ざくり、と重量を持った雪を掬い上げる。
「──ふぅ…っ!」
スコップのソレを放って一段落。
大した労働というわけでもないが吐息は白く、風に捲かれてすぐに消えた。
「真人ー、そっちはどう?」
「全然だぜ。つーかこんなのムリだろ!?」
「まあまあ…そのうちみんなも手伝ってくれるだろうし、ね?」
「ちっ、しゃぁねーなぁーっ!」
渋々と、しかしやる気を出しながら去るという、なかなかの妙技を繰り出した真人を見送る。
今日は12月23日。
寮どころか街中を包む浮き立つ空気の中、僕たちは外で働かされていた。
はらはらと雪を零す灰色の空。降り頻る雪は来たる祭日を祝福するようで──
──明日から明後日にかけてクリスマス。
僕らは、雪掻きをしていた。
決して甘くはない話
冬休み中の学校は除雪地帯に指定されている。
校門を高々と塞ぐ雪の山は近隣の住民からも風物詩と呼ばれているくらいだ。
しかしながら学生寮に残る、帰省しない生徒からすればそうは言ってられない。
本来ならばグラウンドに直接寄せられるはずの雪。それを運ぶ除雪車の侵入をソフトボール部が拒んだ。
曰く、グラウンドの土が荒れる。
来年度の高校総体での活躍も期待されるソフトボール部の要請を学校は断れない。だから往き場を失った雪は校門へと寄せられることになったのだ。
しかし話はそこで終わらない。冬休み中とはいえ先生も学校へ来るのだ。
そこで校門に一度寄せられた雪を、先生、生徒の手でグラウンドまで運ぶことになったのだ。
無論、人数不足の声も上がったのだが、そこは『ボランティア(一部強制)』という形で解消された。
冬休み中も残る寮生。内申の足りない三年生。風紀委員。などなど。
それらの人員を募り、結果。当番表が作成された。
また『ボランティア』の大前提として自主参加なので逃げだす生徒も多々存在し、そう言った面々は今年も例外ではなかった。
故に、人員不足。
そこで風紀委員長の二木佳奈多がリトルバスターズ(の筋肉担当)を推薦した。
しかし、一部を残して彼らも帰省。
ヤツ当たりとばかりに見事に槍玉に挙げられた一部こと直枝理樹は、小さくタメ息を吐いた。
それは朝の出来事だった。
[Side理樹]
冬季休業中も寮に残っている生徒はまばら。
だから僕は休みの間も寮に残るクドや佳奈多さんと言った面々と共に朝食を摂っていた。
普段なら葉留佳さんも同席しているのだが、祝日という事で帰宅したのだろうか。
「葉留佳さんは帰ったの?」
「それは私に遠まわしに帰れと言ってるのかしら?」
「違うよっ、葉留佳さんが一緒じゃないからさ」
「あの娘は雪掻きが嫌で帰っただけよ」
「なるほどね」
女子は自主参加だった気がするけど、今更あの人に行動理由を説明してもらうのも酷だろう。
「わふ〜、リキもがんばってくださいです」
「ありがとう。クドも…って女子は自主参加だよね…、ホント葉留佳さんはなんで帰ったんだろう?」
「ごめんなさいです…、ヴェルカが風邪を引いてしまって…」
「いや、気にすることないよ。それよりヴェルカは大丈夫?」
励ましてくれるクドに癒される。
それにしても葉留佳さんは…いや、人に仕事を強要するのは良くないか。
逆に『雪掻きするな』とか言ったら頑張ってくれそうなのが悲しいけど。
「あの娘の考えてる事が私にわかるとでも?」
思考を読んだのか、それに対する佳奈多さんの答え。
大丈夫、きっと彼女を完全な制御化におけるのは西園さんか来ヶ谷さんくらいだから。
それにしてもどうやって思考を読んだのやら。
「顔色に出てるわ」
どんな顔色か非常に興味はあるけど気にしてはいけない。
「それにしても、今寮に残ってる人数じゃ大変そうだね」
「女子生徒は手伝わないし帰省しない生徒が珍しいのだからこれが当然よ」
「せめてみんなが来てくれれば楽になるんだけどなぁ」
謙吾とか真人とか、トレーニングにする事は間違いないだろうし。
ある意味先日の佳奈多さんの推薦は正しかったのだろう。女子メンバーはともかく、恭介、真人、謙吾は頼りになるから。
と、その時。狙い済ましたかの様なタイミングで携帯が鳴った。
「ん、恭介だ。……もしもし、どうかしたの?」
そろそろ本気で監視カメラの線を疑ってみるべきなのだろうか。監視が楽しみってどうなんだろう?
