窓の外は、吐く息も白く指先も凍るような冬真っ只中。
学園は既に冬休みに入っている。年末の長期休暇と言う事で実家へ帰省する生徒も多い為に、静まり返った学園寮は学期中とは全く異なる場所の様。
そしてそんな中でも、平時と変わらず騒がしい、数少ない部屋。
リトルバスターズ男4人衆が集まる、理樹と真人の部屋である。
すっ。
「それ、ダウトだっ」
「外れだ、恭介」
「ちっ」
恭介が挑戦し、謙吾がいなす。
そして、またゲームが始まる。何周か後。
「ほい」
すっ。
「はい」
すっ。
「それ、ダウトだっ」
「ふぅ・・・外れだよ、恭介」
「くそっ」
恭介が挑戦し、理樹がいなす。
そして、またゲームが始まる。何周か後。
「はい」
すっ。
「ほい」
すっ。
「それ、ダウトだっ」
「ふっふっふっ、外れだぜ、恭介・・・」
恭介が挑戦し、真人がいなす。
そして、またゲームが始まる。
「・・・ってちょっと待ったぁー!!!」
理樹が叫んだ。
「どうした理樹?」
「いやおかしいでしょ!いつもなら主導権を握ってる筈の恭介が真人にまで!?」
怪訝そうにする恭介に、理樹は全力でツッコむ。
普段から男女メンバーを合わせても圧倒的にツッコミが足りないリトルバスターズ内で鍛えられているお陰で、最近はツッコミの反応速度やタイミング、どれをとっても上達してきていると自負する理樹である。
そして半ば反射的にツッコむ理樹であったが、それでもこの状況の奇異さは十二分に感じていた。
「俺はそんなに間抜けに見えるのかぁーっ!?うおおおお!」
狭い部屋の中で、視界の隅にこれでもかと自己主張してくる筋肉塊がいたが、理樹は無視して恭介の答えを待つ。
思う。洞察力もあり、いつも自分達の一手二手先を読んでくる恭介が、ここまで変調を来たすなんて、きっと何か理由があるはずだ・と。
「理樹の言う通りだぞ?・・・恭介、何か懸念事でもあるのか?」
謙吾も問う。
恭介は二人の視線を受け、目を伏せ腕を組んで黙りこんだ。
待つこと暫し。
唐突にすっくと立ち上がったかと思うと、面を上げ、腕を組んだままの真剣な表情で、
「そうだな、そろそろ話しても良いか」
口を開くと、そう言った。
見詰める二人は、真剣な響きに瞬間身を固める。
が、
「実はな、・・・明日はクリスマスイブなんだよ!」
腕を張り、いつもの決めポーズでそう叫んだ恭介に、二人はずっこけた。
「「・・・は?」」
「おれは間抜けなのかぁーっ!?」
筋肉は未だ部屋を転がりまわっていた。


***

30分ほど後。
部屋の中心、再び肩を寄せ合い話をする野郎共の姿である。
「つまり、だ」
謙吾が言う。
聞く面々の中、理樹だけが肩身が狭そうにしている。
「結局恭介が言いたかった事は、」
無駄な事全てを省いてまとめるなら、
「理樹は、まだデートの約束を取り付けていない、と。そう言うことだな?」
「・・・・・・・・・・・・恥ずかしながら」
更に小さくなる理樹。
当然である。自分の彼女とクリスマスの約束を取り付けていない彼氏など、日本全国見回しても、全く希少種極まりないのだから。
実際、『クリスマスイブ前日と言うのに、男4人で集まってトランプに興じる姿』と聞くだけならば何らおかしくないかに思えるが、そこに彼女持ちの男が混じるとなれば話は別。
明日に控えたデートの計画、プレゼントの懸念、その他エトセトラエトセトラ。理樹のようなあまり隠し事の出来ないタイプなら尚更、もっと『そうした』素振りを見せる筈。
それをずっと恭介は違和感として感じていたと言うのだ。
そして全員の視線を受けて口を開く理樹だが、
「唯湖さん、クリスマスとかそう言うイベントに興味無いみたいなんだよね・・・」
思わずため息を吐きながら。
来ヶ谷唯湖。
秋口から理樹と交際する彼女は、博識聡明・無敵超人・超現実主義者と三拍子揃った鉄人そのもの。
とは言っても、理樹も世間一般並の男子。当然、それとなく伺ってみたりはした。
「でもよ理樹、予定を聞いてみたりくらいはしなかったのか?」
丁度どこに思慮を巡らせたタイミングで、頭上に疑問符を浮かべてそう尋ねてくる真人。
「したよ・・・」
そう、した。
・・・11月の頭に。
とは言えない。そんな昔だとは、それ以来怖くて聞けないとかとてもじゃないが言えない。
内心思いながら、理樹は苦笑を口の端に作って言う。
「ま、まぁ・・・今月の頭くらいにさ。で、でも、こう、24とか25って日にちを出しただけで駄目オーラが来ると言うか・・・」
前半部分は大嘘。後半部分は事実である。
実際回想してみると、

