きゃんでぃ・ぐらふぃてぃ #Side A 雨なのに朝から学校があると思うと憂鬱である。というか校則、いやむしろ法律で雨天中止になるべきなのではないかと思ってみたりもする。何か影響力のある御仁の働きかけで強制的にどうにかなるまいか。 …一人そんな方が近くにいることを思い出したので今の考えは無かったことにしようと思った。そんな平日の朝。完。 いや、完じゃないっつの。さすがに出席状況がまずい気がするんだよな。つか昨日教室で机ジェンガやって鬼浅間にまた目つけられたばっかだし…。あー、だりぃ。 しとしとと雨の音が聞こえる中制服の袖を通す。むしろ俺の心が雨模様だ。 てきとーに顔を洗う。これまたてきとーに歯を磨く。これすらだるいわけであるのだが。しゃこしゃこ歯を磨いてても外ではしとしと。むしろざーざーに変化してきた。うわー、超だる。 だが鬼浅間の怒りを鎮めるにはこんな雨は役にたたないのだ。この桜井舞人という人身御供がなければかのものは鎮められない。鬼浅間様! たたり神なんかにならないでっ、などと言いたいところなのだがあやつは最初からたたり神なのである。げにおそろしや独身の体育教師よ。 『今日の占いチェック』 現実逃避をしていたら番組終わりの占いになっていた。…行くか。 テレビを消し、軽い鞄を持って玄関へ。あぁだるい。音的に凄まじいのでかなりの雨なんだろうが、俺は長靴なんて持っていない。ま、持ってても履かないけど。 少しは濡れるのだろうが傘差せばまぁ安心だろう。カムヒア、アンブレィラ!(素晴らしいほどの巻き舌) あれ? いつもは申し訳無さそうに玄関においてあるマイアンブレィラはどこですか? 少しくたびれながらもがんばっていたアンブレィラはどこですか? いや、まて。言い方が悪かった。お前はアンブレィラなんかじゃなかった。さあ、出ろーーーー! パラソーーーール! …なんでこんなにテンション高いんだ俺は。パラソルが見つからなくてパラレルにもなるよそりゃ。 くっ。そんな俺の心なんて無視ぶっこいて雨の音は一段と強くなってくる。どうにかして外へと出ない方法を考えても見るも、さすが雨というべきかマイブレーンは見事に湿っていた。 観念して、水もしたたるいい男桜井舞人をプロデュースすることにした。 玄関の重い扉を開けると家の中にいた時とは比べ物にならない雨の音。スコール、というほどではないが傘も差さずに学校へいった暁には上から下まで濡れつくすことだろう。この周辺にコンビニを建てようとしない企業戦士共を呪ってみたりするのも世の道理だろう。 「せんぱいせんぱい。どうしたんですかそんなこの世の終わりみたいな顔してー」 「…今の俺様は今までのような知恵者ではないのだ。愚者という名の雨が我が燦然たる知識を削ぎ落としていくかのようだ…。ということで貴様は俺に傘を貸してもよい」 「何をたわけたことを言っているんですか。雪村だって傘は一つしか持ってないですよー。雨の中に一対の男女。傘は一つ。あぁ、これは神の与えたもうた恵の雨か。というわけで一緒に差せば怖くない、ということでよろしいのでは」 「…まぁ、それで妥協してやらんこともない」 さすがにこの雨の中を傘も差さずに登校する勇者ではない。そんなわんぱくなことは和人にでも任せて置く事としよう。いや、だがそんなことをすれば和人は和観さんという名の主婦に体ごと洗濯機という名の拷問にかけられるんだろう。 「先輩なんか顔が青いですよ?」 「青いのは貴様の尻だけで充分だこのやろう」 「な、何を言ってるべさ先輩!!」 「おいこら、傘を振り回すな。濡れるだろうが」 「す、すいません」 シーモネーターになったつもりはないのだが、雪村は過剰な反応を示す。昔からそーゆーネタに弱いんだよなこいつ。 「雨なんて久々ですねー」 「確かにな」 「でもまぁ、たまにはいいじゃないですか」 「降るなら降るでちゃんと俺に伝えてから降れと言いたいがな。よりにもよって傘が無い時に降るなんて雨の風上にも置けん」 「相変わらず無茶言いますねー」 雪村の反論は雨で聞こえなかったふりをして足を進める。 傘が小さいせいでびみょーに肩が濡れるがまぁ、仕方が無い。これで傘差さないで突き進んでいたらもっとひどいことになっていただろうからな。 「せんぱいせんぱい」 「なんだ」 「つかぬことをお伺いしますが…」 「そう思うなら質問するな」 「うわー、冷たいですねせんぱい」 「クールなことで図書室のお姉さま方にも大評判だからな」 むしろあの人らがうるさすぎてクールにもなりたくなるだけなんだけどな! 「うわー、図書室で変な行動とってた人の台詞とは思えませんねー。かっこいー」 「うるさいぞバカタレ。で、なんだ。質問の内容を要約して50文字以内で述べよ」 「…いえ、なんでもないです」 「なんだそりゃ」 妙に小さく消え入るような声の雪村。もうちょっとやかましくマシンガンのようにまくしたてるのかと思うと拍子抜けだった。なんだこいつ。 「…」 「おい、どうしたんだよ」 「あー、じゃあ質問しますよ。先輩は雪村のことどう思いますか? え、大好きですって? うわー先輩。