#1


「おまえは良く投げたよ。次はもっとイイトコで使ってもらえるってばさ」


球場からそう遠くもない,ここに来てから開拓した,豚肉料理がかなりイケる居酒屋に,オレは相沢を連れだしている。


「んでもアレさえ無きゃなあ………」


ニガウリと卵と豚を炒めた何とか言う料理をプレーンの酎ハイで流し込むちょっと座った目の相沢。
今日の仕事ぶりについて何か引っかかるモノがあるらしく,口を開けば出てくるのはため息混じりの文句ばかり。

相沢は,7点ビハインドで火に油を注ぎかねない無死2…3塁から,首位東京のクリンナップをセカンドライナー,サードゲッツーと三振に切って取り,その後8回は3者三振に仕留めたのである。

ただ,9回1死からタマが高めに浮き出し,制球に苦しむ相沢は先頭打者にヒットを許すと2連続四球の後セカンドゴロで1点を許した。


「案外図々しいなあ,おまえ」


それでも最終打者をスライダーで空振らせ,仕事を終えた相沢に,とりあえず正直に感想を言ってみる。


「なんでよ?!」


「コレ一軍戦だぜ?しかも相手東京よ?むしろ出来すぎだってば」


気楽な状況とはいえ,あのクリンナップをほぼ完全に押さえ込んだんだ。むしろこの飲みは相沢の鮮烈な一軍デビューを祝してのモノと言っても良い。


「うにゅ〜」


とりあえずオレの賞賛は素直に受け取ってくれてるんだとも思うが,酔って糸目の,水瀬嬢を連想させるたれ相沢。

夏のこの暑い季節にビールはうまいなあと思いながら,長身を器用に折り畳んであごをテーブルに乗せる,眠そうな相沢と盃を重ねるのだった。










「…祐一っ!ねえ祐一ってば!」


あ,美坂。


「にゅ?」


疲労した体にアルコールが混ざり,もうかなりおねむな様子の相沢。

美坂は店に入るなりオレたちの陣取る奥のテーブルに直行してきてテーブルに伏せる相沢の肩をがくがく揺する。


「にゅ?じゃないわよせっかく来てあげたのに!」


くそう,とりあえずオレは無視かよ。

薄紫のワンピースに,最近ちょっと視力が落ち始めたとかでかけ始めた細いフレームの可愛らしい眼鏡。

ああ,チキショウ。こんなにカワイイのに美坂は相沢を追ってわざわざ至近の国立を選んだのである。

ああ,何で相沢なんかと!

………おっと。取り乱してしまったよオレとしたことが。

ともかく,こうやって飲みに出るときはちゃんとお誘いの電話を入れてみたりするわけで(当然相沢の携帯から)。


「にゅ〜」


こてん,と首を美坂から背けて,ホトンド夢の世界の中に入りかけている相沢。


「もー!北川君,ずっとこうなの?」


うん,と首を縦に振る。疲れてるんだろうからそっとしといてやれと言おうかとも思ったのだが,なんとなくムカついたので止める。


「もう!」


それでも美坂は,相沢の横に陣取って首を自分の方に向けようとしたり,がくがく肩を揺すってみたりと忙しい。


「美坂,その子は?」


「ふぇ?」


間抜けな返事の美坂。その横には所在なげに,困ったような微笑みを浮かべる一人の少女が佇んでいる。


「あ,ごめーん,舞佳!」


そう言ってバツが悪そうに,オレの隣の席をその少女に勧める美坂。

黒髪のストレートヘアにデニムのミニとサマーブラウスの小柄な女の子。うっすらと透けて覗く,黄色いタンクトップの下のふくらみにどうしても目がいってしまうスケベなオレ。いかんいかん,視線は極力外さなきゃ。

そこからは。

少女はぺこり,とお辞儀をして軽く微笑むと,オレの横に腰掛ける。

ふわり,と女の子らしい良い香りがオレの横に広がる。


「あ,ごめん,北川君,紹介まだだったよね?」


かくん,と首を振るオレ。スマン,正直見とれてた。


「こちら,舞佳,神楽坂舞佳さん。同じ学科なの。今日祐一に会いに行くって言ったら見てみたいって言うから………。」


なにげに惚気られてる気もしないでもないが,まあいいよ。オッケーだ。


「初めまして,神楽坂ですー。」


大きな瞳の,カワイイお顔に似つかわしい,とてもぷりちーなお声。


「あ,は,初めまして。北川,北川潤です」


いかんいかん,声がうわずるうわずる。


「北川さんですね?今日は無理言って付いて来ちゃってゴメンナサイ?」


ちょっと申し訳なさそうな舞佳ちゃん。

ちょっと上目遣いな目線と膝の上のトートの上で手を組む仕草がとても可愛らしく,オレのハートはもうしっかりと鷲づかみに。


「いやーいいのいいのむしろ大歓迎!」


それから,楽しく舞佳ちゃんとおしゃべりしたり見とれたりおしゃべりしたり見とれたり。

横で美坂と相沢がどんなやりとりをしていたかなんてもう綺麗さっぱり。

とりあえずすっごいいい気分だったのだけは確か。

ああ!美坂に,舞佳ちゃんをさりげなくどこかに連れ出そうとするのを止められさえしなければ!

ああ,結構好感触だったのが勘違いじゃなきゃいいなあ。また会いたいなあ。

それから後のことは,正直良く覚えていない。

相沢を寮の部屋にぶち込んで,自分も部屋に入るなりバタンキューだったので。





今日の練習は死ねるかも知れないが!





たまにゃいいこともあるもんだよー♪

しまった!携帯の番号聞くの忘れてたああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!





0話にもどるー。    2話につづくー。





Back