広島風お好み焼き男
| 編集者 |
『小学校4年生』、『小学校5年生』、『小学校6年生』の三誌合同企画によりまして大人気の、『はたらくえらい人』。今回は広島県尾道市(おのみちし)で働いていらっしゃいます、お好み焼き男さんを訪ねました。お好み焼き男さん、はじめまして。 |
| 広島風お好み焼き男 (以下、お好み) |
広島風……って付けたらんかィ、ボケェ。こんな(編集注;おまえ)もな、初対面の人間に名前略されたら気分悪かろうが。 |
| 編集者 |
はぁ……申しわけありませんでした。わたし、編集部内でもそそっかしいヤツだとよく言われてまして。今回もちょっと緊張気味です。で、それでですね、広島風お好み焼き男さんは、今回の企画、もうご存知でしょうか? |
| お好み |
知らん。 |
| 編集者 |
あ、そうですか。それではですね、ちょっとこちらを……弊社で出しております、小学生向け雑誌でして、このなかの人気企画に『はたらくえらい人』というコーナーがありまして、今回は、広島風お好み焼き男さんの働く様子を取材しようと。こころよく引き受けていただいてありがとうございます。 |
| お好み | こっちも、ジャリ相手の商売じゃからの。ま、同業のよしみッちゅうやつじゃ。 |
| 編集者 |
ありがとうございます。今回の取材もこのように(十二月号を指差しながら)表紙にばば〜んと広島風お好み焼き男さんの写真とタイトルが載りますよ。 |
| お好み | ほうか。ま、ワシぁ写真写りはええからの。食欲をそそる。心配いらん。……ほう、ちょっと見せてみい。なあ、これは何じゃ。ハジキカタログ? ……オイ、何でハジキが女の子向けのもんなんじゃい。 |
| 編集者 | と言いますと? |
| お好み | ここに書いておろうが。“付録:女の子のためのおはじきカタログ”って。 |
| 編集者 | はい。最近、日本の伝統復古がブームになっていますからね。 |
| お好み | まあ、さかのぼれば種子島からじゃけえ、伝統言うのもまちがいではないけどのう。改憲改憲、ッて近頃騒がしいと思うとったら、ははあ、それか。 |
| 編集者 | それで、人気キャラクターが彫ってあるおはじきが、女の子たちの間で爆発的に売れまして。 |
| お好み | 人気キャラクター? ほんなら健サンや文太サンが彫りモンになっとるっちゅうことか。 |
| 編集者 | あ、ジャニーズファンなんですか。意外ですね……でも国分さんを“ブンタ”って略すのは初めて聞きました。あ、けれど、そういうのではなくって、アニメのキャラクターの彫り物が主体です。中国産なんで、高品質かつ安価であることも火付けに一役買っています。 |
| お好み | 火付け、とか爆発とか、物騒じゃのう。……中国製っちゅうのはあれか、十中八九●●会(編集部検閲削除)の息のかかったハジキッちゅうことじゃな。となると、コルトガバメントが多かろうの。……けど、文太さんの彫り、中国でも売れとんかぁ、国際スターじゃのう。ああ、欲しいのォ。……あ、いやいやいや、ハジキは女子供が持つモンじゃなかろうが。第一、コルトじゃトリガーに指もかからんじゃろ。 |
| 編集者 | 人差し指で弾くだけですから。簡単なものですよ。 |
| お好み | ほうか。簡単か。まったく物騒になったもんじゃの。 |
| 編集者 | で、そろそろ取材を始めてもよろしいですか? |
| お好み | おう、構わん。ま、茶ぁも冷めんうちに飲めや。 |
| 編集者 | いただきます。それで、このコーナーではですね、まず皆さんの小さい頃のお話、特に小学校時代のお話をうかがっているんですが……。 |
| お好み | ワシゃ小学校いっとらんけんね。 |
| 編集者 | あ、失礼しました。そうでした。それでは小さい頃のお話などを……。 |
| お好み | 小さいって、ワシゃ生まれたときからこんなもんじゃが。歳も五つじゃけ、人生語るわけにもいかん。 |
| 編集者 | あ、そうですよね。そうですよね。どど、どうしましょうかね……。 |
| お好み | ワシに聞くな。こんな(編集注;おまえ)の仕事じゃろ。 |
| 編集者 | じゃ、ここは飛ばしてしまってもいいでしょうかね。 |
| お好み | 聞くなッちゅうとろうが。 |
| 編集者 | ハイ……すみませんでした。では、気を取り直しまして、ご家族構成をお聞きします。広島風お好み焼き男さんは四男でいらっしゃいますよね。 |
| お好み | そうじゃ。 |
| 編集者 | で、お父様がジャムさん。 |
| お好み | ん。 |
| 編集者 | けれど、広島風お好み焼き男さんには、実は育ての親がほかにいるとうかがいましたが……。 |
