その日が3月14日で、ホワイトデーであると思い出したのは、晴子がいつも仕事帰りに寄るスーパーの斜向かいで、見かけないネオンの光が視界の片隅でチラチラと瞬いていたからだ。
 都会のモダンで洗練されたそれとは随分かけ離れた、田舎のこじんまりとしたケーキ屋。『ホワイトデー最終日セール!』と題した手製の看板に、設えられた電飾が人通りの少ない商店街を侘しげに彩っている。
 「こんな所じゃあ、商売上がったりやろうに」と他人事ながら心配になる。が、綺羅粒の淡い光に誘われるように、何とはなしに覗いた正面ディスプレイには、陳列されたチョコやケーキに併せて、普通であればまず購入しないような価格の値札が添えられていた。

「なっ! は、8000円!? こっちは10000円とかっ!! いやいや、デキの良さは認めるけぇへど、流石に五桁はありえへんやろ。半額セールで安うなっとるけど……いや、それでも買う奴はおる、ゆうことやろうか……」

 「世の中、奇特な人間がおるもんや」と半ば呆れた様子でつらつらと眺めていた晴子は、やがて静かに目を瞠る。
 高額商品に埋もれるようにして、可愛らしく小首を傾げた、恐竜の型を模したチョコがあったからだ。立体的に作られた全長は20cmほどで、ホワイトチョコをメインにした白と、黒の組み合わせで塗り分けられた顔には、いかにもデフォルメらしい目玉や柄が小奇麗に装飾されている。価格は一段低い設定になっており、値札にも半額を示す文字が踊っている。

「…………」

 晴子は唸る。懐具合と、次の給料振込みまでに必要とされる経費を計算するまでもなく、この程度の買い物なら、晩酌をしばらく控えれば何とでもなるからだ。

「観鈴に、これ上げたらどうやろ……」

 購入に伴う金銭的損失と、娘の笑顔を天秤に掛けてみたところ、勝負は一瞬だった。
 気づいたときには、晴子はその店の扉を叩いていた。





                  続く営み 続く愛





 帰宅した晴子を玄関口で迎えたのは誰あろう、隙なくスーツを着込んだ敬介だった。

「やあ、久しぶり」

 晴子は珍しいものでも見たように、ぽかんと口を開けてしまう。

「敬介? あんたこないな場所でなにしとるん。てか、いつからここで待ってたん?」

「ついさっきだよ。出張帰り途中にちょうど君の家があったから。顔だけでもと思って何となく、ね」

 彼の言う“ついさっき”が、どの程度の事を述べているのか、唇を青くしている姿から何となく察した晴子は、眉間に皺を寄せている。

「事前に連絡しておけば、そないな格好で待ちぼうけせず済んだのに。……あんた、そういう所は相変わらずやなぁ」

「褒め言葉と受け取っておくよ」

「その口の減らんトコも相変わらずや。――ま、立ち話もなんやし入りぃな。観鈴も喜ぶさかい」

 玄関の鍵を開ける晴子に促され、敬介も勝手知った様子で門をくぐる。この時期の潮風はだいぶ堪えたのか、風を凌げる屋内に入った途端、背後で安堵の吐息をそっと吐き出している気配に、晴子は内心で苦笑する。

「前回あんたが来たのはいつやったかなぁ。正月過ぎてからブラリ来たのは覚えてるんやけど……」

「3日だよ。親族で顔を出さなかったのは君1人。「衰弱死か、下手をすると自殺してるんじゃないか」って義母さん達にせっつかれた僕の身にもなって欲しいよ。来ないなら来ないで、連絡入れるなりして、少しは安心させたらどうだい」

「しょうがないやろ。あん時は……まだいろいろと引き摺ってたさかい」

 言ってしまってから失敗を悟るのには、しばしの沈黙が必要だった。「…………悪い」と敬介が顔を曇らせるのを見て、

「ああああ、そう神妙な顔せんでええがなっ。とりあえず適当に座っといてや。お茶でも沸かすさかいっ」

 慌てた晴子は弁明するように両手を振る。それから、お座なりに敷いた座布団に敬介を座らせると、そこから逃げるようにして台所へ。棚から茶筒と急須を取り出し、薬缶を火にかけ、やることをやり終えると晴子は壁に寄りかかって天を仰ぐ。

