開いた音。
「おーい,北川,居るかー?遊びに行かね?っておわ!」
「え,どしたの北川君って,きゃっ?!」
「げっ!」
首だけで後ろを振り向いてみるとソコにはラフな恰好の相沢と「まぁ!」といった感じで両手で顔を押さえてる美坂の姿(でも指の隙間からコッチ見てる)。
…その体勢のママ思い切り硬直するオレ。
おーけー,状況整理。
下半身すっぽんぽんで部屋の真ん中にあぐら。周りは買った雑誌(エロ本含む)が散乱。んで痒いのでブツに添えた利き手を繁く動かしているオレ。
って,おわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?!
「…じ,自家発電中はせめて鍵掛けようぜ…」
「ち,違う!違うんだ!コレは!っていうかせめてノックを!」
「きゃあああ?!」
「の,のぉおおお?!だーわーわーわーわー!閉めろバカ!あと見るな!そんな目でオレを見るなー!」
みみみみみみみ美坂!よりによって美坂に?!
「えーと,その,すまん」
ばたん,と言う音と共に閉まるドアって遅いわバカー!
あたふたとパンツをずり上げ,慌ててその辺にあったジーンズを履こうとする。んでもこゆ時って焦ってなかなかスムーズに履けない。
『その,なんだ。男の一人暮らしにはままある光景だ。穏やかに笑って見逃してくれると助かる』
ドアの向こうから聞こえてくる声。あ,相沢!お前が言うかその口で!せめてテメエがノックさえしてくれればこんなコトには!
『…よくマンガのネタとかでは聞くけど,現場見ちゃったのって初めて…』
だ,だから違うっ!違うんだってば美坂っ!美坂ぁっ!
『…忘れてやってくうれないか?我が友のために…』
友違う!友少なくともノックするのこと!
『…でも,フツー昼間からあゆコトするの?』
ああ,違うっ!だから違うっ!
『いや野郎はふと性欲が総てを凌駕するときが来るモンなんだ。ちなみに北川は最高記録が一晩に7…』
「えーかげんにせんかーい!」
「あう?!」
勢いよくドアを開け放ち相沢にミサイルキック。
思い切りミゾオチにひっとし悶絶する相沢。
ざ,ざま見ろ。
「…ぜえぜえ,だ,黙って聞いてりゃ言いたい放題…」
…気が付いたら,雨は上がっていた。
「なんだ,そーだったのか。オレはまた,てっきり…」
「…だから違うっつったじゃん」
「…あ,あははは…」
とゆコトで,誤解を解き解きオレ達が向かうのは寮からほど近い中華料理屋さん。
相沢は結局昼食をバックレてしまったそうでナニも食べてないとのこと。寮に戻ってしばらくして学校の授業のハネた美坂と『メシ食いに行くべ』と言うオハナシになってついでに誘いに来てくれたらしく,こー言ったところはやはり嬉しい限り。
『舞佳も誘ったんだけど,バイト長引いちゃててねー』
とは美坂の弁。…長引いたことについては心の底から有難かったりするのですが(男心)こうなってみるとやっぱり早く逢いたいかなー,とも思ってみたり(やはり男心。微妙なのよー)
ココで,オレと相沢の暮らす我が球団の独身寮について少々ご紹介など。
球場及び練習場からは徒歩で5分程度と通勤には非常に恵まれた立地。建物自体は出来てからそれなりの年月が経過してるらしく割と年季が入ってますが,中身は数年前に全面的にリフォームしたらしく,かなりキレイなお部屋。
間取りはオレも相沢も対称型ながら同じ。8畳と6畳の二間で台所とトイレバス付き。一階が共同の食堂にランドリー設備で,それから上の2階から7階までが選手の部屋になっていて,出入りに特に制限は無い(一応,家族を除く部外者の入寮は建前上禁止)。
「ずるい!」
と美坂をうならせたのはその家賃の安さ。コレで食費込み月に2万円なのである。特にコレと言って浪費するような趣味を持ち合わせていないのはオレも相沢も一緒なれど,基本的にまだまだ無駄遣い禁止なオレ達(前にも書きましたが,同世代の連中よりはお金持ってるんだけど将来さっさとクビになっちゃう可能性を考えて,相沢と相互監視によって高いモノ買ったりとかを禁止してます)にとってはコレは大変有難く。
もっとも,相沢から聞いたハナシでは美坂は奨学金とバイト(家庭教師と塾講師)で少ない仕送りの足しにしてるとか。大変だなー,とか思う。
「おし,着いた」
「…すごい」
美坂が目を白黒させている。そう。ココはおいしい店(そして結構良い値段)の揃う横浜の中華街の中でも結構な名店なのである。
ちょっと遅い時間だと予約で一杯になってしまうので,多少早いながらも何とか座れる時間帯を狙ってやってきたのでした。
「さ,いこうぜ香里。と財布」
「あら♪北川君のオゴリなの?」
「えー?!」
何でよ?何故に財布?!
「…ふふん。忘れたとは言わさんぞ?今日の練習のとき晩飯賭けたダッシュ勝負で勝ったのは誰だった?」
「ええー?!この前オレが勝ったときは蓬莱軒のラーメン定(税込み980円)だったじゃねーか!?」
「その前の飲み代はお前金持って無くてオレが持ってやったじゃん?」
「でもさー」
「…舞佳ちゃんには今日のおハナシまだ話してないんだけどなー?」
…こ,コイツ…,絶対いらんコトを考えてやがる…。
「…き,汚ねぇ」
ココのコースは安くてもディナー5000円(一人アタマ)以上するのにー。
…不公平だと思いませんか?ミナサマ。
ぐっすん。
…踏んだり蹴ったりだー。
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