(riki side)


「ねぇ!ちょっと聞いてるの!?」


 痛いっ痛いっ。
 引っ張られた右耳が痛い。
 木枯らしでキンキンに冷えた耳を引っ張られるはそれなりに堪える。


「痛いよ…二木さん」


 右耳を撫でながら僕は文句を言う。


「貴方が悪いんでしょう?」


 キッと睨みつけられながら手をギューッと握られる。
 むぅ、ちょっと痛い。


「皆見てるよ?」


 そうなのである。ここはもろに公道なのである。
 というか、国道なのだ。何号線なのかは大人の都合により伏せさせて頂く。
 今の状況を説明すると僕と二木さんは登校の途中なのである。
 朝から超絶痴話げんか中であり、誰彼構わず見られてしまいそうなシチュエーションなのだ。


「関係ないわ」


 即答される。
 関係…ないことないと思うけどなぁ。
 あ、こっち見てるツナギを着たいい男がニコニコ笑いながら手を振ってる。なになに?


『頑張れよっ!ここが男の甲斐性の見せ所だぜ
 後、君可愛いな、やらないか?』


 などと口を動かしている。何時から僕は読唇術なんて使えるようになったんだろ。ちょっとげんなり。
 後、やりません。
 …男はこっちが見ているのに気が付くと手のひらを握り締めながら中指と薬指の間に親指を突っ込む。
 最低だ、この人。


「なぁに、やりたくなったらこの先の公園に来な、ベンチで待ってるぜ」


 最後にサムズアップして男は去っていく。
 何がしたかったのか良く分からない人だったな。


「だ・か・ら!!は〜な〜し〜を聞きなさいっ!!」


 今度は頬を抓られた。
 これはもっと痛い。物凄くヒリヒリする。
 痕が残ったらどーするのさぁ。
 頬をさすりながら呟く。


「そもそも貴方はね!」


 またガミガミ始まった。
 僕の彼女の悪い癖である。
 こうなったら長いのだ。
 横からまたチクチクと問いただす声が聞こえる。
 まぁ、これが小川のせせらぎの如く聞こえるくらいに慣れちゃった僕もアレなんだけど。
 そんな感じで今日も登校していく僕らだった。



 


 マフラー巻いて…


 




(kanata side)

 ちくり…


「いたっ…痛ぁ…」


 細く白い白魚のような指に針が軽く刺さる。
 針と言ってもプラスチックの、しかも先がそれなりに丸いものだから血が出るレベルの刺さるでは無いのだが。
 同じ箇所にもう二桁に乗ろうかという勢いで刺しているのだから、それなりに痛い。
 何故、そんな惨事になっているかというと別に徹夜とかしているわけでも、実は天然ポケポケさんというわけでもない。
 ただ、初心者…いや、初めての作業の為、どうしても本を見ながらの作業となる。
 ちょっと本に目が行ったときに無意識に作業を進めようとする手が逆の手を攻撃するのだ。


「む、中々難しいわ」


 出来ることなら針を放り投げてお疲れ様ってやりたいがそういうわけにもいかない。
 私にだって事情があるのだ。
 今朝の直枝の姿を思い浮かべる。
 今朝は寒波到来と謳っていたニュースのキャスターの言うとおりの寒さだった。
 にも関わらず、あまりに防寒具を身につけていない彼。
 見ているこっちまで寒くなりそうだった。
 ちょっとは厚着とか、手袋とかマフラーとかニット帽とか寒さ対策をしなさいと言っても
 ぼけーとしていていまいち聴いてないようだったし…。
 その後、結局一方的に小言言っちゃってうやむやなままになっちゃったんだけど。
 最終的に彼が持っていないなら作ってしまえばいいじゃないという考えに至った。
 丁度、クリスマスなんてイベントがあるのだし。グッドタイミングだ。
 べ、別に直枝がプレゼント貰って喜ぶ顔が見たいから…って理由じゃないんだからね!?
 そそそ、そうよ!貴方が寒そうにしていると私まで寒くなるんだから…って私は誰に言い訳してるんだろ…?
 でも、直枝にこれを渡す………



 
〜※〜

『これ僕に?ありがとう佳奈多さん』
『ええ、朝から寒そうだったからね』
『大切にするよ。このマフラーも佳奈多さんも…』
『直枝…』
『佳奈多…』
ぎゅ…。

〜※〜


 

 とかなっちゃったりして!?!?
 そ、その後はやっぱりキスかしら。
 ダ、ダメよ。私たちはまだ子供なんだから。
 それに、もういたしていたとしても恥ずかしいものは恥ずかしいし。
 でも直枝がしたいっていうんなら、私は、いいよ?
 想像しただけで…もう桃色空間だ。
 って、私は何をやってるんだろう。
 よし現状を確認しよう。
 私は…針を手に顔を真っ赤にしてだらしない顔してる。とおーけー。
 …おーけーじゃないでしょ。おーけーじゃ。
 本当に自分の部屋でしていて良かった。
 誰かに目撃でもされたものなら私は即、壁に頭を打ち付けて自ら死を選んでいただろう。
 そんな乙女チックな自分を見られるくらいならいっそ。
 と、妄想はコレくらいにして進めるとするか。
 また私は懸命に不器用ながらも愛する人の為に頑張るのであった。