…監視映像越しにニヤニヤ笑う恭介を想像して言葉が発せられなくなった。
『今日雪掻きの日だろ? 鈴が起きたら手伝いに行ってやる』
「ありがとう。って、謙吾たちも来るの?」
『ああ。アイツらはすぐに来るだろうさ』
「うん、わかった。ありがとね」
『はっ、気にすんな』
朝から何やらテンション高めの声。また何かやらかすつもりなのだろう。
兎も角今日の予定は決まった。ならば朝食はきっちり摂って雪掻きに備えよう。
「元気ね」
佳奈多さんの呆れた声が印象的だった。
◆◇◆◇
そして現在にいたる。
「はぁはぁ、なかなかやるじゃねえか…」
「お、お前こそ…」
疲れ切った二人は互いに健闘を讃え合っていた。
運ぶはずの雪は辺りに散乱している。
そろそろ等身大の雪だるまを二体造っても許されるような気がしてきた。
現在いるのは真人と謙吾の二人。
他のメンバーは追々やってくるのだろう。と言っても女子ばかりだから無理をさせるわけにもいかない。
「二人とも、空回りしすぎだよ」
「そんなこと言ったってよぅ、こんな山崩せねえよ」
「いやまあ…」
明日、明後日が聖夜という事もあり、サンタクロースの力だろうか、雪はこんこんと降り頻っている。
真人の言うように、昨日まででも酷かった山は最早手の着けようがなくなっている。
せめてもの救いは雪が縦にではなく横に平たく積まれているということだろうか。
「ふっ、真人よ。所詮お前はこの程度か」
「んだとテメェ!」
「ほらほら、ケンカしてる場合じゃないから」
挑発する謙吾に、それに乗る真人。
うん。そろそろ…雪中●神家をやってもらおうかな。
「「ごめんなさいでしたぁー!!」」
「ん? どうしたの二人して。日本語がおかしいよ?」
「いや…なんでもない。それより、理樹が指示して俺たちが働くと言うのはどうだ?」
「え、僕?」
「うむ。その方が効率がいいだろう?」
まあ、確かにバラバラでやるよりなら効率がよさそうだけど。
こういうのは恭介の役目なんだろうなぁ。
唐突に現場監督を一任されてしまった。
「まぁ、二人を野放しにしておくよりはいいかもね。じゃあ、謙吾が雪を崩して、僕は崩れた雪をスノーダンプに乗せるから真人はそれを運ぶ。ってのはダメかな? ずっと同じ作業も辛いだろうから途中で交代しながらやろう」
「おう」
「任された」
できるだけ妥当な配役をしてみる。
ちなみに佳奈多さんは雪掻き強制参加の風紀委員会の統率。本当に御苦労さまだ。
「──じゃあ、僕らも始めようか」
◆◇◆◇
…………………。
ま、待て理樹。落ち着け! 落ち着くんd
うおぉぉぉ! こんな退場の仕方は嫌だぁぁぁ!
……………ふふっ。
◇◆◇◆
せっせと雪を運ぶこと一時間。後少ししたら恭介も来てくれるだろう。
「おや、おねーさんが一番乗りとはな」
「あ、来ヶ谷さん。おはよう」
「うむ、おはよう」
「……時に少年。随分と奇抜なデザインのオブジェが二体あるような気がするんだが…いや、私の気のせいだったようだ。手伝おう」
「うん、ありがとう」
まさか来ヶ谷さんが一番に来てくれるとは思わなかった。最初は真人か謙吾かと思っていたのに…。
え? 二名ほど忘れてる? そんなのは知らないよ。さっきからいるのは僕の作業を見守ってくれている雪像二体さ。
まぁ、そんな些細な事は忘れて雪掻きに集中しよう。先程/の戦闘/からやけに昂揚している。
「それじゃあ来ヶ谷さんは──」
「唯ちゃ〜ん、理樹く〜ん。手伝いに来たよ〜」
「私もいますよ?」
ぶんぶんと手を振りまわしながら走ってくる小毬さんと、その後ろから西園さんがやってきていた。
「ありがとう。でも小毬さん。その格好は寒くない?」
「だいじょうぶです! がんっばりますよ〜!」
これが俗に言うベ●ータフラグだろうか。雪に埋もれる小毬さんの姿が鮮明に浮かぶ。
「ま、まぁ、ほどほどにね」
僕は冷や汗を流さずにはいられなかった。
◆◇◆◇
待て、理樹! 顔だけは拙い! せめて上半身までd
…………。
Hey! Gays! 今日も面白そうなコトヤってるね!
ちょ、俺はゲイじゃ…、ってそれより助けてくれ!
ほう、楽しそうとは…。葉留佳君、君も殺ってみるかね?
いいんデスカ姉御!? それじゃあパパァーっとヤっちゃってください!
…………。
◇◆◇◆
「……休憩にしようか」
時刻は正午を迎え、あれほど積んであった雪も嘘のように消えた。コレがウワサのツンデレだろうか、そうに違いない。
いつの間に来たのか、雪から顔を出しただけの状態の真人と謙吾の横に、葉留佳さんまでもが埋まっていた。しかも楽しげな顔で。
だから行動理由が…いや、自分で埋まるって無理でしょコレ。
三人は軽く放置して僕たちは食堂へと向かった。
「そんなに手伝ってほしいのかい?玉スジに出てるぜ!」
食堂にて待ち構える変質者。コレはなんだろう?殺意?
