※注意:作中の理樹は、限りなく理樹に近い何かです。



鈴! 僕だー! 結婚してくれー!

written by ぴえろ




 中々エキセントリックな案が思いつかなかった。
 仕方がないので、誰かにアドバイスを求めようと思った。パッと思いついたのが、約二名ほど居たので、メールで確かめてみる。暇らしい。年末シーズンであるのに暇が取れるとは、なんという女性たちだ。仕事大丈夫なんだろかって意味で。そんなわけでその二人、佐々美さんと佳奈多さんをレストランで待つ。二人が来て、雑談もそこそこに僕は本題を切り出した。

「鈴に結婚を申し込もうと思うんだ」
「そう」
「すればよろしいじゃないですの」

 それだけ言うと、二人はとあるブランドの最新モデルがどうだのとか、あの芸能人カップルは絶対破局するだとか、世間話に戻っていった。えー、人の一生を決める発言をサラっと流しますか。

「予測の範囲内の話をされても、驚く方が無理だわ」
「鈴以外に好きな人ができたなら、驚きますが」

 じゃあ、それで。何となく、驚かれなかったのが悔しくてそう言ってしまう。

「じゃあ、それでって、何よ。まるで『初めて来てどれが美味しいか分からないからとりあえず店のオススメメニューでいいかー』みたいな物言いは」
「どうせ、先程の注文もそのような感じで頼んだのでしょう?」

 うん、その通り。流石に付き合い長いね。

「今日、私たちを呼んだ理由はそれ?」

 そうなんだ。社会人になって久しいしね。
 今朝、トイレに行ったんだけど、最近、寒くなってさぁ。便座の冷たさにちょっとビックリするよね。あれ、お年寄りだったら、軽く心臓マヒになって、ぽっくり逝っちゃいそうな冷たさだよ。まぁ、そんなことはどうでもいいけどね。用を足し終えて、トイレットペーパーに手を伸ばしたら、何とカラだったんだ。予備は近くの棚に備えてあったから、会社にも遅れず、「い、今、僕のお尻に汚物が若干付着してるって誰も気付かれないかな?」って羞恥プレイだか放置プレイだかよく分からない性的行為に走ることもなく、事無きを得たんだけど、そこで僕は気づいたんだ。
 あ、もうそろそろ結婚しなきゃなぁー、って。

「見事なくらい話の整合性が取れてないわね」

 あぁ、ごめんごめん。いい加減、喋り疲れて端折っちゃった。実は会社の帰りにショーウインドウに飾ってあった指輪とか見てたら、そう思ったんだ。クリスマス近いし。

「大事な所を端折ってどうなさいますの。――って、レストランでそんなシモの話をするんじゃありませんわよ!」

 あ、ごめんね。佐々美さんインドカリー頼んだんだっけ。僕のウ○コだと思って食べればいいよ。

「思いませんわよ!」

 冗談だよ。ウコン味のカレーだと思って食べればいいよ。最近、体調悪くてよくあんなのが、僕の肛門からブピブピ汚らしい産声を上げながら出てくるから困る。(´・ω・`)

「ウ○コ味のカレーなんて知るわけがないでしょう!」

 あ、何か勝手にウ○コなんて言ってるー。しかも、レストランで。お嬢様の癖にー。やーい、やーい。

「……くのっ!」

 ぐげげー!! ハイヒールのピンが足の甲に!? ら、らめぇー! グリグリしちゃ、らめぇー! 今日、朝の通勤ラッシュで隣のOLから味わったばかりなのに、日も跨がない内に立て続けにされたら、痛過ぎて変な性癖になっちゃうのぉぉぉー!