 
 
 


 そして、クリスマス当日。
 私の鞄の中にはこの日の為に必死で編んだマフラーが入っている。
 頭の中では3日程度で終ると思っていたのだが甘かった。
 結局は1週間くらいの時間を食ってしまった。
 指というか、手全体がそれなりに痛い。
 最終的に三桁くらい自分の指を痛めつけたのだ。当然である。
 後、肩がこっている。慣れない作業をしてるのだからコレも当然か。
 でも、それも今日報われるのだ。
 渡すのは今日の夕方。
 場所は中庭だ。
 もう直枝には授業が終ったら来る様にメールしてある。
 上機嫌で登校する私。
 脳内では鼻歌を歌い、スキップしたりしている自分。
 お花畑でらんらんら〜ん♪みたいな。……ありえないが。
 もちろん、優等生で通ってる手前、表情には出さないようにしているが。


「そういえばさ、この前、キープちゃんから手作りの手袋とかマフラーとか貰っちゃってさ。
 ちょっと引いちゃったよ」
「うわ、手作りか…流石にちょっと貰う方としては重いよな」
「質量的にも思い的にもなー」
「ちょ!おま!誰が上手いこと言えと」
「だろ?狙ったんだぜ?」
「ないわ〜ほんとないわ〜」


 下品な笑い声。
 隣の学校だろうか。
 違う私達とは違う制服の男子が二人しゃべりながらすれ違う。
 二人の会話を聞いて私の中の気持ちが沈んでいく。
 男の子にとって手作りって重いのかな…
 ―――ちょっと引いちゃったよ
 この言葉だけが直枝の声に変換され放課後になるまでずっと頭から消えてくれなかった。





 
 



(riki side)

 うーん。
 二木さん遅いな。
 携帯を開き、指定された場所が間違ってないか確認する。


「今日の放課後、中庭に集合すること」


 簡素な一文だけど、うん間違ってない。
 …さむっ
 この季節特有の風が顔に直接当たる。
 もう風が痛いよ。
 マスクとか被るといいんだろうけどなぁ…
 は〜りゃほ〜れうまうー?
 ふと、よく分からないフレーズが頭に浮かぶ。
 寒さで頭でもやられたのかもしれない。
 にしても、遅いなぁ二木さん。
 暗くなりつつというか、もう既に暗い。
 12月なのだ。5時過ぎにはもう暗くなり始める。
 携帯の示す時間は6時半。
 学校が終ったのが5時ちょっと前…
 皆が帰るのを見たのが5時半くらい。
 幾らなんでも遅い!よなぁ。
 とりあえず、一回メールは出したんだけど、返事返ってきてないし。
 まぁいいや、7時過ぎくらいまでは待ってよう。
 あったか〜い缶コーヒーかポタージュでも買って来ればなんとか凌げるだろう。
 自販機は渡り廊下の奥にある。
 ある程度自販機の見える位置まで来た時に自販機の傍に誰かが立っているのが見えた。
 ……人影?
 近づくとだんだんと輪郭がはっきりしてくる…って、二木さん?


