赤鼻のトナカイ(技[ロリ]の1号、力[筋肉]の2号)

 2号は叫びました。
「サンタがいねぇっ!!」
 1号は見つけました。
「書置きがありますーっ!『ちょっと旅に出る。後は任せた』わふーっ!?」
 2号は怒りのあまりアブシリーズ四天王の一つ、『アブ握力』をがっしゃがっしゃと握りながら叫びます。
「アホかぁっ!前日に旅に出るんじゃねーよ!」
 2号に言われるとは相当なアホです。もはや人類としては致命的なレベルです。
 1号はフォローの言葉を探しますが、クリスマス前日にサンタが不在という事態はいかんともしがたく、2号の言葉を否定できませんでした。
「つ、続きがありますっ!『赤鼻2号、お前の怒りはもっともだ。だが俺も崖っぷちなんだ、理解してくれ』」
「あー…」
 崖っぷちという言葉に、2号の怒りは瞬く間にしぼんでしまいました。サンタが泣きながら履歴書を書いている姿を思い出したのです。
「それじゃあ、まあ、しょーがねーな…」
 2号は既に怒りの矛を収め、サンタが無事に採用されるよう祈ってさえいました。しかし、1号はもっと大事なことがあると2号に伝えます。
「あ、あのっ!それで、今年のぷれぜんとはどうしましょう…?」
「ぬあぁーーーーっ!?そうだったどうすんだよーーーーーーっ!!」
 問題は山積みのようです。



 嘆いてみてもサンタは帰ってきません。1号と2号はサンタの代わりにプレゼントを届けることにしました。
「さいわい、プレゼントの用意はしてあったみたいですし」
 1号の言うとおり、倉庫には子供たちへのプレゼントがどっさりと積み上げられていました。
「こういう手回しはいいのに、何で就職できねぇんだあいつ?」
「それを言ってはいけないと思いま、わふっ?」
 2号をたしなめようとした1号は、足元の包みに気付かずにつまずいてしまいました。箱はつぶれなかったものの、包装紙が少し破れてしまいました。
「いっつああくしでんとなのですー…」
「しょげんなって。そんなの包みなおしゃいいじゃねぇか、な?」
 2号はそういうと、びりびりと包装紙を破りとってしまいました。しかし…

『ハァイ、ボブ。メリークリスマス♪(にこやかな表情で片手を軽く挙げて挨拶する)』
『やあナンシー。(手を挙げて挨拶を返し、目を見張りながら驚きを表現して)どうしたんだい、そんなに浮かれて。マクダネルズハンバーガーにピクルスが2枚余計に入ってたかい?』
『(首を振りながら肩をすくめ)いいえ、残念ながらピクルスの代わりにチーズが挟まっていたわ。(額に左手を当て、右手で顔の前を払いながら)そう、別にうかれてるわけじゃないわよ、挨拶しただけ』
『(納得した、という表情でにやりと笑い)ハハーン。知っているよ、それが日本でいうツンデレってヤツだろ?(片目を瞑りながら人差し指で相手をさして)まったく素直じゃないなナンシー(両手のひらを上に向けて肩をすくめる)』
『(歯をむき出しにしながら詰め寄って)ば、馬鹿なこと言わないで欲しいわね!いつ私があなたのことを好きだなんて(ハッと両手で口を押さえると、一旦天を仰いでから向き直って指を突きつける)今言ったことは忘れてちょうだい』
『(小さくバンザイしながら)オーケィ、君が僕にメロメロだってことは心の中に留めておこう』
『忘れろって言ってるのよ!ああもうなんて日よ。大体あなたはいつもそうなのよ、調子のいいことばかり言っていつもごまかして。この間だってそうよ――』
『(喋り続ける彼女をそのままにして正面に向き直り)どうやら彼女の逆鱗に触れてしまったみたいだ。彼女は一度こうなるとなかなか機嫌を直してくれない。困ったもんだ(笑いながら肩をすくめ)
 でも!今日はそんな彼女もたちどころに笑顔にしてしまうプレゼントを用意したんだ。まあ見ててくれ(セットの死角からケーキ箱ほどの箱を取り出して)
 ああナンシー。話の途中だけどメリークリスマス♪』
『(なおも喋り続けていたが、箱を見たとたんにサプライズな表情を浮かべて)ワォ…素敵、これを?(確認を求めるように交互に見つめ)』
『ああ、君へのプレゼントさ。喜んでもらえるかな?(会心の笑顔で片目をつむる)』
『Ah、愛してるわボブ。最高よ!(首に腕を回して抱きつき、キスの雨を降らせる)』
『Oh!(突然のキスに面食らったように目を見張るが、すぐに満面の笑顔になり、正面に顔を向ける)どうだい、効果バツグンだろ?君もこのプレゼントで、気になる彼女のハートをつかんでみないか?』
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「…」
「…」
 1号と2号は一言も発しないままその活動を停止していました。頭の中で何か頭の悪そうな白人が笑っていたような気もします。
 先に我に我に返るのは2号でした。無言で他の箱の包みもバリバリと破っていきます。少しして我に返った1号もそれに続きます。
 ばりばり、ばりばりと包装紙を破る音だけが倉庫に響きます。どのくらいそうしていたでしょうか、箱の二割程度が裸になったところでようやく2人は手を止めました。
「な」
「な」
「「なんじゃこりゃぁーーー(なのですーーー)っ!!」」
 遠吠えと勘違いした狼が嬉しそうに声を合わせました。