「……しくじってもうたわ」

 まあいつも通りといえばいつも通りなのだが、敬介と久しぶりに顔をつき合わせての近況報告になると、どうにも昔話を交える必然性が増えるあまり、未だ癒えない過去の話題に触れてしまうことが頻々としてしまうのだ。晴子の方は過ぎたことでもあるし、努めて気にしないようにはしているのだが、大概はあの時のことを引き摺っている敬介の方から謝ってくるため、どうも居心地が悪くて仕方が無い。
 沸騰するのを待つ間、晴子はこの気まずい空気が少しでも緩和している事を願いつつ、ジャケットをその辺に投げると台所を抜ける。
 向かった先は、この空気を生成している主原因――。晴子と敬介にとっては違う意味での“娘”であり、どちらにとっても『普通の家族』として括るには、いささか特別すぎた少女の私室だった場所である。
 内装は昔のままだ。異なる点を挙げるとすれば、生きていた少女と替わるように、彼女の死を納めた箱がひとつ増えたことだろうか。
 抱えた包装を仏壇手前に置いて、深呼吸一つ、晴子はしみじみと手を合わせる。

「ただいま、観鈴」

 仏壇に飾っている写真は、今まで撮った中で一番笑っている物を晴子が選んだものだ。周りは恐竜の玩具で埋め尽くされ、何も知らない人間が見たら、仏壇にカラフルな恐竜の組み合わせに、晴子のセンスに首を傾げるか、罰当たりのように思われてしまうかもしれない。けれど、昨年夏に鬼籍に入った娘が、シャチホコばったものより、こういったお供えを好むだろうことを知っている晴子は、他人に何を言われようと自分のやり方を変えるつもりは無かった。
 ちょうど一年前の晴子なら、決してこんな真似はしなかっただろうが。

「観鈴、今日はホワイトデーやで。一年越しになってもうたけど、あんたから貰ったチョコのお返しや。受け取ってぇな」

 そう。一年前の晴子は、このような事をしなかった。
 昨年、生きていた頃の観鈴にチョコを手渡された時。無言で差し出したそれが、あの子なりの感謝を伝えるために、前日の夜、台所で悪戦苦闘しながら作成したものであることを知っていながら、ぶっきらぼうにしか受け取れなかった自分が今更のように悔やまれる。
 当時は距離を取ろうとするあまり、ホワイトデーにお返しのチョコを贈る行為さえ晴子は滞っていた。愛情の不器用さも然ることながら、実姉の娘との距離の取り方が分からず、無闇に離れてしまっていた自分を思い返すと、幼いながらも遠慮したり、きちんとああした感情を表に出していた観鈴の方が、よっぽど大人だったのかもしれない。
 ともあれ、あの時から一転して、ようやく素直になれている自分に、仏壇を前にして晴子は感慨深いものも覚えてしまう。

「……入っても良いかな」

 しみじみとするあまり時間を忘れていたらしい。晴子が振り返ると、待ちきれなくなったのか、手持ち無沙汰の敬介がドアの前で顔だけ出している。客人の手前、勝手に入る事は控えたのだろう。苦笑しつつ招き入れると、敬介は心持ち背を伸ばし、仏壇に手を合わせてから、横に添えられた『供物』を指摘する。

「随分と大きいプレゼントだね」

「ああ、近所のケーキ屋で買ったヤツや。恐竜のな……・何ていったか。す、すてり、すてごる」

「ステゴザウルス?」

「そうそう、それや。あんまり末香臭いの供えるより、観鈴ならこういうのの方がええんかと思って。ホワイトデーやしな。半額だったし、ウチの懐にも優しいし一石二鳥や」

 歳に似合わず、ぶいっとピースする晴子。初めはずいぶん子供っぽい事をすると怪訝な顔をしていた敬介も、それが愛娘を真似ての行為なのだと気づいて、まぶしいものを観るように目を細めている。

「―――……君は、本当に変わったな」

「変わるだけの理由があったさかい。……知っとるか? 観鈴の大好きな晴子おばさんは、あの子の前ではいっつも笑っとるんやで」

 笑みを向ける晴子を見ながら、敬介は「観鈴がいないときは……亡くなってからはどうなんだ」という言葉をすんでで押さえ込んでいた。
 憔悴し、枯れ果てた涙のどん底で、酒に溺れた晴子の顔が一瞬過ぎったからだ。



