優勝の決定から,中一日おいてやけ酒もいい加減カラダから叩きだした9月も末のデーゲーム。
のんきな鰯雲は青空を泳ぎ,風も初秋の柔らかさを多分にふくんで疲れ気味のカラダに優しい。

消化試合。

優勝が決まった瞬間にペナントレースが終了するわけでもなく,135試合が年間に組まれている現状では当然の如くソレは発生します。
主力の皆さんでケガがちな方は調整のみの出場になることも多く,若手どころか高卒一年目の超若手であるところのオレ達は,相も変わらずスタンバイから途中出場,時によっては先発もアリのフル回転状態が続いているのです。

幸いなことに,シッカリした実績を残しておけば,来期の開幕一軍も望めるポジションにいるオレはココでのガンバリが超重要。従って手を抜くなんざトンデモナイ!ココを踏ん張れば約一ヶ月半のオフが待っている。少々疲れ気味ではあるのだけれどもココは一発

「あた!」

またモノローグ中に突っ込んでくるコイツは当然のように相沢。

「どーでもいいがズボンぐらい履けよな?アブないヤツかと思われるぜ?」

「おわしまった!」

…着替え中だったのをすっかり忘れてましたよオレとしたことが。

「まあ,アブないのは手遅れとして」

「ヒデぇ?!」

「お前今日途中からマスク被ることになるらしーよ?展開次第だけんど」

「マジ?」

「オレは響鬼の方が好きだが?」

なんだそりゃ。…ま,いいや。ってええ?イイのオレで?ヘボいよまだキャッチャーとしては?

「んなことわかっとるわ」

「…だから何故オレの心が読める?」

このまえからそーなので非常に疑問に思ったことを尋ねてみる。

「っつーかそのあまりにも自信無さげなの顔に出すなよ。わかりやす過ぎんぞ?」

ため息を吐きながら相沢。なにかこう,かわいそうな子を見るよな目つきである。

「な,なにを仰いますか相沢さん。仮にもこのワタクシメがそのよーな…」

「あーいいわかったわかった。せいぜい準備と心がけをしとくんだな?」

ひらひらと手を振りながら,相沢はロッカールームを出ていく。
…そーか,今日もマスク被ることになるのかー。

…がんばるー。





#14





「あのさ,お前学習能力とかそういうのはないのか?」

「2戦連続ってのはひょっとしたら新記録かもねぇ…。おめでと。多分オフの珍プレー選出は鉄板だね」

「…お,お前ら,ちっとは労る気持ちとかそゆの無いの…?」

涙目で相沢とシンちゃんに背を向けながら,股間(今日は全体的に)にコールドスプレーをふきふきするかなりカッコワルイオレ。

6回裏から,いつもの外野守備ではなく,捕手として試合に参加したオレは打つ方こそ無安打だったものの(引っかけてショート強襲のエラー判定。内野安打と思ったんだけど…)でも打点2,なんとか盗塁も一個ゲット。意気揚々とその裏の守りに就いたのです,が。

「あっちゃー,ごめん」

でもなんか笑ってる相手バッターの野郎(あえてこう書かせていただきます)の打球がベースでやなバウンドをしてそのまんまオレのミットの奥に…。

運が悪いと言えば運が悪かったのですがたまたま緊張のあまりトイレで用を足した後うっかりファウルカップを装着するのを忘れてこの憂き目。

バッテリーコーチには半笑いで怒られるわ相沢とシンちゃんにはからかわれ呆れられるわでもうイイ感じに嫌。
ココまで衝撃を食らってしまっては将来の男性機能全般について少々不安を覚えてみたり。
他人のを見てる分には半笑いで多少の同情とかをしていられるモンですが自分がこーなってみると辛いハナシではあります。

しかしながら,リードとかキャッチングについては概ねお褒めのコトバをいただけており,とりあえず全然ダメってワケじゃ無さそうな雰囲気。
捕手としての適性そのものに問題は無さげなのは良さそな感じです(ただ,向いてるのかどうか自分ではいまいち自信はない)。





さて,回は進んで9回の表。点差は3点で我がスカイレイダーズのリード。書き忘れてましたが相手は広島マスケットカービン。要するに今度は最下位を争う熾烈な争いということになっており,まあ,なんというか後ろ向きな闘志が今度はチーム中に蔓延しております。

ともあれ,負けるのはヤダ。これ以上踏んだり蹴ったりなのはいやーん,と言う感じなのは首脳陣も一緒で(特に今年最下位なら3年連続)
具体的にはそれなりの立場の人はクビとかかかってたりして辛い感じ。





