雪が舞う。白く、冷たく。 風が舞う。強く、厳しく。 両者は冬に招かれ、冬を織り成す。 冬の寒さは厳しくも美しい。 この都市では、その寒さも際立った。
『朝〜、朝だよ〜、あのヂャムの材料は『機密』なんだよ〜』 パチッ! 目覚し時計を止め、相沢祐一は起き上がった。 今日は学校が休みなので、ゆっくり出来るようだ。 「朝か」 祐一はそんなことを言いつつ、昨日の事を思い出していた。 [回想モード] (サクラ大戦に詳しい方は飛ばして読んでも構わないかも知れません) つい先日、戦闘があった時に転送された部屋に4人がいる。祐一、秋子、名雪、あゆの4人である。4人は巨大なテーブルを囲い座っている。 この部屋は「作戦司令室」と呼ばれていて、街の地下のある地点に存在している。 「では、第1話のエピローグ通り、降魔について説明します」 秋子が切り出した。 「降魔というのは、以前言った通り魔物です。『地ニ還ラヌ人ノ想イト 天ニ還ラヌ魔物ノ想イガ 異形トナリ降魔トナル』と『放神記書伝』にはあります」 「『放神記書伝』?」 祐一はその名前に聞き覚えがあった。幼い頃、祖父から何度か聞かされた名前だった。だが、その名前をどんな話題の時に聞いたかは覚えていなかった。 「それは後で説明しますね。降魔について分かっていることは、邪悪な存在であること。そのくらいです。生態系等の情報は一切不明。通常の兵器は一切通用しません。降魔を傷つける、消滅させることが出来るのは霊力のみです」 祐一は驚いた。自分がそんなモノを相手に戦ったということに、である。 「私達の目的は降魔の全滅です。この都市は守らなければいけません」 「どうしてですか?」 祐一は疑問に思った。何故「この都市は」守らねばならないのか。 「これからお話します。現在の首都・東京は江戸時代に呪術都市として完成しました。それは江戸を霊的に守るためです。四神思想から河の位置を変えたり、裏御三家を置いたりしています。裏御三家というのは『破邪の血統』という、魔を滅する力を持つ家系です。今では裏御三家の力は失われています。真宮寺家だけは長く保たれていましたが、十数年前に力を失いました。この都市には結界が張られています。この都市は首都からみて鬼門に位置しています。真宮寺家もそうでした。鬼門の守護は真宮寺家がしていたのですが、力が失われた以上、この都市の結界で守護するしかありません。だからこの都市は守らなければならないのです」 「分かりました。とにかく戦わなければいけないんですね」 「いえ、勝たなければいけません」 秋子が厳しい口調で告げた。祐一は緊張感に包まれながら、別のことを聞いた。説明されていない部分があったようだ。 「霊力って何ですか?」 「霊力というのは、あらゆるモノが持っている力です。どのようなモノでも持ってます。それこそ、植物や機械等もです。正確には『霊子力』と呼びます。太正時代のあたりには霊力を必要とする機関もありました。今はもうありません。さっき言った通り、この力でなければ降魔を倒すことは出来ません。しかも、それにはかなりの霊力を持っている必要があります。普通の人間では太刀打ちできないんです」 「俺達の霊力がそれだけ強いってことですか?」 「はい、降魔と戦えるほどに」 「………」 祐一は黙った。それに対する一つの疑問があった。 「なぜ、女性が多いんですか?」 戦闘メンバーのことである。秋子はどうなのか分からないが、祐一以外は女性しかいない。男は祐一、1人だけだ。 「メンバーはまだいますが、男性は祐一さんだけです。理由は、基本的に女性の方が霊力が高いからです。男性で祐一さんほどの霊力がある人はそうそういないのですよ」 「そう、なんですか」 「はい」 祐一は自分の責任の重さを感じた。前回の戦闘のとき、名雪は祐一が指揮すると言っていた。つまり、祐一は降魔という敵から、あゆや名雪を守らなければならない。しかもメンバーはまだいる。何人かは分からないが、人数が多いだけ責任は重くなる。 「祐一」 名雪が祐一に言った。 「あまり、責任とか気にしないで。元々危険なんだから」 「でも…」 あゆも言った。 「そうだよ、祐一君。危ないのは分かってるから、祐一君は祐一君の出来ることをしてくれればいいんだよ」 「……分かった」 祐一はうなずいた。 「話を進めていいですか?」 秋子が聞いた。 「はい」 祐一がこたえる。 「わかりました。では『放神期書伝』のことを説明しましょう。『放神期書伝』とは500年以上前に書かれた文書です。その抜粋のコピーを配ります。要旨もついてますので読んでみてください」 祐一はそれを読み始めた。500年以上前の文章にしては読みやすい。 (古文の授業の方ががよっぽど難しいな) など考えていた。 「この要旨だと400年後って書いてますけど、それっていつなんですか?」 「今から約80年前です」 「じゃあ、80年前になにかあったのですか?」 「はい、2つのことがありました。これは今回の話のメインになります。その前に、そこに書かれてある400年前のことについて説明しましよう。1524年、大永4年、河川浄化の法が行われました。内容は江戸川、荒川、多摩川の上流から聖水を流し、海を清め続けるというものでした。河川浄化の法が行われた理由は、その3年前、1521年、大永元年に北条氏綱が現在の東京湾にあった大和という国で『降魔実験』を行い、それが失敗したためです。『降魔実験』は文字通り『魔を降ろす』実験でした。