 昨年の夏、神尾観鈴を亡くした直後の晴子は傍目にも酷いものだった。
 隣家に様子を見てもらうよう頼みつつ、自分も定期的に訪問していた敬介だが、あれはまさに『抜け殻』以外の何物でもなかった。壁に半身を預け、仕事も止め、外にも出ず、食べ物も碌に口にしないくせに、空の酒ビンばかりが床に大量に転がって……。
 死なせてしまった原因を自分一人で背負い込んだ彼女は、そのまま黙っていれば、すぐにでも観鈴の後を追いかねないほどまでに追い込まれていたのは一目瞭然だった。
 実家に帰って療養する事を頑なに拒んだ晴子の元へ、両親が「自分をそんなに追い込むな」と説得に来た事があった。敬介も献身的に身の回りの世話をしながら「君だけのせいじゃない」と何度も口にした。

 夏が過ぎ

 秋が訪れ

 冬の差し迫った11月になっても、立ち直る気配の無かった彼女。
 それがどうやって。何をもって。晴子がもう一度息を吹き返す気になったのかは敬介も判らない。が、どん底の彼女が徐々にだが回復の兆しをみせ、ここまで生活できるようになったのは紛れも事実である。敬介の勤める系列の会社に、折を見て再就職先として勧めると、あとは風を捉えた鳥のように、晴子は自力で再び空を飛ぶようになっていた。
 彼女の実家の人間は、未だ彼女の扱いに困惑しているようだが、昔を思い返しながらも今を生きている晴子は、そういった経緯を経て、自分よりずっと高く飛ぶようになったと敬介は思う。

「……僕は、まだまだダメだな。未だに観鈴の死を引き摺っている」

 仏壇に飾られた写真を見上げ、敬介は幾重にもオブラートに包んだ告白をする。
 観鈴の死の直後、それを受け止めるだけの覚悟も度量も無かった敬介は、衝動的に逃げるという選択をしてしまっていた。正面から受け止めたが故に、死線を這いずる事となった晴子を支えるという役割を口実にして、今の今まで、娘の死をひとつ壁を隔てた場所へを追いやって、それについて深く考える事から目を逸らし続けたのである。
 晴子を理由にして、避け続けたそんな時間を経て、磨耗した自分の感情が得体の知れない、捉えどころの無いものにまで堕落してしまって、娘の死が伝えようとした本質から目を背けた敬介は、結果、今更ようやく相対しようとしたその本質が、何であったのかを見失ってしまったのだ。
 それは、不注意で壊してしまった陶器のカケラを、必死に元の形に修復しようと試みる作業に似ている。
 壊れた直後の瞬間は目撃した筈なのに、時間によって風化した記憶は、その壺がどういった形状であったのかを思い出せなくさせていた。だから敬介はひとつひとつ手に取り、角度を変え、確かこれはこの辺りだったと当たりをつけてみるも、他のカケラと巧くかみ合わなくて。では別のカケラではどうかと、また同じことを繰り返すという作業。
 死んだ妻だった、郁子の時と同じだ。
 両手には娘との思い出がすべてあり、けれども、そうやって宙ぶらりんだからこそ、宛ても無く敬介の胸中で、それらは納まるべき場所をいつまでも待ち続ける。

「こういう時、どうやって気持ちを整理したら良いんだろうか……」

 茫洋とした敬介の質問に、答えを求めるように晴子は空を仰ぐ。

「さあ、どうなんやろうなぁ。亡くなったあの子と、いつ、どうやって折り合いをつけるかは人それぞれやから。学校で一緒に過ごせて良かった言ってくれた娘がいたし、少し静かになってもうた言う女医さんがいる。皆が皆いろんな形で観鈴の姿を背負っていて、何らかの形で思い出の内に留めて、落とし所を見つけてくれてはる。それらの捉え方は人それぞれやし。誰もがこうしなあかん、ああしなあかん言うのは無いと――ウチは思うよ」

「……君はどうやって折り合いを付けたんだ?」

「あんたと同じや」

 言葉の意味を理解しかねて敬介が首を傾げて見せると、晴子はにっと笑う。

「ウチも気持ちの整理なんて全然できとらへん」

 敬介は息を飲む。彼女は背負った負債も、自責の念も表層に露ほども見せず、綺麗サッパリと破顔してみせたからだ。

「ああすればよかった。こうしとけば良かった。そういったことは今でもずっと悔やんだりするし、あの居候みたく他にも色々、あの娘にしてやれたことがあったんちゃうか思ってしもうことも一杯や。……一番傍にいながら、どうしようもないくらいバカで阿呆なウチは、あの子の気持ちなんて未だに理解できてないし、わかってもやれないでおる。こんな状態で、気持ちに整理なんて付けれへんやろ」