「佐々美もそこまででいいでしょ。ほら、注文も来たことだし」

 佳奈多さんの視線を追うと、料理を持ち運ぶウエイターの姿があった。
 ひとまず、プロポーズの件は置いておいて、料理を楽しむことにする。無論、皆、既に成人してるのでお酒も注文されてる。プチ同窓会みたいなもんである。いつか、佳奈多さんの乳を揉んでやる。……いや、韻を踏むのって大事だから思っただけだよ。思想の自由って最高だね! 頭の中だけなら、恋人持ちでも親友の女性の乳を後ろから鷲掴もうが無罪なんだよ!?(゜∀゜)ヒャッハー!

「あのさ、最初に訊いたプロポーズの仕方なんだけど……」

 さて、お酒が入った所で再びプロポーズの件を切り出す。
 よりエキセントリックな案が出てくることを期待する。よもや、ここからハイパーささみんタイムが始まるとは、この時の僕は思ってもみなかった。

「そうですわねぇ。まず、ホテルの最上階などにあるレストランを予約。そして、そこに招待した鈴へ一言、『この夜景を君に捧ぐ』。すると、正面に遭った超高層ビルの明かりがパッと、LOVEの文字に」
「それナイスアイディアよ、佐々美!」

 この女きめぇww そんな発想だから、未だに恋人もいないんじゃwwm9(^Д^)プギャー 悪酔いに定評がある僕は、相談を持ちかけた立場も忘れて、佐々美さんを指さして大笑い。うーん、それにしても何か聞いたことがある案だなぁ。どこで聞いたかさっぱり思い出せないけど。
 かなりエキセントリックな案だけど、予算的に無理だ。

「そうですわね。しがないサラリーマン風情には、到底不可能なプロポーズですわ」

 ハンと肩を竦めて見せる。
 くっ、ブルジョアジーめ。さっきまで、僕のウ○コに限りなく近い色をしたインドカリー食べていた癖に、佐々美さんはれっきとしたお嬢様なのだった。行かず後家だけど!(まだ希望はあります

「では、こういうのは如何かしら? まず、雪だるまを一つ作り、それを鈴にプレゼント。朝日で雪だるまが溶けると、中には小さな箱とナイロン袋に包まれたメッセージカードが。内容はこうですわ。『雪は溶けても、二人の愛は溶けないよ』そして、小さな箱を開けると中には給料三か月分のダイヤモンドの指輪が……」
「それナイスアイディアよ、佐々美!」

 流石は佐々美さん! 僕たちが思いもしないことを平然と考え付く! そこに痺れる憧れねぇー! というか、さっきから、佳奈多さんがただのイエスマンと化してるよ! 意外とお酒弱い人だったんだなぁ……。
 だけど、まだまだだ。この程度では、『彼女が浮気してるようです』スレにて、スペックを明かした所、安価で『>>1は女顔なんだよな? なら、それを活かして女装した姿で現場に踏み込んで「僕よりこの女の方が良いってこと!?」って責めながら、男をビンタしようぜw』という過酷な指令をちゃんと実行した僕としては、まだ味気ない。ちなみに真相は、僕の誕生日に向けてサークルの先輩に鈴がプレゼントの相談をしてただけだった。土下座? 勿論した。ダッシュ・ジャンピング・スライディング・土下座というウルトラC難度の技の前では許さざるを得なかったようだ。土下座って、タバコなんかと一緒で一回やると抵抗感がなくなるモンだよ。中毒性は人それぞれだろうけど。更にその頭を踏まれたい(美女限定)とか思った人は変態だよ! しかし、佐々美さんの足はソフト部で鍛えてただけあって中々踏まれ応えが――いや、何でもないです。

 中々決まらず、仕事の愚痴なり何なりに横道が逸れながら、店を出て、更に数件ハシゴした。僕も彼女たちもいい感じに出来上がっていたと言わざるを得ない。知ってた? 佐々美さんってお酒飲み過ぎると語調がスイーツになるんだよ?