実験の失敗により魔の力が暴走、北条氏綱は大和を江戸湾に封印しました。沈めたのです。そこに住んでいた3万とも5万ともいわれる人間と一緒に。北条氏綱はその後行方不明。河川浄化の法はその封印を確固たるものにするために行われたのです」 あゆと名雪は以前に聞いていたのでなんとも思わないが、祐一は違う。そのようなことがあったなどは知るはずがない。いや、知っていたとしても信じなかっただろう。しかし、降魔と実際に戦い、存在を認めている以上、この話も信じるしかなかった。 「では、その400年後、今から約80年前の話ですね。1924年、太正13年の始めに大和が復活しました。『山崎真之介』という人が『魔神器』を使って復活させたのです。『放神記書伝』には『泰平ノ終焉ノ事 人ノ世ノ終ワリ 地獄ノ始マリ』とありますが、その年に世界人口が激減したなどという話は聞いたことがありません。『帝国華撃団』がその事態を回避しました。帝都地下で建造していた全長8000メートルの空中戦艦ミカサを用いて大和を再び沈めたのです」 祐一はまた思い出していた。『帝国華撃団』という名も祖父から聞いたことがあった。祐一は聞いてみた。 「『帝国華撃団』というのは?」 「それはこれからお話しする『降魔戦争』にも関係するので一緒に説明します。『降魔戦争』の方が私達に関係があると思いますのでよく聞いておいて下さい。1915年、太正4年、帝都・東京に降魔が出現しました。文字通り、降魔との戦争です。この戦争は3年後、1918年、太正7年まで続きました。降魔戦争を戦ったのはわずか4人の人間です。『米田一基』、『真宮寺一馬』、『山崎真之介』、『藤枝あやめ』の4人が『帝国陸軍対降魔部隊』を創設して戦ったのです。3年間戦い続け、帝都放棄の決断の直前まで追い詰められましたが、降魔の本拠・日本橋に突入、『二剣二刀の儀』を行いました。しかし、『二剣二刀の儀』は失敗。『真宮寺一馬』が『魔神器』を使って降魔を封印しました。その結果、『真宮寺一馬』は3ヵ月後に死亡。翌年に『山崎真之介』が行方不明になり、『帝国陸軍対降魔部隊』は解散。『帝国華撃団』とはこの『帝国陸軍対降魔部隊』の後に帝都の呪術的防衛を行うために造られたのです」 「今は存在しないのですか?」 「いいえ、いまでも東京を守るために存在します」 「なら俺達は…」 「それとは関係ありません。この都市の結界は守らねばなりませんから。・・・ちなみに私達は『帝国華撃団・雪組』にあたります」 秋子は黙った。質問を待っているようである。祐一は聞いた。 「『魔神器』ってなんですか?」 「『魔神器』というのは力の増幅器のようなものです。名前の通り、魔の力、神の力のどちらでも増幅することが出来ます。今は東京の『帝国華撃団・花組』が守っています」 「どうして『降魔戦争』は起こったんですか?」 「一般的な説では、ミカサを建造した際に帝都の地脈が乱されたからとされています。この説はほぼ間違いないとされています。この都市では冬休みの少し前くらいから突然、降魔が出現するようになりました。原因は現在、調査中です」 「そうですか」 『放神記書伝』を読んで、祐一は別のことを考えだした。 「まさかとは思いますけど、降魔は『降魔実験』の失敗で暴走した魔の力とそのまま沈められた大和の住人の魂から生まれたんじゃないんですか?」 「それは確かだと思います。現存する資料の中に人と降魔が戦っているのを描いた絵があります。それは今から500年程前のものとされています。それ以前のものは存在しません。『降魔実験』の失敗と『放神記書伝』の内容、その他の資料から、祐一さんが言った説が最も有力です」 「わかりました」 祐一は思った。実際、何が分かったのか。突然、降魔やその過去について語られて、自分は戦う。ひどい話である。しかし、自分達以外は戦えない。あゆや名雪も同じように聞かされ、同じ事を思ったのだろう。そして、戦うことを受け入れ決意したのだ。 (なら、俺も…) 秋子は祐一の表情を見て、話し出した。 「戦闘に関することを話しましょう。降魔の種類についてです。現在、降魔は8種類確認されています。『万雷』『界雷』『烈風』『颶風』『閃光』『竜光』『驟雨』『稲妻』です。(ここで、降魔各種の説明が行われたのだが、あまりに長いため割愛。今後、戦闘に登場する度に説明させていただきます)………とりあえず、今回話すことはこのくらいです。何か質問等ありますか?」 祐一は何も聞かなかった。戦いへの決意が祐一に一言も発することを許さなかった。 「無いなら今日は解散です」 全員が立ち上がった。 [回想モード終了] (ちゃんと読んでくれた方、お疲れ様でした) 「休みだし、何するかな」 祐一は昨日の事を胸の内に留め、今までの日常を過ごそうとした。だが、休日をどう過ごしてきたか思い出すのに多少の時間を費やさなければならなかった。 祐一は一階に降り、リビングに入った。 「おはようございます、祐一さん」 「おはようございます、秋子さん」 祐一と秋子は挨拶を交わし、祐一は椅子に座った。 時刻は9時15分。祐一は秋子に尋ねた。 「名雪はまだ寝てるんですか?」 「はい。昨日遅くまで起きてたみたいですから、あと2時間は寝てると思います」 祐一は思い出した。 (確か11時くらいに寝たような…) 「12時間くらいがちょうどいいんですよ」 秋子が言った。 「………」 「どうしました? 