なにかのおはなし。
見つけてください、
あなたの"なにか"。
気づいてください、
わたしの"なにか"。
0/どこにもないおはなし。
問いをみっつ。
―――――― 何処が大切な場所ですか。
―――――― 何時が大切な時間ですか。
―――――― 何が大切なモノですか。
キミはこう答える。
―――――― 何処でもいいよ、僕がいるなら。
―――――― 何時でもいいよ、僕がいるなら。
―――――― 何でもいいよ、僕がいるなら。
あなたはこう答える。
―――――― 何処でもいいよ、キミがいるなら。
―――――― 何時でもいいよ、キミがいるなら。
―――――― 何でもいいよ、キミがいるなら。
私はこう答える。
―――――― 何処でもいいよ、誰かがいるなら。
―――――― 何時でもいいよ、誰かがいるなら。
―――――― 何でもいいよ、誰かがいるなら。
最後に誰かはこう答える。
―――――― 何処でもいいよ、みんながいるなら。
―――――― 何時でもいいよ、みんながいるなら。
―――――― 何でもいいよ、みんながいるなら。
それから、笑った人がいた。
「みんな、ちがうこたえだね」
誰の声だったかは、わからずじまい。
1/かれとかのじょのおはなし。
ぼくら、こうしていきてるよ。
それはとても、きれいなこと。
その日は曇り空で、どことなく気分が沈みます。
ふぅ、と溜め息を吐くと、さらにだめな感じです。
何だか嫌な気持ちで、彼女は空を見上げました。
非の打ちどころのない灰色です。
…………やるせなくなって、目を閉じました。
世界は、真っ黒になりました。
◇
彼女は彼を待っています。
いつからなのかはわかりません。
もうずっと昔からなのかもしれないし、ついさっきからなのかもしれません。
でも、そんなこと彼女にとってはどうだっていいのです。
何があっても、彼女は彼が来るまでいつまでも待ち続けるのですから。
◇
彼は走っていました。
何処に行けば彼女に会えるかが、わからなくなってしまったのです。
一度も止まらずに、足がもつれそうになるのも構わず、彼は彼女を探し続けます。
ふたりで会う約束があるのです。それは落ち葉を踏みつけるような気軽さで破れてしまうのです。
彼は、大事な約束を破りたくはありませんでした。
どうしても、守りたいモノでした。
例え、見つからないのだとしても。
それでも彼は走ります。
だって、自分にできる精一杯のコトがそれなのだとよく知っていたのですから。
◇
いつまで待てばいいのだろう、と彼女は思いました。
もしかしたら会えないかもしれないと、ほんの少し迷いが出てきてしまったのです。
それは恥ずかしいことではありません。
きっと、誰だって考えることなのです。
だから彼女も考えました。このまま待っていていいのだろうか、諦めた方がいいのではないか、と。
そして、出た答えは。
―――――― やっぱり、待ち続けるコトだったのです。
◇
彼も、僅かばかり迷いました。
もしかしたらもう待ってはいないかもしれない、手遅れなのかもしれない、と。
でもすぐに答えに辿り着いて、彼は納得しました。
きっといくつも選べる道はあったのでしょう。
けれど彼にとっての答えは、ひとつしかないのです。
それを口にする代わりに、彼は走り続けました。
◇
幾許かの、または幾千の時を経て、かれとかのじょは出会いました。
それは道に咲いている小さな花を見つけるような自然さで、
大きな砂浜の中から一組の貝殻を探し出すような大変さのようにふたりには思えました。
「会えてよかった」
どちらが言ったことだったかは、わからなくてもいいのです。
約束は、果たされました。
◇
彼は彼女を待っていました。
待ち合わせの時間より少しだけ早く来てしまい、彼女が遅れないことを祈りながらベンチに腰掛けていたのです。
軽快な足音が聞こえました。
遠くに見えるのは、間違いなく彼女の姿です。
手を振るそのシルエットに向けて、彼も手を振り返しました。
また、会えたね。
◇
あなたの、大切なモノは何ですか。
あなたが、大切だと思うモノは何ですか。
かれとかのじょは、こう答えました。
「隣にいる人です」
2/わたしとあなたのおはなし。
ひとりより、ふたり。
ふたりより、ひとり。
世界のどこかで、わたしとあなたは出会いました。
どこだったかはわかりません。
空の上かもしれないし、
公園のベンチかもしれないし、
