2月14日、バレンタインデー。
元は愛を歌った聖人の処刑された日であるとされるが、現代日本においては婦女子が男子にチョコレートを渡す日であり、日本のチョコレートの年間消費量の2割程度がこの日に消費されると言われる日であり、彼女を持つ男子が彼女と蜜月を過ごす日であり。
そして、そんな甘い思い出を作るアテがない者には、ただただ地獄の日であった。



これは、ある男たちの、地獄への挑戦の物語である。





バレンタインデーにチョコを貰う100の方法





 AM10:00

男子学生寮の一室。
そこには、三人の男の姿があった。
「どうしたんだよ恭介。いきなり呼び出したりして」
まず口火を切ったのは筋肉の鎧に身を包んだ、赤いバンダナを巻いた大男。名前を井ノ原真人と言う。事前のインタビューに「バレンタインデー?なんだそれ、新作プロテインか?それとも新しい筋トレ器具か?」と大胆な一言をかました猛者である。無知とは時に幸せなり。ちなみにバレンタインデーについての説明をしたところ、「へぇ、理樹はたくさん貰えそうだな」と核心を突いた一言を発した。
「そうだぞ恭介。集まるのは別にかまわん。だが理樹は連れて来るな、となると、話は別だ。理由を聞かせてもらうぞ、恭介」
更に続けて言葉を紡ぐのは、袴姿にジャンパーを羽織る、というどこぞの中二病ヤンギレ少女のような格好をした大男。彼の名前は宮沢謙吾。バレンタインデーについては「そんなものより友達と遊ぶな、俺は」と、若干ホの字の気のある意味にも捉えられる発言を残した。
「ああ、こうして集まってもらったのには訳がある」
それに応える、恭介と呼ばれた男。フルネームは棗恭介、この中では一番年上である。三人の中の、正確に言えば三人を含めた学友による野球集団「リトルバスターズ」のリーダーである。いや、だった、と言うべきか。彼は既にリーダーの座を一つ下の少年、直枝理樹に譲り渡し、本人は「元リーダーと呼んでくれ」と言っている。目下の悩みは「最近みんなが俺のことを全く敬ってくれないのだが」ということらしい。自業自得である。
「真人、謙吾。今日が何日か、知ってるよな?」
「えーと、二月十四日だろ?」
「ああ。問題は、二月十四日が何の日か、ということだ」
「一日中筋トレの出来る日曜日」
「その認識はどうかと思うぞ・・・・・・。つまり恭介は、今日がバレンタインデーだと言いたいんだな?」
「ああ。自慢じゃないが、俺たち三人は鈴以外からチョコを貰ったことがない。だが鈴はあの通り、理樹とベッタリで俺たちにチョコ、なんて思いもしないだろう。つまり、このままじゃチョコが貰えない」
「待て。ということは、理樹を呼ばなかったのはつまり・・・・・・」
「そうだよ!鈴はおろか神北も三枝も来ヶ谷も西園も!みんな理樹に夢中なんだぜ!?あんなリア充にこんなミジメな男連中を見せたところで、「え?バレンタインデー?いやだなあ、僕全然貰えてないよ。たったの九個」とか言って俺たちの心に直らない傷をつけるだろうってぐらい容易に想像できるだろ!?」
「まあ、言ってることは分からんでもないが・・・・・・」
「それでよ、理樹がたくさんチョコ貰えるからって、どうして俺たちが集まってるんだ?別にそんなことしなくたっていいじゃねえかよ」
「ああ。俺も考えたのさ。チョコを貰えない男子が、どうしたらチョコを貰えるか、をな」
そして彼は、厳かに、
「ただいまより、緊急ミッションを発令する。――バレンタインデーに、チョコを受け取ろう。俺に考えがある。学園の外に出るぞ」
ミッションを、発令した。



 AM10:30

学園を出た三人は、商店街についていた。
「さて、コンビニだ」
「コンビニだな」
「ああ、コンビニ以外の何者でもない」
「いま行数稼ぎがなかったか?」
そんなことはない。
「で、恭介。そろそろその考えってえのを教えてくれよ」
「ああ。これが、俺が寝ないで考えた、『プロジェクト・ヒモテバレンタインデー』だ」
「そんな下らないことを考えないで寝た方がいいと思うぞ・・・・・・」
説明ッ!「プロジェクト・ヒモテバレンタインデー」とは、文字通りモテない男がどうしてもバレンタインデーに女の子からチョコを受け取りたい時に使う作戦だ!ちなみにコレ、作者の友人がリアルに考え付いて、一年前のバレンタインデーで作者本人がやった作戦だぞ!やり方は簡単!
 @女性店員がレジを売ってるコンビニを探す。
 Aコンビニでチョコを買う。この時になるべくお札を使う。
 B多いお釣りで忘れたフリをしてチョコを受け取らずにレジを離れる。
 C女性店員が「あの、これ・・・」と言って渡してくれる。