祐一さん」 「やっぱり、俺、声に出してますよね?」 「いいえ、声には出してませんよ?」 (そうか、「には」か…) 祐一は納得した。悟りを開くのと同等のレベルかも知れない。 祐一はテーブルの上のビンに気がつき、手を伸ばした。中身はヂャムのようである。 「秋子さん、これジャムですか?」 不思議な色をしている。オレンジ、いや、黄色、うまく表現できない色だ。 「はい、ヂャムです。この間、祐一さんに勧めたものですよ」 祐一は思い出した。転校初日の朝、秋子が「とっておき」といったものである。 「ああ、言ってましたね。じゃあ、朝はこれいただいていいですか?」 「はい、かまいませんよ」 表情はいつもと変わらないが、秋子は心なしか嬉しそうにこたえた。 「だめだよ〜」 「おわっ!」 祐一の後ろに名雪が立っていた。眠いのか目は閉じたままである。 「どうした、名雪」 何がだめなのか分からないので、祐一は聞いてみた。 「………うにゅ」 「うにゅ、じゃない」 「こっちに来るんだお〜」 名雪は祐一を廊下に連れ出した。やはり、眠そうである。 「どうしたんだ?名雪」 「あのヂャム食べちゃだめ」 「何でだ?」 「だめだから」 「理由になってないぞ」 「どうなっても知らないよ〜」 「どういうことだ」 「言葉通りよ…」 「似てないぞ」 「うにゅ……おやすみ〜」 そう言って、名雪は2階に上がっていった。名雪はおびえているようだった。 祐一はリビングに戻り、再びテーブルについた。名雪の言ったことが気になっていた。あと2時間は寝ているはずなのに、起きてきた上に「食べないほうがいい」と言ったのである。 (やめとこうか…) 祐一はヂャムに対する不安を抱いた。名雪の行動はそれほどに強烈だったのである。 自らの早鐘を聞きつつ、祐一は勇気を振り絞った。 「すみません、秋子さん」 「はい?」 秋子は朝食の準備をほぼ済ませていた。 「イチゴジャム、ありますか?」 「ありますよ」 「今日はイチゴジャムにします」 「…そうですか。名雪に勧められたんですか?」 「はい、そんなところです」 秋子はどこか寂しそうだった。 祐一の早鐘が鳴り止んだのは朝食後30分経ってからだった。 秋子が言ったとおり、11時くらいに名雪は起きた。今度は朝みたく眠そうではない。 祐一は名雪に聞いてみた。 「あのヂャム食べるとどうなるんだ?」 「??? 何のこと?」 「何って、朝『あのヂャム食べちゃだめ』って言ってたことだ」 「私、ずっと寝てたよ。何言ってるの? 祐一」 名雪はそう言うと、朝食とも昼食ともつかない食事を取るため、リビングに入っていった。 祐一はちょっと早い昼食を名雪と一緒に食べた。名雪との会話については (無かったことにしよう) と決めた。 祐一は昼から外出した。行くあてもなかったので、とりあえず商店街に向かった。 「あ、祐一く〜〜ん」 祐一が商店街について間もなく、後ろの方からあゆが走ってきた。 今回は転んではくれないようだ。 「どうした、あゆ」 「どうもしないよ」 「そうか、じゃな」 「ま、待ってよ」 あゆは祐一の腕を掴んだ。 「何だ、あゆ。何かあるのか?」 「『何してるんだ?』とか聞いてよ」 「何してるんだ?」 「うぐぅ、棒読み…」 「わかったわかった。何してるんだ? あゆ」 「何か気になるけど…、聞きたい?」 「じゃあな」 祐一は歩き出した。あゆは慌てて追いかける。 「じょ、冗談だよ、祐一君」 あゆは何とか祐一を引き止めた。 「ボク、探し物してるんだよ」 「探し物? 何を探してるんだ?」 「…………」 「どうした?」 あゆは小さな声で言った。 「……ない」 「ん?」 「分からない…」 驚くべき答えである。自分で何を探しているのか分からないのだ。それもドわすれとかいうことではない。 「自分でも分からないものを探してるのか?」 「うん」 あゆの声はやはり小さい。 「でも、とても大切なものなんだよ」 「何か分からないのにか?」 「うん……」 祐一はあゆに言った。 「よし、どの辺なんだ?」 「えっ…?」 「俺も手伝ってやるよ」 「本当?」 「ああ、どうせ暇だったしな」 「うんっ!」 祐一とあゆは何なのか分からないものを探し始めた。 数時間後。 祐一がつぶやいた。 「ここ、どこだ?」 「えっ? 祐一君が知ってるんじゃ…」 「俺は7年ぶりにここに来たんだぞ。知ってるはずがあるかっ」 「うぐぅ、怒鳴らなくても…」 2人は見事に迷っていた。 「じゃあ、どっちに行くか直感で決めるか」 祐一が提案した。 「うん、いいよ」 あゆは賛成した。 「いくぞ、せーのっ」 「「こっち!」」 ………。2人は逆方向を指していた。 「…祐一君の方に行ってみようよ」 「いや、ここは『うぐぅ』の力を信じて、あゆの方に…」 「うぐぅっ!! そんなのないもん!!」 このような下らない問答(?)の末、祐一が突然歩き出した。 「えっ? 祐一君?」 「テキトーに行けば、どこかに着くだろ」 あゆは祐一を走って追いかけた。そして、つまづいた。倒れるあゆの目の前では祐一の姿が忽然と消失した。代わりに街路樹が姿を現した。 あゆは(今回も)転倒した。あゆの視界から予測できる通り、街路樹に激突した。 「えぐっ、えぐっ、祐一君がよけた〜」 あゆが鼻を押さえて半泣きで言う。 「条件反射で、つい」 「うぐぅ〜〜」 あゆがすねた。それを祐一がなだめようとしたとき、 ズササッ!! 「きゃっ!!」 祐一はあゆを見た。 ふるふる あゆはゆっくりと首を横に振った。 