もしかしたら夢の中でかもしれません。
いつだったかもわかりません。
ずっと昔かもしれないし、
遥か未来かもしれないし、
もしかしたら今なのかもしれません。
でもきっと、どこだっていいのです。いつだっていいのです。
何故かって、こうしてわたしとあなたは一緒にいるのですから。
◇
あなたとはたくさんのことを話しました。
例えば、こんなこと。
「友達って何なのかな」
「何なんだろうね。他人なのに、他人より近しいんだ」
「助けたり助けられたり、殴ったり殴られたり、触れたり離れたり。…………よく、わからないね」
「うん。でも、よくわからないから友達なんだと思うよ」
「そうかもしれないね」
また例えば、こんなこと。
「何処か、行きたいとこある?」
「うーん…………そうだね、月に行ってみたいな」
「どうして?」
「ほら、ほとんど何もないから」
あとは例えば、こんなこと。
「他人の話って聞いてて楽しい?」
「楽しいかどうかはともかく、面白い話なら笑えるし悲しい話なら泣きたくなる。どれも"有意義"なんだと思うけど」
「なるほど、言われてみればそうかも」
いろいろ語り終えて、もうふたりとも訪ねることがなくなってから、最後にあなたはこんな突拍子もないことを言ったのです。
「わたしとあなたの"大切なモノ"、一度取り替えてみないかな?」
試してみたい気持ちに駆られて、わたしはいいよと答えました。
こうして、ふたりは相手の"大切なモノ"を抱えてみます。
それがはっきりと何であったかはわかりません。
きっと、言葉では表せないのでしょう。
心地よい感じがしました。幸せな気持ちになれました。
でも。
―――――― どこか、違いました。
あなたも同じことを思ったようで、抱えていたわたしの"大切なモノ"を手放します。
「やっぱり、自分のが一番合ってるね」
「うん、そうだね」
そんな簡単なコトに、この瞬間改めて気づいたのです。
わたしとあなたは笑いました。思いっきり笑いました。
それで最後、もうお別れです。
またねと言って、ふたり歩むのは別々の道。
でもきっと再び会える日も来るでしょう。
だって、さよならはまだ口にしていないのですから。
3/とおいそらのおなはし。
だってこんなにあおいから、
なみだもきっととけていく。
見上げると、空が映りました。
今日はまばらに雲があって、太陽が時々隠れてしまいます。
気持ちは、どこか少しだけ靄が掛かったみたいでした。
◇
見上げると、空が映りました。
今日は一面灰色で、青色なんて全く見当たりません。
なぜかよくわからない寂しさが、胸いっぱいに広がりました。
◇
見上げると、空が映りました。
今日は雨模様で、降り注ぐ水滴は地を強く打っています。
自然と涙が溢れてきて、止まらなくなりました。
◇
見上げると、空が映りました。
今日は静かに、白い雪が視界を埋め尽くしています。
冷たいはずなのに、あたたかい気がしました。
◇
見上げると、空が映りました。
今日はとてもよく晴れていて、雲ひとつない蒼穹です。
でも、何かが足りないと思いました。
◇
これは、もう出ることのできない部屋にあるたったひとつの窓から見た、
此処から果てまで続くとおいとおいそらのいろ。
どれもきれいで、そしてかなしい景色でした。
4/どこかのだれかのおはなし。
おねがい、
あたたかくつつんでください。
その誰かは、あったかいのが好きだと言いました。
小さくてもいいから"ぬくもり"が欲しいと言いました。
ホントはいつだって"ぬくもり"を持っているのに、その誰かはゼイタクなのです。
ずっと探してきましたが、どんなに頑張っても見つかりません。
持てるだけ持っているのに、これ以上は手に入りません。
いくら望んだって、他人の"ぬくもり"は自分のモノにならないのです。
無理なことを願うのは欲張りです。
叶うはずはありません。どうしたって、だめなことはあるのですから。
―――――― それでもその誰かは探し続けました。
わかっていたのかもしれません。
けれど、きっと自信がなかったのです。
抱えている"ぬくもり"が、本当に自分のモノであるという。
他の誰かが気づかせてくれるのか、それとも自分で気づくのか。
答えは、もしかしたらないのかもわかりません。
その誰かには、ただ探すことしかできないのです。
一生見つからないかも、今すぐ理解するのかも、確証は持てません。気づいてみないと知り得ないのですから。