こんな人様の往来が激しいところで何を言うべさ! でもそれが先輩のあ・い♪ きゃっ☆」 「黙れ妖怪口からマシンガン」 「きゃぅん」 気のせいだった。やっぱり雪村は雪村だ。とりあえず髪を掴んで黙らせておいた。 「あ、すいません。雪村はここまでです」 「は? 俺に濡れろというかこのやろう」 「すいません」 確かにもう学園は目と鼻の先である。っつーか校門前。色とりどりの傘どもが学校の中に吸い込まれていく。 「ああ、友達でも待ってるのか」 「は、はい。すみません」 「まぁ、それならしょうがないか。ここまで朕を送り届けたことは誇りに持ってよいぞそなたは」 「はい。雪村は幸せモノです」 「うむ、苦しゅうない」 平安貴族のように(実際を見たことはないが)優雅に別れの挨拶をこなし、傘から出ると同時にダッシュ。見事学園へ辿り付くというミッションを遂行した勇者の誕生だ。ミッション:水もしたたるいい男は達成率10%にしかならなかったが、これは100%にいってしまうと世のXX染色体の人間が目眩を覚えてしまうので良かったのではないのだろうか。ちなみに50%にたどりついた場合、俺は家に戻ってしまうので要注意なのだ。 「おーっす舞人。あれ、何で濡れてないん? お前この前学校に傘忘れていったじゃん」 教室に入るなり山彦が声をかけてくる。おそらく濡れた俺をバカにしようとでも考えたのだろう。しかし、甘い。甘すぎる。 「愚かなやつだなお前は。私くらい気位が高くなると雨のほうから触れるのをためらってくるというわけなのですよ」 「や、でもちょっと濡れてるよさくっち」 「ちなみに雨の中にも気位の高いものというのはいるわけであり、その者たちは私に謁見、つまり触れることを許されるというわけですよ」 「へぇ。じゃあ私濡れなかったからさくっちより上の位だね」 「これだから下賎の輩は…。貴様はゴキブリに触れたいと思うか? いや思わないだろう。ムカデやヤスデに触れたいと思うか? いや思わないだろう。つまりそういうことです」 横から偉そうに口を出してくる八重の字にはそう返しておく。 「そ。あ、ヤマ、今日の数学の課題やった?」 「あー、やってないよ」 「見せてあげる」 「おー。八重樫さんありがとう」 「…あのすいません。八重樫のつばささん。私メにもその数学の課題とやらを見せてくれませんか?」 「や、私みたいなゴキブリのノートなんて高貴な桜井くんには相応しくないから。はいっ、ヤマ」 にやり、と勝者の笑みをこちらに向けながら山彦へと数学のノートを渡す八重樫。 「ふん。冗談を冗談と受け取れないやつは出世できないんですよー、だ」 「や、さくっちよりは出世出来る自信あるから」 ああ…。なんか負けた気分です母上どの。窓の外の雨模様みたく私の心も雨模様。 「ねぇ、さくっち。私のでいいなら見せてあげようか…?」 「おお、誰かは知らないが雲の隙間に射す太陽のようなお人は誰だ?」 振り返って見ると星の字だった。まぁそこらの有象無象の男からは本当に太陽みたいな扱いなんだろうが。 「ないす星崎。このご恩、しばらくは忘れません」 具体的に言うと、数学の時間が終わるまでは。 「いえいえ。どういたしましてっ。はい」 「よくやった」 ノートをひったくるようにとって、中身を写しはじめる。中々綺麗な字で読みやすい。女の字ってなんでこう綺麗なんだろうな、とか考えながら写す。無論、理解なんてしてないがな。 「ねぇ、さくっち…」 「なんだ?」 「ううん、なんでもない」 「ノートを貸してくれたお礼として質問を許可しましょう。質問の内容を要約して50文字以内で述べよ」 …雪村にもそんなことを言った気がするけど気にしない。 「…今日さくっちどうやって来たの?」 「いや、どうやっても何も歩いて来た以外に何があるのかと」 「う、うん。そうだよね」 「お前、あほだろ?」 「あー、ひどーい。そんなこと言ったらノート見せてあげないんだー」 「すみませんすみません。聡明な星崎希望様。どうかそれだけはご勘弁願えませんでしょうか」 「えー、どうしよっかなー♪」 くっ、このアマ…。妙に楽しそうにしやがって。こちらがいつまでも下手に出ていると思ったら大間違いだぞ。 「すいません。お願いですから見せてください」 K1あけぼの。ようよう弱くなりゆく。的なぐらい超弱いです俺。 「はい」 星崎の楽しそうな声色は俺のプライドをがしがし削っていく。だが、プライドを削ってでも生き延びなければならないときというのは多いのだ。(課題提出の時とか) 「…それもこれも全部雨のせいだな」 「…うん、そうだよね。雨降ってなかったらいいのにね」 「おい、何でお前が同意する」 「え? あははっ。なんとなく、かな?」 「いや、疑問系で返されても」 「いいのっ、気にしなくて」 「あー、席につけー」 いつものように万年ジャージの鬼浅間が教室に入ってくる。雨だというのにお構いなしで暑苦しい。湿度も加わって不快指数が上昇するのであった。 たーん とぅ Side B
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