2人は恐る恐る後ろを振り向いた。そこには頭から雪をかぶり、尻餅をついている少女がいた。雪は木に積もっていたものが落ちたのだろう。あゆが激突したのが原因である。少女はの前には――買い物帰りだったのか――紙袋の中身が散乱している。 「栞ちゃんっ」 あゆがびっくりしながら言った。 美坂栞、祐一と同じ学校に通う一年生。美坂香里の妹。ちなみに祐一は二年生である。友人の亮にいがあゆに続き、年下趣味全開で気に入ってるキャラである。 「あ、あゆさん。どうしたんですか?」 「えーっと、大丈夫?」 「はい、平気です」 そう言うと、栞は散らばった荷物を集め始めた。 「手伝うよ。祐一君もっ」 あゆは祐一を促し、荷物を集めるのを手伝った。紙袋の中身が元通りになり、栞が言った。 「ありがとうございます。ところで、あゆさん、デートですか?」 「えっ? えっ? デッ、デート?」 あゆは照れて破顔している。 「違うだろ」 祐一はあっさり否定する。 「うぐぅ」 あゆがまたすねた。栞が少し笑いながら聞いた。 「あゆさん、そちらの方は・・・」 祐一のことである。あゆと栞は面識があるようだが、祐一と栞は本当に初対面なのだ。 「相沢祐一君だよ」 「この人がそうなんですか?」 あゆが答えるより早く、栞は祐一のほうに向き直り、 「美坂栞です。以後よろしくお願いします」 言って、ペコッと丁寧におじぎした。 「あ、ああ、よろしく」 突然だったので、祐一もつられておじぎした。 「この人が……」 栞がつぶやいた。が、2人には聞こえなかった。 祐一が聞いた。 「高校生だよな?」 「はい、そうですけど、…中学生に見えました?」 「え? あ……」 栞は中学生か高校生か、見る人によって判断が変わるような微妙な容姿だった。(栞の名誉のために言っておくが、高校生に見られることのほうが多い) 「気にしてませんよ。たまに言われますから」 「悪い。しかし、あゆよりも年上とは…」 「ボク、中学生じゃないもん!!」 あゆは反論する。 「そうですよ、相沢さん。あゆさんは小学生ですよ?」 「うぐぅ、違うもん!!」 「じゃあ、何歳なんだ?」 あゆは答えた。 「祐一君と同じだよ」 祐一が固まった。栞も同様である。 「本当か?」 「本当だよっ。それに栞ちゃんには、前、年齢教えたよっ」 「聞いたのか? 美坂」 「いいえ、聞いてません」 栞があっさりと答える。 「うぐぅ〜〜〜〜」 あゆがまたまたすねる。 ちょっと、やりすぎたかな?という表情で栞が言った。 「冗談です。あゆさんの年はちゃんと知ってますから」 栞があゆをなだめ始める。さすがに祐一もその輪(?)に加わった。 10分後、「すねる」を通り越して「いじけて」いたあゆのなだめ作業(?)が終了した。あゆはたいやき6つで手を打ったようだ。どうやら交渉になっていたらしい。 元気になったあゆを見ながら祐一は考えていた。 (安いのか、セコいのか) どうでもいいことだった。 祐一は一つの疑問を口にした。 「おまえたち、どう知り合ったんだ?」 2人のタイプが違い過ぎる上、祐一には知り合うような場所が思いつかなかったのだ。 「戦うんですよ、私」 今度は祐一だけが固まった。 「信じてませんね? でも、本当ですよ。私、こう見えて、結構強いんですから」 祐一は栞ではなく、あゆに聞いた。 「本当か?」 「うんっ!!」 あゆが元気良く答えた。笑顔のおまけ付きで。 「だから、よろしくお願いしますね」 栞の笑顔もついてきた。 「で、お2人は本当に何をしてたんですか?」 脱線してからかなり時間がかかったが、やっと本題に戻った。 「えっと、……」 あゆが悩む。たいやき6つは、あゆに自分が何をしていたのか忘れさせるのに十分らしい。 「探し物だろ」 祐一があゆの頭を軽く叩いた。 「うぐぅ、痛いよ〜」 延髄ではなかったので、あゆは覚醒している。 「ひどいよ、祐一君」 祐一は無視した。 「と、まあ、そういうことだ」 「つまり、デートなんですね」 栞が返す。 「違うっ!!」 「デ、デート?」 あゆは再び破顔した。そして、再び祐一に頭を叩かれた。 「うぐぅ、痛いよ〜〜」 あゆはまた無視された。今度は2人に。 「冗談です。…あゆさん、探し物はまだ見つかってないんですか?」 「うん……」 突然空気が重くなる。探し物が何かは分からないが、あゆの表情は見ていて辛いものだった。人はこのような状態があまり好きではない。 「とりあえず、今日は帰るか」 祐一が言った。空は紅から闇に染まりつつあった。 「探し物はまた今度手伝ってやるから」 「うん…」 あゆがうなずく。 「そうですね。今日は解散しましょう」 「でだ、美坂」 祐一が付け加える。 「商店街にはどう行けばいい?」 「はい?」 祐一は道に迷っていることを思い出した。 「だから、商店街に行く道を教えてくれ」 栞は今、理解したように言った。 「ああ、道に迷ってたんですね。なら、商店街まで案内しますよ」 「助かるよ、栞ちゃん」 3人が歩き出した。そこから商店街までは遠くなく、すぐに着いた。 「では、今度こそ解散ですね」 「ああ、そうだな。助かったよ、美坂」 「栞です」 「??」 栞の発言に祐一は頭の上に?マークを浮かべる。 「名前で呼んで下さい。名字だとなんだかこそばゆいです」 「そうか、俺も名前でかまわないぞ」 「分かりました、祐一さん」 「じゃ、またな、栞」 「ばいばい、栞ちゃん」 3人が分かれた。と思ったら、2人と1人だった。