人に会うと、その誰かは必ずこう訊くのです。
「あなたの"ぬくもり"は、どこにありますか?」
…………いつの日か、どこかのだれかが教えてくれるのかも、しれません。
5/ちいさなおとぎばなし。
さみしくないよ、
わらってあげて。
あるところに、一人の少女がいました。
彼女は悲しい時に泣いて、嫌な時には怒って、苦しい時には痛がって、でも楽しい時や嬉しい時には決して笑いませんでした。
笑うことのない少女には、友達ができません。
みんな変に思って、近づきたがらないのです。
家族も距離を置いていました。
少女が、怖かったのです。笑顔のない少女を、恐れていたのです。
誰も、寄りつこうとはしません。
だから彼女は、いつもひとり。
本当は寂しいのに、みんなわかってくれないのです。
自分を理解しようとしてくれる人を、少女は必要としていました。
ひとりでは哀しすぎます。
ふたりなら、きっと何とか耐えられます。
いろんな気持ちを分け合える"ともだち"がいてくれれば。
彼女はそう願って、それはすぐに叶うことになりました。
ある一人の少年が、少女のことをわかろうとしてくれたのです。
それは拙くて、ささやかなものでした。
でも、確かに、彼は近づこうとしてくれました。歩み寄ろうとしてくれました。
嬉しくて嬉しくて、でも笑えないことが悲しくて。
彼女は泣きました。
笑顔になれないから泣きました。
彼は、そばにいてくれました。
◇
ある日、少年は少女に言いました。
「いつか、絶対にきみの笑顔を見られるようにする」
その言葉通り、彼は頑張りました。
一時も離れずに、彼女が笑えるように。
◇
そうして、しばらく経って。
不意に、少女は微笑みました。今までの中で、初めて。
ふたりは喜んで、互いに笑い合いました。
何だか、これまでのことが嘘のようでした。
彼女は彼に言いました。
「ありがとう。あなたのおかげ」
彼は違うと言いました。
「きみが、きっと自分で望んだからだよ」
これは、ふたりで導いた結果。
◇
もう、少女から離れる人はいなくなりました。
少女が笑うと、みんなは幸せになります。
みんなが笑うと、少女は幸せになります。
―――――― きっとそれは、とても素晴らしいこと。
「しあわせって、いいね」
いつだったか、月の輝く夜、少女が少年に伝えた言葉です。
6/なみださがしのおはなし。
どこかにあるはず、
みつけたいもの。
ぼくには、さがしているものがありました。
あてもなく、ただひたすらに。
どこかにあることはわかっているのです。
でも、それだけ。
近いのか遠いのか、高いのか低いのか、ちいさな手掛かりさえありません。
見つけたいのは、なみだ。
昔にふとした拍子で失くしてしまい、行方のわからなくなった、ぼくのなみだ。
大切でした。でも、手離してしまいました。
失くしたことに気づいた時はもう遅くて、それから今まで必死に見つけようとしていました。ひとりで。
その頃には半ば諦めかけていて、探すこと自体をやめようとしていたのです。
◇
ある日突然、会ったことのない少女が現れました。
彼女はぼくの手を取って走り出します。
「どこに行くの」と訊ねてみても、答えは返ってきません。
これまで一度も通ったことのない道を、ぼくたちは駆けていきます。
たくさんの景色を過ぎ、ようやく彼女は止まりました。
そこは一面真っ白な世界で、ところどころに扉があります。それは地平線の向こう、ここからは見えないずっとずっと先まで続いているように思えました。
「ここには何もかもがある。あなたのさがしものも、きっと見つかるよ」
「…………うん、そうかもしれない」
ぼくは彼女の言葉を信じました。本当に見つかるような気が、しました。
◇
ふたりで、ぼくの失くしたものを探し始めました。
ひとつずつ扉を開けては、違うと知って閉める。その繰り返しです。
何度も何度も、様々な色や形や大きさをした扉に触れて。
そして、ついに見つけました。
どこにでもあるようなこの小さな扉の向こうに、ぼくのなみだはあるはずなのです。
でも。
開けるのは、なぜか躊躇われました。
大切だけど、本当に必要なのかどうか、本当にぼくが探していたものなのかどうかがわからなくなったのです。
「…………ぼくは、しあわせだから。だから、なみだなんて、いらないのかもしれない」
口に出してみると、ああ、確かにそうなんだ、ぼくはしあわせなんだ、と強く感じました。