| お好み | そうじゃ。 |
| 編集者 | それが、尾道市の有名店『台波戸(だいはど)』の店長、古巣(ふるす)さんなわけですね。 |
| お好み | そうじゃ。よォ知っとるの。 |
| 編集者 | ……。 |
| お好み | ……。 |
| 編集者 | …………。 |
| お好み | ……。 |
| 編集者 | あの。 |
| お好み | 何じゃ。 |
| 編集者 | ……できれば、お話を広げていただきたいのですが。 |
| お好み | あん? |
| 編集者 | ですから、もう少しエピソードとかを添えていただきたいのですが。 |
| お好み | こんなのほうが知っとろうもん。 |
| 編集者 | い、いえそんなことは。で、できれば古巣さんとの出会いなんかを聞かせていただければ……。なんて。 |
| お好み | 聞きたいか? |
| 編集者 | は、はい。 |
| お好み | じゃったらのう……。 |
| 編集者 | はあ。 |
| お好み |
じゃったら、最初ッから聞きゃあよかろうが! グズグズやってねぇでさっさちょしィっちゅうんじゃボケェ! |
| 編集者 | あ、す、すみません。そ、そう熱くならなくても。 |
| お好み | じゃかあしいッ! ワシぁ冷めたら不味いんじゃいッ! |
| 編集者 | ひいッ! すみませんスミマセンすみませんでした! |
| お好み | ドテッ腹に、隙間風吹かしちゃろうか! |
ガチャリ(懐から銃を出す音)。 |
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| 編集者 | ゴ、ご勘弁を。あ、そそそそういえば、お好み焼き男さんに…… |
| お好み | 広島風を付けんか! ボケェ!!!! |
ガチャリ(撃鉄をあげる音) |
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| 編集者 | ひい! お、お土産、お土産を持ってきました。昔弊社の出した極妻のグラビアを! |
| お好み | 何! ってェと……ま、まままさかタカシマ姐さんのアレか! |
| 編集者 | はい! 発行部数わずか10,000部の秘蔵グラビアです! |
| お好み | ななななんンじゃとォ! |
| 編集者 | どうぞ! お納めください! |
| お好み | おおあう! |
| 編集者 | お気に召せばと、お、思いまして……。 |
| お好み | もも、貰うにきまっとろうが! あ……ち、ちらっとだけ、見てもいいかの? 子供向けの取材でも、ちち、ちらっとくらいはええかの? |
| 編集者 | は、はあ……。 |
| お好み | お、おおおおおお! 姐さん! えらいことになっとります! |
※十分間休憩 |
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| 編集者 | それでは、気をとりなおしまして。まず、ジャムさん一家は、人助けをご専門にされているのですよね。それで、広島風お好み焼き男さんも、こちらで困っている人たちを助けていると聞いています。 |
| お好み | そうじゃ。 |
| 編集者 | 現在は一体どのような活動をされているのでしょうか。 |
| お好み | 尾道恋鯉会の会長をしとる。 |
| 編集者 | おのみちこいこいかい? |
| お好み | おう。恋鯉会ちゅうんは魚の鯉に恋する会、と書く。要するに広島カープの私設応援会じゃ。古巣のダンナが尾道在住ってこともあったが、広島に赴任してきたのはほとんどカープのためじゃけんね。 |
| 編集者 | はあ。恋鯉会、ですか。それって、人助けの一環……ですよね。 |
| お好み | ったり前じゃい。ライトスタンドの応援席を囲わんと、すぐに中央(広島市)のやつらと乱闘が始まるけェ、それを未然に防いだりする。ワシゃ顔が広いけェ、トラブルがあっても大概何とかなる。 |
| 編集者 | トラブル? |
| お好み | ま、カチコミみたいなもんじゃ。こんなも映画で見たことあるじゃろ? |
| 編集者 | カチコミ……って。ええと、映画ですか。あまりヤクザものは観ませんけど、ミスタールーキーなら一度。長嶋一茂主演の。 |
| お好み | こんなもオモロイのう。次ボケたら三途の川渡らしたる。なんで金本サン攫うた球団の話が出てくるんじゃ、バカタレ。 |
| 編集者 | ……失礼しました。では、広島風お好み焼き男さんは、いざ武力闘争に発展したときに最前線で止めに入ったりとかなさるんですね。さすが、勇ましい。 |