栞が1人で、祐一とあゆは一緒だった。 「帰らないのか? あゆ」 「ボクも一緒の方向だよ」 「そうか、じゃあな」 祐一は1人で歩き始めた。それをあゆが追う。 「あ、待ってよ、祐一君」 日が暮れて、商店街から3人の姿が消えた。 翌日、朝。 『朝〜、朝だよ〜、『百薬の長』って書いて『ヂャム』って読むんだよ〜』 パチッ! 目覚まし時計を止め、祐一は起き上がった。 今日から本格的に学校が始まる。 祐一は憂鬱を感じずにはいられまい。 「かったるい」 キャラが違った。面倒くさいだけのようだ。 登校中。 今朝はヂャムの出現もなく、平和な朝を迎えた名雪。有り余っているかの如く幸せそうである。非常に嬉しそうな名雪を見て、祐一も悪い気はしない。しかし、何故幸せそうなのかは、祐一には分からなかった。 学校に着くと香里が2人に声をかけた。 「おはよう、名雪」 「香里、おはよう〜」 「おはよう、相沢君」 「ああ、おはよう」 挨拶を済ませ、祐一と名雪は雑談に移行しようとしたが、香里がさせなかった。 「予鈴なるわよ」 名雪が腕時計を見る。 「あ、あと、3分しかないよ」 「なにっ!?」 3人は急いで校舎に入っていった。 授業中。 (3年になったら頑張る) などと祐一が思っていると、北川が祐一に言った。 「中庭に女の子がいるぞ」 北川は窓の外を見ている。 「ん?」 祐一も窓の外、中庭を見る。確かに少女が1人立っていた。顔は確認できなかった。 雪が降っていないとはいえ、外はかなりの寒さである。何をしているかなど分かるはずがない。 「少ししたら帰るだろ」 祐一が言った。 「それもそうだな」 北川も納得したようだ。その後は2人とも授業を聞いたが、祐一は集中してはいなかった。 まだ授業中。今は昼休みも終了し、この授業が終われば終礼である。 北川が驚いたように祐一に言った。 「おい、あの子、まだいるぞ」 「えっ?」 祐一は信じられずに中庭を見た。そこには確かに、午前と変わらずに少女が1人立っていた。 (何してるんだ?) 少女に帰るような気配はない。 授業が終了したと同時に祐一は教室を飛び出した。 「おい、相沢、まだ終礼が……」 北川が祐一を止めようとしたが出来なかった。 「すぐ戻るっ」 祐一はそれだけ言って廊下を駆けていった。 結論を言えば、祐一は終礼中には戻ってこなかった。 祐一は自分の方向感覚と記憶を駆使して中庭に辿り着いた。まだ学校の中を把握し切れていないようだ。 外はやはり寒かった。が、それでも少女は立っていた。 「祐一さんっ」 少女は驚いて言った。賢明な読者、というか「Kanon」を知っている者は分かると思うが、中庭にいた少女は美坂栞である。 「こんな所で何してるんだ?」 祐一が聞いた。 「祐一さんこそ何してるんですか?」 栞は答えずに返した。 「中庭にいる不審者の確認、しかる後、抹殺」 「そうですか、ご苦労様です」 あっさりと流す。 「で、何してるんだ?」 祐一が再び問う。 「中庭にいる不審者をやってました」 「そうか、ならここで斬り捨ててもいいわけだ」 ちょっと無理がある。 「えっと、捨てずにちゃんと弔ってくれるならいいですよ」 「…」 「で、何してたんだ?」 祐一の3度目の問い。 「いや、その前にどうして中庭にいる?」 「はい?」 栞は意味を理解していないようだ。 「確か、この学校の生徒だよな?」 「はい、そうですけど」 「なら、何故ずっと中庭にいるんだ?」 もっともな質問である。 「私、今日学校を休んだんですよ」 「サボりか?」 「違います」 「ここにいるっていうのはサボりだろ」 「違いますよ。私、病気でずっと学校に来てないんです」 さらりと怖いことを言う。祐一は聞きにくそうに訊ねた。 「どんな病気だ?」 「風邪です」 「は?」 「風邪です」 「も一回」 「風邪です」 祐一は安心したようにも、がっかりしたようにも見えた。 「なにか、がっかりさせてしまったようです」 栞はひらめいた、という感じで言った。 「流行性感冒です」 「風邪だろ」 「はい、風邪です」 栞は笑顔で答えた。ちなみに流行性感冒とはインフルエンザのことである。 「風邪引いてるやつがこんな所に来ていいのか?」 少しだが雪も降り出した。寒いのである。 「いいえ、よくありません」 「じゃあ、何で……、いや、何してたんだ?」 祐一は質問を変えた。いや、戻した。風邪を引いてまで学校に来たのだ。よっぽどのことなのだろう。 「ええっっと、人に会いに来たんです」 「誰だ?」 「それはヒミツです」 栞が可愛らしく言う。 「ヒミツって…」 「漢字で書くとこう…」 栞が指で宙に字を書こうとした。 「いや、それは聞いてない」 「そうですか、残念です」 栞はちょっとしょーんぼりしている。祐一はどうしたものかと思い、 「え、あー…、で、その人には会えたのか?」 「それもヒミツです」 「またか」 「漢字で書くと…」 「いや…」 祐一は止めようとしてやめた。さっきの二の舞は避けたかった。 「冗談です」 「へ?」 「漢字を説明しても仕様がありません」 「あ、ああ、そうだな」 話が途切れた。が、すぐに栞が言った。 「今日はもう帰ります」 「ああ、帰って休んだ方がいい」 「はい、それでは」 栞が歩き出す。やがて、祐一からは見えなくなった。 祐一は校舎に入った。教室に戻る途中、玄関付近で香里が声をかけた。 「相沢君、何してるの?」 「ん? 香里か」 「終礼、終わったわよ。