時は平日、土曜日。帰りのHRが終わってすぐ。 生徒はすぐに帰ろうとせず、みな思い思いの雑談にふけっていた。 この二人の男子生徒も例外ではない。 「おい、北川。金貸しやがれ」 「嫌だ」 「小さい男だなお前は」 「お前より5センチは高いと思うが」 「だれが身長の話をした。人間の器だ」 「それなら圧倒的な支持を得て俺の勝ちが決定してると思うが」 「待て。それは誰の投票だ」 「オレ」 「その時点で公平さがゼロだ」 「なんなら勝負するか?」 「よかろう」 何故か勝負することになった祐一と北川。 そのまま昼休みにクラス会議で投票が行われる。 結果。 「な、何故だ・・・。何故オレが北川ごときに」 「ほら言っただろう」 うなだれる祐一。勝ち誇る北川。 「おい、貴様ら俺のどこがちっちゃいというんだ!?」 黒板の上に立ち、問いかける祐一。 祐一の後ろの黒板には「正」の文字がいくつか書かれている。 それが表しているのは祐一の圧倒的な負け。 その不満を投票権を持っていた人にぶちまける。 「そういうとこ」 「・・・!」 男子の一人から即答され、言葉につまる祐一。 さらに従兄妹から追い討ちがかかる。 「そうだよ。祐一は私がちょっと起きないだけですぐ叩くもん」 「そ・れ・は!お前が起きないからだろうが!!」 祐一は先の言葉の主の水瀬名雪の肩をつかんで揺らす。 実際、彼女はかなりのねぼすけであり祐一はよくがんばっているほうで あった。 しかし、そこまでの寝坊をする人物だと知らないクラスメイトの視線は冷たい。 「うわっ。水瀬さんを叩くのかよ。ひどいな相沢」 またも違う男子からの非難の声。 うんうんとうなずく名雪。 教室内ではアンチ相沢の声が増えていた。 「くそぅ。じゃあ北川はどうなんだよ」 自分の援護が無いと悟ったので北川のあら探しをする祐一。 だが以外にも北川への評価は好意的であった。 「北川くんやさしいよねー」 「うんうん。あいつ話しやすいしなー」 男子・女子問わずに高評価。 自分と同じく馬鹿をやっている北川と自分とへの評価が分かれるとは思っていなかった ため、祐一は愕然としていた。 「ま、まあ元気だせよ相沢」 かなりの差に驚いたのか対戦相手であるはずの北川から慰めの言葉がかけられた。 「うるさい!見てろ!来週までにはスケールのでかい男になって帰ってきてやる!」 肩におかれた北川の手を振り払い。教室を出て行く祐一。 「キレるのは小さいことの証明よ、相沢くん」 出て行く瞬間に学年一の才女、美坂香里に追い討ちを食らい、さらに傷が深くなった。 家に帰った祐一はどうやったらスケールの大きい男になれるか考えていた。 山に登る。行くところのスケールがでかいだけ。没。 名雪をひたすら優しく起こす。遅刻大幅増。没。 名雪を優しく起こし、起きなかった場合はおいていく。名雪から非難。またもクラス メイトの評価ダウン。没。 何をされてもニコニコ笑い続ける。精神衛生上良くない。没。 栞がつけているやつ。ストール。そろそろ考えがやばい。 今飲んでいる缶コーヒー。スチール缶。どうでもよい。 結局考えはまとまらなかった。 「ゆういちー?いるー?」 水瀬家居候2号の沢渡真琴から声がかかる。 祐一はとりあえずみなに対して寛大な心を持とうと決心した。 月曜日。週の始め。皆休日が終わりだるい顔している。 その1時間目の始まる前に祐一は黒板の前に立ち、ひとりテンション高く 語りだした。 「俺はこの休日を挟んででかい男になった!再び投票を要求する」 「おいおい、そんな短期間で変わるかよ」 祐一の弁に突っ込みを入れるのは対戦相手である北川。 確かにこんな短期間にビッグになれるなら苦労はしない。 「よかろう。では俺のでかさを教えてやる」 祐一は黒板を叩き、指を一本立てる。 「まずは一つ目。居候が俺の買ってきた肉まんを食いたそうにしてたので一口分 分けてやった」 そのまま勢いでしゃべり続ける。 「二つ。土曜日の夕飯後のデザートで一つあまったミカンを譲ってやった」 「三つ。おれがうんこしたい時に便所で漫画読んでるヤツがいても我慢してやった」 「四つ。コンビニの募金に百円玉を入れた」 「ラスト。今日の朝、名雪を起こす時に鼻をつまむだけで勘弁してやった」 「さあどうだ!!」 一気にまくしたて、はあはあ息を荒らげる祐一。 美坂香里が投票を開始する。 「・・・はい。挙手してください。相沢くんが大きい器の人間だと思う人?」 手の数、ゼロ。 「全員一致で北川くんのほうが大きな人間ということになりました」 またも慌てる祐一。 「ちょ、ちょっと待て。まだあるんだよ。雑誌を立ち読みせずに買ったとか、 ちょっと奮発してブルマン飲んだとか、コンビニで『高級』カステラパン を買ったとか。あとはそうそう・・・」 途中でさえぎって、最後に北川が言った。 「お前ちっちゃいわ」 今度こそ同情する人間はいなかった。
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