「バカじゃないのか。いやバカなんだが」
「ああ、コイツはとんでもねえバカに出くわしちまったぜ・・・・・・」
「待てオイコラ人をそんな蔑んだ目で見るな。とりあえずやってみるんだ。もらえなくてもともと、もしかしたらとびっきりの美人にチョコを渡されるかも知れないんだぜ?」
二人とも乗り気でない様子だが、恭介本人は「コイツは世紀の大発見をしちまったぜぃ」とばかりにはしゃぎながら押してくる。
「しょうがない。やるぞ真人」
「へいへい」
とは言っても、そこは長い付き合いの二人。こういう時のヤツに何を言っても無駄だと諦め、恭介の提案通り一人ずつこの作戦に挑戦することになった。




 AM11:00 ケースその1 井ノ原真人の場合
「ふー、女の店員がいるコンビニを探すだけでも大変だったぜ」
そういいながらファミマに入る。
「いらっしゃいませー」
女性店員、いや年のころは女性と言うより少女だろうか、が応対する。その様子を、外の二人はまじまじと見ていた。

「おい、あの子、めっちゃ可愛くないか?」
「まあ、可愛いが・・・・・・アレは絶対、独占欲強いと思うぞ、俺は」
「いいじゃん独占欲強くたって。独占されてえよむしろ」

(えーと、とりあえずチョコ買えばいいんだよな)
そう思って彼が手にしたのはジャンボ。
チョコといえばチョコだが、ソレはどちらかと言うとアイスクリームとかモナカの部類だろう。
そんなことを気にせず、レジへと向かう真人。
「えーとー、123円になりまーす」
美少女店員がそつなくレジの応対をする。
(あー、札だっけ・・・・・・)
夏目漱石を出す真人。それを受け取ってレジに入れ、お釣りを渡す。

「よし、そこでチョコを受け取り忘れるんだ!」
「いや、だからあれはモナカ・・・・・・」

(ここでコイツを忘れるんだっけか・・・・・・)
恭介の説明に従って行動を起こす真人。
アイスを受け取らずにレジから歩き出し、おでんの側を通り抜け、そして、

「なんであの女の子呼びとめもしねえんだよ!あぁ、あの子アイス食ってる!真人が買って忘れたアイス食ってるぞ!」
「むう、想像以上の悪女だ・・・・・・」
「おい恭介、なんだよっ。俺のアイス代返せよ!」
三人が各々個別の反応をする。あと既にチョコとも言ってないのはいかがなものか、趣旨的に。そんなわけで本日の失敗(一回目)。敗因、店員の性格。



 AM11:30 ケースその2 宮沢謙吾の場合
(さて、さっさと済ますか・・・・・・)
そう考えつつ店に入り、適当に板チョコ(明治)を手にとってレジに渡す。
「はい、200円になります」
「すまない、大きいものしかない」
「大丈夫ですよ」

「畜生、謙吾のヤツ普通に店員と仲良くしてるじゃねえかよ・・・・・・!」
「いや、あれは5000円札を出すからゴメンって言ってるだけじゃねえのか?」

(さて、ここで忘れるんだったな)

彼もまた恭介の指示に従い、レジを離れる。
「あ、お客さん、品物忘れてますよ」
「ああ、すまない」
条件反射で取りに戻り、そのまま背を向ける。
「ありがとうございましたー!」


「なんで取りに行ってんだよ!?自ら失敗してんじゃねえか!」
「すまん。申し開きの仕様も無い」
「というか申し開きする必要がねえんじゃねえか?」
本日の失敗(二回目)。敗因、条件反射。

「畜生、こうなったら俺の番だ。見てろお前ら、華麗にチョコを受け取ってやるからな!」

「なあ、絶対失敗する気がするんだが」
「ああ、今度ばかりはお前と同感だ、真人。しかも恐らく自滅する」




 PM12:30 ケースその3 棗恭介の場合
「うぃーっす」
「いらっしゃいませー」
レジにいるのはショートカットの少女。
(声が小毬にちょっと似てるな、つーかかわえぇぇぇ)
どうも煩悩丸出しな思考である。

