人生は上々だ
それは、夕食後のひと時の事。
祐一は今日もおいしい食事に満足し、リビングでTVを見ながら寛いでいた。
ふと、何かに気づいたように周りを見回すと祐一はキッチンに呼びかけた。
「名雪ー なーゆーきー」
「何? 祐一?」
しばらくするとパタパタとキッチンから名雪が現れる。
エプロンをしているところから見て、秋子さんの手伝いをしていたのだろう。
そんな名雪を見て祐一は。
(皿洗いか、ご苦労なことで)
なんて、まったく居候らしからない感想を思い浮かべてたりする。
「ん」
祐一はソファーに寝転んだまま、前のガラステーブルを指差す。
「え?」
名雪の視線は祐一の指先を辿るが、その先にあるものを見て小首をかしげる。
そこにはガラスのローテーブルがあり、その上には小物が数点。それだけである。
「何?」
「TVのリモコン取ってくれ」
「自分で取ろうよ!? すぐそこじゃない!」
祐一の頼みに即ツッコミをしてくる名雪。
(むう……どっちかっていうとボケのくせにツッコんでくるとは。……香里の教育か?)
どちらかというと、祐一の行動の積み重ねが原因だと思われるんだが、本人はそんな事とは全く思ってないらしい。
祐一はそのまま前のテーブルに視線を向ける。
そこには寝転んだままだと微妙に届かない位置にあるリモコンがある。
「届かないんだが」
「いや、そこは起きようよ。不精だよ祐一」
「めんどい」
「もー」
名雪は苦笑しながらもリモコンを取って祐一の手に渡してくれる。
「はい。祐一」
「おーう、さんきゅ。これでやっとつまらん番組から開放されるぜ」
ふうっとため息をついて適当に流してチャンネルを切り替えていく。
チャンネルを変えたいと思ってはいても、自分から動く気はなかったらしい。
「祐一。ちゃんと動かないと体がなまっちゃうんだよ〜」
祐一の手前に回った名雪がぐいぐいとその腕を引っ張る。
「おーきーてー」
「おいおい、何をするか」
引っ張られた反動を利用し、反対の手で名雪の頭にチョップを入れる。
「あうっ!」
名雪が頭を抑えて呻く。
当たり所が悪かったのか。ちょっと涙目だ。
「酷いよ祐一。非道だよっ」
「知るか」
再びごろりとソファーに横になる祐一。
どうやらまったりタイムを満喫したいらしい。
「う〜」
祐一の態度が気に入らなかったのか。今度は祐一の両手を手に取る。
「とりゃ〜」
気が抜ける声とは裏腹に、思ったよりも強い力で引っ張り上げられた。
「うおっ!?」
その予想外の力に驚く祐一。
(そ、そういや、こいつ体育会系だっけ)
陸上部の部長を務めるその実力といったところか。
「なんだよ、いいじゃないかよ〜」
名雪に引き起こされた祐一はやる気なさげに抵抗する。
「3年になってから祐一はだらけすぎだよ。なんていうか緩みきってるよ」
名雪は祐一の手を離すとそんなふうに糾弾してきた。
(つーか、今までが忙しすぎたんだ。めちゃめちゃ濃かったぞ)
シリアスな雰囲気は苦手なんだけどなぁ。などと思う祐一。
「ピリピリしてるよりいいだろ?」
ソファーに座りなおして頭を掻く。
「……そういう問題かな?」
丸め込まれかけた名雪は頭をひねっている。
「名雪、茶。日本茶がいい」
「は〜い」
ポットのお湯を確認すると、湯飲みと急須を取りにキッチンに戻る名雪。
さっきまでのことはもういいらしい。
「くすくすくす」
と、背後から押し殺した笑い声が聞こえてきた。
「あ、秋子さん」
「お母さん」
その声を聴いた二人の顔が瞬時に赤くなる。
「ごめんなさい。今のやり取り。あまりにも姉さん達に似ていたから……」
と言ってまたくすくすと笑う。
「え、お袋達に?」
「ええ、昔一緒に住んでいたころはそんな感じでした」
懐かしそうな顔で祐一と名雪の顔を見る。
「もっとも配役は逆でしたが」
「……あー」
何かを想像したのか。納得の声を上がる祐一。
「え〜 おばさん達ってそうなの?」
「うむ。何がそうなのか知らんが、傍若無人なのはお袋の方だ」
(っていうか、祐一って自分が傍若無人だっていう自覚はあるんだ……)
満足そうに頷く祐一を見て心の中でツッコむ名雪。
声に出したら物理的に反撃を受けると判断したのだろう。
「ところで秋子さん。うちの両親の馴れ初めって知ってます?」
「え?」
隣の名雪が不思議そうな顔をする。
「祐一知らないの?」
「ああ、なぜか教えてくれん」
うんうんと頷く祐一。
祐一が秋子さんに顔を向けると、秋子さんは頬に手を当てると小首をかしげて。
「姉さん達ですか? お見合いですよ?」
なんて、あっさりと暴露してくれました。
「「え、えぇ?」」
衝撃の真実である。
「み、見合い結婚なんですか? てっきり恋愛結婚かと……」
「びっくりだよ」
何故なら、普段から子供が見てても恥ずかしいラブラブっぷりを披露しているからである。
「馬が合う。というか、気があったんでしょうね。会ったその日にはもう今の二人と変わらない感じでした」
(気が合ったっていうレベルか? あれ?)
思わず首をひねる祐一。
「ふふふ。名雪達もああなるのかしらね?」
「「え、えぇ……」」
思わず顔を見合わせて赤面する二人。
「あくまで希望ですから」
そんな爆弾を置いて秋子さんはキッチンに戻っていった。
固まる二人をそのままに。
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