「だぃたぃ、ぁーたはィンパクト求めますけどぉ、一番大切らのは真心らんですのよぉ〜?」
「そぉ〜なのか〜。でも、どーしたら、それが伝わるんだろぉ〜?」
「そんなの簡単ですわぁ〜。――素っ裸でプロポーズすれば、よろしぃんです!」
「それナイスアイディアよ、佐々美!」

 それが確か二件目の時だったと思う。
 真心が大事と言いながら、これ以上ないエキセントリックな意見である。

「でもさぁ〜、プロポーズってやっぱり恥ずかしぃんだよねぇ。なぁんか勢いが欲しいなぁ〜」
「勢ぃが欲しければ、雪で滑り台を作れば良ぃじゃなぃ?」
「それナイスアイディアよ、佐々美!」

 そして、それが三件目の時だったと思う。
 お嬢様であることも手伝って、実にマリーアントワネットだった。




 12月25日、クリスマス。
 休みこそ取れなかったけれど、早上がりで帰宅して、僕は準備に取り掛かった。鈴はなるべく早く帰ってくると言っていたが、年末シーズンの真っただ中ではそれも厳しい。おそらく残業してくるだろう。僕としては、あんまり早く帰ってこられても困るので好都合だ。
 天も僕に味方したか、昨日の夜から大雪が降ったので、僕の家(成人したから両親の家を後見人から相続。固定資産税とかも継いだので若干泣きそうになった)の庭は白銀一色に染まっていた。滑り台を作る材料に事欠かない。
 雪かさが思いの他高く、くるぶし近くまで埋まるので、長靴を装着し、物置へ。中から、猫車とも呼ばれている一輪の手押し車とスコップを取り出し、雪を一か所に集めていく。横から見たら『へ』の字になるように集めた雪を加工していく。庭の雪を満遍なく集めた所、縦1.5m、横3mぐらいの滑り台が完成した。人間、やればできるもんだ。勿論、所々茶色い土が混ざって手抜き感があるし、スコップで叩いて固めただけなので、職人が研いだような滑らかな表面はしてない。とてもじゃないけど雪像大会に出せるような芸術的な物じゃない。けど、僕が上に立って飛び跳ねても崩れないぐらいの強度はあるので、実用できる。――と思っていたが、僕は大事なことを忘れていた。いざ、滑ってみて分かったことだった。ややなだらかに作り過ぎて、摩擦係数>傾斜という力関係が成立してしまい、滑ることができなかったのだ。

 くやしいのうwwくやしいのうww 悔しいですッ!(`皿´)

 はだしのゲンからザブングルへのコンボを華麗に成立させた所で、打開策を検討する。もうあんまり時間はない。鈴はもうそろそろ帰ってくるだろう。今から作り直す時間はなかったので、仕方なく物置から台車を引っ張って来て、それに乗って登場することにした。

 ふぅ、これで勢いの面は解消されたぞぅ! 後は、全裸でプロポーズするだけだ!

 待つこと30分、作り直すには短過ぎ、待つには長過ぎる時間だった。
 玄関の上がった所に書き置きがあるので、鈴が帰ってくればそれに気づき、誘導される形でこの庭に面する縁側に姿を現してくれるはずだった。ガラリと縁側のガラス戸が開ける音がした。

「おーい、理樹ー? 何だ。誰も……」

 不意に鈴の言葉が途切れる。戸惑っている様子が手に取るように分かる。それもそうだろう、昨日まで何もなかった庭に、突如として雪造の滑り台ができてたら、誰だってそーなる。僕だってそーなる。

 ――さぁ、来るべき時が来たのだ。

 ゆっくりと滑り台の後部にある階段を素足で登る。僕はもう全裸だった。寒さにガクブル、期待にワクテカしながら、全裸で待機してた。嗚呼、月光が眩しい。今宵の月は僕の裸体を輝かす、スポットライトとしてのみ存在しているのだと感じた。悠然と、さながら騎士に手の甲への口付けを求めるように手を伸ばして、台車のハンドルを握る。スノーボードに乗るように横向きに乗り、斜面を滑って行く。
 全裸で風を受けることの、なんたる解放感!
 脳内麻薬で最高にハイ!って奴だよ!
 これぞまさに、ウインド・THE・ヘブン状態だZE! (゜∀゜)ヒャッハー!
 滑り終わっても慣性の法則で前進。今の内にリングケースを片手で開けておく。縁側近くまで来るとグッ膝に力を込めて、全裸でハイジャンプ!