 でもなぁ、と晴子は続けて言う。

「前にも言ったと思うけど、あの子な。最期まで笑っとった。ずーっと体中痛んでて、ホントは泣きたかったやろうに、それでもウチに対して笑っとったんや」

「…………」

「……一個だけ。こんな馬鹿なウチでも、これだけは確信して言えることがある。あの子は最期まで幸せだったから笑っとったんや。他人に合わせる為やない。作り笑いでもない。自分が世界で一番幸せやって言うために、あの子は最後の瞬間まで、ウチに笑いかけていたんや」

 その場に居合わせたわけではない敬介は、けれど、彼女がそう語る言葉に、おためごかした言い訳もなければ、これっぽっちの嘘もないことを肌で感じていた。

「そうまで言われて、ウチが潰れるわけにはいかんやろ? けどまぁ、遠回りしてようやく気づいてやれたこんな事も、言ってみればそれしかあの子の事を分かってやれてへん言うことやからなぁ。だから後悔はたくさんあるんやけど、今からでもあの子が残してった色んな事、ちょっとずつでも知っていけたら思うてな、こんな真似事から始めておる」

 笑って、Vの字でのピースをして、晴子は少し照れくさそうに頭を掻く。

「つまりはこれが、今のウチにできる精一杯の気持ちの整理の付け方……いうことなんやろか」

――それが、貴女が、今のようになった理由なのか

 喉元まででかかったそんな言葉を敬介は留める。
 いろんな苦しみ、いろんな苦難、いろんな経験が彼女を強くしたのだと敬介は改めて思う。

 強いな、と。

「僕は弱かったからな……」

 郁子が死んだとき、自分ひとりで育てるのは無理だと手放した頃の娘の顔を、敬介は覚えていない。愛した人を失い、なくした衝撃に耐え切れず、自分は、自分の内に籠って、周りを見ようとしなかったからだ。仕事にのめり込み、家にいる時間は極端に減り……。そして、晴子に押し付けるようにして、自分が生きてきた事を思い返す。
 自分は亡くなった人の思い出や名残を忘れようと努めたのに対して、晴子はそれとは正反対に、死んだ観鈴を再び描き出そうとしている。
 記憶を繋いで、残した思い出を広げていくそれは、人によっては過去を振り返るだけの無為な行為と映るかもしれない。けれど目の前の晴子には、現実を見据えろと怒鳴りつけたくなるような澱みや鬱屈した物はなく、むしろ過去の思い出をバネにして、いっそうの 高みを目指している尊さのようなものすら垣間見えた。
 忘れよう、忘れようとして、一歩も前進できなかった敬介。
 重石を外してきたつもりで、がんじがらめに縛られ続けていたのは、僕の方だったのかと今更のように敬介は気づいていた。
 だからなのだろうなと呟きながら、仕事用のカバンから、敬介は掌ほどの包みを取り出した。

「……これを」

「なんやそれ?」

「今日はホワイトデーだろう。いままで僕の身勝手で苦労をかけたねぎらい……というには、いささかつり合わない代物だけど」

 いささか言い訳がましい言い回しだったが、それもまた敬介らしいと、晴子ははにかみながら受け取った。

「別に苦労なんてしとらんよ。むしろあの子からは、受け取ってばっかりやったわ。まぁ、受け取らん道理は無いし、これに関してはありがたく受け取っとくけど」

 「さ〜て、何が入っとん?」と少しおどけて包装を解いていくと、高級店のロゴが刻印された紙箱の中に、ウイスキーボンボンが一口サイズに小分けされている。
 一瞬、晴子は真顔になり、それから拗ねているとも、照れともつかない微妙な視線を敬介に向けてしまう。

「何か……えらい見透かされている感じやな」

「どうも僕の頭から君とアルコールの繋がりを除去できなくてね、色々考えたんだけど、これくらいしか思い浮かばなかった」

 肩をすぼめる敬介に晴子は小さく苦笑する。

「まぁ、否定できんのが悔しいところやけど」

 1つ摘んで口に放り込むと「日本酒にはちと合いそうにないけど、イケル感じやな」と満足そうに頷いている。
 そんな彼女を眺めながら、意を決した敬介は腹を括る。

「――今日来たのは他でもないんだ」

「なんや、仕事帰りのついでやないんか?」

 不思議そうに訊ねる晴子だが、先刻までとの空気の変化を機敏に察知して、喉元まででかかった軽口はすぐに立ち消える。何となく、どういった案件なのかは、薄々とは予感していたからだ。だから敬介が「結婚を前提とした付き合いをしてくれないか」という言葉を聞いても、内心の動揺はそれほどでもなかった。