石橋も怒ってたし」 「うっ」 (腹が痛くてトイレに行っていたことにしよう) さらに香里が付け加える。 「それに名雪、待ってるわよ」 この日の昼休み、祐一は名雪と一緒に帰る約束をしていた。 「あ、やばいっ」 祐一はそのまま教室へと駆け出した。 その後、祐一は名雪に 「うそつき」 と言われ、帰りに商店街の百花屋でイチゴサンデーをおごらされた。 またもや翌日。(今回は朝のやりとりは割愛させていただきます) さらに、いつの間にやら昼休み。これは作者の精神状態によるものである。 美坂栞は今日も中庭に来ていた。何をするわけでなく、立っているだけである。 祐一は中庭に出た。その前に教室で名雪に 「どこ行くの?」 と聞かれ、 「中庭」 と答え、頭の上に?マークを2つほど返されていた。 「寒くないか?」 祐一は尋ねた。 「寒いです」 栞が答える。昨日と変わらず、外は寒い。それはこの都市では当たり前のことだ。 「また来てたのか」 「はい」 「誰に会いに来てるんだ?」 「ヒミツです」 「・・・そうか」 昨日と同じ返答を、祐一は迷わず黙殺した。 栞が突然、聞いた。 「祐一さんは何してるんですか?」 「ん、俺は・・・」 祐一は答えられなかった。何故、中庭に出てきているのか分からなかったのだ。 「祐一さん?」 栞が不思議そうな顔で祐一の顔を覗き込む。 「昨日言ったとおり、不審者の見回りに来た」 祐一はなんとか取り繕った。 「昨日は切り捨てるとか言ってたような気がします」 「いや、気のせいだ」 「わかりました。そういうことにしましょう」 ここで祐一は栞に会った時からの好奇心を抑えられなくなった。 「栞、明日の放課後、暇か?」 「え、何でですか?」 「明日、どこか遊びに行かないか?」 「いいですけど・・・・・・」 「じゃあ、決まりだな」 「どこに行くんですか?」 「それは明日の昼休みに話そう」 「わかりました。・・・えっと、デートですか?」 栞が言った。が祐一はすぐに返答した。 「いや、一緒に遊びに行くだけだ」 「そうですか、わかりました。明日の放課後ですね」 「ああ」 そこでちょうど予鈴が鳴り響いた。 「今日はこれで解散だな」 「はい、解散です」 祐一は教室、栞は家へと向かった。 祐一の好奇心、それは美坂栞が時折見せる、哀しみを秘めた瞳の原因を知りたいということであった。祐一自身は自らの好奇心に気付いていなかった。分かっていたのは好奇心ではなく、栞を理会したいという思い、仲間として分かり合いたいという思いであった。 一方で、栞の方もある思いがあった。祐一から誘われたことは嬉しかった。しかし、恋愛感情とかへの期待はほとんどなかった。相沢祐一という人間がどのような人物なのか知りたかった。祐一に全てを任せてもいいかどうか、ということを判断したかった。 翌朝。 『朝〜、朝だよ〜、お母さんの年齢は『ドスッッッ』………』 パチッ! 目覚まし時計を止め、祐一は起き上がった。 この日の祐一の動きは素早かった。目覚めて数分でリビングのテーブルについていた。 「今日は何かあるんですか?」 挨拶を交わした後、秋子は祐一に尋ねた。 「どうしてですか?」 祐一は聞き返す。 「今日の祐一さん、何か嬉しそうに見えるんですよ」 「嬉しそう、ですか」 祐一は今の気持ちを考えてみた。 (「嬉しい」っていうのとはちょっと違うような…) 祐一は悩み始めてしまった。今の気持ちをどう表現すればいいのか。 (何だ? この気持ち) 「…祐一さん」 祐一が悩んでいる間、秋子は何度か祐一を呼んでいた。 「なんですか?」 「朝食、出来ましたよ。冷めないうちにどうぞ」 祐一の前には朝食が並べられていた。 「はい、…あ、名雪はまだ寝てるんですか?」 「さっき起こしましたから、もうすぐ降りてきますよ」 「そうですか」 そう言って、祐一は朝食を食べ始めた。 「今日の祐一は何だか嬉しそうだね」 登校中、名雪が祐一に言った。 「何かあるの?」 殺人的な可愛さの笑顔である。 「え、あ…いや、何もないぞ」 祐一は名雪から顔をそらしつつ答えた。やや赤面している。 「ほんとに〜?」 名雪が祐一の顔を覗き込みながら言う。いま、確実に名雪の小悪魔度が上昇しているだろう。 祐一がどうしようかと思案していると救いの手が差し伸べられた。 「何してるの? 2人とも」 美坂香里が冷めた目、冷めた口調で言い放つ。それを気にせず名雪は挨拶した。 「香里、おはよ〜」 小さく溜め息をついて香里は応えた。 「おはよう、名雪。朝から仲がいいわね」 「え? 違うよ〜。祐一が教えてくれなんだよ〜」 名雪の答えを香里はテキトーに流した。 「そ。それより遅刻するわよ」 そう言って香里は1人で校舎に入っていく。 「あ、待ってよ、香里〜」 名雪が駆け出す。 「待て、2人ともっ」 遅れて祐一も駆け出した。 (長い…) 祐一は思った。 祐一は昼休みまでの時間が普段より長く感じられた。 (早く…) 時間を相手にしても仕様がないのだが、今の祐一にはそんなことは気にならないようだ。 (早く、早く…) (………) (………) (……知りたい) 祐一の思考が止まった。 (知りたい? 何を?) その答えは出ないまま、昼休みになった。 「祐一、昼休みだよっ」 名雪が祐一に向かって言ったが、祐一はすでに教室にいなかった。 祐一は中庭に通じる扉を開けた。外から冷たい空気が流れ込む。 祐一は中庭を見渡した。が、栞の姿を見つけられなかった。 (……) 祐一の思考が停止した。 