「イヤッホォォォーゥ!! ユー、結婚しちゃいなよ!」

 昇龍拳の要領で高々と突き上げた手の中には、リングケースに収まったティファニーのダイヤモンドが月光を受けて、光り輝いていた。嗚呼、なんてロマンティックなんだ……。ロマンティックあげるよ〜♪ ロマンティックあげぇるよ〜♪ と僕の頭の中では、初代ドラゴンボールのエンンディングテーマのメロディーが流れていた。

「…………」

 あまりのロマンティック具合に鈴はすっかり言葉を失っている。やむを得ないさ、それぐらいロマンティックだったからね! 嗚呼、ほら、あの鈴の目を見てごらん。これはもう、どう考えても……。

「おい、そこに正座しろや」

 ですよねー。




 両腕を組んで、傲然と縁側に立っている鈴の顔がとても怖いです。
 見上げるように顎を上げてるのに、目は庭に正座をする僕を見下ろす……というか、完全に僕のことを醜い豚ように見下くだしてます。本当にありがとうございました。

「何なんだ、今のは?」
「何かと申されましても、プロポーズでございます」

 凄く怖いから、ついお客様向けの言葉になってしまう。

「あたしの目には、全裸の馬鹿が滑り台から滑りながら、最後にジャンプして、指輪の入ったリングケースを高々と掲げてるようにしか見えなかった」
「はぁ、一応、その事実に相違ございません。あれが直枝流のプロポーズなのです」
「何ぃ!? 今のが直枝流のプロポーズ……だと……?」
「はい、僕から始まります。子々孫々、末代までこれを徹底させます」
「お前が始祖か!」

 フヒヒwwサーセンww

「ふざけるな! あんなモンがプロポーズであってたまるか! 仮にプロポーズだとしても、プロポーズっぽい何かだ!」
「いや、プロポーズそのものだよ?」
「もしも、あれを伝えるなら、物理的に二度と伝えなくしてやる」
「物理的にって?」
「お前の股についてる粗末な物を蹴りつぶ――」
「ごめんなさい」

 光の速さで土下座して謝った。
 どうやら、あのプロポーズ方法は僕一代で絶えてしまうようだ。(´;ω;`)

「とりあえず、一万歩譲って今のがプロポーズだとしても、何でお前全裸なんじゃ!」
「だって、佐々美さんが全裸が一番真心が伝わるって言ったから……」
「はぁ? 何だそれは? 全く意味が分からん」
「佐々美さん曰く、これには『僕は君に隠し事なんて一つもないさ!』という意味と『寒空の下だろうと君への愛があれば、全裸だってへっちゃらさ!』という意味があるんだって」
「いや、アホだろ」

 うん、今では僕もそう思う。何で僕、全裸なんだろう? 正直、どうかしていたとしか思えない。利点があるとすれば、正座する時、足を崩すとお尻が冷えて――ンンンギモヂィィィィィ! ってことぐらいじゃないか! しかも、冬限定とか訳分かんない!

「じゃあ、あの滑り台は? 何で、あんなモン作った?」
「えーと、それは勢いをつけるためで……」
「物理的に加速してどうすんじゃコラー!」

 嗚呼、ホントにそうだ。あの時、天性のツッコミを持つ鈴が傍にいてさえくれれば、こんなことにはならなかったというのに! やっぱり、僕には鈴が必要なんだ! 結婚して下さい!