 息の続く限り叫んだ2号は肩で息をしながら1号を見ます。先に息切れしていた1号は、どんよりとした顔でうつむきながら、そばにあった箱を少しずつ指でちぎっていました。何か小さくぶつぶつと呟いているようでしたが、2号は本能で「それを聞いてはいけない」と悟り、耳に蓋をして話しかけます。
「なあ…どうする?」
 思ったより声に力が入らず、1号は気付きません。少し声を強めて再び話しかけ、ようやく1号が顔を上げました。
「あ?なんだって?」
 1号が何か言っているようなのですが、向こうも声が出ないのか2号の耳には届きません。
 1号は身振り手振りも交えながら、必死に何かを伝えようとしているのですが、2号には今ひとつ分かりませんでした。
「だーかーらー!聞こえねぇってばよ!」
 ふたりの間はせいぜい5メートルほどしか離れていません。なのになぜか伝わらない言葉。1号は2号の張り上げた声に耳をふさいだので向こうには聞こえているはずです。
 2号は、1号がさっき叫んだせいで喉を枯らしてしまったのだと思い、1号にならって身振り手振りで伝えることにしました。
「手ぇをぉーーーーーーーーっ!!!!!!!!!」
「のわぁっ!?」
 手振りをしようと耳から手を離した瞬間、1号の振り絞った声が鼓膜を激しく揺さぶりました。めでたしめでたし。