「姉貴の次はウチ……って言うのはちょっと安直すぎやせえへん?」

「そういうんじゃないんだ。……長い付き合いだが、観鈴の件で色々世話になって初めて、君という人間を「郁子の妹」としてではなく、一人の異性として好ましいと感じるようになった。……正直に告白すると、昔はガサツな人だな位にしか思ってなかったんだが、先刻の話し振りを聞いていると、日頃のがさつさは、内心の繊細さを見破られまいとする君の裏返しの表現のような気がしてならない」

「……過大評価やわ、そんなん。ウチは事務仕事も満足にできひんような不器用もんやよ」

 片手を振って否定する晴子は、告白に関してまるで連れない様子である。が、敬介とて、この展開はある程度予想できていたことだったらしい。
 カバンを抱え、敬介は立ち上がる。

「返事は後で構わない。君が本心を伝えてくれるなら、可否のどちらであっても僕はそれを受け入れるよ。――じゃあ、また」

 そういって随分潔く出て行く敬介に、ぽかんとしたままの晴子は、チョコのアルコールが回ったようにいまいち理解しきれない顔で、仏壇に飾ってある観鈴の写真を見上げていた。

「どないする観鈴。晴子おばさん、あんたのおとんに告白されてもうたわ」

 自分に一連の出来事を把握させるように言葉にしてみると、なんだか妙に可笑しさが込み上げてくる。このまま一人で一生を過ごすものだとばかり無意識に決めていただけに、敬介の告白は、あっさりと退室した彼の潔さとは裏腹に、晴子が構えていた以上に随分な衝撃を残していったように思う。
 あの頑固頭やからなぁ。こっちも返答をキチンと考えなあかんわと、口寂しさもあって敬介から貰ったチョコをまたひとつ口に含むと、付き合う、付き合わないのそれとは別に、先ほど気づかなかったことに、晴子は唐突に気づいてしまう。

「でもそうなると、あんたはホンマに……ホンマもんのウチの娘になるっていうことやな」

 そんな自分の考えに、思わず口元がほころんでしまう。

「さあて、どうしたもんやろね。観鈴」

 観鈴の写真をかかげ、仰向けになってどこか悪戯そうな笑みが晴子の顔に浮かんでいる。
 写真にかつての名残を残した少女は、その無垢なまでの笑みを浮かべたまま、晴子の熟考が終わるのを飽きるでもなく、静かに、静かに見守っていた。















 あとがき
 初AIR。初リトバス以外で書いたので、これがAIRssにおける王道なのか、奇抜なのかいまいちよく分かっていないかみかみです。初めまして、こんにちは、こんばんは。
 書いていて何ですが、受け入れられるかどうかの基準が不明瞭な作品は、あとがき書いているときに不安がマックス・ハートでいけません。
 その弱さというか、岡崎朋也の雛形であるからなのか。世間の評価とは違い、個人的には敬介が嫌いではないこともあって、擁護のようなそうでないようなSSを書いてみたつもりが、何か予想外の方向に転がったなぁと個人的にもびっくりです。「そもそもホワイトデーじゃなくてもいいんじゃね?」というツッコミ待ちのような作品ですが、読んで何かしらの感慨が湧いたのなら感想いただければ幸いです。
 切っ掛けになったのは、晴子さんに終盤の呟きをさせたいなぁという、ちょっとした思い付きからだったんですが、これの半分くらいで終わらせる予定が、期日一杯まで冷や汗かきながらギリギリにようやく完成を見るという、このいい加減さは修正しないと痛い目みそうかも(汗
 まぁ、ともあれ、リトバス作品で終始安住していた人間だったので、晴子さん、敬介といったキャラは、書いていてなかなか新鮮でしたね。これからはちょいちょいリトバス以外のKEY作品も書いていくかもしれませんので、そのときはまたよろしくということで。
最後になりますが、バレンタインの方では絵を、こちらのホワイトデーの方ではSSを投稿ということで公開させてもらいましたが、企画していただいたろっどさんにはこの場を借りてお礼を申し上げたいと思います。稚拙ですがこれら作品を載せていただきどうもありがとう御座いました。
























お囃子・感想などいただけましたら。

おなまえ(省略可)



お囃子!(→盛大)

ぱち ぱちぱち ぱちぱちぱち

よろしければ何か一言!(省略可)





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