| お好み | イヤ、せん。 |
| 編集者 | なぜですか? |
| お好み | 暴れたら半熟卵がハミ出るじゃろうが。そうなったらワシゃ死んでしまう。こんならの脳味噌と構造は同じじゃけェ。 |
| 編集者 | なるほど。しかし外に出なければ人助けは難しいですよね。 |
| お好み | ワシぁ頭脳労働専門じゃけえの。肉体労働は、せん。 |
| 編集者 | では、万が一のときなどは……。 |
| お好み | 心配いらん。ワシ専属の世直し集団“鉄板ファイブ”がおる。コイツらがいわばワシの手足じゃな。 |
| 編集者 | はあ、その方々が世直し、人助けを実際になさっているわけですね。 |
| お好み | そうじゃ。ヤツらが……他の援団がケンカ売ってきたときに買うんじゃ。たまにこっちからも売り出す。 |
| 編集者 | はい。カープの援団間の抗争は関東でも有名です。たびたび流血騒ぎになることもあると聞きます。 |
| お好み | おう。じゃけェ、こっちも呑んどるもんも暗殺謀殺思いのままの最新サイレンサー付き、普段着も防弾使用を推奨しとる。鉄板ファイブの連中はきっと、有事の際に自衛隊よりええ働きをするはずじゃ。……ん? |
ガチャリ(ドアの開く音)。 |
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| 謎の声 | 兄ィ! 大変じゃ! あ、お客人がいらっしゃいましたか、こりゃ失礼、緊急事態ですけェ! |
| 編集者 | 彼は? |
| お好み | おう、コイツはいま話しとった鉄板ファイブの一人じゃ。人呼んでイカ玉のタカ。本業はイカ漁師じゃから、イカ玉。で、どうしたんじゃオタカ。 |
| イカ玉 | そ、それが! カチコミです! いま凱旋車をビルの表につけられました。事務所にネギ玉がおらんです! |
| お好み | ま、そううろたえるな。客人の前じゃろうが。で? どこじゃ、相手は。 |
| イカ玉 | そ、それが中央町養殖鯉クラブと赤ヘル十字軍の連合のようで! |
| お好み | ホウ。ついに……全面闘争をおっ始める気か。こっち(広島)じゃストーブリーグも熱いけェの。こんなも巻き込んでしもうて悪いが、ちと付き合ってくれ。 |
| 編集者 | え? え? |
| お好み | オタカ。 |
| イカ玉 | ヘイ! |
| お好み | 客人は丸腰じゃ。そこの机にコルトが眠ッとる。弾ははいっとるけェ、渡したってくれんか。 |
| 編集者 | コルト? |
| お好み | さっき、女子供でも簡単に弾ける言うとったじゃろ。 |
| イカ玉 | ハイ、どうそお客人。安全装置は……。 |
| お好み | バカタレ。客人もプロじゃ。余計なことは言わんでええ。 |
パアン、パアン、パアン(突如、銃声。ガラスの破片が周囲に飛び散る)! |
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| 編集者 | ひい! |
| お好み | ドサッ(広島風お好み焼き男氏、倒れる)。 |
| 編集者 | あ、ああ……。お好み焼き男さん! |
| イカ玉 | 兄ィ! |
| 編集者 | た、たまごが、頭から半熟卵が……! |
| お好み | ちッ……。ドタマに貰うたあ、どじを踏んじまったぜ。 |
| 編集者 | 動かないでください、たまごがこぼれます! |
| お好み | フッ。……こうなったらもう終いじゃ。すまんな、お客人、ワシの仇を……とって……く、れ。 |
| 編集者 | お、お好み焼き男さあああああん! |
| お好み | こ、こら……。広島風を、頭に、つけ、つ……。 |
| 編集者 | ……! |
| イカ玉 | 兄ィッ! |
| お好み | …… |
| イカ玉 | 弔い合戦じゃあ! ぶっ殺したる! |
| 編集者 | うわあああああん! ちっくしょう、あいつらぶっ殺したる! ぶっ殺したるけえの! |
ガチャリ(ドアの開く音)。 |
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| 謎の声 | はーい、まいど。台波戸(だいはど)の鉄板おまちー。こんなの頭とどけに来たでェ。って、あれ、タカちゃん? |
| 編集者 | 貴様か! 貴様がやったのか! |
| イカ玉 | あ、違。 |
| 台波戸 | え? だれじゃ? こんなはだれじゃ? |
| 編集者 | 黙れ! 問答無用! |
ズギュ〜ン! |
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| 了 |