「へいパスパスパース!」
「オッケィ! 姉御、フリーですヨ!」
「任せておけっ……ふっ!」
「これは……スリーポイント……っ!? ナイッシュー! お見事姉御!」
「ふっ……当然だ」
そういえばホワイトデーってあったよね。何かお話聞かせてよ。何もないやつはバスケでもやってろ
「やっべーなんだろう、私ホワイトデーがこんなに楽しいなんて初めて知りましたヨ」
「何を言ってるんだ、まだ今日は始まったばかりだぞ葉留佳君……そらっ、速攻くるぞ!」
「え? あ、わわ、待ってー!」
――さあ、いよいよ試合開始となりました、普通なら恋にときめくはずの3月14日に嫌がらせのように開催された第一回WD杯の先制点を飾ったのは、チーム"ちょっぴりお茶目なゆいにゃー"のキャプテン来ヶ谷によるスリーポイントシュート! 開始10秒で早々とスコアボードに3の文字を刻むぅ! ……さて、遅くなりましたが今回の実況はわたくし棗恭介と
――解説の宮沢謙吾だ
――でお送りしております
「うおおおおおおお! どけどけどけどけえええええい!」
「わっふー!? 朱鷺戸さん、ものすごいぱわふるなのですーっ」
――おおぅっと!? 今出されたパスを受け取ったのは――チーム"スクレボ"キャプテンの朱鷺戸沙耶! 為すすべなく決められたのがよほど悔しかったのか、コート上を歯を剥き出しにして、とてもうら若き乙女とは思えない凄まじい形相でドリブルしながら駆けていくぅ! 戻りの遅かったゆいにゃーチームの面々をごぼう抜きしてゴールへと接近していきます!
「行くわよっ! とうりゃ!」
――!? 朱鷺戸選手、ここでボールを持ったまま宙に浮かび上がる!?
――む! あれはまさか……
「ダーンクッ!」
――決まったあああああああ! ダァーンクッ! ガゴォォォンと轟音を響かせてリングに叩きつける! 今もなおギシギシアンアンと揺れるリングにぶら下がったそのさまは、まさにゴリラ! まさにオランウータン! まさにけだもの!
「ちょっとそこ! うるさいわよ!」
――柔の来ヶ谷に対し、剛の朱鷺戸か……面白い組み合わせになってきたな
――謙吾、そんなに真面目に解説しなくてもいいぞ
――えっそうなのか?
――ああ。適当に「相手のゴールは言わずもがな、戦意までも根こそぎ奪っていきましたねー、まあ理樹の心は奪えなかったんですけどねー」とかぼそっと言っておけばいいんだ
「うるせー!」
――さあスコアは3-2。見事に自陣のゴールへ突き刺さる様を見せ付けられたゆいにゃーチームは……
「悪いが小毬君、加減はできん……ふんっ!」
「ほわあ!」
――やはりこの人来ヶ谷唯湖! 置き土産とばかりにスカートをめくりつつクイックターンであっという間に抜き去っていく! なんというサービスショット! テキストではお送りできないのが残念なところ!
――うむ、眼福眼福
「あれ、もしかして私パンチラ要員!?」
――さあ気を取り直してコートを疾風のごとく駆け抜ける来ヶ谷選手、ダンクの余韻で遅れをとった朱鷺戸選手は間に合いそうもない! もう止められる人はいないのか!?
「ほう……やはり君が立ちふさがるか……」
――しかし、この人の存在も忘れてはいけない! 体はがっかり、だがしかし身体能力はソフト部お墨付き! ふりふり揺れるツインテールを今は一つにまとめた笹瀬川選手が毅然と立ちふさがるっ!
「無理やり引っ張ってこられたとはいえ……わたくしもスポーツ選手の端くれ……バスケは専門ではございませんが、遅れを取るつもりはなくてよ! ……って誰ががっかりですのっ!?」
「そら、パスだ!」
「あ、ちょ、今回わたくしの出番これだけですのにっ!?」
――そしていいとこなしで出番終了〜! まさにがっかり!
「っと。まあ、あまり気は乗らないのだけど……」
――ここでキラーパスを受け取ったのは二木選手。気だるげにため息をつきつつも、眼光は鋭くゴールを見据えているっ!
「任された以上、自分の仕事はするつもり」
「させませんよっ!」
「クドリャフカ!?」
――対するはしょうがくせ……と思ったら我らが同胞、能美選手だったー、思わず見間違えてしまったー!
「今小学生って言おうとしてました!?」
――ふむ、身長差は歴然、ミスマッチもいいところだが……
――だからそんなに真面目に解説するなって。脳と胸が足りないとでも言っておけ
「胸は関係ねーのですっ胸はっ!」
「隙あり!」
「は、しまったのですー!?」
――などと言ってる間にあっさりと抜かれてしまったー!
――やれやれだな。油断するなど、スポーツ選手の風上にも置けん
「誰のせいですか誰のっ!」
「脳と胸が足りなかったわね、クドリャフカ」
「佳奈多さんまでっ!?
――脳と胸が足りない能美選手、為すすべもなく抜き去られたあげく人のせいにしています。解説の宮沢さん、ずばり彼女の敗因は?
