『向けられない君の言葉』




「高く飛べぇっ! 高く空へっ!」
「わふーっ! ほんとに跳んでるのですっ!」
「はるちゃんかっくいい〜!」


 今日は神聖なクリスマス。何故私たちがこんなことをしているのかというと。
『よぅしっ! みんなでカラオケに行ってみよう〜!』
 という小毬君の一言から始まった。
 で、今に至るという状況である。

「では、僭越ながら次は能美クドリャフカ、歌わせていただきます!」
「いっけぇー!! クド公!!」
「あい、あぅ…い…………………わふーっ! 英語で読めませんっ!」
「能美さん、上にカタカナで振り仮名がうっていますよ」
「あ、助かります西園さん! え〜っと………は、早すぎて追いつけませんっ!?」
「くーちゃん…、もうちょっと慣れた曲を歌ったほうがいいかな?」

 こんなノリで始めてしまったわけだが、これからフルスロットルの5時間近くやる予定らしい。私はこういう場所は初めてだったりする。その初回で五時間とは結構なものなのではないだろうか?
 当然のごとく、前日のイブにはリトルバスターズ全体で「クリスマスイブにイブイブパーティを開かずして何をするというのかー!!」とかいうノリでクリスマスパーティを行っている。その次の日もこうやって思いっきり騒ぐというのだから、リトルバスターズのパワーは測りしれないものだな。
 佳奈多君や笹瀬川女史も誘ったりしたのだが、佳奈多君は寮会の仕事で、笹瀬川女史はソフトの後輩たちとのパーティのため欠席だ。
佳奈多君なんてかなり残念そうにしていたからな。数日後くらいに葉留佳君やクドリャフカ君が連れまわされたりしているかもしれないな。
 で、男連中はというと。正直私は誘う必要なんてないと思っていたのだが、小毬君は律儀に誘ってみたらしい。
 だが、恭介氏は就活で、真人少年は筋トレ、謙吾少年は恭介氏たちが参加しないなら不参加、という理由で欠席だそうだ。
 恭介氏……この時期にまだ決まっていないというのは…ヤバいんじゃないだろうか…?
 今の世知辛い世の中ではなかなか採用してくれんのかもしれんな。

「では、次は私が行きますっ!」
「やったれー! こまりん!」
「待ってましたぁ〜なのですっ!」

 小毬君が歌うのは最近のヒットソング。
 だが、これは……。

「え〜っと…あはは…これはですネ…」
「やったれーなのですっ!」
「神北さんは、独特な音感をお持ちですね」

 小毬君の歌は正直に言うと…うまいとは言いがたい。
 独特なイントネーションで独自の音楽を作り上げている。これはある意味凄いともいえるのかもしれない。この独特な歌い方は真似できそうにない。
 歌い終わったころに一息ついた小毬君の隣に移動する。

「小毬君はカラオケとか頻繁に来たりするのか?」
「ふぇ? う〜ん、たまに他の子と来たりするよ。あんまり行ったりすることはなかったんだけどね。私は結構行きたかったんだけどなぁ〜」

 ふむ、私の耳は間違ってはいないということか。小毬君には悪いが。

「じゃあ、次はみおちん!」
「……わたしですか? あまり、曲は聞いたりしないのですが…」
「さぁ出るぞ! みおちんの固有結界っ!」
「ぱふぱふぱふーなのです!」
「いぇいいぇーい! やったれーみおちゃんっ」

 画面に出てきた曲は……ふむ、美魚君らしいといえばらしいな。

「ほんとに発動しちゃいましたよ……みおちんの腐☆固有結界…」
「ふぇ? 『おれのしたであがけ』? …………ほわぁあああああ!!? なんかとっても恥ずかしい曲名だよぉ〜!!」
「で、でんじゃらすですっ!!」
「ふむ…エロいな…。ノーマルでもアブノーマルでも」

 美魚君は歌い終わっても恍惚の表情を浮かべていた。余韻に浸っているようだ。
 ふむ、思っていたよりはまともな曲だったな。美魚君もこの歌詞をずいぶんと爽やかに歌ってくれたものだ。それでも美魚君が十分にカッコよく歌うものだから、小毬君とクドリャフカ君は真っ赤になってしまっているが。彼女たちには刺激が強すぎたか……。

「さぁ来ましたよ〜! 姉御っ! やっちゃってくだせぇっ!」
「む。私の番か」
「はっ…しゃかしゃかへいっ、なのですっ」
「あ、次はゆいちゃんだね〜。行け行けゆいちゃ〜ん!」
「だからゆいちゃんはやめろと…」

