やあ、はじめまして。今日はいい天気だね。
ぼくはワサビっていうんだ。
ほら、お刺身とかお寿司とか、お茶漬けを食べるときなんかに使われてるやつだよ。ああ、そうそう、わさび漬けなんていう静岡県の名産品もあったな。
まあともかく、鼻にツーンときて辛い、あのワサビだよ。
もっともぼくは、食卓で使われるようなチューブ入りの、『本わさび使用』なんて書かれた中途半端なワサビだから、ダイコンとかワサビダイコンっていう低級品が半分近く混ざっているんだけどね。おっと、低級なんて言ったら彼らに怒られちゃう……。今の話は内緒だよ。
さて、ぼくはよく食卓にいるんだけど、いろいろと面白いことがあるんだよ。せっかくだから、今日はそれを話そうと思う。
人間がお刺身を食べるときって、ぼくと醤油を混ぜてつくった液体を調味料として使用するんだけど、加減が分からないのか、たまにぼくを入れすぎる人がいるんだよ。
ぼくはチューブから出ながらびっくりするんだよ。これくらいでもう十分だよな、って思っても、まだまだチューブを指でグイグイ押してくるから、多すぎだと分かっていてもどうしようもなく出ちゃうんだよね。
そのせいで、この前なんか醤油くんと、
「おまえ、多すぎだぞ。ワサビがそんなにたくさんあったら俺の風味が台無しになってしまうじゃないか」
「なんだよ、醤油くん。そんなことぼくに言ったってどうしようもないでしょ。入れたのは人間なんだからさ」
「うるさい、とにかくおまえは多すぎるんだよ。少し俺のなかから出て行け!」
「無茶言わないでよ、もうきみにまみれてドロドロなんだよ。全く、ぼくの綺麗な緑色を汚らしい焦げ茶色で染めちゃってさ。こんな姿で出て行ったって、もう使い物になりゃしない。今さら出て行けるものか!」
「なに言ってんだ。別におまえがどうなるかなんて俺にはどうでもいいんだよ。とにかくさっさと出て行けっ!」
こんなふうにケンカしちゃったんだよ。いつもは仲がいいんだけど、このときは興奮しちゃってて……醤油くんには酷いこと言っちゃったな。
――ああ、ごめん、話がそれてしまったね。戻すよ。
まあ、そうやって入れすぎる人がいるんだけど、彼らはたいがい、
「うっ! ワサビ入れすぎた……辛いよぅ」
なんて情けない声をあげながら涙を浮かべてるんだよ。馬鹿な人だよねー。
でも、それはまだまだ序の口で、
「うーっ! 辛いっ! ……でも、この辛さがいいんだよな、美味いぜ」
なんてカッコイイこと言ってるくせに、涙をボロボロこぼして顔をしかめてる可笑しな人もいるんだよ。
強がってそんなこと言ってるのか、本当に美味しくて言ってるのかは分からないけど、とにかくそんな姿が滑稽でたまらないんだ。こっちも涙を流しながらお腹を抱えて笑っちゃいたいくらい!
きみも彼らのことをよく見ててごらんよ。ホント、人間って面白い生き物だからさ。
とまあ、ぼくの話はこんなところかな。最後まで聞いてくれてどうもありがとう。
それじゃあ、今度はきみの話を聞かせてくれないかな。
ね、いいでしょ。ショウガくん?
完