――そうだな……脳と胸が足りなかったな
「あの、もう帰っていいですか……」
――さあ、そして巧みなドリブルで切り込んでいく二木選手、そして逆サイドを併走するのは……
「へいおねえちゃんパスパスパース!」
――ご存知双子の三枝選手、息の合ったコンビネーション……
「葉留佳っ! は頼りにならないから私がいくしかないわね」
「ひどっ!」
――はただの幻想でした。本当にありがとうございました
――まあ俺が二木でもそうしていただろうがな
「させません!」
「くっ!」
――そして行く手を阻むは――おい、謙吾。あいつ誰だ?
――どっかで見たような気がするんだが……誰だったか……
「杉並です杉並っ! ここは通しませんよ!」
「やるわね……西園さんっ! ちょっと隅っこでお茶なんか飲んでないでヘルプヘルプ!」
「面倒です……」
「あーもー使えない人ばっかり! 仕方ないから妥協して葉留佳っ!」
「うわー、そのパスすげえやる気なくすわー……」
――味方の士気を根こそぎ奪い取った二木選手から、三枝選手へボールが渡ります。ハーフラインを超えてゆいにゃーチーム、攻撃を逆サイドへと転じさせたっ! 立ちふさがる者は……いないっ!? 戻っていた朱鷺戸選手は杉並選手のヘルプへ向かっていたー!
「しまった……あたしとしたことが……まさか使えなさそうな三枝さんにパスするなんて!」
「どいつもこいつも人をお荷物みたいにー! むきー! 見てろー!」
――俄然やる気を取り戻した三枝選手、スペースを利用して大胆なドリブルで一気に間を詰めるっ!
――これは意外に運動神経いいんじゃないか?
「うりゃあああああ!」
――否が応でも期待の高まる絶好のチャンス、三枝選手が今……
「庶民シューッ!」
――レイアップシュートを決めにいくっ! ボールは三枝選手の手を離れ、リングの淵へ……!
「へぶぅ!?」
――……はい、ぶつかって跳ね返り、三枝選手の顔面へとリターンエースが決まりましたねー……えー、いいんじゃないですかね、その、彼女らしいオチといえばオチで……ここで顔面シュートを決められないのがなんとも中途半端な三枝選手でした。さて! 試合が大きく盛り下がったところでお時間尽きた模様。実況はわたくし棗恭介と
――解説の宮沢謙吾だ
――でお送りいたしました。それではみなさんごきげんよう!
***
プツン、と無線の切れた音がして、室内が静まり返った。僕は空いたまま塞がらない口の穴埋めをしようと、つい先ほど買ってきたクッキーの詰め合わせの封を切って一枚放り込む。ザク、ザクと歯ざわりのよい生地から上品な甘みがこぼれ出す。さすがに高かったクッキーなだけあって、そこらの量産品とは質が違うらしい。
「あいつら一体何やってるんだ?」
「さあ……?」
僕の隣にちょこんと腰掛けた鈴も、なんと言ったらいいのかよくわからないらしく、おとなしくクッキーを齧りだす。小さな口にちょこちょこ運び込む様がなんとも愛らしい。
「僕らが二人で出かけたの見計らったように皆でお出かけしたみたいだけど……」
先ほど鈴と二人での買い物を終え、部屋へと戻ったところ、机の上に受信機と共に置手紙が残してあった。
"お前に敗北者の末路ってやつを見せてやるよ"
と、ただ一言だけ。
誰かのいたずらかと思ったけれど、筆跡がどう見ても恭介だったので、とりあえず受信機をONにしてみると、皆が楽しそうにバスケットをやってる様子が聞こえてきたのだった。
「うーみゅ、何だか仲間はずれにされたようで悔しいぞ」
「そうだね。せっかくホワイトデーなんだし、皆でクッキーでも食べようと買ってきたのにね」
「人気ありすぎで予約までして手に入れたんだぞ……悔しいからヤケ食いする」
「こらこら、あんまり食べると太るよ? 少しくらいは残しておこうよ」
「そうだな。馬鹿兄貴を除いて人数分ぐらいは残しておくか」
「それがいいよ。とりあえず皆が戻ってくるまで、二人でゆっくりしてよっか」
「そうだな……それも、わるくない」
静かに目を閉じると、ふわり、と柔らかな匂いが漂い、肩に重みを感じた。鈴が寄りかかってきたらしい。
こんなに近くで鈴を感じるのはいつ以来だったろう……記憶を検索しても、思い浮かぶのはただ皆との騒がしい日々があったということだけ。
うん、たまにはこういうのも、悪くない――
<了>
あとがき
出オチですこんばんは。どこのスレタイだよ、と思ったら負けです。
馴染みの薄い方にはイメージが沸かないかもしれませんが、割と有名なネタだったりするので、その辺はご容赦を。開始数行の出オチものなので、この作品はタイトルありきなものでした。ですので書きたい部分だけ書き終わった後は文字通り消化試合。見事なまでにぶつ切れました。
箸休めにでも楽しんでいただければと思います。お読みいただきありがとうございました。
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