ホワイトデー。
それは全国飴菓子工業協同組合というところによって作られた物。
バレンタインでチョコを貰ってお返しを考えているやつは『ホワイトデー公○サイト』と検索してはいけない。
いいか、絶対にだ。
『3/1の純情な感情』
「で、そんなくだらない話をするためにあたしを呼び出したっていうの?」
「落ち着け、杏。軽い冗談だ」
そのホワイトデーが目前に迫ったある日。
俺は彼女の双子の姉である杏と喫茶店で会っていた。
「ぶっちゃけてると椋へのプレゼントが決まってない」
「はっ?何言ってんのあんた。ホワイトデーは明後日よ?」
そう、時は既に3月12日。
何を送るにしても用意するための時間は極めて少ない。
「まさか買った物で済ませようなんて考えてないでしょうね」
「なんでいけないんだよ、俺に手作りのプレゼントなんて出来る訳ないだろ」
俺は料理も出来ないし、美術の成績だって低い。
そんな俺が手作りのプレゼントなんて作れる訳がない。
「あと2日しかないんだぞ」
「馬鹿ね…要は気持ちよ。出来なんて問題じゃないの」
俺の気持ち。
俺は椋からたくさんの事を教えられた。
人から必要とされる喜び、人を好きになるという事。
それこそ一回のプレゼントでは返せないくらいの感謝の気持ち。
「大体あんたからなら、物じゃなくて言葉だけでもあの子は喜ぶんだから」
「そうだな…」
確かに椋ならば俺とのデートだけでも喜んではくれるだろう。
今まで繰り返してきたデートでも彼女は不満なんて言った事は無かった。
だからこそ、どうせなら今までにないくらい喜ばせてあげたい。
杏の言葉を聞いて強くそう思うようになった。
「どうやら決まったみたいね」
「ああ、どこまで出来るかは分からないけどやってみるさ」
「しかし…いざ何か作ろうと思っても中々難しいものがあるよな」
あの後、杏と二人で喫茶店を出てホワイトデー特集をやっている店に来てみたが一向に決まらない。
なにせ俺は、女の子が貰って喜ぶものなんて何も分からないからな…
「という訳でお前が頼りなんだが…ってあれ?杏?」
そして気付いたら隣にいたはずの杏がいなくなっていた。
「なにしてるんだあいつは…」
相談しようにもいないんじゃ話にならない。
まったく、俺一人で決められる訳ないのにな。
仕方がないので携帯で電話をかける。
「どこにいるんだよ、杏」
『ごめん、朋也。ちょっと別に買う物があるからもうちょっと待ってて』
「声ぐらい掛けて行けよ…まあいいや、居心地悪いから外で待ってるぞ」
『こっちも出来るだけ早く済ませるから』
そう言って杏は電話を切った。
そして俺は店の外で杏の買い物が終わるのを待つ。
「あれ?そういえば…」
改めて外にでてある事に気付く。
以前、椋とのデートでこの辺りに来た時に、一度椋がここの辺りで足を止めた事があった。
その時は腹が減っていたので急かしてしまったが、よくよく考えれば何を見ていたのだろうか。
「確かこの辺りだったな…」
しばらく探していると記憶にあった外見の店が見つかる。
あの時と変わっている可能性もあるが念のためにディスプレイを覗いてみる事にした。
「これか…」
目の前には予想外の物が展示されている。
これを椋が見ていたという事は意味する事は1つ。
「ごめん、朋也。待たせちゃったわね」
「………」
「朋也?」
「えっ!?」
考え込んでいたらしく、気付けば目の前に杏がいた。
「すまん、ちょっと考え事をしてた。買い物はもういいのか」
「もう大丈夫、それより何を渡すか決めた?」
そう言われてさっき見た物を思い浮かべる。
あれを渡すのはさすがに無理だな、手作りなんて出来ないし。
「方向性は決まったが何にするかはまだだな」
「まったく相変わらずのヘタレっぷりね…」
「本題ほったらかして自分の買い物行ってたやつが何言ってやがる」
グシャ!