「それ、答える必要あるか?」

 \(^o^)/

「ん? 何だそのポーズは? 元気玉でも作ってるのか?」

 鈴、そんな上を見ても何にもないよ……夢も希望もないよ……むしろ、ホントに元気を分けて貰いたい気分だよ……。

「まぁ、お前も最近仕事に忙しかったしな。色々、こう……大変なことになってたんだろ? 気付かなかったあたしも悪かったと思う。……いや、よく考えたら、全然そんなことはないな。ともかく気にするな。というか、いい加減、服を着ろやコラー!」

 嗚呼、優しいな。僕の嫁は。……嫁じゃないけど。

「ふむ。お前の馬鹿プロポーズは全く感動しなかったが、あの滑り台はちょっと良いな」

 え?と服を着替え終わった僕が訊き返した時、鈴は雪造の滑り台に視線を送っていた。




「押すなよ! 絶対に押すなよ!」

 これが上島竜平なら、むしろ、押さないとダメなんだろうけど、鈴だからなぁ。たった今プロポーズを断られた僕としては、知ってるものと仮定して押す冒険はしたくなかった。ただ台車が滑り落ちないようにハンドルを持つだけだ。自分の体じゃなく、物に乗って滑るのに恐怖心があるのか、中々台車の前の面に体重をかけない。ジリジリと摺り足で寄っていって、カタンと斜面で傾いた瞬間、「うにゃ!」と叫んで、肩をビクリと震わせた。不覚にも萌えた。

「よ、よし、放していいぞ」
「うん。じゃあ、放すよー」

 パッとハンドルを放すと台車が二筋のわだちを刻みんでいく。段々スピードが乗っていき、鈴はパタパタとポニーテールを靡かせながら、滑り落ちて行った。斜面を渡り切り、取り過ぎて雪がなくなった地面をある程度カラカラとキャスターを鳴らして進むと、鈴はキックボードと同じ要領で地面に足を着けてブレーキを掛けて止まった。
 すたすたと後ろ手に台車を引きながら、鈴が戻ってくる。

「どうだった?」
「ん? 一回じゃ面白いか分からんな。もう一回滑ろう」

 言いながら、折り畳んだ台車を持ち上げてくる。どうやら、中々面白かったらしい。僕は苦笑いしつつ、台車を引き揚げ、元の位置に戻した。二、三回滑って、鈴は言った。

「速さが足りない」

 ごめんね、情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ、給料、甲斐性、地位、将来性も足りない僕で……。あ、何か軽く死にたくなってきた。(´Д⊂

「二人乗りにしよう。お前も乗れ、理樹」

 あ、そのまんまの意味だったのか。ついつい、悲観して誤解してしまった。
 そんなわけで、今度は二人で乗ることに。ただ、立って乗るには狭いので、鈴が前の方に体育座りをし、僕がそれを包み込むような形で座って乗る。ちょこちょこと足を動かし、徐々に前に進む。カタンと傾くと、そこからは思った以上に急スピードだった。あっと言う間に縁側が迫って来くる。

「あ、ぶつかる!」
「――っ!」

 鈴が右に体重をかけたのを感じて、僕もそっちに体重をかけた。軽く台車の底を持ち上げたせいか重心が傾き、片輪が浮いて、そのまま右方向へ軌道が逸れていった。おかげで縁側にはぶつからなかったけど、かなり肝が冷えた。

「おぉー、今のは中々面白かったな」

 どうやら、僕の嫁(候補)はスリルがなければ、生きる実感が持てないようです。
 しかし、こうも密着すると暖かいものだ。生理学的に、女性は男性より体温高いんだっけ? 低いんだっけ? よく分からないけど、外で待ってた僕より、よっぽど鈴の方が暖かいのは事実だ。

「もう一回やろう」

 立ち上がろうとしたので、体育座りの鈴をそのまま抱き締めて、引き留める。

「ん? 何だ?」
「いや、別に何もないけど」

 うなじ辺りに鼻先を埋めながら言ったので、ちょっとくぐもった感じになった。鈴のうなじからは、何か良い匂いがした。香水とか付けてたっけ? と思ったら、風呂場で嗅いだことのある匂いであることに気付いた。当然だ。僕と彼女は同じシャンプーを使ってるのだから。