『ねぇ、唯湖さん』
『何だ理樹君。朝っぱらからリビドー全開おっぱい星人か?』
『全開でも星人でもないよ・・・』
『じゃあ何だ』
『いや、あのさ・・・。あ、えーと、唯湖さんは冬休みどうするの?』
『ふむ。どう、とは?』
『うーんと、帰省するのかなぁ、って』
『ふむ、理樹君は年末年始の2週間が耐えられないのでおねえさんとくんずほつれつ爛れた日々を過ごしたい。そう言う訳だな?』
『そこまで言ってないよっ』
『はっはっはっ、安心したまえ。どうせ自宅へ帰っても両親と過ごせる時間など限られている。それに、今年は元々帰るつもりも無かったから、都合良く理樹君といちゃいちゃするつもりだったしな。どうだ嬉しいか?嬉しいと言ったらくっついてやるぞ?どうだ、うん?』
『いきなりおっさん化しないでよ・・・。まぁ、でも一緒に過ごせるのは嬉しいよ』
『ほう』
『それで、その冬休みのことなんだけどさ』
『ふむ、なにかね?』
『24とか25とか空いてたりしない?』
『・・・・・・』
『え、何その露骨に嫌そうな顔』
『・・・』
スッ。
『ぎゅっ』
『ちょ、いきなり背後に移動しないでよっ!て言うか抱きつかないで!今まで黙ってたけどここ教室ー!!』
『おい、見ろよ・・・』
『あぁ、地球温暖化が懸念されるアツさだとは思ってたが・・・』
『脱水症状を起こしそうっ、避難よ避難っ』
『だがくそ・・・僕の高邁な野次馬精神が・・・畜生っ、ここで死ねるかぁ』
『佐々木ぃ!死ぬなぁー!』
『ちょっとお前ら黙れぇーっ!!!』
『きゃー、直枝君がキれたわ!』
『くそ、このブルジョワが!退避だ退避!』
『もっと見せ付けてやれ理樹君、ほれほれ、ほーれほれ』
『だまr、って唯湖さん!おっさん化してる!おっさん化してるから!』

要らないところまで芋蔓式に思い出されて、理樹ショート。
「理樹、顔が赤いぞ」
湯気が出そうな理樹に、隣の謙吾が指摘する。
「な、なんでもないよっ」
理樹は両手を体の前で横に振り、慌てて取り繕う。
―――平常心、平常心。落ち着くんだ僕。
内心で焦る理樹。だが、
「まぁ、どうせ来ヶ谷に聞いたのはもっと前で、一回了承を取れなくてそれから怖くて切り出せないとかだろ?」
ぎくっ。
理樹は、ぎぎぎ、と音を立てて、言った恭介の方へ首を回す。
本当に超能力でもあるんじゃないだろうか、と思いながら。
「図星か。ふぅ、世話の焼ける奴だぜ全く・・・」
視線を受けた恭介は、やれやれ、と言う風で首を振り、だが、次の瞬間にはキッとその双眸を虚空に据え、本日二度目の決めポーズでこう言った。
「俺たちで、・・・理樹のクリスマスデートを成功させるぞッ!」
「恭介・・・」
感極まった様子で見詰める理樹。
その理樹の肩を、残りの男二人が叩く。
「俺も手伝うぜ、理樹」
「真人・・・」
右肩を、歩く筋肉こと真人が。
「恋愛の事なら俺に任せておけ、理樹」
「謙吾・・・」
左肩を、歩くマーンこと謙吾が。
理樹は思う。僕には、こんなに頼りになる友人達がいる。みんなの力と、僕の唯湖さんを愛するこの力が合わされば、決して・・・問題の解決こそ見えないけれど、絶対に明日のデートは取り付けられるはずだ・と。
そして理樹は、全員の手を取り、

うーっ、うーっ、うーっ

「あ、バイブ」
「理樹、お前の携帯じゃないか?」
「え、僕?差出人は・・・あ、唯湖さんだ。えーと、『明日11時ジャストにいつもの喫茶店で待つ。愛しているぞ、理樹君』。あ・ごめん皆、何とかなったみたい。僕今からプレゼント買ってくるから、それじゃね☆」
急転直下。
黙りこくる一同。
「あ、それと、皆に恋愛の事は任せられないから!」
ばたん。
閉じられた扉を前に、固まる3人。

「ちくしょおーーーーーーーーっ!」
そんな叫びが、その後1時間近く、寮内に響き続けたとか言う話である。


***

「ところで唯湖さん」
「どうした理樹君」
「どうしてクリスマスの予定を聞いた時、答えてくれなかったの?」
「・・・」
「え、どうして唖然とされてるの僕?」
「君はそんなことも解らんのか・・・。まぁいい、それはその・・・」
「何?」
「その・・・」
「何?」
「くそっ、悔しかったんだっ」
「・・・え?」
「私もクリスマスが楽しみだったのに、まるで私が気にもしていない様な、存在を考えもしてないような前提で聞き方をされてだな」
「あはははっ」
「な、何がおかしいっ」
「唯湖さん」
「・・・もう答えてやらん」
「大好きだよ」
「なっ」
「やっぱり可愛いなあ、もう」
ちゅっ。


終わり。



















お囃子・感想などいただけましたら。

おなまえ(省略可)



お囃子!(→盛大)

ぱち ぱちぱち ぱちぱちぱち

よろしければ何か一言!(省略可)





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