2人の女性のバレンタイン










「き、杏先輩!受け取ってください!」

目の前の女の子が必死に搾り出した言葉ともにラッピングされたチョコレートが差し出される。

「…ありがとね」

本日何度目かになる言葉とともにそれを受け取った。

「あ、味わって食べてください」
「ええ、そうするわ」
「し、失礼しました!」

慌てながら女の子は走り去っていった。

「はぁ…」

思わずため息が漏れてしまう。

本日はバレンタインデー。
女の子が男の子にチョコレートとともに愛の告白をする、
というのが過去の話だったと言いたくもなる。
それが真実なら、あたしの席に2桁に届くチョコレートは存在していない。

「杏って女の子にはモテモテね」

とのクラスメイトの弁に反論することも出来ない。
自主登校に近い状態だったし、家にいればよかった、と今更ながら後悔。

(あたしも渡したいやつがいるんだけどね…)

ちなみにそいつは登校していない。
きっと今日は登校しないだろう。
そうすると、あたしの鞄にあるチョコレートは無駄になるということだ。

「あたしも諦め悪いわね〜」

そんな言葉を思わず呟いてしまう。

「まっ、教室も戻ろっ」

教室に戻るまでにさらにチョコは2つほど増えていた。
席に戻る際、私の手にあるチョコを見ながら、
「さすが杏ね」というクラスメイトの言葉が追加された。






「さすが会長、モテモテですね」
「この場合のモテることが嬉しいかは、非常に複雑だ…」

指摘したクラスメイトも苦笑する。
私の席には受け取った多くのチョコレートがあった。

「何故、私なんかにチョコレートなど渡すんだ。私が男ならともなく」
「そりゃあ、智代が男よりもカッコいいからでしょ?
会長というポジションがカッコよさが際立たせているのかもね」
「それは女としてはあまり嬉しくない…」

出来れば、綺麗とか可愛いが嬉しい。

「でも、現実として、このクラスの男子よりも貰ってると思うわよ」

確かに私より貰っている男子は見当たらない。
むしろ、貰っていない男子の方が多いのではないか。
男子からは羨望の視線で見られている。

「ちなみに、智代はあげる予定とかあるの?」
「私か?」

渡したい相手がいないわけではない。
ただ、その相手には既に本命がいる。
う〜ん、この場合はどちらなんだ?

「あっ、もしかして副会長?」
「いや、違う」
「そっか、智代の渡したい相手か〜」

私の相手を考えているみたいだが、私が渡したい相手が誰かは分からないだろう。

「と、考えてる間に次のお客様が来たよ」

見ると教室のドアから女の子が私の元に向かっていた。

「お客様という発言もどうかと思うぞ」

そう言いながら、新たにチョコレートを受け取っていた。






放課後、構内をうろつきながら時間を潰していた。
クラスメイトの話だと、昇降口に私を待つ女子が数人いるという情報があったから、
気分転換を図っている。

「ん、杏ではないか」

そんな時に智代に出会った。

「何であんたがここにいるのよ」
「何でといわれても、生徒会室に行くからなのだが」

確かに智代は生徒会長、この先には生徒会室がある。
もっともだ。
そんな智代の左手の持ち物に目が行った。
智代もその視線に気づいたようだ。

「ああ、これは後輩からのチョコレートだ」
「あんたも大変ね」
「あんたも、ということは杏もなのか?」
「そうね、同じくらいの量が教室にあるわ」
「…お互いに苦労するな」
「ええ、まったく…」

お互いの本日の苦労を労っていた。

「それじゃ、生徒会の仕事頑張りなさい」

そういって立ち去ろうとすると、

「少し待ってくれ」
「何?」

智代から呼び止められた。
あたしが立ち止まるのを確認すると、鞄の中から何かを取り出し、私に差し出した。

「すまないが、これを受け取ってくれ」

その手には今日よく見たチョコレートだった。

「あたしに?」
「実は別のやつに渡すつもりだったが、渡せそうもなくてな。
だから代わりに受け取ってくれ」

その表情はとても複雑そうだった。その表情だと、智代相手でも、断るのは辛い。

「しょうがないわね、今回だけよ」
「本当にすまない」
「代わりにひとつ聞きたいんだけど…」
「何だ?」
「このチョコって、誰にあげるつもりだったの?」
「……朋也だ」

少しだけ躊躇したあと返ってきた答えがそれだった。

「………そう」
「では、そろそろ行かせてもらう」
「ちょっと待って」

今度はあたしが智代を呼び止める。

「あたしのも貰ってくれない?」
「いいのか?」
「あたしのもあんたのと同じだからね」
「……そうか、では受け取っておこう」

こうしてあたしのチョコは智代に、智代のチョコはあたしに渡った。

「お互い辛いわね」
「そうだな」

あたしたちの相手に本命がいなければライバルといえるが、
本命がいるから、あたしたちは慰めあう相手ともいえる。

「ではそろそろ行かせてもらう」
「ええ、生徒会頑張んなさいよ」
「杏に言われるまでもない」

智代と別れ、しばしブラブラし、家に帰ることにした。
ちなみに帰りに数個のチョコが増えた。






翌日、

「杏、聞いたよ」
「何を?」
「杏と生徒会長が熱く見つめ合いながらチョコレートを渡しあっていたって噂よ」

聞くと昨日の智代とのやりとりを目撃した人がいるようだった。
ただ、微妙に違う。熱く見つめ合ってはいない。

「杏と生徒会長か〜。最強のカップル誕生といったところね。
全女生徒から羨望の眼差しを受けるわね」
「……はぁ」

ため息を出すしかなかった。





後書き

このために2年ぶりSS書いたTKです。
トイレに入りながら、気楽に読んでもらえるとありがたいです。
ちなみにホワイドデーはまだ出すか未定です。
それでは〜






















お囃子・感想などいただけましたら。

おなまえ(省略可)



お囃子!(→盛大)

ぱち ぱちぱち ぱちぱちぱち

よろしければ何か一言!(省略可)





Back