 ようやく意思の疎通を可能にしたふたりは、冷たい倉庫から暖かい家に戻り、これからの身の振り方を話し合いました。
 サンタが用意していたプレゼントはとてもよい子たちに配れるものではありません。そんなことをすれば配られた子供たちは家族の冷たい視線に晒され、サンタ不信に陥ってしまうでしょう。
 そうなればサンタは廃業、トナカイ1号2号は揃って路頭に迷ってしまいます。
「…運良くサンタが就職できても駆け出しの給料じゃオレたちまでは養えねぇだろーしなぁ。しょーがねぇ、どっかの現場でバイトでもすっか」
 この時期はあちこちで工事をしていますから、2号のような筋肉自慢ならきっと引く手あまたでしょう。
 その言葉を聞いて、1号もおずおずと申し出ます。
「あ、でしたら私もあるばいとします!力仕事はむりですが、それ以外でしたら夜のおしごとでもなんでも――」
「いや、捕まるだろ」
 捕まる以前に、雇ってもらえないでしょう。
「がーん!?そうですか、私はやっぱり役立たずのだめだめわん…となかいなのですー、すー、すすすのすー」
 がっくりとうなだれる1号に弱りながら、なんとかなだめようと2号が話しかけました。
「いや、ほら、なんだ。お前は家事とか得意だろ!料理とか上手いしよ。だから、いい嫁さんとかどうよ、な?」
 な?じゃありません。
「わふ!?それって…」
「へっ?」
 はっと振り向いた1号の、うるんだ瞳と紅く染まった頬の意味に気付かない2号は、ただでさえ間の抜けた顔を更に間抜けにしただけでした。
 というか、1号も流されやすいというか、無防備すぎるのではないでしょうか。相手が2号だったから良かったようなものの、
「お取り込み中に失礼するぞ」
「ほりゃーーーっ!キサマら手を上げろーっ!」
 人の言葉をぶった切って、なにやら危険な香りのする女性と危ない女の子が乱入してきました。
「何か微妙なニュアンスの違いで馬鹿にされた気がするーーっ!?」
 虚空に向かって突然奇声をあげたりするあたり、お近づきにならない方がいいかもしれません。武器のように構えているのは銃でなくなぜかブリですし。脂がのっていて美味しそうではありますが。
「うわーっ!?何でこんなものがっ!うわっ、魚くさっ!?」
「…一体何をやっているんだ君は?」
 慌ててブリを放り投げ…ようとしてもったいないからテーブルにそっと置いた女の子に、見事なおっぱいの女性が呆れたように声をかけます。
「やはは、何だかウンメーってやつにもてあそばれたと言いますか…」
「訳が分からんな…まあいい、話が進まん」
 追究をあきらめたおっぱいが、ようやくトナカイふたりに向き直ります。微妙に甘酸っぱい空気に乱入してきたふたりを、1号も2号もぽかーんと口を開けているだけでしたが、ボインの言葉にハッと口を閉じました。
「先に自己紹介をしておこう。私は個人でちょっとした金融業を営んでいる。平たく言えば金貸しだ。おっぱいでもボインでもない」
 金貸しは、平たく言いながらちっとも平たくない胸に手を当てて言いました。1号が酷く打ちのめされています。頑張ってください。
「金貸しがうちに何の用だよ?」
 戦意を喪失した1号をかばうように、2号が金貸しの前に立ちはだかります。2号は筋肉ではないただの脂肪のかたまりには興味がないので強気です。
「なんだそのタイドはーっ!?やっちゃうぞコラ!ね、やっちゃいましょうゼ姉御ー」
「何の用とはご挨拶だな。金貸しが訪ねてくる用など一つしかないだろう?」
「無視ですかっ!?」
 金貸しは余裕すら感じさせる笑みを浮かべて答えました。2号の巨体にもまるで怯む様子がありません。
「こっちも無視されたっ!?」
 金貸しの言葉に、2号は黙り込み、少し考え、更に考え、よくよく考えて、金貸しの傍らでわめく女の子に問いかけました。
「金貸しが来る用って何だ?」
「ありがとうっ!納得いかないけど嬉しいですヨっ!」
 存在意義を認められた三下は、2号にかいつまんで事情を説明しました。
「ほうほう…するってぇとナニか?サンタの野郎がプレゼントのために借金してるから、プレゼントを配らないと借金が返せねぇってことか?」
「そんなところだ。まあ正確には金ではないがな」
 プレゼントをもらった子供たちの喜びがサンタの力の源。それを返済に充てるという約束だったそうです。
「まあ、そういうわけだ。プレゼントを配らないのであれば、代わりにその愛らしいトナカイをもらっていこう。なに、痛くはしないから安心しろ」
 はぁはぁと息を荒げながら言われても全く説得力がありませんが、とにかく優しげな声で1号を手招きします。
「こ、怖いのですー」
 怯えてふるふると震える姿は小動物のようでとても愛らしく、金貸しでなくてもついお持ち帰りしてしまいたくなります。
「おい、待てよっ。プレゼントを配りゃいいんだろーが!」
「そーだそーだー!」
 いきり立つ2号に、金貸しは冷たい眼差しで答えます。
「ただ配るだけでは駄目だぞ?子供たちを満足させなければな。出来るのか?」
「無理ムリー!」
「っせぇっ!やったろーじゃねェかっ!」
「おおーっ、いいぞー!ぺぎゃっ!?」
 外野を黙らせた金貸しは、2号を面白そうに眺め、やがて頷きました。
「よかろう、ならばやって見せろ。子供たちを喜ばせることが出来れば、予定通りそれで貸しを相殺してやる。だが、もし出来なければ…」
 金貸しの言葉にふたりはごくりと喉を鳴らしました。
「…できなければ?」
「1号は一生私のモノだ」
「乗ったァ!」
 乗っちゃうんですか!?
「わふーーー!?」
 自らの命運を相談もなしに即決された1号は動揺のあまり辺りを駆け回りました。ときおり柔らかいものを踏んづけて「ふぎゃ」とか「むぎゅ」とか声があがります。
「心配すんなって、オレと筋肉さんにかかりゃ、出来ないことなんかねぇ!」
「もーだめなのですーーーっ!!」
 1号の悲痛な声と狼の遠吠えがコラボって雪山に吸い込まれていきます。
 筋肉に託されてしまった1号の運命やいかに!?



次回予告
「やるしかないのですっ!おんりー・どぅーなのですっ!」
 あてにならない筋肉を見限り、自らの手で運命を切り開こうとするトナカイ1号。
「大丈夫、だよー。私もお手伝いするからー☆」
 プレゼントを調達するために訪れた村で出会ったほんわり少女の正体は!?
「うんがぁーーーーーーーーーーっ!!」
 夜の森に響き渡る悲しげな声は何を意味するのか!?
 次回、赤鼻のトナカイ第2話『魔女の棲む森』!
「だいじょーぶ…だよ?」




















お囃子・感想などいただけましたら。

おなまえ(省略可)



お囃子!(→盛大)

ぱち ぱちぱち ぱちぱちぱち

よろしければ何か一言!(省略可)





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