「おい、恭介のヤツ、無茶苦茶にやけた顔してるぜ」
「ああ、病気だな」
思考だけでなく顔面も煩悩丸出しだった。

(さて、やるか)
しばらくコンビニレジから始まるラブロマンスを夢想していた彼だったが、まずは第一歩とピノを選んでレジへと向かう。
「コレをくれ」
「はいー、250円になりますー」
「分かった。諭吉でいいか?」
ここぞとばかりに経済力をアピールしようとする。アホか。店員の苦労が増えるだけだろう。
「あ、はい、大丈夫ですよー」
だがその迷惑な行動にも顔色一つ変えずにレジを打つ少女。健気である。いや実際そんなことを気にしてはいないのかもしれないが作者はレジ打ちしたことが無いのでわからない。
(よし、ここで俺のベリィクゥル(巻き舌風)な作戦を見せるんだ。商品を忘れてチョコを貰い、そこから始まるラブロマ)
「あ、お客さん、お釣り忘れてますよ」
「ああ、すまん」
(いかんいかん。ミッションを遂行しようとする余り、釣りを忘れてしまうなんて、俺らしくないミスだz)「はい。ではこちら、お品物になります」
と、レジにおかれたビニール袋。
「・・・・・・え?」
「ですから、お品物になります♪」
「・・・・・・ああ、はい。ありがとな」
「はい、ありがとうございましたー!」




「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
この日、町に一人の漢の叫びが響き渡ったと言う。






 PM5:00 学園内 寮前
「チョコが・・・・・・チョコがあ・・・・・・」
寮の前では、四つんばいになって落ち込んでいる漢がひとり。恭介である。
「結局一つももらえなかったな・・・・・・あんな作戦で貰おうとするほうがおかしな話だが」
「まあ恭介、気にすんなよ。来年の冬には職場で貰えるかも知れねえじゃねえか」
「うるせぇ・・・・・・今大事なのは今年のチョコだろうがよぅ・・・・・・」
「凄い落ち込みようだな・・・・・・」
「ああ、呆れを通り越して少しばかり哀れになってくる・・・・・・」
と、二人が恭介を慰めようとしたその時。

「宮沢さん!」
「ん?」
女子寮の方から走ってくる影。謙吾の前で立ち止まる。
「探しましたよ、宮沢さん・・・・・・どこへ行ってらしたんですか?」
「古式か。ちょっとこいつらとな・・・・・・ところで、何か用か?」
「あ、はい。用というか、コレを・・・・・・」
「む、コレは・・・・・・」
渡されたのは、ラッピングの施された小さな箱。
「一応、作ってみたんですが・・・・・・お口に合わなかったら結構ですので・・・・・・」
「いや、甘いものは嫌いじゃない。そうだな、有難く頂戴する」
「はい、ありがとうございます・・・・・・!」
「いや、礼を言うのはこちらだ。ありがとう。・・・・・・そんなわけで恭介、真人、俺はこれで失礼するぞ」
「あ、ああ」
「おう、またな」
古式とともに去っていく謙吾の影。それと入れ違いに、
「わふー!井ノ原さん、そこですかー!?」
「おぅ、クー公。どうした?」
「はい!実は・・・・・・じゃーん!井ノ原さんにばれんたいんでーちょこのぷれぜんってどふぉーゆーなのですー!」
「おお!ありがとなクー公!」
「はい!美味く作れたか分からないのですが・・・・・・あの、良かったら感想聞かせてくださいです」
「おう、チョコの感想だな!分かった、今食って言うぜ!」
「わふー!ここでいきなり食べないでくださいー!」
そんな夫婦漫才をしながら遠ざかっていくクドと真人。
取り残される恭介。なんかヒュゥゥゥとかの効果音が聞こえるのは気のせいだろうか。
「・・・・・・」
そんな恭介に近づく影。
「あの・・・・・・」
「ん?」
(この子は確か・・・・・・理樹のクラスメイトの・・・・・・)
「えと・・・・・・その・・・・・・」
(もしかして・・・・・・我が世の春が来たか?)
「あの!」
「あ、ああ」
「コレ・・・・・・」
(ああ、やっと俺にも彼女が・・・・・・)
「直枝君に・・・・・・渡してくれますか?私、恥ずかしくて・・・・・・」
「・・・・・・え?」
「えと、直枝君に、渡してくれますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アア、ハイ。オ名前ハ?」
「はい、杉並と言います」
「ワカッタヨ、杉並。コレハ理樹ニ渡シテオクヨ」
「はい、ありがとうございます!」
「アア、頑張レヨ!」













「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
もう、ゴールしても、いいよな・・・・・・?

ニア いい
  よくない










後書き
なんか僕の中でどんどん恭介が残念イケメンになっていく。いいのだろうか。いいや。





















お囃子・感想などいただけましたら。

おなまえ(省略可)



お囃子!(→盛大)

ぱち ぱちぱち ぱちぱちぱち

よろしければ何か一言!(省略可)





Back