いや、止まりかけただけだった。栞の姿を確認することに成功したのだ。 栞は普段より少しだけ遅れてきた。 「はあ、はあ、……ふう。遅れてすみません」 走ってきた栞は息を整えていった。 「いや、俺も今来たとこだ」 この言葉は事実だったが、セオリー通り(?)の台詞でもある。祐一はわずかに赤面した。 「本当ですか?」 「ああ、本当だ」 「なら、よかったです。この寒い中、待たせちゃってるんじゃないかと心配だったんですよ」 栞は安心してに言った。が、祐一の答えは、 「それは大丈夫だ。そのときは待たずに教室に戻るから。そうなったら、この寒い中で俺が気付くまで待っててくれ」 「そんな事いう人嫌いです」 栞がぷくーっと頬を膨らませて言った。 「悪い、悪い、冗談だ」 祐一が栞をなだめる。 「で、放課後はどこに行こうか?」 2人は木の下に座って話し始めた。 「祐一さんが知っている所にしましょう」 「俺が知っている所?」 「はい」 祐一は考える。 (……………) 答えが出たようだ。 「俺の知っている所ね」 「はい」 『祐一くんの答え』 「商店街、学校、居候先の家」 以上。 「それだけ…ですか?」 「ああ、自慢じゃないがそれだけだ」 祐一は自分の胸を叩いて言った。 「というわけで、栞の知っている所にしよう」 今度は栞が考える。 「栞は原住民だからな。期待してるぞ」 「原住民だなんて、そんな言い方ひどいですー」 栞はぷくーっと頬を膨らませた。 栞の考えがまとまった様だ。 「やっぱり今日は、祐一さんの知っている所にしましょう。私が知っている所は、また今度にします」 「分かった。なら…商店街だな」 祐一くんの答えの中で唯一行ける所だった。 「はい、商店街にします」 デート(祐一は否定)の行き先が決まった。 現在は昼休み。祐一は空腹であった。 「学食で昼飯買ってくるけど、何か食べるか?」 祐一は栞に聞く。 「バニラアイスがいいです」 「はい?」 祐一は思わず聞き返す。 「バニラアイスがいいです」 栞は同じ言葉を繰り返した。 「この寒いのにアイスを食うのか?」 「はい、私、アイスが好きなんです」 祐一はしばし沈黙し、 「分かった。買ってくる」 と言った。 その後、祐一は購買でバニラアイス(当然、カップである)を2つ(自分と栞の分である)買った。 中庭で祐一と栞はアイスを食べたが、寒さのために祐一は『冷たい』ということ以外は覚えていなかった。 『あっ』(もちろん、某大王風に) 放課後になった。祐一は昇降口に向かう。 昇降口には香里がいた。 「今日は何かあるの?」 香里が聞いた。 「ああ、ちょっとな」 「そう」 祐一は靴を履き替えて言った。 「じゃあな、香里」 「ええ、さよなら」 祐一は外に出て行った。 香里はどこか疲れたような表情だった。 中庭で祐一は栞を合流した。栞は昼休みの後、一度、家に帰って出直してきたようだ。さすがに寒かったのだろう。 「さて、行くか」 「はい」 栞が応える。祐一は一言付け加えた。 「言っとくが、デートじゃないからな」 「ふふ…、はい」 栞が可愛い笑顔で言った。 二人は商店街に到着。平日だが、結構、人がいる。 そして、栞の第一声。 「わあ、人がたくさんいますね」 栞は楽しそうだった。祐一は聞いてみた。 「楽しいか?」 「はい、たくさんの人を見てると楽しいです」 そんな栞を見ながら、祐一は聞く。 「で、どこに行こうか?」 「そうですね…」 栞は考える。…と、栞の視界にある店が入ってきた。 「私、あそこに入ってみたいです」 栞が指差した先、そこは、 「ゲームセンター?」 だった。 「はい、私、入ったことないんです」 「そうか、なら、行くか」 「はい」 2人はゲームセンターに向かった。 「栞はどんなのがしたいんだ?」 「簡単なのがいいです」 栞の言葉に祐一は店内を見渡す。 (あれだな) 祐一は発見した。栞を連れて、その前まで移動する。 「これなら栞でも大丈夫だろ」 祐一と栞の前にあるもの、それは 『もぐらたたき』 であった。祐一は栞にやり方を説明する。 「それなら私にも出来そうです」 栞がハンマーを構える。祐一が硬貨を入れる。 レトロな音楽と共にゲームスタート。 数十秒後。 結果………0点。 祐一の感想。 「俺、0点なんて初めて見た」 「そんな事言う人、だいっ嫌いです」 栞はぷくーっと頬を膨らませて言った。(作者の勝手な考えだが、某女神さまは1回も叩くことなく0点を出しそうなのだが、どうだろうか) 2人はゲームセンターを出て、商店街を歩いていた。 栞がストールを羽織り直す。祐一が栞に言った。 「何か食べるか?」 「はい」 笑顔の栞が元気良く頷いた。 (その笑顔の向こう側に………何があるというのだろう) 祐一はそう思いつつ、栞と百花屋に向かった。 夕暮れ。もう辺りは大分暗くなっていた。 「今日は楽しかったか?」 「はい」 祐一はさらに言う。 「特にもぐらたたきが面白かった」 「全然面白くないですー」 栞は続けた。 「祐一さん、またデートしてくれますか?」 祐一はこたえる。 「デートじゃなかったらいいぞ」 「わかりました。約束ですよ?」 「ああ、約束だ」 「…今日は解散ですね」 「そうだな」 2人は商店街の入り口にいた。 「ばいばい、祐一さん」 栞は少し恥ずかしそうに言った。 「またな」 2人は帰路に着いた。 祐一の好奇心は満たされなかった。「笑顔の向こう側に何があるのか」 栞は、祐一が信頼し得る人間と判断した。