「何か言った?」
「イエ、ナンデモナイデスヨキョウサン」
完全に聞こえてるじゃないかというつっこみをなんとか飲み込む。
何故ならば、今も杏に投げられた本が直撃した鼻が悲鳴をあげてるからだ。
「まったく、後は自分で考えなさいよね。私は帰るから」
「そうするか、今日はありがとうな」
結局は自分で決める事になったが、大元を決めたのは杏だ。
それについては心から感謝している。
「可愛い妹のためだもの。結果は椋に訊かせてもらうわ」
「まてよ、本投げっぱなしだぞ」
「あげるわよ、じゃあね」
そう言って杏は立ち去っていった。
まるで俺から逃げるように全速力で。
「あげるって…これさっき買った本じゃないのか」
そして俺は放置された本を拾い上げる。
「初心者にも出来るビーズアクセサリー?」
若干付いた土を掃いながら見ると、確かにそういう題名の本だった。
「椋、お前の姉は素直じゃないな。後で礼を言わないと」
杏が走り去っていった方向を見ながらそう呟く。
「ここまでして貰ったんだ。しっかりしないとな」
そう言って俺は早速その本を開き、目的の物を探す事にした。
「出来たぞ!」
杏に貰った本を見ながらプレゼントを作る事2日。
ついに目的の物が完成した。
何度も失敗し、綺麗に作るために何度もやり直した。
「我ながらいい出来だ。こんな時間になっちまったけど」
そう、完成に2日掛かったという事は今はホワイトデー当日。
本来ならデートをするはずだったこの日もすでに夕方。
『用事があるから』その内容のメールを椋に送った直後に『大丈夫ですから気にしないでください』という返信があった。
「大丈夫…って事は無いよな」
きっとこの日を椋は楽しみにしていた。
それは確実である。
バレンタインの手作りチョコを食べている俺を横目で見る椋は本当に嬉しそうだった。
「でも、これにも負けないくらいの気持ちは込められたはず」
そう言って俺は用意した二つの箱を見る。
「後は渡すだけだ。いやそれだけじゃないな」
もう一つ重要な事が残っている。
それを実行するために、俺はメールで椋を呼び出した。
「お待たせしました、朋也くん」
先に指定した場所に着いてからしばらくして、椋が到着した。
おそらく走ってきたのだろう。
3月も中盤だというのに汗をかいていた。
「思い出の場所、としか書かなかったから来ないかと思ったよ」
「私にとって一番の思い出はこの場所です…全部ここから始まったんですから」
椋の言葉に同意するように頷く。
学校の中庭の木の下。
この場所で椋に告白されてから、俺は変わる事が出来た。
「ごめんな椋、今日は出掛けられなくて」
「いいんです、こうやって会えましたし」
やはり椋は許してくれた。
本当に俺にはもったいないぐらいの彼女だ。
「実はな、これを作ってたんだ」
俺はポケットから1つ目の箱を取り出す。
これはチョコのお返し分。
椋をイメージして作った薄紫色の花のブローチ。
「綺麗…これ朋也くんが?」
「ああ、市販品みたいには綺麗に出来なかったけどな」
「そんな事はないです。凄く嬉しいです」
そう言って椋は本当に嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
それだけでこの2日の苦労が一気にむくわれる。
「実はプレゼントはそれだけじゃないんだ」
「えっ?」
嬉しそうにブローチを着けていた椋が驚いてこっちを見る。
むしろ俺にとってはこれからが本題なのだ。
「こっちも開けてくれないか」
「はい…」
2つ目の箱はこれまでの感謝の気持ち。
俺なんかを好きになってくれて、俺を支えてくれた彼女への。
「っ!?」
「前に買ったアクセサリーがあったろ。あれをイメージしてみたんだ」
あのタンザナイトのイメージした色の指輪。
ビーズだから対した物ではないけれど。
俺が今出来る精一杯のお礼。
「えっとその…左手を出してくれないか」
「それって…」
そして最後のプレゼントは俺自身の気持ち。
あの日、ディスプレイに飾られていた純白のウェディングドレスを眺めていた椋。
その願いを叶えるための第一歩。
「俺と…結婚して欲しい」
「朋也くん…」
俺からのプロポーズ。
その言葉を言った瞬間に椋の目から涙が溢れる。
「どうした椋!?もしかして嫌だったか!?」
「違います、ただ嬉しくて。朋也くんの言葉が嬉しくて…」
そして自然に俺は椋を抱き締めていた。
「恐かったんです。もうすぐ毎日会えなくなる…それなのに今日も会えなくて」
「もう会わないって言われるんじゃないかって、それだけは嫌なのに…」
「ごめんな…椋。俺って本当に馬鹿だから」
「私こそ…朋也くんを疑ってしまっ!?」
このままじゃ折角いい雰囲気なのに謝ってばかりになってしまう。
そう感じた俺は、無理矢理唇を奪う事で椋の言葉を遮った。
「ふぅ…もう謝るのは無しにしよう。それよりも返事が聞きたいから」
「もう分かってるじゃないですか」
「でも…椋の口から聞きたいんだよ」
「これからもずっと一緒です、朋也くん」
「でも…どうしてブローチも作ったんですか?」
「どうしたんだ?突然」
しばらくあの場所で抱き合った後、俺達はしっかりと手を繋いで帰り道を歩いていた。
その途中で椋が突然疑問をぶつけてきた。
「嬉しかったですけど、普通なら指輪だけで十分だと思います」
「うっ…それは…」
「それは?」
出来ればスルーして欲しかった話題だがもう隠す事も出来ないか。
「3倍返し…」
「えっ?」
「3倍返しだから3つ用意しろって杏が」
そうなのだ。
あの本には手紙が挟まれており、そう書いてあった。
後々テレビで見て真実を知ったが、それを知るまで俺は杏の言う事を信じきっていた。
だからこそ『ブローチ・指輪・プロポーズ』と3段階で用意していたのだ。
「ふふふ…」
「笑うなよ」
「朋也くんらしいなって思っただけですよ。それに私は3倍どころじゃない幸せを貰いましたし」
「なら結果オーライとするか」
「ですね、それと朋也くん」
「ん?」
「改めて、不束者ですがよろしくお願いします」
これから一筋縄ではいかないだろう。
椋の両親への挨拶。これからの事。
決して平坦な道ではないだろう。
でもきっと二人なら乗り越えられる。
俺達は共に歩き始める…長い長い道程を。
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