「恭介…
通報しますた^ω^」
ああ、多感な時期に兄を失うなんて…なんて可哀想な鈴。大丈夫、もしもの場合は僕が恭介の代わりになってあげるから。
校内に残っていた生徒指導の先生から逃げ出した恭介を見送りながら僕らは昼食を終えた。
「で、どこに爆薬を仕込めばいいんだ?」
「とりあえずそのスッカラカンな頭に巻きつけて炸裂させればいいと思うよ」
どうやって先生を振り切ったのか何事もなかったかのような表情で恭介が立っている。
無論、取り合うつもりは一切ない。僕は強くなったんだ。過酷な現実にも耐えきれるほど…!!
だと言うのにコレに取り合ったら全てが台無しな気がする。感動とか葛藤とか、全部返せ。
「もう色々と疲れた…」
現在視界には
[諦める]
[まだ戦う]
の二択が浮かんでいる。
そろそろ末期症状だろうか…もし、選べるのなら、僕は…まだたt……
ああ、いつものか。暗い視界の中、割と冷静な自分が告げる。
そうか、きっとこれは悪夢。ならばさっさと蓋を閉じてまた眠ろう。
目が覚めたらきっと、また楽しい日常に戻れるから──
◆◇◆◇
「……飽きた」
この一言で全てが終わった。
日常は一瞬でカオス時空へ塗り替えられ、泣き叫ぶ小毬さん、崩れ落ちる恭介、猫と戯れる鈴、宙に舞う葉留佳さん。高笑いを続けるおっぱい魔人。
すべては西園さんの持つNYP兵器に委ねられ、無力な彼らは早々に戦場を去った。
いつの間にか復活していた謙吾、真人ペアは仲間割れ、合い討ちで脱落。
今まさに、なんちゃって近未来兵器と最終兵器姉御との決着がつこうとしていた──!!
◇◆◇◆
「…はっ! 白昼夢!?」
気が付くと先ず最初に白い天井が目に入った。
かまくら、だろうか。作った記憶はないのだが。
それにしても凄い夢だった。戦闘のレベルは限りなく高かったと言うのに、内容がどこまでもアレだった。
「何を言っているんだ理樹君は?」
「おっぱいまj(ry い、いや、なんでもないよ」
「ふむ、そうか。いや、電波のジャックは簡単なのだが、脳波と来ると──」
「何言ってんだアンターー!!」
閑話休題。
未だ醒めぬ夢に目頭を手で覆う。いや、いい加減現実を見るしかないのか。
もう駄目だ。今日は割と暴走しないなーとか思ってた来ヶ谷さんでさえ敵だった。
味方は誰もいないのか…、ツッコミ役の鈴はヴェルカのお見舞いに行っている。孤立無援とはこのことか。
……そうだ、明日は来ヶ谷さんを誘ってどこか行こう。
そうと決まればもうこんなのどうでもいい。さっさと終わらせて来ヶ谷さんを誘ってしまおう。
「そろそろ行こう、来ヶ谷さん───ぁ」
そう決めてかまくらを出ると、そこはグラウンドだった。
運ばれる雪で白銀の世界と化した空間。まるで切り取られたかのようなその空間に、彼らはいた。
─いつも野球の練習を傍で見守る猫の姿。
─走るみんなの後を楽しげに鳴きながら追いかけてくるヴェルカとストレルカの姿。
─そしてみんなの、何かを遣り遂げた輝かしい漢の顔があった。
ただし、猫と犬以外、生身に雪のコーティングだったりするのだが。
うん。パッと見じゃ分からなかったけど、良く見ると謙吾、真人、恭介、葉留佳さんの雪像しかないね。
「………ふぅ」
込み上げてくる溜め息を包み隠さず吐き出す。
白い蒸気は風に呷られ消えていく。
場面が違うだけで溜め息の印象がこんなにも違うものか、なんて冷静に感じている自分に驚いた。
「溜め息ばかり吐いていると幸せが逃げていくぞ?」
「そっか、そうだね。じゃあ僕の幸せの為に明日付き合ってくれる?」
「それくらいならお安い御用だ」
「うん。それじゃあまた明日ね」
思いの他簡単に誘えて嬉しかったりする。
明日はクリスマスイヴ。聖夜は楽しく過ごさなければ。
クドや鈴たちも誘って、みんなで楽しく過ごすのはどうだろうか。…ああ、佳奈多さんもいいな。
来たる明日に思いを馳せて、意外に楽しみにしている自分に驚いた。
コレもクリスマス特有の浮ついた空気の為せる離れ業か。
ああ、だとしたらお礼を言わなくては。
メリー、クリスマス。
あとがき
[樹海] λ....
ども、不要感の最後の劣等生、研修生です。
遅ればせながらの登場だと言うのにやった。つい勢いでやった、後悔はしていない(しなさい)
脈絡のなさ、というか無理矢理さならば断然TOPに躍り出る自信さえある(マテ
途中から確実に誰かに洗脳されてました。だけどこの不思議な満足感はなんだろう?
冒頭まではほのぼので終わらせるつもりだったんですがねぇ…
苦情はたくさん受け付けます。好評価だったら舞いあがります。
ではでは〜♪
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