「ねぇ、星宮さんー」
「何ですか?」
「今日の昼食は私が作るよー」
「…………大丈夫なんですか」
「この頃の夕食は毎日自分で作ってるからもう平気だよー」
「なら任せますけど…………まぁ、私も鈴波さんの作ったご飯を食べてみたいですし」
「え、何度も食べたことあるでしょ? 味見とかで」
「それとこれとは別です」
「そっかー」
「…………………………鈴波さん」
「なにー?」
「作るんならこたつ出ないといけませんよ」
「…………うー」
「寒くて出たくないんですね」
「本当はこのまま寝ちゃいたい」
「せめてお昼ご飯をしっかり食べてからにしましょう」
「はーい」

もぞもぞとこたつから這い出る。
途端に冷たい大気が肌を撫でるが、それをいちいち気にしていては一歩も進めない。

「手伝いましょうか?」
「あ、いいよ。星宮さんは適当に何かしてて」
「でも、」
「いいのいいの。私は、自分ひとりの力でちゃんと作ったものを星宮さんに食べてもらいたいから」
「…………わかりました。楽しみにしてますよ?」
「りょーかい」

こたつに入ったままの彼女を一瞥してから、材料を冷蔵庫から取り出す。
準備は万端、いつも通りにやれば問題なくできるはず。





「さて、始めますか」


鈴波信一、腕捲りをし、エプロン姿で頑張ります。




















なんでもないこと。




















「はい、できましたー」

昼食完成。
所要時間はおよそ三十分。その大半が味噌汁のために使われてたりする。

茶碗に盛った白米、豆腐となめこの味噌汁、焼き魚。
…………大した技術もなく作れるモノばっかりだ。


テーブルの上に並んだ品々を見て、星宮さんはちょっと口ごもった。

「…………いや待って、とっておきがあるからっ」

必死に弁明。
急いで台所に向かい、さり気なく一緒に火を掛けていた鍋から用意していたモノを取り出す。

「…………………………肉じゃが、ですか」
「そう、肉じゃが。昨日の夜にあらかじめ作っておいたんだ」

実は今日、自分が昼食を作るんだと既に決めていた。
つまり計画済み。そして作戦成功。
普通にやったのでは面白味がない…………というより、単に彼女を驚かせたかっただけ。

味を見てほしいと促す。
彼女の右手にある箸が器の中のじゃがいもと肉を挟み、そのまま口へ。

咀嚼。しばらく無言。

しっかりと飲み込んでから、彼女は言った。

「美味しいです。これなら合格点をあげられますよ」
「ふぅ、よかったー。今までの特訓が実を結んだんだね」
「そうですね。私もコーチした甲斐がありました」

何となく可笑しくて、嬉しくて、互いに笑い合う。
食事ひとつで幸せになれる私達は、本当に素敵な人生を歩んでいるんだな、と強く思う。



後片付けは、ふたりで終えた。











お腹いっぱいになると、自然と眠くなるのが人間だ。
ということでこたつに入る。すごくあったかい。

「あー、やっぱりここが一番…………」

最近は専らこの中で昼寝をしている。
ちなみに、星宮さんも一緒。渋々ながらも了承してくれる彼女が好きだ。

こうやって横になっていると、当たり前だけれど天井が見える。
三年ちょっとも経つと多少年季が入ってくるようで、僅かながら染みが確認できた。


時間が過ぎれば、色々なモノが古びてくる。
その形跡が此処にはあって、それは私達が確かに此処にいることの証明。


「…………そういえば、もうすぐ今年が終わりますね」
「そうだねぇ…………随分早く感じるなぁ」
「いろいろ、あったからかもしれませんね」
「うん、かも」

幸せだった、充実した、限りなく愛しい日々の結晶。
今も此処にある。これからも、続いていくのだと信じたい。



瞼が、重くなってきた。
ここで寝てしまえば、次に起きるのは夕方頃になるだろうか。

窓からほんの少しだけ入ってくる陽射しが見えた。
遠い光。私達を照らしてくれるのは、夜になるまでだ。


隣にいる彼女の手を取り握る。
互いに向かい合った。すぐ近くに顔があった。

ちいさなてのひらは、ほんとうにあたたかい。

彼女がいるなら、私はしっかりと日々を、季節を、一年を、越えていける。
触れ合えるほど傍で、私にぬくもりを与えてくれるひなた。


もう片方の手を重ね、離れないよう、優しく握った。


「…………おやすみ」
「…………おやすみなさい」

目を閉じる。
だけど確かに、私と星宮さんは繋がっていた。










次、目が覚めたら、まずは「おはよう」。


こころのなかで、ちいさく「ありがとう」。











はっぴーにゅーいやー!

というわけであけましておめでとうございます。年を越しても何も変わらない神海心一ですー。
今年もよろしくお願いします、の意味を込めてお送りするこの文章ですが、何故か『ひとかけら』。
Kanonでもなくそれ散るでもなくAIRでもなく他の突発的短編でもなく『ひとかけらのぬくもり』より信一くんとひなちんのおはなし。
まぁ、大した理由ではないんですが、この一年で私に色々なことを教えたり歩ませたりしてくれたのがこれなので。
一年のうち八ヶ月ちょいをひとかけらに費やしましたからねぇ。
拙いですが、ささやかなものですが、思い出に残る作品です。だから、私のほとんど全てが込められてますよ。一応。

私には、支えてくれる人が、隣にいてくれる人が、声を掛けてくれる人が、ほんの少しだけかもしれませんが存在します。
だからきっと、戸惑い迷い立ち止まりながらも歩いていけるんです。幸せですよ、本当に。


「ありがとう」と「だいじょうぶ」と「これからもよろしくね」の意味を込めて。

みんながしあわせでありますように。神海心一でしたー。