―――――― それでいい、と思いました。
そっと、扉から手を離すと、彼女は心配そうな顔で。
「…………いいの?」
「うん。今は、なみだがなくても、いい」
「わかった。でも、いつかあなたが必要だと思ったら、ここに来てね」
彼女は笑いました。
だからぼくも、笑いました。
◇
これから先、ぼくが望むその時まで、なみだは拾わないまま。
でも、もう見つけてはあるから、彼女はあそこで待っているから、いつの日か。
また、ちいさな"なみださがし"をしよう。
7/さかいのおはなし。
まだこえられない、
このむこうへつづくみち。
僕の足はそこで止まりました。
ぴたりと地面に貼り付いて、頑なに動こうとしてくれません。
前に。前に。
気持ちはそうやって進もうとしているのに、どうしてもだめなのです。
僕は恐れていました。
まだ知らない、何も確かでない世界へと足を踏み入れることが、怖くて怖くて仕方なかったのです。
からだが、ふるえていました。
こころも、ふるえていました。
境界線のその向こうは、ずっと焦がれていたはずのところで。
なのに今は、果てしなく、届かないほど遠くに感じて。
こわい。
こわいよ。
いやだ。
もういやだ。
このままでもいい。
かわらないままでも、いい。
よわいこころが囁きます。
それに負けて、せっかく踏み出そうとした自分の足を戻そうとした時、
――― 声が聞こえました。
僕の背中を力強く、あるいは優しく押してくれる、そんな声が。
それはとても嬉しいことでした。幸せなことでした。
いつの間にか、震えは収まっています。
もう大丈夫、と小さく呟いて。
境を、僕は越えました。
この先に何があるかはわかりません。
悲しいことも、寂しいことも、辛いことも嫌になることも、全てがあるのでしょう。
それでも僕は歩こうと思います。
時には誰かの手を借りながら、精一杯、自分の足で。
―――――― 明日へ。
somewhere/きずあとのおはなし。
まだのこってるのは、
いつのころのいたみだろう。
目を閉じて、耳を塞いで、深い水底に沈みます。
静寂よりも痛い静けさ。呼吸のない不完全さ。
曖昧な意識と揺らめく景色。世界は笑えるほどに不安定。
こころがどこかにあります。
毎日、毎日、少しずつ。
何かを糧にして、受け止めて、拒絶して、空に伸び行くその姿。
カタチにならない、カタチを持たない、それでも確かに"そこにある"こと。
手探りで掴めるでしょうか。
触れると、逃げるように指からこぼれます。
抱きしめれば溢れるほど強くて。
こころがここにあります。
傷だらけで。
もう跡しかないもの。
まだ治りかけのもの。
中まで見えるくらい深いもの。
酷く爛れているもの。
どうして、それでも動いているんですか。
こころはどこにあるの?
引き裂かれるほどに。
壊れ砕けるほどに。
歪み叫びたいほどに。
いたい。いたいよ。いたいよ?
いつでも訴えてる。泣いている。
なのに、笑おうとする。覆い隠そうと。嘘であろうと。
こころはここにあるの?
きずはまだありますか?
きずあとはまだのこっていますか?
なくしていないのなら、わすれていないのなら、おしえてください。
そのいたみ、みせてくれますか。
こころは、ここにいてくれます。
/おわりのおはなし。
わたしのこたえ、
ここにあるよ。
色んなコトが、人によって違います。
しあわせのカタチ、叶えたい夢、大切なモノ。
持ち抱える色それぞれ。
ヒトの数だけ、在り方があるのです。
わたしには、わたしの。
あなたには、あなたの。
たくさんの道の中から、選べるのはひとつだけ。やり直しはできません。
必ず後悔もします。あの時こうしていれば、こうなっていればと。
でもそんなこと考えたって時間は戻らないです。
迷って悩んで決めたコトなら、それが後に如何なる結果を招こうともいいのだと思います。
此処に記したのは、私だけのモノです。
他人にどうこう思ってほしいわけではありません。
―――――― ただ、知ってほしいのです。
単なる我が儘ですが、どうか。
こんな人間がいて、こんなことを想ってて、世界の中で生きているのだと。
私のことを、ほんの少しでも。
此処に込める、ただひとつの願いです。
...somewhere,somewhen,something.
また、あなたの望むその時まで。
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