「うわわ、やめろ! 鼻冷たいんじゃボケー!」

 暴れるが手も同時に押さえていたので、体を揺するぐらいしか抵抗ができない。次第に意味がないことを理解して、静かになった。何分ぐらいそうしてたんだろう? 実際には30秒ぐらいだろう。ただお互いに身動ぎもせずにそうしていたから、長く感じているだけの話だった。
 不意に、僕はもう一度言った。

「ねぇ、鈴。結婚しようか?」

 それに対する返答には、更にその倍近くかかった気がした。あくまで気がするだけなのも分かっていた。ふぅー、と一際白く、長い溜息をもらして、鈴が背を向けたまま言う。

「そもそも、何でお前今頃プロポーズなんかしてるんだ?」
「え……?」

 一瞬、かなりドキッとした。
 それはどういう意味なんだろう。遅過ぎだという意味だろうか。何で今頃って言われても……クリスマスで、良い機会だと思ったから? 同居して久しいし、そろそろ頃合いかなと思ったから? 何だろう? 『良い機会だから』って理由でプロポーズする決意なんかするなってこと?
 いまいち、鈴の真意が汲み取れない。後ろ向いて、顔が見えないから余計に。僕は答えに窮した。


「――あたしは、もうずっと前にお前のプロポーズに答えてるだろ?」


 あ……と言葉が漏れて、この季節に存在するはずがない、ひぐらしの声を聞いた。カナカナと窓に遮られて、囁くように聞こえていた。揺れる白いカーテン、白いベッド、点滴台。大小様々な物が脳裏に蘇って、最後にあちらこちら包帯を巻いて、部屋の片隅で膝を抱えている鈴の姿が蘇った。

 ――そうか、僕はもうしてたんだ……鈴へのプロポーズ。

 あれから随分、長い時間が経っていた。もう十年以上は過ぎてしまったか。
 僕たちは、きっと色んな物を過去に置いてきてしまったのだろう。全てを、忘れてしまったわけじゃない。忘れるわけなんかない。けれど、無意識に思い返さないようにしなかったとは言えない。思い出すと、何だか無性に悲しくなった。それは、リトルバスターズの皆がいないことが悲しいというよりも、リトルバスターズの皆のことを正確に思い出せないことと――そして、皆がいないこの世界でも、僕は笑って馬鹿をやれてることが、悲しいのだった。

 皆、あんなに、大事だったのになぁ……。
 皆、あんなに、好きだったのになぁ……。

 きっとそれが生きるということで……そして、いつか僕か鈴か、どちらが先にいなくなるか分からないけど、そうなった時、僕たちもまた、いずれそうなっていく。そのことがどうしようもないくらい寂しくて悲しくて、いつの間にか僕の頬を涙が伝っていた。

「おい、何か濡れてないか? 理樹、お前もしかして泣いてるのか?」
「泣いてないよ。それよりさ、鈴。もうそろそろ籍入れとかない?」

 まるで、夕食のメニューでも決めるみたいに僕は訊いた。

「ん? まだ入れてなかったか? そうだな、そろそろ入れといた方がいいな」
「じゃあ、今度の休み合わせて、市役所に入れに行こうか」
「そーだな」

 一週間後、僕たちは夫婦になりました。

END



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 ぴえろの後書き

 シリアスENDだと……?(゚д゚) せっかく、「馬鹿SSなら作中で、顔文字とか『w』とか使ってもいいよね!」とか思って使ったのに、まさかこんな終わり方をするとは……。電波じゃ! みんな、電波が悪いんじゃ!



お囃子・感想などいただけましたら。

おなまえ(省略可)



お囃子!(→盛大)

ぱち ぱちぱち ぱちぱちぱち

よろしければ何か一言!(省略可)