「二木さん?」
「!?」


 人影がビクリと反応し、駆け出そうとする。


「あ、ちょっと待って!」


 反射的に手を伸ばして彼女の手を掴む。
 どさりと何かが地面に落ちる。


「あっ…」


 二木さんが立ち止まる。
 空いてる方の手で地面に落ちたものを拾う。


「はい、二木さん。落としたよ?」
「え、ええ」


 手を伸ばし、ふと一度手を止めもう一度手を伸ばし僕の手から袋を受け取る。


「で、二木さん、用って何かな?」


 最初の用件について尋ねる。


「え…いや…その……ね」


 珍しくおどおどとしている二木さん。
 あ、ちょっと俯き加減の二木さん…可愛い。
 よしっ、頑張れ私!って声が小さく聞こえてくる。


「あの…これ。クリスマスプレゼント
 落としてちょっと汚れてるけど」


 二木さんが赤く包装された袋を差し出してくる。
 あ、あれ僕へのプレゼントだったんだ…


「うん、ありがと。あ、開けてもいいかな?」
「好きにしなさい、もう私は渡したんだからそれは貴方のものよ」
「ん、じゃあ好きにする」


 軽い袋から出てきたのは…ワインレッドと黒で編まれたマフラー。


「嫌なら捨ててもらっても構わないわよ?
 プレゼントに手編みって何か想いが詰まりすぎて貴方の重荷になりそうだから」


 そっぽを向きながら目を伏せ自嘲するような表情を見せる二木さん。
 一瞬、マフラーに目をやり、そして、もう一度二木さんを見つめた。


「大事にするよ…大事にする」


 ぎゅっとマフラーを抱き締める。
 毛糸で出来たそれはとても柔らかくて暖かい。
 まるで、二木さんの温もりがそのまま流れ込んでくるみたいで。


「そう…ばかね…貴方も、捨ててもいいって言ってるのに」


 目尻に涙を溜め、まだ強がる彼女。


「二木さん」


 できるだけ優しげな声で彼女に問いかける。


「このマフラー僕の為に編んでくれたんでしょ?」


 今にも溢れ出しそうな涙が彼女が頷いたのと同時に零れる。


「なら嬉しいよ。」


 僕は自然に二木さんを抱き締めていた。
 一人、泣いている彼女を見て自分の気持ちを再認識する。
 だから、距離はゼロだけど…もう一歩僕から歩み寄る。


「もう離さないよ?佳奈多…」


 泣きじゃくりながらこくこくと頷く佳奈多。
 そんな彼女がとてつもなく愛おしく感じて…溜まらなかった。
 こんなに心を込めて作って貰ったマフラー。


「今まであまり運のいい方だと思ったことは無かったけど、男運だけは良かったみたい」


 鼻にかかった声で呟く。


「僕も佳奈多が彼女で良かった」


 僕の首から垂れていたちょっと長めのマフラー、ふわりと彼女の首にも巻く。


「……もうちょっと傍に…」


 僕が言い終わる前に佳奈多は僕の腕を取り、ちょこんと肩に頭を預けてくる。


「好きよ…理樹」


 小さく呟くような声。
 うん、僕も。と言おうと思ったけど止めよう。
 聞かなかった事にしよう。
 だって、今の佳奈多さんの笑顔が凄く幸せそうだし。ずっと見ていたいから。
 ただ少しだけ、もう少しだけ傍に…
 そう思って彼女をこちら側に引き寄せる。
 ふにっ…ふに?あれ、やわっこい???


「ちょ!!!直枝!?」


 いきなり佳奈多さんが離れる。
 って!?痛い!痛い!首絞まる。


「貴方ねぇ…せっかくのいいムードの中、ど、どうして胸を触りに来るわけ!?」
「あ、あはは…僕の手がアヴァロンを見つけたらしくてさ」


 ぎゅう!
 ちょっと佳奈多さん。マフラーを手に持って引っ張らないで。絞まる。絞まるから!


「…はぁ、全く貴方って人は…私、本当に男運いいのかしら?」
「大丈夫、良かったって思えるように僕が男を磨くから」
「もうめちゃくちゃね。貴方」


 呆れてため息を吐く佳奈多さん。
 そういいながらもまたさっきの体勢に戻るところがちゃっかりしてるなぁとか思う。


「ねぇ、ご飯でも食べに行かない?」


 いいことを思いついたかのように提案する。


「………ファミレスでいい?」


 無言で財布の中身を確認し、男のプライドと意地をしっかりと守る為の妥協点を探る。
 ちなみに僕の顔は真剣と書いてマジだ。


「いいわよ、何処だって」


 クスッと楽しそうに笑って彼女が同意する。
 良かった。非常に良かった。寧ろ、助かった。
 危うく僕の男としての尊厳が崩壊するところだった。
 出来る限りそんな心のうちを見せぬように手を取り歩き出す。


「じゃあ、いこっか」
「ええ、よろしく頼むわよ?庶民派の王子様♪」


 最後に一撃たいへんよろしいパンチを食らわせていきました。
 佳奈多さんが屈託なく笑う。
 今まで見る笑顔の中で一番だろうと断言できるような顔で。
 その笑顔をこれからもずっと傍で見たいし守りたい。そう思えた。
 ああ、僕はかなり佳奈多さんにやられているらしい。
 二人で巻いたマフラーちょっと短いけど、しっかりと僕と彼女を繋いでくれる。
 約束しよう。何処の誰でもない僕自身と。
 ずっと歩いて行くと。佳奈多さんと二人で……



 
 
 
あとがき???

ども、日向の虎とかいう駄文書きです。とか言いながら、まともに書き上げたのは数ヶ月ぶりとかいう怠惰ぶりですが。
忙しいんですよぅ…とか誰でも忙しいだろとか思いながらも言ってみる。
さてさて、そんな極個人的なことは置いておいて今回のSSですが、テーマは乙女かなたん?です。
かなり逸脱してた気がしないでもないですが、気にしません。僕は勢いで書いて投稿後に深く反省するタイプなんですっ。
ああ、久しぶりだから、文法とかおかしくないかな?とか言葉おかしくね?いや、うちの日本語ってどうなんやろ?
とか悶々と夜通し考えたりしてました。寝てません宣言。寝たりしません!書くまでは!の精神です。
まま、何はともあれ無事に投稿できよかったです。
他のライターさんのに比べて短かったり、駄文だったりしてますが参加することに意義があったと思いますw
わたしのSSはちゃんと歯車になれたでしょーか?どうでしょ?ろっどさん(笑
とまぁ、ムダ話はここまでにして…Rodmateさんお祭開催お疲れ様です。
管理、更新等大変でしょうが頑張ってくださいねっ(はぁと)
此度の祭が異様な盛り上がりを見せることを切に祈って〆させていただきます(最後だけ真面目です、です。




















お囃子・感想などいただけましたら。

おなまえ(省略可)



お囃子!(→盛大)

ぱち ぱちぱち ぱちぱちぱち

よろしければ何か一言!(省略可)





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