 私が歌うのは少し前に流行ったバラード。悲しげな曲調が印象的だ。

「うっ…うっ…悲しい曲だよ…」
「わふぅ〜悲しい曲なのです…」
「ここまで心打つように歌えるとは、さすが来ヶ谷さんですね」
「これもいいですけど〜、姉御にはV系をカッコよく歌ってもらいたいのですヨ! 姉御。次はこれなんかどうっすか!?」
「ああ、これなら知っている。次に歌ってみよう」
「ひゃっはー!! 姉御サイコー!!」







「今頃、りんちゃんと理樹君も楽しんでるかな〜」

 一通り歌い終えてみんなで少し休んでいるときに、どことなく上げにくかった話題をあっさりとコマリマックスがあげてしまった。
 その言葉に少し場が固まる。話題を出した小毬君はあまり気にした様子はなく、平然としている。
 やはり侮れないな君は…。
 こんなにも可愛い少女たちが何もなく、この神聖なクリスマスという日を過ごしてしまっているのも理樹君が鬼畜過ぎた結果だな。
 本当にもったいない。だが、こんな可愛い子達を他の輩に取られるというのもしゃくな上に、独占できる今が素晴らしいと思うと、グッジョブ理樹君と言わざるおえないな。

「そうなんだよネ…理樹くんはもう鈴ちゃんの彼氏だから、もうどうしようもないんだよね…」
「…やっぱりちょっと悔しいのです…」

 落ち込むように葉留佳君とクドリャフカ君が俯いてしまう。
 やはり君たちはいまだ理樹君のことを想っているのだな。

「…いや…いつまでもこんな風に立ち止まってちゃいけないよねっ! これから理樹くんよりもいい男の子を見つけてやるー!!」
「わふ…確かにそうなのです…早く諦めないといけません……でも…できるでしょうか?」
「クド公……立ち止まってたらいけないよ! 世の中、いい人はきっと理樹君だけじゃないんだからっ!」
「そ、そうですねっ! では、今日はそんなことを気にすることなく、思いっきり盛り上がっていくのですっ!」
「その調子だクド公―!!! じゃあデュエットだ!」
「やってやるのですっ!」

 二人で楽しそうに曲を選びにかかっている。
 だが、無理しているのだろう。二人の表情にどことなくその様子が表れていた。
 そう簡単に諦められるはずもない。選ばれなかったとしても、やっぱり好きだったから。
 なら、小毬君と美魚君はどうなのだろうか?

「小毬君は悔しくないのか…?」
「ふぇ?」
「理樹君が好きだったのじゃないのか?」
「う〜ん……。私は…あの時、理樹君にたくさんのものをもらったから、教えてもらったから……もう十分なのです。それに、理樹君やりんちゃんが幸せなら私も幸せ。ほら、幸せスパイラルだよ」

 にっこりと笑顔を向けてくる小毬君。その笑顔に息を呑んでしまう。
 ほんと、君には敵わないな…。

「ゆいちゃんは、嬉しくない?」
「ん……ああ、もちろん嬉しいよ」
「えへへ。幸せスパイラルだね」

 友達の幸せを喜び、笑っていられる。私にはまだうまくそんな風にできそうにない。
 本当に君はすごいよ。これを口に出そうものなら、小毬君はそんなことないと否定してしまうのだろうが。

「美魚君は、どうなんだ?」
「わたしはこれとよろしくしていますので」

 さっと一瞬鞄から出したのは薄い本。
 なかなか抜け出せないものなのだな…。
 やはり美魚君は一番読みにくい。それが本音のようにも感じてしまう。事実はどうなのかわかりそうにない。

「そういう来ヶ谷さんはどうなんですか?」
「私か?」
「はい」

 西園女史の瞳はこちらに聞いた限り答えてもらうと訴えていた。
 ふむ、たしかにそれは正論だな。ここで私が答えないのは卑怯というものだ。みんなに問いただした身としては。

「そうだな…………………………私は今も――――――――だよ…」
「え、今なんと…?」

 私の言葉は歌い始めた葉留佳君とクドリャフカ君の声で掻き消された。
 美魚君に向かって少し笑みを浮かべてから、小毬君に襲い掛かってもう一度返答する。

「私は今も昔も、可愛い子みんなに恋しているさ。ほらほら小毬君、私に身を預けてみないか?」
「わーっ! ゆいちゃんどこ触ってるのおぉおお!!? あ、そこは……ダメぇ…」