「あの人なら、きっと…」 祐一は水瀬家に着いた。家に入ると名雪が迎えた。 「祐一、おかえり〜」 「ただいま」 「遅かったね、何してたの?」 「ん? 秘密だ」 「え〜」 名雪は不満そうだ。が、すぐに表情が戻った。朝のように小悪魔にはならないようだ。 「晩ご飯、もうすぐできるって」 「ああ、分かった」 祐一は着替えるために2階に向かう。と、 ヴィーッ!! ヴィーッ!! ヴィーッ!! ヴィーッ!! 警報が響いた。数秒後、そこに祐一の姿は無かった。 作戦司令室。そこには5人の姿があった。祐一、あゆ、名雪、秋子、そして前回欠席の栞。 栞の戦闘服のメインカラーはイタリアン・ローズ(星組仕様である)。 秋子が現在の状況を説明する。 「降魔の出現場所は祐一さん達の通っている高校。数は7体です」 「祐一君たちの学校…」 あゆが心配そうに言う。 「時間が遅かったため、生徒は帰宅したようです。負傷者はいません」 秋子が現状を付け加えた。その言葉に、皆、安心したようだ。 「今回から栞さんが戦線復帰します。祐一さん、お願いしますね」 「はい」 祐一は力強くこたえた。 「よろしくお願いしますね、祐一さん」 栞はペコッと丁寧におじぎをした。 「それでは、全員出撃して下さい」 全員が立ち上がり、 『了解っ!!』 月光の下、学校の雰囲気は昼間とは全く違うものとなる。 冷たい風が吹く。夜というだけで、その冷たさは一層際立つ。 校門の前に薄い4つの影があった。 「よし、行くぞっ!!」 祐一の言葉に全員が戦闘体制をとる。 栞はあゆ同様、武器を持っていない。が、今回は祐一は気にしなかった。 4人は校庭に入っていった。 ……………………… ……………………… ……………………… 「うぐぅ、…いないよ」 「祐一、降魔いないよ〜」 「どうしたんでしょうね?」 3人は口々に言う。 降魔は1体もいなかった。しかし、出現地点は間違いなく学校である。 「どういうことだ?」 祐一も疑問を口にした。 ザアアアアアアアアァァァァァァァッッッ!!!!!! 風が舞った。 (ッ!!!) 祐一のみが気付いた。風と共に殺気が舞ったことに。そして、その殺気はすでに消えていた。 (消えた?) 祐一は辺りを見回したが、もう何も感じられなかった。 「お母さん、どうなってるの?」 名雪が通信機で秋子に聞いている(ちなみに通信機とは、第1話であゆが使った、胸につけるバッジ状のものである)。 「そのことなのですが…」 秋子は全員の通信機に返答した。 「皆さんを転送した直後から、降魔が次々と消滅していったのです。全員が校庭に入った時には7体全て消滅しました」 「どうしてか分からないんですか?」 「そうですよ、どうしてですか?」 祐一と栞が聞いたが、 「すみません、分からないんです。そちらは他に異常はありませんか?」 「特には…」 秋子の返答は全員の持つ疑問を解消出来なかった。 「とりあえず、もう大丈夫なんだよね?」 あゆが誰に聞いたのか分からない言い方で言った。全員に言ったのかもしれない。 秋子が答えた。 「はい。今回はもう危険はないと思うので、全員転送します」 と、栞が突然言った。 「カーテンコールはしないんですか?」 しかし、名雪が、 「勝利してないからね」 あっさりと答えた。 「えう〜、残念です…」 秋子がもう一度全員に伝える。 「全員転送します」 夜の学校には誰の影も無くなった。 水瀬家のリビング、全員揃ってのティータイム。微笑ましい光景である。 あゆが祐一に質問している。 「祐一君、前の出撃の日、商店街で栞ちゃんと何してたの?」 名雪の笑顔が小悪魔に見えた。祐一は多少バツが悪そうにこたえる。 「見てたのか………、デートに見えたか?」 「ううん、見えなかった」 あゆは即答した。 「仲の良い兄妹って感じだったよ」 「そうか」 あゆの答えに祐一はちょっと複雑な表情でこたえた。栞は特に気にしていないようだった。 (私、頑張ります) 栞は強く思った。 「祐一さん、これからよろしくお願いします」 ペコッと丁寧におじぎした。 「ああ、よろしくな、栞」 (俺がみんなを守るんだ) 祐一の思いを感じたのか、皆の笑顔は普段より輝いていた。
次回予告 ものみの丘。そこには妖狐が棲むという。 過去に負った心の傷に囚われている2人の少女。 少女たちは何を求めているのか。 Kanon大戦、第3話「哀しみの妖狐」
<あとがき> ふぅ、紫月<SaKuLa/SaKuRa>です。 実はこの<あとがき>、第1話と第2話は同時に書いております(裏事情なので皆にはナイショですよ?)。 この第2話は8ヶ月くらい前に書き終えたものです。(大戦に詳しい方は〜)を飛ばすと何もない話です。いや、もとから何もないのかもしれません。まあ、くよくよしても仕様がありませんのでその辺には目をつぶってもらって。 第2話はまたSSらしくなく長い…。でも気にしません。それが作者です。 Kanon×サクラ大戦というのは、ネタがなかったから出来上がった構図なのですが、こんなに長くなる作品になるとは。作者はちょっと泣きそうです。Kanon大戦はまだまだ続きます。現在、第3話を執筆中です。皆様、最後までお付き合いくださいね〜。 (ちなみに、どうでもいい話。作者はサクラ大戦では、かえで・かすみ萌え) 第1話へ 第3話へ
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