「行けます!」

この回だけだからな,とピッチングコーチに労られつつマウンドへ向かうのは我が相棒,相沢祐一。
おいおいマジかよ,とお思いでしょうが(おととい,9イニング投げてる),実は5回までに我がチームのリードはなんと11点。「コイツは楽勝!」と思いきや先発が6回表に3点献上,なお満塁のところでスイッチした中継ぎの方がやはり炎上し計7点を奪われてしまった。さらに残る投手も大変危険な状況が続くなかなんとか1点の失点で済んだのが不幸中の幸いだったのです。ぼこん,と点取ったり取られたりは,そんなにシーズン中あるわけじゃないんだけどなあ…。

ストッパーのガラハドさんも家族の急病により帰国を余儀なくされてる今,そんなわけで9回まで引っ張っての相沢の登板となったのです。

「調子は?」

「上々」

別段普段と変わらない様子の相沢は,特に気にした様子もなく返事を返す。

「んじゃ,ちゃっちゃと片付けようか?」

「おし!」

逆にそー言われ,少々気合いを入れ直すオレ。





『あ』

『あ,じゃねえよこのバカー!』

オレが一球目に要求したストレートは想定コースよりも2球分内側に入ってきた。

んで,その球は今,球場の歓声とどよめきの中,ライトスタンドのどこぞの観客の手の中にあるはずである。
ピッチングコーチも監督もちょっと頭を抱え気味(でも,動きはない)。

…ああ,コレで二点差。





「おいおい,サイン合ってる?コースはそこで良かったろ?」

「ちゃうわー!この人外角のが苦手だから一発目からカウント稼ぎに…」

「今イニング代わってるだろが!ソレは8回までのサインセットだろこのバカ!」

「あ」

「おいおい,打ったのはタマだったろ?アタマまでおかしくしてどーすんだ!」

「ごめんごめんごめーん」

「頼むわー!」

「おーい,君たち,進行にさわるからその辺でー」

「すいませーん」

「すいませーん」

マウンドで長々とサインの確認(と言う名の苦情の言い合い)をしてたら怒られてしまった(当たり前)。
さ,気を取り直して次,次。





「よしよし,イイ感じ」

続く打者とその次の打者は共にスライダーを引っかけさせてセカンドゴロ二連発。少々キレがないのが気にかかるところではあるが,お二人とも初球の引っかけであったのでおそらくは狙い球でありながらイメージがずれた,と言うところではないかと思う。

『ツーダンツーダン』

『おっけおっけー,ツーダンツーダン』

相沢とサインでアウトカウントの確認をする。あと一人ー。





ずどん!

「おっしゃ!」

それでも何とかウイニングボールはオレの掌の中。

「ナイスピッチナイスピッチ!」

戻り際に野手の皆さんや監督さん,コーチ陣と次々にハイタッチ。これでゲーム差は無いながら勝率でわずかに広島を上回った。最下位脱出,である。

「おっし,んじゃ明日もあるけど軽く一杯引っかけるか?乾杯くらいならバチあたんないだろ」

珍しく相沢から飲みのお誘いである。セーブも付いたことだし,余計機嫌もいいのだろう。

「そだな,んじゃ,いこっか?」

同じく帰り支度のシンちゃんにも声をかける。いつものメンツと言えば,いつものメンツではあ

「おーい,相沢に北川,ちょっと残れ」

ヘッドコーチから突然のお声。え,な,なにかしましたかオレ達?

「今日のヒーローインタビューだとさ。…早く行ってきな?」

「…へ?」

「オレも?」

思わず顔を見合わせるオレ達。

「はよせえよ。カメラまわってんだぞ?」

乱打戦だったので先発もホームラン打った人もあまり関係がないとのオハナシ。んで,セーブをあげた相沢と,勝利打点を上げていたらしいオレが選ばれたようなのである。投打のヒーローとして。
尻を叩かれ,超人気球団のような人混みとは行かないまでも,にぎにぎしく人で一杯のベンチ前へと急かされるオレ達であった。





さすがに数度の経験のある相沢と違って,久々のお立ち台に上がり,アガリまくったオレはどんなこと喋ったのか良く覚えてない。でも,その後の飲みでそのことについてさんざんからかわれたのは確かである。

…こんなコトならコメントとか考えとくんだったよー。ソレはソレでネタにされるんだろうけど。

ともあれ,ペナント全日程終了まではもちょっとだ。なんとか,がんばろ。





13話にもどるー。    15話につづくー。





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