 それからも小毬君で遊んだり、クドリャフカ君で遊んでみたり、葉留佳君や美魚君とデュエットしてみたりと大騒ぎで楽しんでいた。
 そんな中で、さっき美魚君に言おうとした自分の想いを思う。


 ――理樹君…今ならあの時の君のメールに私は答えられるのに、君はもう私の届かない場所にいるのだね。
 ――あの、同じ時を過ごした理樹君はもういない。それがわかってしまうのが悲しい。感情がないと思っていたころが嘘のようだよ。
 ――君は私にたくさんの事を教えてくれた。与えてくれた。それだけでも、私には十分すぎるものだったよ。

 ――それでも、まだ……この思い出せた記憶を忘れずに、大切にしていてもいいかな?











「くしゅっ」
「だいじょうぶか理樹。寒いのか?」

 心配そうに僕の顔を鈴が覗き込んでくる。心配かけないようすぐに返答しておく。

「大丈夫大丈夫。鈴こそ、寒くない?」
「うみゅ…寒いといえばたしかに寒いな」
「そうだなぁ…。どこかのお店に入る?」

 僕は近くの喫茶店を指して鈴に提案してみるが、鈴は首を横に振る。
 どうしたのだろう。いつもの鈴ならこの提案を断るはずがないのに。

「それもいいが……これをよこせ」

 鈴が引っ張るのは僕がつけているマフラー。

「え、ええええ!! 僕のマフラー取っちゃうの!?」

 それは困る。たしかに鈴が寒いのはどうにかしたいけど、僕も…その…寒いのだ。

「まぁ、とにかく渡せ」

 鈴が催促するように僕を見上げて言ってくる。
 その見上げてくる目に弱いんだよな…僕…。

「もう、しょうがないなぁ。はい……………さむ…」

 ため息をつきながら結局了承してしまう。
 さらば温もり…。
 外したマフラーを鈴に手渡す。首回りが凄く寒い。マフラーって大事なものなんだなと実感した。

「よし、じゃあ理樹はこれを使え」
「え、これ…」

 鈴が僕に渡してくるのは鈴がさっきまでつけていたマフラー。それを外した鈴は僕と同じように首をすぼめて寒そうにしている。

「ん、交換だ。こうすればなんかさっきよりあったかい気がするだろ?」

 鈴は少し笑いながら僕にそう提案してきた。
 鈴の行動に、その考えに納得した。奪い取られると勘違いしていたのが恥ずかしい。

「鈴……。うん、そうだね。これならすっごく温かいよ」

 マフラーを巻きながら鈴に笑いかける。鈴も笑顔を返してくれる。

 いつも歩く商店街もクリスマスムード一色だ。僕らと同じようなカップルも目につく。
 そこを二人、肩を寄せながら歩く。さっきよりも少し温かくなった気がしていた。
 それはマフラー云々というよりも、鈴が僕の隣にいるからなんだと思う。

「今日は寒いが、理樹がいればあったかいな」
「鈴……僕もだよ」
「そうか」

 鈴が同じように思っていてくれたことがほんとに嬉しい。
 こうやってこの日を鈴と過ごすことができて……僕はほんとに幸せだ。

「ん……雪か?」

 視界にチラッと見えたのは白い粉。それは本当に小さな存在で、気のせいなのかとも思ったが、徐々に数を増してきたそれはやはり雪だった。

「ホワイトクリスマスだね」

 空を二人で見上げながら、落ちてくる粉雪を見つめる。
 それはこの景色を彩り、今日という日を祝福してくれているようにも思えた。
 今日は……最高のクリスマスだ。

「鈴」
「ん?」

 振り向く鈴に僕は笑顔で伝えた。


「メリークリスマス」


















あとがき

駄文ですが読んでいただきありがとうございました。
これはクリスマスに女連中でカラオケしててもいいんじゃない?という考えから来ました。
それなら、理樹に選ばれなかった子たちがこのように過ごすんじゃないかという想像に発展しました。
少しシリアス風味に終わってしまいましたが、これは「いつかはこうなるものなんだ」という思いからなので仕方ないと許してください。
俺の嫁に何ひどいことしてんじゃボケー!!というコメントでもなんでもよろしくお願いしますw  ではこの辺で。





















お囃子・感想などいただけましたら。

おなまえ(省略可)



お囃子!(→盛大)

ぱち ぱちぱち ぱちぱちぱち

よろしければ何か一言!(省略可)





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